DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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ロビン/シャザム/スーパーガール:JAPAN CRISIS

 

日本とは元来治安の良い国だ。

夜間の出歩きにも強盗や犯罪者にでくわすことはそれほどない。

まれにニンジャ、ヤクザ、怪人、巨大ロボ、

妖怪、デュエリスト、ミニ四ファイターといった

凶悪なヴィランの犯罪に巻き込まれることはあるが、

この国は小さい島国ながらもヒーローの充実ぶりにはなかなかのものがある。

 

しかし、それでも悪の芽は潰えることはない。

ヤクザ量産計画は留まることを知らず、

忍者に至ってはすでに国民たちの間では実在が公然の秘密となっている。

 

SNSへの依存が他の国と比べて段違いに深刻なのも、

それを通じての相互監視によって隣人が忍者やヤクザ、

改造人間にデュエリストではないことを確認する意味もある。

それを公言せずに、

あくまでコミュニケーションのためと偽装する奥ゆかしさは日本人の特徴だ。

 

普段着になってオフの時間を満喫していたダミアンは、

ハンバーガーを食べてぼんやりと往来を眺めていた。

日本の企業の8割は玩具で世界を征服しようという邪悪な秘密結社だが、

それでも食べなければどうしようもない。

 

ジャスティス・リーグも他国のヒーローが世界を救っていたりして

手が放せない時は、その国のサポートに援助しに行くことがある。

多くの場合においてそれは政府からの要請があってのことだが、

今回は前方後円墳に秘められた地球の秘密をヴィランが悪用せんと企んでおり、

そこにゴッサム産のヴィランの関与も見られたことでダミアンは自主的に来た。

 

ブルースもディックもすでにおらず、

ジェイソンはアルフレッドのお見舞いに行っており、

ティムはティーンタイタンズの任務で忙しいとあって、

今回はロビンが出動するしかないのも大きい。

 

テリヤキバーガーのレタスを新鮮な音を立てて咀嚼し、飲み込む。

マヨネーズとソイソースベースのタレがこってりとしたまろやかさを持ち、

ダミアンはオレンジジュースで流し込んだ。

ダミアンはベジタリアンだが、日本のファーストフード店は

菜食主義者のための合成食品を提供してくれることが多く、ありがたい。

 

大きな彫刻が特徴的な噴水の周囲を囲むベンチの一つに座り、

まだ齢、十を少し過ぎたばかりのダミアンはぼんやりとしていた。

 

「あれは――」

 

「よっ、待ったか!!」

 

頭にカバンが乗る感触がしてダミアンは顔をしかめた。

隣に腰掛けたのはビリー・バットソン。

気に入らない名前の15歳、シャザムという人類最強の力を持つヒーロー。

 

「なに見てたんだ?」

 

コンビニで買ってきたサンドイッチとコーラを取り出して、

ビリーは気さくに問いかけた。

ダミアンがアポカリプスから放射される重度の波動に汚染されて

超パワーを持った時に一方的に親しくさせられた関係だ。

 

だがビリーことシャザムは、

ジャスティス・リーグの一員という世界最高級の名誉を得ていながら、

ダミアンを子供扱いしないという珍しいヒーローでもある。

 

もっとも、子供扱いしないだけで後輩扱いはしてくる。

今回も日本に行くと知るや先輩風を吹かせてやってきたくらいだ。

 

「あそこで待ち合わせしてる奴」

 

街灯に寄りかかってスマホを弄っている青年をダミアンは顎で指し示した。

 

「胸の膨らみからしてヨーヨーを隠し持ってる」

 

「ふーーん、欲しい?」

 

「べつに」

 

ヨーヨーといった玩具、TCGを持っている人間は趣味でやってる者か、

あるいはヒーロー、ヴィランのどれかだが、

見たところあくまで中級者の一般人。

ダミアンのループ・ザ・ループにも勝てまい。

 

「シャザム!」

 

長い詠唱と掛け声が小声で聞こえてきた。

小さな閃光が走り、ダミアンが隣を見ると、

ビリーが白い歯を見せてヨーヨーを渡してきた。

魔法によって生み出されたばかりのせいか、

雷の中にあったためか、妙に生暖かい。

 

イカヅチをあしらったデザインのヨーヨーを

半目で見下ろし、ダミアンは渋面を作った。

 

「ほら、遠慮するなよ」

 

「オレの家のこと知ってるだろ」

 

「知ってるぜ。へへっ、俺とお前の仲じゃん」

 

「お前とつるんだことなんて二、三回しかない。

 べつにヨーヨーは欲しくないわけでだな。

 それ以前にヨーヨーが買えないほど困窮してないぞ」

 

「そりゃあ、球根は買えるだろ」

 

「困窮」

 

ビリーは得意満面の笑みを浮かべ、こめかみを指で叩いた。

 

「冗談だよ、ソロモンの知恵があるのにそれくらいのこと知らないわけないじゃん」

 

シャザムは5つの神の力を与えられている。

その中にはソロモンの知恵もあった。

しかし人間は知恵があるからといって大人の振る舞いはできないものだと、

ダミアンは胡乱な目をしつつも思った。

 

「とにかくいらないからお前が使え」

 

押し付けられたシャザム仕様のヨーヨーを手の中で弄んでから、

ビリーはおっかなびっくりヨーヨーを地面に落としてみた。

地面に落下して激突する前に手元に戻るのを少年は感動して目を見開いた。

 

「なんだこれ!? 戻るぞ!」

 

「あたりまえだろ」

 

「お前もやってみろよ!」

 

「やるかよ、子供じゃあるまいし」

 

