DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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グリーン・ランタン:VSゴリラ・グロッド

 

 

グリーン・ランタンの本拠地、OA。

かつては宇宙全土から選抜された、恐怖を克服する強大な精神の持ち主が集い、

研鑽を積んできた、エメラルドの光を戴く巨大なる惑星。

統べていたのは、青い肌に小人の体躯をもったガーディアンズ。

 

OAとは、正義の心に燃えるGL隊員の感情を飼いならし、

間違った方法にて宇宙に歪んだ平和を齎そうとした、醜悪な怪物の巣窟だった。

 

だがガーディアンズは、もうどこにもいない。

前・最高のグリーン・ランタンだったシネストロが、

塵ひとつ残さずに、愚物となった者達の企みを白日の下に晒し、殺した。

現・最高のグリーン・ランタンであるハル・ジョーダンが、

グリーン・ランタン・コァの指導者の座につき。

彼らは新たなる道を歩き出すこととなった。

 

ここまでが、キャロル・フェリスが把握している事実。

彼女も憤怒に狂ったファースト・ランタンとの激闘に、スター・サファイアとして参戦し。

ハルとシネストロが永遠の友情を互いに見た。

ならば、目の前で珈琲を飲んでいるシネストロは、いったい何をしに来ているのか。

 

「急な訪問、すまなかったな。キャロル・フェリスよ」

 

「はぁ……」

 

困惑しているフェリスは目を丸くして、相手の出方を待っていた。

異世界から来た悪しきジャスティス・リーグ――クライム・シンジケート。

ヒーロー達を無力化し、世界中の悪人を解放した爪痕は深い。

英国では超・怪人同盟が活躍し、日本でも多くのヒーローが戦ったが、

TVをつければ流れるのは復興の知らせのみ。

 

「知っての通り、OAのリーダーになるべきはこの私だ」

 

「いきなり来て大きく出たわね……ハルよりはマシかもしれないけど。

 もしかして私に愚痴を吐きに? べつに本人に言えばいいんじゃ」

 

完全には同意しないフェリスの発言で、シネストロの鉄面皮に皺が寄った。

これは駄目だったかもしれない。

シネストロを応対するには、彼かハルを持ち上げるに限る。

そしてどちらも貶めては、相手がへそを曲げてしまう。初歩的なことだ。

単純なようだが、事実GL隊員は全員単純だ。

 

この心根の真っ直ぐさも、

彼女やハルに、シネストロとて

真の心はグリーン・ランタンとともにあると確信させた根拠。

 

「でも、たしかにハルも頑張っているわね。

 ここ最近はほとんど地球に帰ってきてないし。

 あなたが心配する必要もないんじゃない?」

 

「やはりそう取るか」

 

シネストロが腕を組んでため息をついた。

何故そんな反応を取られるのかわからないが、

フェリスは受け流して先を促した。

 

「彼奴らが選んだリーダーは精神も強さも偉大の一言。

 グリーン・ランタンがこれから、

 真に宇宙に平和を齎す一歩を踏み出すための選択としては最善。

 GLの至高なる精神性がそれぞれの心にあれば、

 彼らはどんな苦難に囲まれた挑戦も成し遂げられるだろう」

 

「それで本題は」

 

上機嫌になったのか舌が回り始めたのを悟ったフェリスが、穏やかに待った。

フェリス航空の女社長という顔もある彼女は、

他者の機微を読み取るにも長けていた。

 

腕組みして言葉を吟味するように両目を閉じて、シネストロが沈黙し。

ハル・ジョーダンのアークヴィランである彼は、言いづらそうに重々しく口を開いた。

 

「ジョーダンとは距離を置くべきだ。

 地球の言葉を調べてみたが、奴の現状は簡潔に言うとヒモ、穀潰し。

 そちらでは知らないが我が故郷では、あまり褒められたものではない……

 お前の愛情は知っているが、

 奴の本質は気に入らなければ大統領も上官も殴る特攻野郎。

 報われぬ愛からは離れ。今一度、自分を見つめなおすがいい。

 それでこそスター・サファイアの真髄も極められようというもの」

 

#######

 

と、いったことをキャロルとシネストロは話していたらしい。

意気揚々と地球に帰ってフェリスに会おうとしたのに、

第一声が「しばらくは会わないでおきましょう」だったとは。

やられたと思うよりも意味がわからなかった。

確かにハルとフェリスは、これまで何度も破局し、またくっついてきた。

シネストロにとっては、こちらのロマンスが粉砕されようと知ったことではないかもしれない。

だが、ハルはこれからグリーン・ランタンを正しく導かなければならない立場。

士気を高める必要があったのに。

 

