DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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クロス:スーパーマン/仮面ライダー1号:WORLD's HERO

 

青年の足取りは重かった。

長い列車での旅路、

大きなリュックとカートを引きずる彼は、都会に初めて来た

日本の地方育ちな田舎者だった。

 

学者を目指して日夜勉強し、

親に無理を言って学費を出してもらえるように頼み込み。

ようやくメトロポリス大学に合格したが、

正式な入学の日が近づくにつれて心に不安が鎌首をもたげた。

 

「はぁ、デカいなあ、メトロポリスって」

 

メトロポリス・ステーションを出て

辺りを見渡すと、己の小ささを思い知らせるように立ちはだかる高層ビルの数々。

この都市に来る時に、学校の教師が言っていた。

メトロポリスの人々はいつも青空を見上げているのだと。

 

この都市が際立って晴れの日が多いとか、

星がよく見えるとか、珍しい自然現象があるとか、

そういったことではない。

都会ならどこもそうなのだろう。

ビルの隙間から覗く狭い空しかなかった。

 

青年は今から大学に通う間、

世話になるアパートの大家に挨拶しに行かなければならない。

バスかタクシーを利用しようかとも思案したが、

日本の長閑な田舎町出身の彼には、慣れない都会の交通事情に触れるだけで気が滅入り、

道行く人に尋ねようというにも気後れしてしまった。

 

飛行機で海を渡り、

電車に揺らされていた時の高揚感は次第に薄れ、

重たいキャリーバッグに詰め込みすぎて張り裂けそうなリュックを抱えて、

お上りさんな青年はとぼとぼと歩き出す。

 

「えーーっと、まずは駅から東にまっすぐ……って東はどっちだよ」

 

地図を睨みつけてぼやいた青年の背中に、

清々しい声がかかった。

 

「ねえ、そこの君!!」

 

危うく足を止めそうになったが青年は構わず歩き続けた。

こちらが話しかけられていると勘違いすることの愚かさは、

ハイスクール時代に散々痛感してきた。

 

そしてメトロポリスは都会だ。

都会は魔物。ゴッサムシティのニュースを見る度に、

家族が都会への偏見を強めていくくらいだ。

 

「どこに行こうとしているんだい?」

 

同じ声が不思議と前からやって来た。

無視しようと地図にのめり込むように俯いていた顔が反射的に上がり。

 

「なっ――――ええ!?」

 

メトロポリスに来て初めて青年は叫んだ。

目の前にいたのは蒼穹よりも青いスーツに、

太陽よりも燃える真紅のマント。

純朴を絵にした顔立ちに朗らかな笑顔を浮かべた長身の男。

スーパーマンが青年に手を上げていた。

 

「どっ、どどどどどうして!?」

 

「空を飛んでいたら、君が地図を見ているのを目にしてね。

 何か力になれることがあったらと思って」

 

「スーパーマンが俺に!!」

 

「あっはっは、ちょっと落ち着いて。

 ほら深呼吸だ。一緒に両手を上げて大きく伸びて。

 いち……にぃの……ふー」

 

スーパーマンにつられて仰天している最中の青年も深呼吸をした。

気づけば青年とスーパーマンの間に人垣ができ始め、

二人にフラッシュが焚かれていた。

 

「さて、ゆったりできたかな?

 それじゃあ、どこに行こうとしているか教えてもらえるかい?」

 

「えっと……それがメトロポリス荘っていうところなんですけども……」

 

「ああ、あそこか。

 大家のおばさんが良い人だよ。

 いい場所に目をつけたね。少し地図を貸してもらえるかな」

 

地図を指差してアパートへの道のりを説明しようとしたスーパーマンが、

何かを聞き取って眉を上げ、すぐに青年にすまなそうに頭を掻いた。

 

「ごめん! 向こうで火事が起こったみたいだ。

 すぐに戻ってくるから、少しだけ待ってて!」

 

青年の返事を聞くよりも速くスーパーマンはつむじ風を起こして、

視界から消えていった。

残された青年が所在なく突っ立っていると、

スーパーマンを目にしようと集まってきた人達が、

徐々に徐々にと道に迷った青年へと近づいてくる。

 

「どこへ行くって、兄ちゃん?」

 

「あっ、このメトロポリス荘ってところなんですけど」

 

「知ってるか?」

 

「そっちは全然知らなくてなあ。

 ところで、どこの国から来たんだい? 中国?」

 

「あっ、日本からです。

 それで住むことになるアパートに向かうところなんですが……

  道がよくわからなくて」

 

「ボク、そっちに家があるよ!