ベジタリアン仕様のハンバーガーを食べ終わり、

ふきんで口元を拭ったダミアンの前を兄弟らしき少年たちが通り過ぎて行く。

歳が離れていたが野球帽をかぶって屈託なく笑う弟を兄が微笑ましげに見ていた。

 

「帰ったらブシドーブレード4やろうぜ!!」

 

「ブシドーブレード……ってあの開始3秒で斬られて死ぬゲームか。

 父さんが暴力的すぎるってしかめっ面になってたよ」

 

「それだよ、それ」

 

「お前、そういうゲームばっかりやってると暴力的になっちゃうぞ」

 

「兄ちゃん、つまらないこと言うなあ」

 

弟である少年が頬を膨らませると兄が笑って彼の頭を撫でた。

 

「ごめんごめん、じゃあ来週の日曜だな。

 仕事が一段落するから一日中付き合えるぞ」

 

「いえーーい! やったあ!!」

 

はしゃぐ兄弟をダミアンは黙って見送った。

ブシドーブレード。15作目まで発売されている日本を代表する超人気剣戟ゲームだ。

刀と刀のやりとりを極限までシミュレーションし、

なおかつゲームとしてのスリルを追求したことによって

ジャパンカルチャーフリークにも絶大な人気を誇っている。

 

ダミアンも愛好しているシリーズであり、

一度死ぬ前にディックと一緒にプレイする約束をしていた。

だがそれはもう果たされることはない。

少年が還ってきた時にはディックは死亡しており、

それだというのに父のブルースは悲しむ素振りも見せず淡々とゴッサムを守っていた。

 

ビリーが横目で少年の表情を見、

フライドポテトを摘み、口に入れてから首を傾げた。

 

「ブシドーブレードって何だろ?」

 

「知らないのか」

 

「うちにはスーファミとワンダースワンしかないからさ」

 

「……何故」

 

「里親のお下がり」

 

兄弟の会話を一緒に聞いていたビリーが尋ねてきた。

ウォッチタワーには最新のゲーム機器があったがあれは魔法で出したものらしい。

他にもエアホッケー台や卓球台もあったが、

ようはあそこでは室内で遊ぶしかないということだ。

ネット環境はどうだったか。

 

「VITAで初代と2が配信されてるから買っとけよ」

 

「えー、VITAって高いじゃん。

 100ドル以上するんだぞ」

 

「頑張って買ってみろ。面白いから」

 

日本のゲーム業界にも目を瞠る名作が多い。

これは教育にも絶大な効果を発揮していることから

日本男子ゲーム脳計画と噂されることすらある。

ブシドーブレードにはまった侍少年はるろうに剣心を読み、

忍者を志す少年は天誅からニンジャスレイヤーに入る。

そして幼くして悪の心が芽生えた少年の抑制剤として、

社会現象となった超人気シリーズ悪代官というゲームが推奨されている。

 

武士は食わねど高楊枝という諺があるが、

最近では武士は食わねど次世代ハードという諺が

近年、流行語となり始めていることには

そういった背景があるのかもしれない。

 

「そうだ、ウォッチタワーでプレイしてみようぜ」

 

「ゲームしに宇宙基地まで行くって馬鹿か。

 あそこは世界のために使う場所って父さん達が言ってたぞ」

 

「だってこういう対戦ものって思い立ったらすぐの方がいいだろ?

 ゲームっていうのもさ……きっと俺達の心を豊かにしてくれるよ」

 

「ブシドーブレードで豊かになる心って、

 お前はどんな気分で生きてるんだ」

 

「つれないなあ。キャプテンコールドは

 PS4があるジャスティスリーグすげえって大喜びしてたのに」

 

「ヴィランじゃん」

 

顔をしかめてダミアンが何か言おうとしたところを、

空から巨大な物体が降ってきた。

憩いの場であるはずの公園が激震し、

無数の土煙が洪水となって二人に覆いかぶさった。

 

「なんだ? 何が起こった!?」

 

動揺しているビリーを他所にダミアンは既にパーカーを脱ぎ捨て、

ドミノマスクを付けてロビンになっている。

暑い中でもわざわざ長袖の服を着ていた甲斐があったというものだ。

 

隕石の如き物体が落下し、その中からキリモミしつつ出てきたのは

スーパーガールと全身白色の大柄な男。

名前は聞いたことがある。ロボとか言う宇宙を股にかけるバウンティハンターだ。

 

「ちょっと、あなた誰よ!!

 なんであたしをそこまで狙うの!?」

 

「宇宙最強の俺様に向かってその口のききようかぁっ!!

 宇宙最高の俺様の名前はロボだぞ!!

 お前の首にかかった賞金で次世代ゲーム機を買わせてもらおう!!」

 

「何言ってるの!?

 名前しかわかんないんだけど!」

 

「問答無用だぜぇっ!