「どうしてだ……」

 

裏切られたという感情を抱えたまま、

ハルは黒色にたゆたう幾千億の宝石のような惑星群の中を突き進んでいく。

 

「どうしてなんだ……」

 

空を飛ぶのは好きだ。

それは宇宙という広大な世界においても同じ。

遥々と飛行するだけで流れていく景色に、加速していく自分を感じ、

あらゆる悩みが霧散していくのがわかる。

 

グリーン・ランタンの長という重圧。

キャロル・フェリスとシネストロという、親しい人物二人に裏切られたという感情。

バリーに立て替えてもらった家賃代の総額800ドルは返すあてがない。

 

細かくて小さくて矮小な悩みが飛んでいるという実感によって、軽くなっていったのがわかる。

心地よい没頭感に酔いしれて、ハルはOAに飛び込んだ。

 

宇宙を守る軍人が集う星。

かつてはグリーン・ランタンの反抗を恐れたガーディアンズが黄色の建物ばかりを揃えていたが、

今となっては無用の長物にすぎない。

今のCORPSはガーディアンズが使っていたものを使わずにおり、

隊員が使っていた施設群の大多数が崩壊してしまっていた。

 

大勢の隊員が行き来する中を通り抜けて、ハルは開けた野原に降りる。

目をキョロキョロしていると、地球人ランタンで同僚のジョンと、恩師のキロヴォグがいた。

 

「よう、プーザー(新入り)。

 骨休めはしてきたか?」

 

「おかげさまでな。あんたは?」

 

「カカアとガキどもの相手をしてきたぜ」

 

豪快にキロヴォグが笑った。

初めて見た時は毛のない牛という外見が奇異でもあったが、

彼は鬼軍曹として新人隊員を扱き上げ、隊員全員を家族のように愛するナイス&タフな戦士。

慕う隊員は大勢いる。

ともすれば2分で殉職するのも珍しくないのが任務。

カップヌードルより寿命が短いランタンにとって、

キロヴォグというホットなハートはかけがえのないものだ。

 

「俺は仕事をあらかた引き継いで有給をとった。

 これから忙しくなるだろうからな」

 

腕組みして口数少ないジョン・ステュアートが言った。

地球人ランタンで最も誠実な男というハルには、逆立ちしようとも

爪の垢をどんぶりで百杯平らげても得られない称号を持つ人間。

 

「大変だな。尊敬するよ」

 

並んで歩き、近況を報告しあうと、

GL隊員が集まった場所に来た。

恒星の下、整列する彼らを前にハルが大きく咳をすると、

威勢よく語り始めた。

 

「みんな休暇はエンジョイしたか?

 俺は……そうだ、お土産買うの忘れてた。ま、いっか。

 これから俺達が何をするかというとだな。

 他のランタン達と連携を強めようと思うわけだ」

 

すらすらとコァのリーダーが考えを口にする。

ジョンとキロヴォグはハルの横で黙って聞いている。

 

「レッド・ランタンだってもうガーディアンズがいないんだから闘う理由もないし、

 スター・サファイアやホワイト・ランタンとかも同じだ。

 赤い奴らはガイを纏め役に向かわせたから、まず大丈夫だろう」

 

「ガイを!?」

 

「あの頭のおかしい馬鹿をレッド・ランタンに!?」

 

「わかった!

 この機会にあの野郎とレッド・ランタンを潰し合わせる気なんだな!!」

 

グリーン・ランタン一同に動揺が走った。

ガイの悪評は隊員全員に轟いている。

キロヴォグのしごきには恨んでも、いつかは感謝するものだが、

あの短気で粗暴な男は、まさしく短気で粗暴。

 

「みんなの疑問もわかるが大丈夫だ。

 ガイは元レッド・ランタンなんだぜ。

 こうやって他のランタンとも仲良くしていこうってことさ」

 

「こういうのって侵略行為になるんじゃない?