 案内してあげる!!」

 

「アタシも一緒に行こうかな。

 ちょうどその辺に住んでる友達に会いに行くところだから」

 

8歳くらいの男の子と、

青年と同い年くらいの女の子が道案内を名乗り出てくれ、

安心したお上りさんがいなくなってようやくスーパーマンが帰ってきた。

 

「待ったかな!? さあ、頑張って道案内するぞ!!」

 

煤を顔にかぶってでも大急ぎで戻ってきた鋼鉄の男だったが、

真っ昼間のメトロポリス・ステーションには既に道に迷った学生の姿はなく、

首を傾げて辺りを見渡したスーパーマンを見かねて、

近くのカフェから店員が顔を出してきた。

 

「もう解決しましたよ」

 

########

 

メトロポリスにも悪はいる。

光あるからこそ闇があるとはいうが、

太陽の光明を持つ男がいれば、

悪もいっそう強大で狡猾になるのも自明の理。

 

鋼の体、鋼鉄の四肢を振り回し、

対スーパーマンに特化したメタロが咆哮をあげた。

逃げ惑う人々、破壊される建物の数々。

 

飛び交う悲鳴をメタロは心地よさそうに聞いていた。

その間にも近くにあった車を踏み潰すのを忘れはしない。

 

「さあ! メトロポリス警察!!

 俺にクリプトナイトを持って来い!

 そうすれば破壊をやめてやろう!」

 

粉砕と歩行を同時に行っていたメタロの前に、

松葉杖をついた眼鏡の子供が逃げ遅れ、倒れていた。

 

「はあぁ……さあ恐れろ小僧!!

 このメタロ様がその心の臓を潰してやろう!」

 

「離して!! うちの子が!」

 

「よせ! 行ったら巻き添えになる!

 ここは彼を信じるんだ!」

 

母親らしき女性が逃げようとする民衆の流れに逆らって、

我が子の方へ向かおうともがいていた。

土埃をかぶって汚れた腕で子供の首を鷲掴みにし、

宙へと持ち上げた。

 

地面に足が届かない少年が必死に逃げようとするが、

人間の力ではまずびくともしない拘束に捕らえられていた。

 

「泣き喚け。そうした方が頑固なメトロポリス市警の腰も上がる!」

 

眦に涙を浮かべて苦しさに少年が顔をしかめていた。

 

「ぜ、絶対に泣かないぞ……」

 

「馬鹿な小僧だ!!」

 

次の獲物を探すことにしたメタロは少年への興味をなくし、

彼を殺そうと腕を振りかぶった。

 

「馬鹿ではないよ」

 

しかし、空からの声がメタロの動きを止めた。

憎悪に肩を怒らせた鋼の男が双眸を爛々と輝かせて上空を見上げる。

青に赤色をかぶった弾丸よりも速い巨躯がメタロの腕を捻り、

解放された少年を優しく受け止めた。

 

「勇敢っていうのさ」

 

メタロが現れたスーパーマンへと狙いを定めて突進してきた。

 

「よく捕まってくれよ!」

 

しがみつく少年に伝えるとスーパーマンは体当たりを横に躱し、

側面から鋼鉄のパンチを繰り出した。

轟音をたてて半壊した建物にメタロが激突した。

 

その間にスーパーマンは超高速で彼の母親の前に移動して、

拾っておいた松葉杖と一緒に手渡した。

 

「お子さんは無事ですよ。

 とても強い子ですから褒めてあげてください」

 

「ありがとうございます!

 ……本当になんとお礼を言ったらいいか……!」

 

無事な子供を抱きしめて母親が涙を流しつつ何度も頭を下げ、

スーパーマンがやんわりと彼女の肩に手を置いた。

 

「顔を上げてください。

 君、名前は?」

 

「ニックだよ!」

 

「そうか、ニック。

 君の好物は?」

 

「オムライス!」

 

「よし! それじゃあお母さん、

 お家に帰ったらニックにオムライスを作ってください。

 それで十分ですから」

 

ようやく彼女が顔を上げた時にメタロが再起動した。

その全身たるや殺気が漲り、胸部からは動力源、

心臓にあたるクリプトナイトが露出する。

顔の皮がまるで果物の皮みたいにずるりと剥けて、

下からは機械仕掛けの骸骨が見えた。

 

「ようやく出てきたな。スーパーマン!!」

 

ゆっくりと浮かんで移動してきたスーパーマンがメタロの前に降り立った。

 

「どうしてこんなことをする」

 

「俺が生きていくためだ!