 宇宙をふわふわ飛んだ自分の迂闊さを呪え!!」

 

悪態をつきながらもロボの猛攻をすれすれでスーパーガールは躱している。

彼女にはスーパーマンと同じ能力と極めて高い力があるが、

それでも倒せないほどに目の前の敵は強い。

 

「SHAZAM!」

 

ロビンがスーパーガールに加勢するより先に、

シャザムとなったビリーがロボへと突きを繰り出す。

僅かに押されただけのロボが獰猛な狼の笑みを浮かべた。

 

「シャザム……お前もかなりの賞金首!!」

 

「えっ、俺ってそんなに有名になってたの!?」

 

「この宇宙最高知名度の俺様には遥かに劣るぜ!!」

 

背中に収納していた超巨大なサブマシンガンの引き金を引き、

ロボがシャザムへと極大の弾丸の嵐を浴びせた。

たまらずに両腕で防御したシャザムへとロボの蹴りが襲う。

ガードの上からだろうとおかまいなしに通る攻撃にシャザムが吹き飛んだが、

すぐに態勢を立て直して向かっていく。

 

シャザムはスーパーマンと並ぶ力を持つヒーローだ。

ただの人間の中では最強のスーパーパワーを持つという話もある。

事実、スーパーマンとまともに戦って一定以上の勝ち目がある人間は彼くらいだろう。

 

そんなシャザムと真正面から殴りあって平然としているロボも宇宙でトップクラスの力を持っている。

病的に白い肌と超常的な体格、巨漢のシャザムよりも大きい体躯から繰り出す攻撃は、

超ヒーリングも相まって次第にシャザムを押していく。

 

中身は少年のままのシャザムの口から絶叫が上がる。

腹部にはロボが隠し持っていた特別製の肉厚なサバイバルナイフが刺さっていた。

その柄に向かって靴底を叩きこまれた最強の魔法使いは血を吐き出して倒れた。

 

そこにスーパーガールがロボへとヒートビジョンを放った。

極細に絞った出力はロボの肌を貫くが、

超強力なヒーリングファクターによって焼けた肌も焦げた肉もたちまち治癒されてしまう。

 

ロビンが見渡すと流石はヒーローとヴィランの密集地とされる日本。

とっくに民衆は避難をしており、近くにはロボが宇宙空間を飛び回るのに使う

通称、究極バイオレンス大型二輪しかない。

 

同年代の中でも一際小柄なダミアンには、

日本古来の殺人術の使い手、力士ほどの大きさもあろうバイクを操ることは出来ない。

 

スーパーガールの腹部にロボの巨大な拳がめりこんだ。

苦悶に顔を歪めたスーパーガールが崩れ落ち、

立ち直ったシャザムが両手の指を組み合わせて叫んだ。

 

「SHAZAM!」

 

雷鳴の王者による稲妻がロボの全身を覆い、

骨まで焼かれたのがシルエットで見えた。

だが雷光が晴れるとそこには煤をかぶっただけの、

ドレッドが特徴的な巨漢の姿が見えた。

 

「葉巻に火をつけるにはちょうどよかったが……

 この宇宙一のヘビースモーカーな俺様にはそんな雷槌、メンソール!!」

 

剛気に破顔すると雷によって火がついた葉巻を咥え、

一息で半ばまで吸って吐いた。

これまでの相手の発言を鑑みた結果浮かび上がるのは、

ロボというヴィランの名誉欲への執着と知性の低さ。

聞くところによると奴は自分のためだけに同胞を皆殺しにした狂人だ。

 

「おいスーパーガール。

 お前も危険な奴を連れてきたな」

 

「ご……ごめんなさい。

 たまにはワープ装置使わないで帰ろうかなって思ったの」

 

腹を抑えつつも立ち上がったスーパーガールはしゅんと、うなだれ、

つっかかってくると予想したダミアンが拍子抜けした。

 

「べつに責めてない」

 

バットラングボムのピンを抜き、ダミアンが投擲した。

旋回し、楕円の軌道でロボの腕に突き刺さるが、

針に刺された痛みにもならないだろうロボは平然としている。

 

背中に差していた刀を抜きダミアンは構えた。

 

「誰だぁ、小僧?」

 

「オレはロビン」

 

不遜で傲岸な態度を隠しもせずに、

ダミアンは堂々と言い放った。

 

「宇宙最高のロビンだ」

 

「ほざけ!! 宇宙最高は宇宙最高の俺様以外釣り合わねえ!!」

 

ロボが全身で激怒を表してダミアンに突進してきた。

掴まれる前にグラップネルガンでアンカーを突き刺して

巨大二輪を手元に引き寄せ、そこから勢い任せにロボへと放った。

 

予想通り、宇宙を駆け巡り大気圏突入にも軽々と耐える機体は

全長3mは超えるだろうロボの勢いを軽減し、なおかつ壊れない。

衝撃でロボの目が閉じたのを見逃さず、ダミアンは素早く相手の背後に回って

両足の腱を斬り裂いた。膝から崩れ落ちたロボが回復する前に、

ダミアンはシャザムに指示を飛ばした。

 

「地面を掘れ! ダムを爆破するイメージだ!」

 

「SHAZAM!!」

 

即座に叫んだシャザムの詠唱によって、

罅割れて砕けていた公園の大地が稲妻によってさらに押し壊される。

緑あふれる公園だった一帯が震撼し、木々がざわめき、倒れ、

噴水を作っていた水道管が砕け、夥しい水がロボの全身を濡らす。

 

「びしょ濡れ! さらにヒートビジョンで追い打ちかけしろってことね!」

 

「いや違うってこの馬鹿! 凍らせろ!!」

 

意気込んで双眸を赤く滾らせたスーパーガールを怒鳴りつけ、

ロビンもユーティリティベルトからフリーズバットラングを出した。

本来はステファニーやハーパーといった戦闘力の低い者に適したガジェットだが、

日本に来るとあって念を入れたのが幸いした。

 

「宇宙一の色男の俺様に冷水を浴びせるとは!!

 貴様ら全員生首引っこ抜いてやる!!」

 

「宇宙一宇宙一うるせえ!!