 意志の力を標榜する私達が、別の感情を重視するランタンに干渉するってことでしょ?」

 

「大丈夫だって、イリシア」

 

「あのガイを向かわせても、碌なことにならない気がするんだけど」

 

「いや大丈夫大丈夫。あいつだって根は良い奴だから。

 まさかいきなりリーダーボコって蹴り出すとか、そんなマネはまさかな。

 そういった疑問も最もだ。けれど俺達は協力できると知っている。

 ファースト・ランタンとの熱い戦いを思い出せ」

 

「あれは非常事態だったからじゃ?」

 

矢継ぎ早に繰り出される疑問。

これにはハルも参るしかなかった。

元来、グリーン・ランタンとは恐怖を克服する偉大な精神の持ち主の集まり。

選出方法からして反骨精神剥き出しの奴らしかいないのは自明の理。

ガーディアンズはそれを力と制度で従わせ、隊員も無関係の人々も死なせてきた。

そんな時代に戻りたくないのは、全員共通のはずだ。

 

「よし、とりあえずみんなに見本を見せよう。

 今からスター・サファイアの一人に連絡取って、彼女にも話してもらう」

 

混迷した空気にランタンのリーダーは危機感を抱いた。

キャロル・フェリスを加える作戦を急遽思いついたハルは、リングに通信を命令した。

 

「リング、地球にいるスター・サファイアと通信してくれ」

 

『着信拒否されています』

 

「えっ?」

 

予想外の反応にハルは戸惑った。

ハルを知っている隊員は「そういうこともあるだろう」という目で見ているが、

とうの本人はどうしてか理解できない。

なにかの間違いだろうとリングをぺしぺし叩いて、再度命令した。

 

「よし、相棒。

 良い子だから地球……セクター2814在住のスター・サファイアへ回線を開いてくれ」

 

リングに顔を寄せて、誰にも聞こえないように小さく囁いた。

 

「キャロル・フェリスと会話ができるようにするんだ。

 してくれよー、ほんとに」

 

『繰り返します。着信拒否されています。

 念を押します。着信拒否されています』

 

呆然とハルが立ちすくむ。

耐え切れずにジョンとキロヴォグが大きく吹き出し、

それからCORPS全員に笑いが広がっていった。

 

####

 

「くそっ、まさかここまで事態が深刻だったとは」

 

苦虫を噛み潰し顔でハルが言った。

これからグリーン・ランタン・コァがどうするかは一旦保留ということで落ち着き、

キロヴォグとジョンが先ほどの醜態でまだニヤニヤしているのを他所に、

ハルは頭を抱えていた。

 

「でも俺が言ってることって間違ってないだろ?」

 

「ともすれば他のランタンへの侵略行為にもなりかねないと言っておく。

 俺としては、やはり犯罪者を入れる牢屋を拡張して欲しいな。

 設計書は地球に居るときに仕事と一緒に作業して完成させてある。

 それに倒壊した建物の修復案もだ」

 

「わかった。でもさあ、インディゴはまあ、頼めば引き受けてくれそうだし。

 レッド・ランタンはガイが何とかするだろ?

 ブラック・ランタンは流石に論外だから…………

 あとはスター・サファイアだけなんだよなあ」

 

インディゴ族――インディゴ・ランタンは協調を力の源とするランタンだ。

彼らはリングがなくなれば、たちまち残虐で凶悪な犯罪者となってしまうが、

アビン・サーが考案したリングを身につけることで、他者への思いやりを脳に植え付けられる。

ハル達には考えもつかないシステムだ。

これは彼がシネストロと親友だったことにも由来しているのだろう。

二人は共通点があったということだ。

 

ふと、ハルに一つの考えが浮かぶ。

 

「そうか、シネストロ・コァがいたな」

 

「おいおいハル。それは無理ってもんじゃねえか?」

 

キロヴォグが難色を示し、ハルは顎に手をやった。

 

「やっぱりそうか……でもあいつは俺達の切り札にもなる。

 ガーディアンズを殺害したという罪はあってもな」

 

「奴らは俺達の宿敵だぞ。

 お前らは親友かもしれないが、隔たる壁が大きすぎる」

 

「そこをこう、どうにかだな」

 

ジョンが説明したが、それで納得せずに、

右足で左足のふくらはぎを掻きつつハルは天を仰ぐ。

OAの空は青く澄み切っており、

激戦で宇宙中の犯罪者に憎悪される中で復興しようと藻掻くランタン達のことなど、

おかまいなしだった。

 

「たしかにシネストロがガーディアンズを排除した……のは置いとくとして、

 最終的にあの黄色い連中とも共闘したのは良いことだろうがな。

 忘れるんじゃねえぞ、ハル。あいつはガンセットまで殺したんだぜ?」

 

ガンセットがシネストロに殺されたのは痛い。

彼は昔からグリーン・ランタンのことを第一に思ってくれていた。

あの厳格でも思いやりと理性に溢れた小さな老人の存在がなかったなら、

ハルを含めた隊員の多くはシネストロ側についていたかもしれない。

 