 この体は金がかかってなあ!!」

 

呵々大笑して攻撃を仕掛けてきたメタロを、

スーパーマンは両手で受け止めると冷然と睨みつけた。

 

「ならS.T.A.R.ラボに身を寄せればいい。

 もちろん研究データなどを提供する必要はあるが、

 誰かを傷つける必要はなくなる」

 

「知るか!! 俺はこれがやりたいんだよお!」

 

メタロが近くのマンホールを蹴り上げ、

サッカーボールの要領でスーパーマンに蹴り飛ばす。

顎を打たれたスーパーマンがのけぞり、

彼の胴体をメタロが掴み、締め付けんとした。

 

それを逆に押し返したスーパーマンが倒れていた道路の標識を掴むと、

四番バッターがそうするようにフルスイングでメタロを打つ。

 

メタロは元来、急襲や不意打ちに向いたヴィランだ。

クリプトナイトの毒性に影響を受けない体は厄介だが、

これまで何度もクリプトナイトを使われてきたスーパーマンは対処法も編み出し済み。

 

敵が殴ってくるのを避けたスーパーマンは民衆に被害がいかないよう、

細心の注意を払って位置取りをする。

鋼の体から銃火器が展開され、

極大のRPG-7めいた形状のものからミサイルが発射されていく。

 

ただの銃火器ならスーパーマンの体には傷一つつかないが、

相手はメタロだ。どんな手段を使ってくるかわからない。

近くにあったタクシーを持ち上げて投擲し、ミサイルにぶつけ。

残りのミサイルは飛んで行くスーパーマンを追尾してくる。

 

ビルの谷間を飛び回り、ミサイルを誘導して

互いにぶつかるように軌道を整えると、

爆発する前に空高くへと浮かび上がった。

 

「厄介だな」

 

渋面を作ったスーパーマンの下には、

クリプトナイトの粉末がチャフ状に散布されている。

地上にはもう降りる場所がなくなっていき、

スーパーマンのマントに極小のクリプトナイト弾丸による穴が空いた。

 

大から小への攻撃。

超視力を以ってしても反応には骨が折れる。

加工が困難なクリプトナイトを利用した武装。

前に倒した時はここまでの技術を用いられていなかった。

 

誰かが更なる改造をメタロに施したということか。

 

「ふーーーーーーっ!!

 さしものスーパーマンも手出しできまい」

 

クリプトナイトの弾丸を乱射し続けているメタロは、

左掌から拳銃を構成して握りしめた。

狙いは遠巻きに見ていたメトロポリス市民。

 

「大口開けて見ているがいい!」

 

メタロが引き金を引くより速く、

スーパーマンは解決策を見出した。

 

「そうはさせないぞ!

 僕の口は大きく開いたら冷たい息が出るのさ!」

 

スーパーマンがいるのは空中。

そして空中には雲がある。

雲とは水分を含んだものだ。

大きく息を吸ってコールドブレスを吹きかけると、

雲がたちまち凍って下へと落ちていく。

 

その面積たるやビル一つぶんは軽く、

厚みもかなりのものがあった。

 

氷雲を掴んで空中へとスピードを上げて落下していき、

メタロへと氷雲が落下速度に弾丸以上の速さで落ちてきた。

 

「おのれぇっ!!」

 

悪態をつくメタロが両腕で必死に氷を押し戻そうとするが、

それよりも速くスーパーマンが氷雲に連打を仕掛け、

鋼鉄の機械にかかる重量が増していく。

 

「諦めろ、メタロ!

 もうお前の負けだ!!」

 

「知るか! 貴様を殺すまでは終われん!」

 

「どうしてそこまでする!?」

 

メタロが踏ん張っている足場が砕けていき、

下半身が埋まろうとしていても、ヴィランの抵抗はやまない。

 

「理由を聞くか……

 この鋼鉄の体にクリプトナイトの心臓!

 貴様を殺す以外に何をしろと言う!?」

 

メタロの叫びにスーパーマンは言葉を失った。

それに返す答えが浮かび上がらず、

鋼鉄の男と呼ばれるヒーローの心に曇りが生じた。

 

しかし、スーパーマンは攻撃の手を緩めることはしない。

渾身の一撃で氷塊の雲をメタロへと叩き潰す。

クリプトナイト粉塵が届かない高さ、

氷の山にて佇むメトロポリスのヒーロー。

 

助かった人達が歓声を上げる中、

スーパーマンは釈然とした気持ちで自分の両手を見下ろした。

 

########

 

宇宙空間から地球を見渡すウォッチタワー。

世界中で起きている異変を察知し、

場合によってはヒーローが出動するための場所であり、

時には宇宙からやってくる侵略者達への防衛戦にもなった。

 

通路を進むのは世界最高のヒーローと誉れ高い

ワールズ・ファイネスト。

世界最高のヒーロー、スーパーマンと、

世界最高の探偵、バットマンだ。

 

「それで僕はこう感じたんだ。

 もしかしてあそこでなにかを言うことができたら、

 メタロは別の道を歩むことができたんじゃないかなと」

 

「相変わらず君は甘すぎる」

 

うんざりしたと言わんばかりに、

バットマンは声を低くした。

呆れているのだろうが、彼の多くの行動はまさに恫喝めいている。

 

「そうなのかな。君にはそう映るのだろうけど、

 やっぱりヴィランの更生というのも大事だろう?」

 

「違う。私達がすべきは市民の安全を守り、

 この世が正しき道を進むに足ると示すことだ。

 だのに君ときたら、あろうことか

 その市民を脅かすヴィランのことを考えて気落ちする始末。

 超人様は余裕があって羨ましいが、少しは危機感を持って限界を認識しろ。

 ヴィランのことに心を乱されて迷いが出ては世界の危機だ」

 

「いつも手厳しいなあ」

 

くどくどと説教をされて気落ちしたスーパーマンへと、

曲がり角からジャスティス・リーグの一員が来るのが見えた。

バットマンは一段と声のトーンを落として忠告してくる。

 

「少なくとも今の私たちは体内に毒を飼っている状況だ。

 へたに弱味を見せるような真似は慎むことだ」

 

「わかっているよ……」

 

「よぉ、お二人さん!