 地球はまだ半鎖国状態なんだよっ!!」

 

上体をひねり裏拳を仕掛けてきたロボの攻撃を背の低さで躱し、

ダミアンはスライディングで巨人の股の下を潜り、

通り抜けざまにバットラングを投擲し、そこにスーパーガールがコールドブレスで続いた。

 

冷凍息吹と凍結バットラングの連携によって、

ロボの全身が一瞬にして凍った。

そして刀がロボの四肢を斬り、

シャザムが魔法で生み出した鎖で羽交い締めに拘束した。

 

戦闘が終了したのを確認したダミアンは刀を仕舞い、

大柄な巨漢の姿に変身したシャザムの元に行った。

 

「よくやった」

 

「あたりまえだろ!」

 

得意気に胸を張り、鼻を膨らませたシャザムをスーパーガールがしげしげと見つめた。

 

「それにしてもまだあたしより歳下なのに、

 変身したらそうなるって凄いわね」

 

「かっこいいだろ!」

 

「たぶん魔法で戦闘に適した肉体に変えているのかな。

 筋肉はわからないけど将来的にはこういう姿になるんだろう。

 オレも未来では父さんみたいなデカくて

 かっこいい大人になるし羨ましくはない。

 こっちにはゴッサムで鍛え上げた真の犯罪と立ち向かう心もあるし、

 むしろ魔法を上回るという解釈もある」

 

「そういえばパラレルワールドの

 あたしが大人なんだけどとっても美人だったわ」

 

「こいつどうする?」

 

「放っておくわけにも行かないな」

 

「あたしももうすぐ大人ね」

 

悩ましげに溜め息をついたスーパーガールを他所に、

シャザムは片手で軽々と持ち上げているロボを顎でしゃくった。

氷に包まれ、体を魔法で出来た鎖で縛られた

宇宙最低のバウンティハンターだが、

これだけではあまりに心もとない。

 

「スーパーガール、ジャスティスリーグ・ユナイテッドに連絡できるか?

 マーシャン・マンハンターに任せる。

 護送の見張りにはうってつけだし強いからな」

 

「ジョンに? 彼、この前まで別惑星で大乱闘していて疲れてるけど」

 

「俺たちは警察にこれを引き渡しておくから、

 お前はオレオとアルフォートと白い風船と

 500円牛乳三リットルを買ってこい。お菓子の方はどれもダンボールだ。

 それくらいしておけば彼の疲れも吹き飛ぶ

 ……ってバットマンが言ってた」

 

「それなら安心ね。ジョンって凄く良い人だけど、

 オレオがあればもっと良い人になるし!!」

 

マーシャン・マンハンターは火星の生き残りで、

スーパーマン、シャザムに並ぶ最強格のヒーローだ。

 

その知識と思慮深さ、

そして面倒見の良さでは数あるヒーローでも右に出る者がいない。

あのブースターゴールドとブルービートルの面倒を

長年見てきたことからもそれは明らか。

しかし彼とて火星人。労をねぎらわねばならない。

こういったことはアルフレッドとディックに

耳にタコが出来るレベルで教えられてきた。

 

手を合わせてスーパーガールが大きくうなずき、

彼女の背後にようやく日本の警察がやって来るのが見えた。

どれもが銃を携行しており、こちらへの警戒を隠そうともしていない。

 

「じゃああたしはクッキーとミルクを買ってくるわね」

 

そう言ってスーパーガールは鮮やかな金色の髪を翻して空に飛んでいった。

シャザムにロボを抑えてもらい、

三人の中で最もこういった事態に慣れているロビンが警官達に事情を説明しにかかった。

 

#####

 

アフリカ各国の治安の悪さの尺度として

最も多く使われるのがマッドマックス。

あの地方一帯が文明とガソリンと荒廃が複雑にミックスされている。

暮らしていると銃声とクラッカーの音が徐々に一緒くたにされて、

区別がつかなくなる後遺症を負ってしまうが、

命を落とすことはさほどないという意味だ。

健やかな生活に慣れた生活を送っていれば毎晩、

誰かが命を落としているだろう様々な物音に

起こされるくらいしか危険はない。

 

この基準によればエジプト等は

概ね一年を通して温厚なマッドマックス級といった具合に測定されるが、

日本においてはもはや治安の良いゴッサムというのが相応しい。

風都に新宿に米花町と狂人、魔人の層の厚さは驚異的だが、

同時にヒーローの多様さも特筆するものがある。

 

無事に警察への事件の説明が済み、

こっぴどく嫌味を言われたダミアンは気疲れを感じつつも、

目の前の少年と少女を半目で睨んだ。

 

日本のファミレスの清潔さとサービスはなかなかのものがある。

これはファミレスというのが

地下に秘密基地を擁しているエージェント養成機関だからという説もある。

だがそんなことを気にしては何もできないことを知っているダミアンは、

黙してスープバーから掬ってきたわかめスープを飲んでいる。

 

「で、お前らどうしてまだいるんだ?

 子供は寝る時間だぞ」

 

「どうしてって、ちょっとだけ遊ぼうかって流れになったんだろ」

 

「まー、ダミアンったら鏡も見ずに人を子供扱い」

 

「オレは中身が大人だ」

 

ジョン・ジョーンズは無事にロボを宇宙警察に移送してくれた。

スーパーガールやシャザムでは宇宙空間を飛べても、

そういった手続きには全く適していない。

二人は明日から公園の瓦礫の撤去を手伝うとのことだが、

常人と同程度の力しかないダミアンにはそういった作業を手伝う力がない。

 

「それでどうする? 会ってみたいヒーローとかいる?」

 

「あたしは……クラークととても仲が良いっていう

 冒険家とお茶してみたいけどたぶん無理ね。

 異世界に行ってるみたいだし」

 

スーパーガールが腕組みしてああでもないこうでもないと

うんうん悩み、とりあえずと手を叩いた。

 