「うーーん、でもあいつ、

 実はガンセットを殺したりしてないんじゃないかと予想しているんだよ」

 

「根拠は?」

 

「そんなものは知らない。勘」

 

ジョンとキロヴォグが顔を合わせて、付き合いきれないと肩を竦めた。

 

ハルは腕組みして思考に沈む。

いいアイデアは一向に浮かんでこない。

キャロル・フェリスには距離を置かれてしまっているし、

話しあうために地球に帰るのは面倒だ。

他の隊員のように定職を持っていれば別なのだが、

パイロットという職業は空軍でもフェリス航空でも駄目。

物事を深く考えるという高等技術の素養をハルは致命的に持っていなかった。

 

かつてあったものを壊し、新たに作るのは難しいという事実をハルは痛感していた。

出口が少しも見えない思考の迷路を彷徨っていたハルだったが、

リングが警告音を発して救われた気分になった。

 

『セクター2814で新たなシネストロ・コァが探知されました。

 ただちに現場に向かってください』

 

「願ったり叶ったりと思ってるんじゃねえか?」

 

キロヴォグがからかうのを、ハルは心外そうに首を振った。

 

「実はインドア派なんだ」

 

「作戦はどうする?」

 

「作戦名:ノープラン。

 いつも通りで行こうぜ」

 

即答したハルに二人が大きく頷いた。

 

「それでこそリーダーだ」

 

#####

 

神は人を己の似姿にしたという。

故に、人は神の威容を継ぎ、生態系の王者となって地球を支配している。

だがそんな考えに真っ向からクソを投げつける生物がいる。

 

それがゴリラ。ゴリラの深き知性を感じさせる眼差し。

思慮深き毛並み、優しさを秘めた筋肉。

ゴリラの知性と可能性に打ちのめされて魅了された人間は数知れない。

 

ゴリラとは強力な生き物だ。

学名ゴリラ・ゴリラからもそれは明らか。

猿も木から落ちるという諺がある。

これは「技量に長けた者も時に失敗する」という意味と伝えられているが、

通説はあくまで人間達の独善的な解釈にすぎないのが最近の研究結果で明らかになっている。

 

猿とは人間を意味し、

木から落ちるというのは食物連鎖から蹴り落とされたということ。

それを成すのはゴリラ。

4次元世界を統べる邪神とよく似た姿を持つ彼らの本性は、

往々に邪悪な刃となって人を殺す。

 

アフリカの秘境にあるゴリラ国家、ゴリラシティ。

ゴリラ・グロッドが以前は王者として統べていたが、今は議会制となっていた。

王者はスピードスター、フラッシュとの激戦によって敗北し、

国を離れた王は野を彷徨う哀れなゴリラとして悪しき心を暗く燃やしていた。

 

『初めは光るバナナを持ったゴリラだと思った。

 だがあれは何だ。今やグロッドは山吹色の光輝を用い、

 ありとあらゆる物を作り出すことができる。

 私は何というものを目にしてしまったのだろう。

 こうして日誌を書いている今でも聞こえてくるのだ。

 あの冒涜的で残酷な、人間の卑小さを嘲笑う唸り声と胸太鼓が――

 ある学者の手記(注:この後、彼は狂死した姿で発見された)』

 

ハルとキロヴォグが地平線まで広がるアフリカの地に降り立った。

フォース・フィールドのおかげで体感温度は快適だ。

太陽は真上で、まるでレーザーといった紫外線を強烈に放射しているが、

現地人とグリーン・ランタンはあまり気にせず行動できる。

 

「さて、どうするかな」

 

のんびりと伸びて、ハルは首を回した。

キロヴォグは泰然としており、

彼の外見と相まってGLのスーツが無かったなら、

野生に満ちた景色に溶け込んでいただろう。

 

「ハルよ、お前の親友はこの辺に来たんじゃなかったか?」

 

「ああ、なんかゴリラに脳みそを食われかけたとか言ってたな。

 でもゴリラがイエロー・ランタンになるか?」

 

「さてな。ともあれ黄色のスペクトラム・パワーは、

 恐怖を周囲に植え付ければ植えつけるほど強くなる。

 おまけにゴリラっていうのはここじゃ怖い生き物らしいじゃねえか。

 十分にありえるぜ?」

 

「動物園でクソを投げられた時は見事に躱してみせたし、

 もしゴリラだったら早めに終わらせられそうだ」

 