 こいつは凄いぜ、ワールズ・ファイネストがいやがる!」

 

「やあ、コールド」

 

セントラルシティの凶悪ヴィラン、キャプテンコールド。

フラッシュの不倶戴天の敵にして今は

ジャスティス・リーグの一員となった男がはしゃいでいる。

 

「いやあ、良いな! なんつうか……絵になるぜ!

 こういう光景が間近で見られるのも

 ジャスティス・リーグに加入した特典ってことか! ヒュウッ!

 ますますフラッシュの野郎がむかつくぜ!!」

 

キャプテンコールドの様子にスーパーマンは笑みをかみ殺した。

 

「なぜ笑っている?」

 

「この前、会った留学生を思い出して」

 

小声で会話している二人を他所にコールドは、

いそいそとデジカメを取り出した。

 

「悪いんだが、ちょっと写真を撮らせてもらっていいかな!?

 故郷の友達に見せたら喜ぶからよ!」

 

「かまわないよ」

 

「サンキュー! なんて気前がいいんだ!

 あの野郎もつくづくナイスガイと同じチームにいやがるな!」

 

「呼んだかい?」

 

一瞬で走ってきたフラッシュがコールドの後ろに立った。

ゴーグルをかけて表情が見えない冷気の男だが、

口元だけで満面の笑みになったのが見える。

 

笑いというのは元来、攻撃的なものだというのを本で読んだが、

コールドを見ているとあながち嘘ではないのかもしれない。

 

「おう、スリーショットを撮ってくれるか?

 俺を中央にしてスーパーマンとバットマンを両隣、みたいにして」

 

「いいよー」

 

デジカメを受け取ったフラッシュが、

ファインダーに三人を入れてベストショットを探す。

コールドは一転してクールな表情をキメ、

スーパーマンは笑顔を浮かべている。

バットマンは興味なさげにあらぬ方角を見ていた。

 

「ご希望のアングルは?

 こっちで決めていいかな」

 

「てめえの美的センスなんか信用できるか!

 真正面からにしてくれ!」

 

「はいはい」

 

コールドからの口汚い注文を受け流してフラッシュはシャッターを数回押した。

撮影が終わり、フラッシュがコールドにカメラを渡した。

 

「ちゃんと撮ったから後で確認して。

 そういえばシャザムとランタンがゲームをしようって言ってたよ」

 

「いいねえ。俺のダーティプレイに挑もうとは百年早いぜ。

 おまえもたまにはやってみないか?」

 

「僕はいいよ。君達と違って僕は野球派だし」

 

「なんだよ、バスケも面白いだろ。

 いつかローグスがてめえにバスケを挑むかもしれねえぜ」

 

「バスケのコートがある銀行があったら教えてよ」

 

フラッシュがクリムゾンの残像を残して去ってから、

コールドは二人に礼を残してデジカメを手に、フラッシュと同じ方へ歩いて行く。

それを見送ったスーパーマンがバットマンに話を振った。

 

「彼もだいぶ馴染んできたね」

 

「しょせんはヴィランだ」

 

「でもルーサーやジョーカーとは違うよ。

 率直で親しみが持てる人じゃないか」

 

「興味がない」

 

無関心なバットマンが冷淡に切り捨て。

 

「なんだこりゃ! クソッ、フラッシュの糞野郎!

 俺の頭にピースサインなんて生やしやがってぶっ殺してやるぜ!」

 

遠くから聞こえてきたコールドの怒鳴り声を他所に、

スーパーマンとバットマンは別れた。

一人になったクラークは引き締めた表情で薄暗い一室へと入った。

 

「メタロに会った」

 

そこは研究室。

ジャスティス・リーグが敢えて泳がせるために加入を許可した

マン・オブ・スティールの仇敵、レックス・ルーサーのラボ。

 

「そうか」

 

データを纏めている禿頭の天才科学者は無情にもそれだけを告げた。

 

「お前が奴を改造したんだ。

 どうにかしてやりたいとは思わないのか?