「映画にしましょうか。

 あたしがあなたたちの分のお金を払うから」

 

「いいの!?」

 

「オレは必要ない。金はある」

 

「遠慮しないで」

 

ダミアンの鼻をつついてスーパーガールが誇らしげに語った。

 

「こう見えてもあたしはサブウェイでバイトをしてたんだから」

 

「バイト……大人の響きだな」

 

「それもサブウェイでバイトよ。マックじゃないわ」

 

目を見開いたビリーからの尊敬の眼差しを受けて、

スーパーガールがもったいぶった動きで髪をかきあげた。

歳上ぶっているのかもしれないが今のスーパーガール……

カーラ=ゾーエルの外見は

髪を近くの100円ショップで買ったカチューシャでアップにし、

服装はユニクロで買ったフリースに下は安物のジーンズだ。

妙齢の美女というよりは親から言いつけられた

買い物に疲れているひなびた少女にしか見えない。

従兄弟の影響か牛乳瓶の底より分厚くて大きい眼鏡をかけているのだからなおさらだ。

 

「ダミアンは観たい映画はある?」

 

顎に手を載せてカーラは尋ねた。

 

そう言われても特にはないがディックとアルフレッドが

前にトロピックサンダーという映画を観て腹を抱えて笑っていた。

 

ダミアンにはあまり面白さがわからなく、

誰よりも要領のいいティムは

娯楽映画に興味がなかったからかすぐにリビングから去り、

珍しくいたジェイソンが知ったかぶりをしてしきりに頷いていた。

 

ディックが後で教えてくれたが、

たしかあれはパロディという体裁をとっていたらしい。

ある程度の映画の知識を持っていないと

面白さを掴みにくいというものだ。

 

そのせいか次の日から

二人の話題についていこうと

ジェイソンが事あるごとに映画の豆知識をひけらかすようになり、

兄と執事は楽しそうに聞いていた。

 

映画に関しての知識が殆どなく、

漫画とアニメとゲームしか興味のないダミアンは

ディックやティム達が映画の話題で盛り上がるのが面白くなかった。

 

だからか、ディックは娯楽映画を自宅から沢山持ってきて、

ティムも小難しい映画を持ってきて、

アルフレッドは子供向け映画を沢山持ってきた。

時間が取れたら観ようと誘われていた。

 

ゲームも映画もそんな約束はもう果たしようがない。

母のタリアはモンスターだった。

 

「オレは……べつにいいや」

 

ダミアンがすげなく断ったのを見て、

カーラが物憂げに目を伏せた。

 

「じゃあ一緒にバスケでもするか」

 

「シャザムに変身するのかよ?」

 

ビリーが眉を下げて首を振った。

 

「そこはお前が教えてくれよ」

 

相手の真意を図りかねてダミアンは疑問を感じ、

訝しんだがビリーに特に他意がないと判断すると、

しょうがないと言わんばかりにため息を付いた。

 

「しょうがないな。

 飽きたらすぐに帰るからな」

 

「そうこなくっちゃな。

 じゃあ行こうぜ」

 

「それならお会計はあたしがやっておくわ」

 

「いいって。

 わざわざお金払ってもらうとかガキじゃあるまいし」

 

断ろうとしたダミアンの唇に指をあてて、

カーラは目を細めた。

 

「いいじゃない。お姉さんに奢らせておきなさい」

 

「オレの方が金持ちなんだが」

 

「いいからいいから」

 

反論を受け付けず、

カーラは肩から下げた鞄から財布を取り出してレジに向かう。

日本では外国人は珍しくブロンドが眩しい少女というのは視線を集めやすいが、

実際の日本人が最も警戒しているのは同じ日本人だ。

なぜなら彼らは隣人が忍者かデュエリストか侍か改造人間じゃないかと常に警戒している。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

 

レジに人が並んでいるのを見てビリーがお手洗いに行く。

ダミアンがどうしようか迷ったが、

ふと唐突に隣から強い気配を感じた。

カーラが座っていた場所に長身でパーカーを着た男性が座っていた。

 

ダミアンもパーカーを着ており、

嫌がらせかと思ったが謎の第三者は顔を隠すために着ているだけのようだ。

目深にフードをかぶり、俯いているために顔が全く見えない。

 

日本のポップソング。

たしか男塾の主題歌だったはずの、いわゆる懐メロが

店内で華やかに流れている。

 

「この世界っておかしいと思わないか?」

 

嗄れた低い声で男は口を開いた。

 

「僕の世界ではこの国に忍者はいなかった。

 もちろん、侍も改造人間もデュエリストもだ。

 いや、デュエリストはいたんだったかな。まあどうでもいい」

 

「巨大ロボは?」

 

「重機なら」

 

「ふーん、それはそれでつまらないな」

 

ポケットに手を突っ込んでダミアンは残っていたメロンソーダを啜った。

不思議と店内から音が消えたように思えた。

 

「僕はコミックとアニメ、カートゥーンが好きなただの少年だったよ。

 ヴィランもヒーローもいない世界だったし、それは平和だった」

 

「嘘つけ。ヴィランがいなくたって犯罪はあるに決まってる」

 

「規模は違うさ。

 とにかく僕は幸せだったってこと」

 

「それは良かった」

 

「よくないっ!!

 なのにこの世界は何だ!?

 僕が頑張って救ってやったのに誰も気づかない!!」

 

拳をテーブルに叩きつけるとそれだけで粉砕された。

すでにいつでも行動できるように重心を高くしておいたダミアンは

バク宙して距離を取る。

店内にはすでに人っ子一人いない。

 

異様な殺気を放つ男を警戒し、

前もってダミアンはスーパーガールとシャザムに

付近の住人への避難を指示していた。

 

「そうは言うけどな。

 オレ達がいちいち世界の危機を救いましたよって喧伝すると思ってるのか?