ここにジョンがいれば「糞を投げるのはチンパンジーだ」と訂正しただろうが、彼は同行していない。

指導者が変わったグリーン・ランタン・コァは揺れている。

いざという時のために連絡要員を残しておくべきと、キロヴォグが進言したのだ。

 

近くに住む住人の目撃情報によると、

この近くで最近、夜な夜な黄色の光が天に立ち上るという。

好奇心に駆られた人間が近くに寄ってみると、そこには黄色いゴリラの群れがいるらしい。

事態を重く見た警官達が向かったが、哀れなことに帰ってこなかった。

今では昼でもお構いなしに、その光を目指できるらしい。

 

これだけなら間違いなくイエロー・ランタンの力だが、

ハルはゴリラと戦ったことがなく、

あくまでゴリラっぽい異星人や異世界の存在と交戦した経験しか無かった。

 

目撃情報があった場所に歩いて行く。

聴きこみで吸った水タバコがキツかったので頭がクラクラしていたが、

これまで鍛え上げてきた集中力で、いつもと変わらないコンディションと言っていい。

 

「あれだな」

 

キロヴォグが目を細め、遅れてハルにも光が見えてきた。

近づくにつれて、アフリカの地獄の日光よりも輝くものが見えてきた。

 

「おお…………」

 

岩場から顔だけ出して覗いてみると、そこは壮観な眺めだった。

黄金に輝くゴリラ達が闊歩し、

神輿に担がれて本物のゴリラが周囲を睥睨している。

 

「どうするハル?」

 

「とりあえず対話を試みよう」

 

岩陰から日の当たる場所に出てきたハルを、

ゴリラ達がいっせいに振り向いた。

相手を刺激しないように両手を上げ、

友好の印として緑の光で構成したかごにバナナを入れてある。

 

「よう、タフゴリラ。

 俺はグリーン・ランタンのリーダーだ。

 あんたに聞きたいんだけどさ、

 そっちの様子を見に来た警官が行方不明なんだけど知らないか?」

 

「お前と話すことはない」

 

流暢で人間と変わらない声がゴリラから聞こえた。

 

「貴様のような愚か者と話すことは何もない」

 

人間を見下しきった瞳。

ハルの記憶にあるゴリラと勘違いしているチンパンジーも、こうまで舐めた目はしなかった。

今までならそれだけで頭に血が上りかねなかったが、

彼はグリーン・ランタンを纏めなければならない立場にある。

 

「そう言うなよ。

 友好の証にバナナを持ってきたんだ。好きだろ?」

 

毒が入っていないのを見せようと、

ハルは房から一本もぎ取り、その場で食べた。

バナナの本場はアフリカというイメージだが、立ち寄った八百屋で買った程度では、

あまり差がないものだとハルは思った。

 

「ほら食え。じゃないと俺が全部食っちまうぞ」

 

そう言ってバナナをもう一本もごうとした時。

ゴリラのうちの一頭が、ボロ雑巾のようになったガイ・ガードナーを放り投げた。

 

「ガイ!?」

 

 

レッド・ランタンになったガイは決して弱くはない。

彼の長所は誰よりも速くトップギアを入れられる気の短さ。

ムラッ気が邪魔をするために限界を超えられないという欠点はあるが、

そうそうは不覚を取らないはずだった。

 

イエロースペクトラムによって形作られたゴリラの太い腕が、ハルの顎をアッパー気味に打った。

キロヴォグが待機している岩に突っ込んで、そのまま貫通する。

身を捩り、辛うじて受け身を取ったハルが好戦的に歯を剥いて立ち上がった。

エメラルド・ソリッド・ライトで攻撃を防いだが、まともに貰ったらひとたまりもなかった。

 

「話が早くて助かるよ」

 

「結局こうなったか。

 お前の周りはいつもヘビィな厄介事ばかりだな」

 

「俺が厄介事を見つけてるみたいに言うなよ。

 向こうが俺を気に入って離さないんだ」

 

毛のないピンク色の牛頭が鼻息荒くして交戦体制に突入する。

それに呼応して数十のゴリラ達がこちらに向かってきた。

奴らの出してくる一撃はどれも、まともに喰らえば頭が飛びそうなもの。

 

キロヴォグが巨体を活かしてゴリラ五体に突進する。

それだけで構成体が大きく揺れたが、

掻き消すまではいかない。

 

「俺がこいつらを食い止めるから、

 お前はリングの持ち主を狙え!」

 