 改造人間としての可能性を提示してやったりと、あるだろう」

 

「興味ないな。私は君と違って忙しいのだよ」

 

「貴様…………!!」

 

背後でスーパーマンが憤りに唇を噛み締めたのを察すると、

ルーサーはようやく振り返った。

無表情だが冷酷無比たる科学者の瞳には、

宿敵が苦悩しているのを間近で見物していることからの喜びがあるような気がする。

 

「聞こえなかったかな。

 私は、忙しいんだ、君と違ってね。

 今はナノマシン・ドローンの開発をしている。

 象も殺せる電撃を放つ逸品だ。治安維持に役立つだろう」

 

「メタロはお前のくだらない忙しさの犠牲者だぞ!」

 

怒鳴ったスーパーマンとは対照的に、

ルーサーは一貫して冷静さを維持しており、

近くのホワイトボードに大きく20hと書いた。

 

「一日に21時間。これがなんの数字かわかるか?」

 

「外資系ビジネスマンの活動時間か」

 

「違う。このレックス・ルーサーが

 “スーパーマンを倒す方法”の考案に費やす時だ」

 

「この狂人め。お前のエゴは常軌を逸している」

 

額に皺を寄せてスーパーマンが吐き捨てた。

そんな彼にレックス・ルーサーは眉尻を下げて肩を竦める。

 

「勘違いされるとは悲しいな。

 私はもうそのようなことは考えていない。

 それに、君達が苦境に陥った際には、

 日々の思案と研究が役にも立ったではないか」

 

「そんなことで誤魔化されると――」

 

「事実だろう。まったく鋼鉄の男は頭も鋼鉄か。

 話がそれだけならもう出て行ってくれないだろうか。

 私は君達とは違って罪なき人々のために今も研究しているのだよ。

 狂ったヴィランなど知った事か」

 

もう話をする気がないルーサーがスーパーマンに背を向けて、

なにやらデータを打ち込み始めた。

事実、彼が関与したウォッチタワーのあれこれの施設は

以前とは比較にならない進歩を遂げている。

 

当然、バットマンがある程度の手を加えて、

ルーサーが完全には掌握できないようにしているが、

あまりの完成度に隙を見つけることに手を焼いているほどだ。

 

ルーサーの部屋から出ようとしたスーパーマンへと、

悪意に満ちた言葉が浴びせられた。

 

「私に論破された世界最高のヒーローのために教えると、

 メタロの改造にはショッカーが関わっている。

 残念ながら私の手は塞がっているために協力はできないが、

 くれぐれも用心することだ」

 

唇を引き結んでスーパーマンはルーサーの部屋を後にした。

頭痛を覚えて額に手をやった。

レックス・ルーサーのエゴと傲慢さは相手をするだけで精神を消耗する。

 

彼が人間や世界の向上を夢見ていることには疑う余地もないが、

何故ああも企みや謀略という粘着く言葉が似合うのだろう。

あれが無ければ友人同士にもなれたはずだというのに。

 

ヴィランに改心や良心を望みすぎるのもブルースが言うように甘いのかもしれない。

思考の渦から抜けだしてスーパーマンが足を踏み出そうとすると、

キャプテンコールドがまたも向こうから手を振ってやってきた。

 

「よお、スーパーマン!

 フラッシュのクソッタレが何やらヤバイことが起きたって言ってるぜ!

 これはいっちょアメーゾ・ウィルスの時みたいに

 俺達の連携を見せる時じゃねえか!?」

 

ワクワクしているのを隠しもしないコールドに目を細めて、

スーパーマンは吹っ切れたように破顔した。

 

「よし! 僕達の氷を見せてやろうじゃないか!」

 

首を傾げるコールドへと首を振って背中を叩く。

スーパーマンはコールドと一緒に管制室へと向かい。

二人がいなくなった後で、ずっと話を聞いていたバットマンが逆さまにぶら下がった。

 

「私だ。バットマンだ。

 未詳から話は聞いているか?

 メトロポリスにショッカーの魔の手が忍び寄ったらしい。

 スーパーマンに力を貸してやってはくれないか。

 そうだ……よろしく頼む、仮面ライダー」

 

########

 

デイリープラネット。

メトロポリスで最も権威のある新聞社だ。

かつては理想に燃えるジャーナリスト達を薄給でこき使う新聞社だったが、

今では経営も上向きになり、理想に燃えるジャーナリストを

なかなかの給料で酷使する熱血新聞社に成長した。

 

その急成長の立役者でもある

ピューリッツァー賞受賞歴のある女傑、ロイス・レーンが、

渋面を作ってペリー・ホワイト編集長のデスクの前で記事を読んでいた。

 

「どうだ? お前さんのお眼鏡にも叶ったか?」

 

「ダメよ、こんなの。

 日本の冒険家……五代雄介。

 クラークと親しいそうだけど、内容があまりに平凡すぎ。

 あの農村のイチオシでも内容が秘境に行って

 子供達と遊びましただの探検しましただのっていうのは、

 読者のニーズに応えていないわ。

 どうして秘境に行ってわざわざ子守りをするのよ」

 