 そんなことをやってたらTV局も話題が偏って困るだろ」

 

上着を脱いでロビンになったダミアンが刀を抜いて構えを取った。

すると相手もパーカーを脱いでスーパーマンに酷似した本性を露わにする。

卑屈といじけた性根で濁った瞳がどぶのようにわだかまっている。

 

「宇宙を支配するヒーローにはゴリラを送り、

 歴史を支配するヒーローにはしょっぱいクズを送った。

 大きいもののために戦っている奴らに小さな存在で倒させようと思った」

 

「ゴリラを差別するな!!

 おまえって最低なやつだな!」

 

ゴリラを遠回しに見下すスーパーマン・プライムの振る舞いに

動物好きのダミアンが激昂した。

だがそれも無理のない話だ。

バットケイブで犬、猫、牛を飼っているダミアンは彼自身も菜食主義者。

 

加えてゴッサムはゴリラシティとの穏やかな国交を公言しており、

ぼちぼち留学生の受け入れも始めている。

ゴッサムはゴリラのアルバイトを見かけることもある珍しい都市だった。

 

「……僕は差別主義者じゃない。

 とにかく、僕は知っている。

 お前の母親はモンスターだった」

 

「それがどうかしたか。

 タリアとのことはお前に関係ない」

 

「まともな母親が欲しくないか?

 お前をモルモット扱いも、父親の注目を寄せるための道具にもしない。

 本当に愛してくれる母親だ」

 

そういって手を差し伸べ、

スーパーマン・プライムはダミアンへと歩み寄った。

柔和な微笑みが張り付いた顔をスーパーガールの爪先が蹴り飛ばした。

 

普通の敵ならば首から上が消し飛ぶ威力だが、

彼には蚊ほどの痛痒も与えない。

 

「どうだ?

 スーパーマンの従姉妹とやらですら

 お前を理解する共感者に攻撃を仕掛けてくる」

 

「距離をとって、ロビン!!」

 

「黙れ」

 

足首を捕まれ、宙吊りになったスーパーガールの腹を

プライムの脛が勢い良く叩きこまれた。

彼女を助け出そうとプライムの頭部をシャザムの拳が放った。

意識外からの攻撃二発にようやくプライムの顔が顰められ、

スーパーガールが解放された。

 

地面に落ちる寸前にロビンがキャッチし、

シャザムとプライムの交戦から離れていく。

 

「あれが……スーパーマンのそっくりさんね!

 見れば見るほど全然似てないわ」

 

「まあ、そうだな。

 そういう単純な話じゃないだろうけど」

 

犠牲者は出ていないはずだが戦いの余波でいくつも建物が崩れ落ち、

あのプライムとやらを放っておけば民間人にも犠牲者が出るのは確かだ。

そうなれば昼間にすれ違った兄弟にも危険が及ぶかもしれない。

 

ダミアンは非情を是とする忍者の教えを骨身に叩きこまれてきたが、

今では人が死ぬことの痛みを知っている。

誰かが死ぬのは見たくない、それが今の十を過ぎたばかりの男児の本心。

 

予想以上にスーパーマン・プライムは強い。

フラッシュとローグスに敗北し、

ゴリラグロッドやクロックキングに働きかけていたと聞いていたからか、

心の何処かで相手を侮っていた面があった。

 

「SHAZAM!!」

 

ファミレスの天井をつんざき、

滝の太さな稲妻がプライムを襲った。

突風が一帯のテーブルと席を粉砕して辺り一帯が荒野となった。

 

瓦礫の嵐から拳を振り上げてプライムがシャザムを殴り飛ばした。

超高速で飛んで行く魔法使いへと、

プライムが矢継ぎ早に乱雑な攻撃を繰り出す。

 

懸命に捌こうとするがプライムの攻撃はシャザムの腕を跳ね除けて、

あますところなく命中していく。

空中200m、眼下に模型のような建物が見え、

シャザムはプライムの下を潜り、追尾される前に叫んだ。

 

「SHAZAM!」

 

莫大な雷を拳に一極集中して、

シャザムの突きがプライムの額を砕いた。

皮膚が裂けて血が流れ出すプライムの頬が醜悪に歪んだ。

 

「おらぁっ!!」

 

腹部に両腕を押しこまれたシャザムがプライムごと、

ロビン達の視界の外に消えていった。

 

「まずいな……まさかシャザムも押されてるのかよ」

 

なにせローグスといえば、

スーパーパワーを使って執拗に銀行強盗やらだけを繰り返す

わけのわからない連中だ。

メンバーの能力一つをとっても悪用の幅は無限にある。

銀行強盗などせずに金を得られる才気の持ち主ばかりだ。

そんな馬鹿軍団に負けたという侮りを消すことが出来なかった。

 

ジェイソンからの経由で日本でプライムの目撃情報があったのに、

十分な警戒と準備をしてこなかったのは痛い。

 

「くそっ、父さんならこんな間違いしなかったのに」

 

「自分を責めたら駄目よ」

 

「だってオレがもう少ししっかりしてたら!」

 

「大丈夫! あたしたちもあいつのことは

 聞いてたけど楽観視してしまっていたし、

 これからどうにかしましょう!!」

 

「わかった! これ、オレがいないと駄目だお前らっ!!」

 

「元気づけようとしただけ、

 なのにそんな扱いだなんて……ひどーい」

 

「いいからオレが名案考えてやったから馬鹿二人は頑張れよ」

 