「わかった!」

 

ゴリラの群れを飛び越えて消えた神輿から、勇壮なアフリカの大地に足をつけ、

体中の筋肉を盛り上がらせたグロッドへと翠光の拳を放った。

グロッドが両手を組み合わせて大きく薙ぎ払うと、

光拳が粉砕された。

 

「バナナはお気に召さなかったか?」

 

「バナナは嫌いだ」

 

「そいつは悪かったな。

 今度は動物園にメスゴリラのヌイグルミを差し入れしてやるよ」

 

ファイティングポーズをとったゴリラ王へ、

全長2m程の大きさである小さな翠の戦闘機を繰り出した。

ハルが最も得意とする構成体だ。

ジョンではないが、やはり見知ったもの、慣れ親しんだものほど素早く出せる。

コンマ一秒程の差だが、奇襲には適していた。

 

「好き嫌いを無くしてやるぜ、喰らいな!!」

 

戦闘機が機銃を放ち、弾丸を連射する。

翠の軌跡を描き直線に飛んでくるのを、グロッドが俊敏な動きで避けた。

ゴリラのペットボトル程はありそうな太い指にはめられたリングが輝きだした。

リングから飛び出してくるのは、原始的な山吹色の光線。

シールドを展開するも、強力な一撃ですぐに罅が入った。

 

不自然に強い。

キロヴォグを食い止める程のゴリラ・シャドウを産み出し、

それらを並列的に行動させた上で、この威力。

下手すればシネストロに匹敵する精神力と集中力だった。

 

壊れたシールドから涎に濡れた牙を誇示し、

ゴリラ・グロッドが顎を開いて噛み付いてくる。

人の頭蓋骨も砕くだろうそれ、口蓋にエメラルドのバナナを突き刺した。

 

「よく味わえ!!」

 

光でコーティングした爪先で下から蹴り上げる。

閉じたグロッドの口内を光の破片が蹂躙した。

怒りに瞳を燃やしたキング・オブ・ゴリラが、ハルを鬼気迫る熱気で睨みつけた。

 

「猿も木から落ちるという諺を知っているか」

 

頭に血が上って襲ってくると予想したのに反し、

グロッドはクレバーに、じっと残忍な知性と理性で様子を伺った。

 

「猿が木から落ちるって意味だろ」

 

「違う。……諺が何か知らないのか?

 その道に長じた者でも時には足元を掬われるということだ」

 

「なるほど、今のお前そのものだな」

 

嘲るように鼻で笑ったハルの視線が、先ほど戦闘機から撃ちだされた弾を追った。

弾丸とてハルが産み出し、思い通りに動かしたもの。

躱された銃撃の行方もハルが決められる。

滞空していた弾の数々が旋回して、グロッドの背へと無数に刺さった。

 

「だがそれは人間の尺度で解釈した愚かな幻想っ!!」

 

背中に数多の弾傷をこしらえたにも関わらず、

ゴリラの体躯が数倍にも膨れ上がったと錯覚するプレッシャーを出した。

それだけで常人ならば気絶するだろうが、

ハルは恐れを知らぬ男。

逆境には突進で応えるグリーン・ランタン。

 

「猿とは人間のメタファー! 木とは食物連鎖の暗喩!!

 木から猿が落ちたのはゴリラが蹴り落としたからに過ぎん!!」

 

「舐めるなよ、ゴリラ!!

 こっちはイエロー・ランタンとは何度も殺り合ってるんだ!

 お前の湿った鼻を目掛けて木から飛び蹴りしてやるぜ!」

 

「ゴリラではない、ゴリラ・グロッドと呼ぶがいい!

 ゴリラ・ゴリラを超えしグロッド!

 世界の遍くを掌中に収める王よ!」

 

グロッドの力が増大していくのがわかる。

至近距離のラッシュ戦に突入し、

エアフォース時代は喧嘩っ早い女好きでならしたハル・ジョーダンが押され始めた。

 

強大な右ストレートがハルの頬を打ち、

意識が上に行ったところを、ゴリラの前傾姿勢からの手痛い腿への手刀が打ち込まれた。

グロッドの頭を掴み、翠プロテクターで威力を付与した膝蹴りをあてるも、

太い首とソリッドライトの相乗効果で、わずかに身動ぎさせたに過ぎない。

 

遠くからキロヴォグが苦鳴を溢したが、

ハルには振り向く余裕が無かった。

 