「まるでクラーク・ケントの記事みたいだってか」

 

「田舎者は田舎者を呼ぶってことかしら。

 もうちょっと洗練された都会のセンスを学んでほしいものね」

 

「相変わらずうちのエースはスモールヴィルに厳しい」

 

濃厚なブラックコーヒーを口にしてペリーは唸った。

決して記事を採用しないとは言わない編集長に、ロイスは手を腰に置いて溜め息を付いた。

 

「採用する理由を聞いてもいいかしら?」

 

「おう、それよ。まあ確かにお前の書くような記事は読者の求めるものだ。

 毒も皮肉もあり、鋭い観察眼と考察が籠ってる。

 賞もとるだろうものだ。高尚で、ビジネスマンも政治家も読む。

 だが悪く言えばお高く止まっている。

 この点、五代雄介の売り込んだ記事やクラークの普段書くものは違う。

 ジジイからガキまで読める物だ。こういう誰の立場にも語れる才能も重要だぜ」

 

「うちはいつから学級新聞を売るように?」

 

「そう言うなよ。

 一面を飾りはしねえが、置いておいて損はないってことだ。

 お前もちょっとは見習って良いんじゃねえか?」

 

「私には必要ないわね」

 

鼻を鳴らして部屋から出て行くロイスと入れ違いに、

クラークがジミーと一緒に入ってきた。

 

「やあ、ロイス!」

 

「相変わらずとぼけた顔ね。

 少しは大都会の荒波に揉まれてほしいものだわ」

 

「あらぁ、ご機嫌斜め」

 

怯えるジミーを他所にクラークは懲りずに彼女の背中へと呼びかけた。

 

「ねえロイス! 時間が空いたらラーメン屋に行ってみないかい!?

 美味しいカレーラーメンを出す店を知ってるんだ」

 

「嫌よ、汁が服につくじゃない」

 

「ふふん、

 そう言うと思って前掛けを二人分用意していたのさ」

 

「そういうことを言っているんじゃないの!」

 

プンプンと怒るロイスの背中を見送り、

クラークはしゅんとなって項垂れた。

 

「まあまあ、僕が付き合うよ」

 

「いつも間が悪いな」

 

苦笑したペリーが生ぬるいコーヒーを飲み干した。

立ち直ったクラークがデスクの上に置かれた旧友の記事を手にして、

期待を寄せた眼差しで編集長を凝視した。

 

「それで編集長。

 雄介の記事はどうでしょう?

 ここだけの話ですが僕的には専属契約を結んでもいいんじゃないかなと。

 決して友人だからというわけじゃなしに。

 彼の文も写真もすごく暖かくていいと思うんですよ」

 

「専属契約するかは未定だが、次も載せるつもりだ」

 

「やった!! さっそく僕から彼に連絡しますね。

 言っておきますけど、きちんと仕事として接しますから」

 

クラークが自分のことのように喜んで、

iPhoneを片手に編集長室を後にした。

さっそく五代に電話をかける前にメールが届き、

知らないアドレスから来たことに訝しんだが、

内容を読むとすぐに人気のない場所から空へと飛び立った。

 

風を切って青空の中、飛んだスーパーマンが行き着いたのは人気のない場所。

コーストシティは未だ復興をしても人がいない地域は多く、

ゴッサムシティは常にどこかで事件が起きているために、

大事件が起きて放置された建設中の建物や施設が多い。

だがメトロポリスでこういった場所は珍しい。

 

廃工場めいた施設の前に降りると、

そこには伝説的な男が腕組みをして立っていた。

仮面ライダー1号、本郷猛。

日本の伝説であった。

 

眉は太く、足は長く、泰然とした出で立ちは

異星で見た樹齢5億年の巨木を想起する。

本郷猛、重ね重ね伝説的であった。

 

おそらくはメタロのことで悩んでいたからだろう、

バットマンが彼の力を借りようと連絡をしてくれたのだ。

彼の友情に応えるためにも無礼があってはいけない。

 

こちらから第一声を発しようとしたスーパーマンを、

本郷猛はぴんと伸ばした人差し指で指し、

開いた口から壮絶なバリトンボイスを奏でた。

 

「Are You Justice?」

 

スーパーマンは絶句した。

世界最高のヒーローと呼ばれる彼はこれまでたくさんのヒーローと出会い。

それは異国のヒーローも含めてだ。

政府直属であったりヴィジランテだったりスーパーヒーローだったりと

その有り様は様々だったが、万一のことがないように

クラークは徹夜で初対面で何を話すかの原稿も書いたのだ。

 

しかし、そんなちょこざいな気遣いを貫通したのは

「Are You Justice」の一言。

こちらの葛藤を見透かす仮面ライダー1号の思慮深さに、

鋼鉄の男は自らの短慮を痛感した。

 

「僕が正義かはわかりませんが。

 正しい道を歩もうとする人達の力になろうと日々、考えています」

 

「うむ」

 

返答が正解だったのか不正解だったのかわからないが、

本郷猛は大きく深く頷くだけでそれ以上は追求しなかった。

 

本郷猛と一文字隼人といえば数十年前に日本のワールズ・ファイネストとして

世界中の悪しき秘密結社と激闘を繰り広げた者達だ。

いわば正義の生き字引を体現しているような人物であり、

その頷きには確かにそれだと理解させるだけの器の大きさがあった。

 

「俺に聞きたいことがあるそうだな」

 

「はい。ええと……なんとお呼びすればいいでしょうか?