頬を膨らませてダミアンを見下ろし、

指で口を横に押し開いてからスーパーガールはシャザムを助けに行った。

二人で近隣の人達を可能な限り避難させてはいたが、

だからといって万が一の出来事を考慮していた。

 

空中で交戦を続ける両者。

スーパーガールがヒートビジョンを放つと、

プライムも同じく放ち、競り負けたカーラが両目を抑えてうめいた。

シャザムが詠唱を唱えて巨大な鉄球をプライムの頭上に召喚し、

その上から拳で叩き続けてプライムへと落とした。

 

スーパーガールとシャザムが上下からプライムへと、

強烈なラッシュを繰り出していく。

破砕された鉄くずの雨が、

シャザムの魔法によって底上げされた膂力によって

速度を増してプライムに注がれ、

一発一発はプライムの鋼の体躯に届かない。

 

プライムがどちらに行くか迷った刹那を、

スーパーガールは背後から羽交い締めにして叫んだ。

 

「今よ!!」

 

「SHA――――ZAM!」

 

シャザムが両腕を天へと高らかに翳した。

マルチバースの中心点に座す、ロック・オブ・エタニティを

源とする巨岩より集中する極大な魔力から雷への転換。

余力の全てを使い、シャザムはプライムへと投げ込んだ。

 

鼓膜から音を奪うほどの轟音を生み出し、

周囲十キロの人民の鼓膜から

暫し音を奪うほどの電力をプライムは一身に浴びた。

直前に離れたスーパーガールは虚空を氷上を滑る動きで離れ、

雷花の余韻から離れ、力を使い果たしたシャザムは

ビリーへと戻って宙へと落ちていく。

 

その姿では魔法が使えないビリーが狼狽えて悲鳴を上げたところを、

バットネットでクッションを作り出し、

その下で待ち構えたダミアンが受け止めた。

シャザムの力は有限というわけではない。

魔力というものがあるのか、力を使いすぎれば変身が解けて

いつもの16歳の少年に戻ってしまう。

 

「ナイスキャッチ」

 

「冗談は良いからどっかに隠れてろ」

 

彼より遥かに大きいビリーを降ろしてダミアンは辛うじて、

建物としての体裁を残していたビルの屋上に登った。

ビリーが離れたかどうか確認せず、スーパーガールが頬を殴り、

距離数十mを吹き飛んでいった。

 

高さ20m程度では落下地点が確認できないくらいに、

遠い場所に行ったスーパーガールのいる方向を

双眼鏡で手早く確認するダミアン。

そんな少年の背後にプライムが落下速度を殺さずに着地した。

六階建てのビルが揺れた。

 

「さあ、ようやく落ち着いて話せるようになったね」

 

スーパーマンのような笑顔でプライムは言った。

 

「僕はこの世界を正しく清い方向に変えたいんだ。

 きっと君も気に入る。

 初めから目をつけていたんだよ。

 僕と君は同じくこの世界をもっと素晴らしい物に変えたいとね」

 

ダミアンにしてみればまったく噴飯物の話だ。

そもそも目の前のスーパーマンと顔が同じだけの男の目は、

まともな人間が浮かべる色ではなさ過ぎる。

 

だが話だけは聞くことにした。

ダミアンの父も兄たちが何度も教えてきたことだ。

非力な身でもできることはあるし、

それが見つかったならやり続けなければ。

 

「具体的にはどうするんだ?」

 

「君の母や祖父も

 きちんとした人らしい愛情を与えてくれるようになるよ。

 そこは僕に任せて欲しい」

 

やり方を聞いたのに結果を教えてくるとは。

時間を稼ぐ手段が大幅に消去されたがロビンは諦めずに話を続けた。

 

「そうはいうけどな。

 オレにはあんたの言う母さんやお祖父さんがまともになった姿っていうのが

 まるで思いつかないんだよなあ」

 

「うん。それは当然だよね。

 つまるところ君の身内は忍者にバットファミリーだけど、

 どちらも僕の世界にはいないんだ。

 だってそういったことは全部フィクションとして

 コミックでしか読んだことがないしね。

 あまり想像できないかもしれないけど、

 平和と思ってくれればいいよ。

 ヴァニッシングポイントで

 この世界が改変された経緯を正確に掴めたら、

 このスーパーマンの力で何でもできる」

 

「あまり答えになってないけどいいや。

 じゃあ最後に一つ聞きたいんだけどさ」

 

人差し指を立ててダミアンは挑むようにプライムへと最後の質問をした。

 

「お前が望む世界だと父さんやディック

 ……アルフレッド達はここより良いわけか?」

 

「もちろんさ。

 なにせ僕の世界だとゴッサムなんてクソとヘドを混ぜて捏ねて

 じっくりコトコト千年煮込んだような都市はない。

 クソがないならそこからクソなキチガイも生まれようがない。

 単純な話だよね。どうしてかここのボンクラどもは――」

 

「そんなわけねえだろっ!!」

 

煙幕玉をダミアンはプライムの鼻穴に突っ込んだ。

マントを翻して姿勢を低くし、

ダミアンはその場から離れようとする。

プライムに会った時を警戒して唯一持ち出してきたのが

スケアクロウの恐怖ガス。

フラッシュによればこれだけは唯一効いたというものだ。

 

「あいつら以上なんているもんか!

 そもそも忍者がいない世界になったら

 オレが産まれて来すらしないだろ!

 そんくらいちょっとは考えて勧誘しろや!!」

 

プライムの顔面に夥しい脂汗が流れ始め、

全身が小刻みに痙攣していく。

口の端には泡が吹き出し、

ぶつぶつと言葉にならない呟きがこぼれ始めた。

 

「やめろ……来るな……フラッシュ……!