ゴリラがここまで強敵とは思わなかった。

広い胸板と強靭な背筋が、あまねく攻撃を防御し、

太い腕から繰り出される攻撃は痛烈。

おまけにイエロー・ゴリラまでいるという。

 

「お前の仲間が倒れたぞ」

 

「そうかい。今、お前が倒れるけどな」

 

翠の光が網目状になってグロッドの動きを一時的に弱める。

拘束から逃れようとするゴリラの毛深い足が大きく滑って、巨体が転倒した。

肉弾戦を仕掛けている間に気付かれないよう作っていたバナナの数々。

そこに頭から突っ伏したグロッドを、せせら笑った。

 

「ゴリラがバナナの山に埋もれられてゴキゲンだろ。

 これでお前もバナナ大好きな動物園の似合うゴリラに――」

 

「貴様っ!!」

 

逆上したグロッドが仕掛けてきた。

奴の構成物は大凡が肉体を強化する方向。

ならばと、ハルは真正面から拳を打ち合い、砕ききる。

初めてのクリーンヒットに、グロッドの黒瞳に困惑が産まれた。

 

「これくらいで強度がなくなるなんて、甘いぜ。ルーキー」

 

照準がぶれたグロッド相手に、一気に勝負を決めようとした瞬間。

背後からイエロー・ゴリラが押し寄せてきた。

一匹だけならば引き剥がすこともできるが、数が多すぎる。

 

ハルの背中に猛烈な打撃が叩き込まれ、

肺にある全ての息が零れた。

肩を捕まれ、髪を引っ張られ、ハルも抑えこまれかける。

地面が近づくハルは咄嗟に、自身もゴリラの造形のコーティングをし、

辛うじて振り解くと素早くゴリラたちに距離を取る。

そのまま飛行して、キロヴォグを抑えていたゴリラを蹴散らして回収した。

 

「ちっ、振り出しかよ。

 どうなってるんだ、あのゴリラ。強すぎだろ」

 

ハルでもようやく事態の不自然さに気づいてきた。

ゴリラ・グロッドのランタンとしての能力が高過ぎる。

イエロー・ランタンにはバットマンも選ばれたことがあったが、

リングを完全に使いこなすには厳しい訓練が必要だ。

なのにグロッドは、この短期間でここまで強くなっている。

 

誰かがグロッドに協力しているのか。

まさか、シネストロが?

 

「キロヴォグ。協力を要請しよう。

 一旦ここから離れて、近くのヒーローに――」

 

ダメージを負っていたキロヴォグが呆れて鼻息を荒くした。

 

「おい、プーザー(新兵)。

 ちょっとばかり逃げ腰が過ぎるんじゃねえか?」

 

かつてハルを教育した鬼教官が、窘めるように言った。

 

「どうしてだよ。

 俺はリーダーなんだから、周りとの協調やらなんやらをだな」

 

宙に浮かんでゴリラ達を見下ろす中、

教え子の口答えに桃色の牛が失笑した。

 

「考え無しが考えやがって。

 これまでのことを思い出せ。

 お前はいつだって先陣切って突っ込んでたじゃねえか」

 

「キロヴォグ……」

 

牛の口が大きく歪んで笑みの形を作った。

ハルは背中を押された気持ちで地上に降り立ち、力強く一歩を踏み出した。

 

「色々あってあれこれ考えたが、

 でもそういうのは後だ!」

 

「その意気だぜ、ハル。

 あと、俺が気づいたんだが、あのゴリラは――」

 

ハルの長所であり、最大の武器。

即断即決。

エメラルド・ソリッドライトの強度と出力は集中力で決まる。

意志の集中に自己否定や葛藤が介在すれば、ランタンとは極めて弱い戦士となる。

 

キロヴォグとの話が終わり、

地面に降りたハルはゴリラの群れに突進する。

定石は相手の攻撃を防ぎ、それが止んでの返し刀。

しかし、相手はゴリラであり、

近接武器が――ゴリラ達がイエロー・ソリッドライトで銃を作った。

 

ここまで来れば誰にでも分かった。

バリーが言うには、ゴリラ・グロッドは高い知性を備えているが、

人間達の文明には強い関心を持っておらず、見下している。

 

それなのに一匹一匹がスムーズに狙って引き金を引くというのはどういうことか。

イエローの弾嵐が吹きすさぶ中で、ハルは無防備に走り続ける。

弾はあたることなく、逸れていく。

背後からキロヴォグが援護しているが、それだけで被弾無しはありえない。

これもまたハルの適正。

恐怖無き心に恐れをなしてか、攻撃は当たらず。ハルは死なず。

 

ゴリラの群れの直前まで来たハルは、極薄の鞭を構成し、

大きく横に振るった。

鋭い切れ味の攻撃が表皮を薄く削いで、その下を見せる。

先ほどハルがやったことと同じ。

生身に強化装甲を付け足しただけ。

 

「つまりゴリラは二匹いたってことだったのかよ!