 貴方は正体(シークレットアイデンティティ)を隠していないと聞いていますが」

 

「好きに呼ぶといい。

 正義を目指す者達に階級はいらん。

 敬語などもやめてもらえるとありがたい」

 

「ありがとうございます。

 それじゃあ、本郷。この前、メタロと戦ったんだけれど、

 僕は考えてしまうんだ。

 鋼鉄の体にクリプトナイトの心臓を持つ彼は

 スーパーマンを倒すため以外にどう生きればわからないと言ったけれど、

 そこで僕は……そうかもしれないと思ってしまって」

 

「お前はそこで戦うのを躊躇ったか?」

 

「いいえ。奴は罪のない人々を傷つけようとしていたから。

 ……ほとんど反射的な行動だった」

 

「なるほど」

 

腕を組み直して本郷は目を閉じた。

恐らくは深い思考を働かせているのだろう。

 

「お前は雄介と親しいそうだが」

 

「はい! 彼はすごく良い人だ!」

 

「ならばこの刀で俺を斬ってみろ」

 

「ええ!?」

 

本郷が懐から取り出した一振りの刀。

有無を言わさぬ調子で受け取らされたクラークは、

予想外の出来事に目を丸くした。

 

「お前は俺に聞けば答えがわかると思ったかもしれないが、

 俺達は常に改造人間と戦えば殺害することがほとんど。

 理由は奴らにはすでに人としての意識が残っていないからだが、

 とにかく、そんな男からの言葉がお前に響くとは思えん」

 

「そんなことありませんよ!?」

 

「我らの正義感の前には問答など無用! 斬りかかってこい!

 お前に答えを示してやろう!」

 

叫ぶやいなや本郷は両腕で大きく弧を描いてから、

全身機械昆虫の怪人めいた姿に変身した。

ハイメのブルービートルを思い出すが、

それよりも機械の造形が色濃い。

 

「斬らねばお前が斬られることになる」

 

スーパーマンは根本的に暴力や戦いを好む性格ではない。

刀を抜き放ち、構えをとっても、

なんの因果もない相手に振り下ろすには躊躇いがあった。

 

「刃こぼれなら心配はいらない。

 今手にしているのはブラジリアン剣術の剣豪も愛用した

 魔剣ムラサマの精巧な贋作。贋作といえど斬れ味は確かだ」

 

躊躇っている間にも仮面ライダー1号の闘気は膨れ上がっている。

額から嫌な汗がふき出しているスーパーマンの刀の握りが、ここにいたってようやく確かになった。

仮面ライダーの手が手刀の形をとって突きを出し、

一拍遅れてスーパーマンが真っ直ぐに刀を振り下ろした。

 

         HELP!

 

スーパーマンの肩を手刀が斬り裂き、

薄皮一枚が裂け、仮面ライダーは無傷。

互いに聞こえた声に瞬時に反応。

だがスーパーマンは完全に力が入った斬撃を無理やり崩してまで、

声が聞こえた方へと飛んでいった。

 

仮面ライダーには目もくれずに。

残された本郷猛は予想外の出来事とはいえ、

スーパーマンの行動に完全な満足をもって頷いて愛車に跨った。

 

「それが俺とお前の答えだ」

 

######

 

メタロの背中には超巨大なバズーカが搭載されていた。

打ち出す砲撃は強力無比で、一発一発が普段のメタロの数倍の威力を持っている。

悲鳴を上げて逃げまわる民衆に高笑いをして、

今やメタロバズーカとなったメタロはメトロポリスを蹂躙していた。

 

「さあ、どこだスーパーマン!!

 このメタロ様がメトロポリスを貴様の墓標にしてやろう!」

 

「そこまでだ!」

 

転倒しているトラックを飛び台にして、

愛車のバイクに跨った仮面ライダー1号がメタロに突撃した。

アスファルトに深い轍の悲鳴が湧き、

メタロは数百mも後退するが倒れはしない。

 

「ショッカーから聞いたぞ、仮面ライダー1号!

 己の製造目的に背く愚か者がぁ!!」

 

「悪を選んだのはお前の弱さ」

 

サドルに倒立し新体操の選手もかくやという身のこなしで、

一号はメタロの頭を蹴り飛ばした。

着地した一号は周囲を見渡し、慎重にメタロの反撃に備えている。

 

「カメバズーカの武装を手に入れたか。

 だが俺の魂を焼き砕けはしまい!」

 

「改造人間が物理法則に逆らうかぁ!