 お願いだから……来ないで……来ないで……!!」

 

敵が無防備になったのを確認し、

ダミアンはグラップネルガンを使ってその場から離脱にとりかかる。

だがプライムの瞳に憎悪の炎が燃え盛り、

ロビンを睨めつけ、歯を食いしばって叫んだ。

 

「これ以上僕を傷つけるな、

 アンチモニター!!」

 

スーパーマンと常人であるロビンの身体能力の差は

愕然とするものがある。

超人と人間、それもクリプトン星人と人間ともなれば、

身体能力の差は像と蟻以上にもなる。

 

スーパーマン・プライムが地面を蹴って

ダミアンへと殴りかかった。

避けられない。コマ送りにもならない知覚の外にて、

あらぬ方を見ていたダミアンの背中をプライムの拳が貫こうとした。

 

「SHAZAM!!」

 

「とぅっ!」

 

魔力が回復したビリーが一撃に全ての魔力を込めた一撃を下方から放ち、

スーパーガールが飛行を最高速度に乗せたままにプライムの出し手を掴んで

逆方向に大きく捻った。

極められたことで下に落ちるプライムの顎をシャザムの雷がまともに捉えて、

プライムの両目がぐるりと回った。

 

意識が掻き乱されての全力攻撃二連にはひとたまりもなかったプライム。

大の字で倒れ、作戦が成功したのを悟ったダミアンはグラップネルガンをしまった。

 

「終わったか」

 

再び少年の姿に戻って肩で息をするビリーと、

傷だらけながらもまだ余力の残ったスーパーガールがダミアンへとハイタッチした。

しぶしぶと乗ったダミアンの手に乾いた音が響き渡り、

ダミアンはこの意識不明のプライムをどうするか考えた。

 

「とりあえず、オレたちの手には負えないから

 ここはそろそろジャスティスリーグに――」

 

そう提案しようとしたダミアンと二人を他所に、

プライムの上空から虹色の光が放射され、

腕で顔を覆うダミアンからうっすらだが金色のガントレットをつけた腕が

プライムを回収するのが見えた気がした。

 

光が収束すると、プライムは消え去っており、

釈然としないダミアンにジェイソンから通信が来た。

 

「なんだ?」

 

『あのスーパーマンのそっくりさんと戦ったらしいな』

 

「本人はプライムと名乗っていたな。

 っていうか、そっくりさんはないだろ」

 

『とにかく。よく生き延びた。

 きっとブルースも誇りに思うことだろう。

 そいつは俺の信頼するアウトローに任せたから後は安心しろ』

 

「……アウトローって?」

 

『へっ、そいつぁお前が知るにはまだハードボイルド過ぎるぜ』

 

「トッド……お前、オレを馬鹿にしてるのか」

 

疲労が全身に重く伸し掛かる中、

頬を引きつらせてダミアンは舌打ちした。

 

『そういえばスーパーガールと一緒にいるんだったな。

 安心しろ、この音声はクリプトン星人には聞こえないようにしている』

 

「シャザムも一緒だ」

 

『デートか』

 

「だからシャザムも一緒だって」

 

『ディックが言ってたぜ。

 おまえ……スーパーガールにほの字らしいな』

 

「だからシャザムも一緒だって言ってるだろ!!」

 

連絡しているダミアンを他所に、

何やら話をしていたビリーとスーパーガールが驚いて振り返ったが、

ダミアンは無視して一段と声を潜めた。

 

「なにが言いたいんだお前は」

 

『いや、ちょうど療養中のアルフレッドに手紙を書いているところでな。

 ティムは今書いている途中で、

 お前は忙しいだろうからデートの感想を言ってくれれば代筆するぞ』

 

「関係ないだろ」

 

『そう言うなよ。アルフレッドはお前をいつも心配しているんだぜ?

 俺は正直クソガキとしか見てないがまあ、これを機会に仲良くしようじゃねえか。

 なんならアウトローがどう女を扱うか教えてやろうか?』

 

「お前、いつそんなことを覚えたの?」

 

言葉尻を逃さずに詰問したダミアンに

ジェイソン・トッドは沈黙を選んだ。

すると通信の向こうからティムの咳払いが聞こえ、

 

『じゃあまずはジェイソンの体験談を書こうか』

 

『おい、俺は――』

 

『アルフレッドが心配してるよ?

 というわけで切るよ、ダミアン。

 よく頑張ったってところかな。

 ゆっくり休んできていいからね』

 

いつものムカつくくらいにスカしたティムが別れを告げて

通信は切られた。

見渡す限りの荒野となった街並みの中、

不思議にもどっと疲れたダミアンは大きく背伸びをした。

 

たしかに、家族には苛つかされることも多いし、

映画を一緒に観るという約束も完全には果たされない。

おまけに世の中は厄介事続きだが。

 

「はーぁ、こりゃ明日の夜まで作業の手伝いだな」

 

遊びは無理かぁと愚痴を吐くビリーへと、

ダミアンは手を差し出した。

 

「遊ぶことはできるぞ。

 ヨーヨーを貸してみろ」

 

突然の要求に眉を上げたが何も聞かずに、

ビリーは魔法で生み出したヨーヨーを渡した。

ダミアンは指に糸を巻きつけると手首にスナップを効かせて振り下ろし、

それから繊細な手つきで芸術を作り出す。

 

「ほら……

 これがストリング・プレイ・スパイダーベイビーってやつだ」

 

「「おぉーーーー」」

 

ビリーとカーラが目を丸くしてぱちぱちと拍手した。

 

 

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