 種が割れれば、まさにゴリラ知恵だぜ!!」

 

「まあ、気づいたのは俺なんだがな」

 

ハルが開いた傷口全てを、キロヴォグが巨体に似合わぬ繊細な動作で押し開く。

熟練の技であり、現隊員の9割以上を育てた実績があるだけはあった。

一度できた綻びを突かれて厄介だったイエロー・ゴリラの群れの化けの皮が剥がれ、

中からは何処にでもいそうなゴリラが現れた。

 

普段はゴリラとしてアフリカに溶け込み、

グロッドが戦う時と訓練する時に装甲を着こむようになった。

たったそれだけだが、

アフリカにゴリラがいても何の不自然もないという思考の穴を突いてきたわけだ。

ハルには見抜けなかったのも当然。

 

グロッドが再びゴリラの群れを強化する前に、

ハルが一息にグロッドとの距離を縮めた。

 

「おのれ! 我が名はゴリラ・グロッド!

 ゴリラの中の王にして、この星を手にする支配者!」

 

「なら俺はグリーン・ランタンのリーダーだっ、バーカ!!」

 

至近距離、焦りによって防御が緩んだグロッドを、

ハルの超強力な光線が包み、意識ごと装甲を焼き切った。

 

######

 

拘束したうえで厳重に檻に閉じ込められたグロッド。

フェリス航空の飛行場に何故か安置されていたゴリラの王のもとに、

巨大な黄色の光輝を放つ赤紫色の肌の男が降りてきた。

 

「リングの使い方を教えたのは誰だ?」

 

応えないグロッドを猿を見る目で睨みつけ、

答えがないと知るや断定的に語りかけた。

 

「貴様にリングを持つ資格はない。

 リングは何処にある?」

 

「そいつにリングの使い方を教えたのはスーパーマンだってよ。

 たぶんフラッシュが戦った奴だ。

 それとリングはここ」

 

謎の男、シネストロへとイエロー・ランタンのリングが放り投げられた。

空中で掴み、回収を済ませたシネストロは、ハルの登場に眉を上げた。

 

「……来るだろうと思ってな。

 リングの探知反応で来たんだろ?」

 

「貴様と話すことはない」

 

「まあ、聞けよ。

 お前は俺を頼りないとか思ってるかもしれないけどな。

 事実そうだとしても、

 とりあえずグリーン・ランタンだけで頑張ってみることにしたよ。

 何処のランタンも半壊状態なんだ。まずはそれぞれ力を付けないとさって」

 

「そうか」

 

「あと一段落したら本格的にパイロットとしての就職先を探す。

 バットマンに、とりあえず日雇いで800ドル稼ぎたいと電話で頼んだら無言で切られてな。

 継続的に仕事を続けるようにしないと」

 

「……そうか」

 

ハルから目を逸らして、シネストロは夜空を見上げた。

昔の教え子にして相棒の目には、長年の宿敵の背中しか見えない。

長い無言の間が続き、

宇宙原初より存在する恐怖という感情の顕現――パララックスを宿した男は口を開き、静かに告げた。

 

「お前に失望したことなど、ただの一度もない。

 いつだってお前は私の自慢の教え子であり、

 ……永遠に唯一の親友(とも)だ。

 たとえ、これから何度殺しあうことがあろうと、それだけは変わらない」

 

「そうかい」

 

ハルはパイロットの制服を着こみ、

戦闘機へとシネストロを促した。

胡乱げに目を細めた彼に、飛行機を親指で示す。

 

「乗ってみないか?」

 

「何故」

 

肩にさげていたジャケットに手を通し、

シネストロの困惑を他所に乗り込む準備を始める。

 

「昔に親父が乗せてくれて、その後にキャロルを乗せて、カイルを乗せてさ」

 

少年だった時から、グリーン・ランタンを背負うに至っても。

変わらない少年の眼差しを持つ男は親指を立てた。

 

「お前と乗ったことが一度もないのは変だろ?」

 

その言葉に目を丸くし、そしてため息をついたシネストロが、

肩を竦めて首を振った。

 

「相変わらずお前は勝手だ――――ハル」

 

 

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