 圧倒的破壊力の前に死ねぇぃ!」

 

四つん這いになったメタロの背にある砲口が一号に照準を合わせた。

素早く駆け出し、照準をぶらせたメタロの砲撃が雷の轟音を生み出して、

頭上遥か上のビルに直撃する。

 

着地した一号は密着しメタロを全力で投げ飛ばした。

高くを飛ぶメタロを追跡し、

一般市民の気配がない場所に落ちてくるメタロの顎を下から打ちぬいた。

そこから首相撲で膝蹴りを何度もねじ込む。

二つ折りになり、衝撃で開いた胸部からクリプトナイトを引き抜こうとした本郷を、

メタロのフックパンチが襲う。

 

ダメージにひとたまりもなく、ビルを突き抜け、

オフィスを通り過ぎ、置かれてある高価なコピー機を粉々にし、

本郷は通りを一つ挟んだ広場に着地した。

 

「グワアアアッ!」

 

メタロの絶叫が聞こえてくる。

カウンター気味にクリプトナイトへ攻撃を加えたのが功を奏したか。

バズーカをつけ、ショッカーによる改造手術で改良されたメタロは強い。

だが軽量化までは行っておらず、動きの遅さがある。

 

多少は時間を稼げたはずだ。

そしてこちらへ向けてくる殺気が強くなっている。

 

周囲からは悲鳴があがり、

巻き込まれまいと散り散りになる民衆の中、

すぐに戦いに戻ろうとした本郷は泣き声を聞き取った。

 

「大丈夫か」

 

「ひっ!」

 

メトロポリス警官が助け出そうと奮闘している

ひっくり返った車から出られない日本人らしき青年がいた。

しゃがみ込んで声をかけてきた仮面ライダー1号に瞠目した。

 

「か、仮面ライダー1号!? 実在したの!?」

 

「安心しろ、ショッカーの偽物ではない。

 スーパーマンはどこにいる?」

 

「あっ、あそこで黒い奴らに襲われていた!

 助けてやってくれ! 彼は良い人なんだ!」

 

「無論だ。協力感謝する」

 

時間が惜しかった一号は火花等を無視して、

無理やりひしゃげた車の窓を広げ、素早く救出した。

爆発が起こったが身を挺して庇って警察と要救助者を守る。

 

「市民の避難を頼む」

 

目を白黒させる警察官にそう頼み、青年を任せた。

避難誘導される青年は大声で仮面ライダー1号に言伝を頼んだ。

 

「スーパーマンに会ったら伝えて欲しい!

 道案内ありがとう、メトロポリスは良い街だ!」

 

「必ず伝えておく」

 

避難と救助が行われている中、

スーパーマンを見たと指し示された方角に目を向ける。

そちらから数十はあろうショッカーの戦闘員をぶら下げたスーパーマンが、

必死の形相で駆けついてきた。

 

「一般市民の避難は!」

 

「メタロに超大バズーカがとりつけられているが、

 人気のないダウンタウンに投げ飛ばした。

 余裕を持てというわけではないが、今は奴を倒そう」

 

一号とスーパーマンへ強大なエネルギーが向けられたのを、

二人は本能で察知した。

恐らくはこちらへと高破壊力の砲撃をしようというのだ。

危険な状況である。周囲にはまだ民間人と警官や消防隊がいるのだ。

 

仮面ライダー1号がスーパーマンの前に立ち、

大きく足幅を取り重心を落とした。

砲撃を真っ向から防ぐ心構え。

スーパーマンは彼の後ろに立ち、衝撃に備えた。

 

「来るぞ!」

 

無人のテナントが爆発し、

炎の中から砲弾が迫ってきた。

圧倒的な速度と重量、噴進する一撃が本郷に迫る。

 

まともに喰らえば一発でも致命傷だろう。

後ろのスーパーマンとてどうなるかわからない。

ならばどうするか。仮面ライダー1号が培った

武術の素養が接近した砲弾を白刃取りの要領で両手で挟んだ。

 

白熱した手のひらから夥しい煙が湧き上がるが、

幸いにも仮面ライダー1号はまだ大丈夫だ。

だが次も、その次もバズーカが連射されていく。

 

受け止めてはスイカ大の玉を捨て、

また受け止めては捨てるを繰り返す仮面ライダー1号の絶技に、

さしものスーパーマンも後ろで目を剥かざるをえない。

 

だが超稼働によって仮面ライダー1号の体からは異常な熱量が放たれている。

すでにちょっとしたマグマほどの温度になり、地面を溶かし、

スーパーマンの肌を焼き始めた。

 

「後を頼みます!」

 

「うむ」

 

連射が途切れた合間を狙い、スーパーマンは天高く飛び、

射角を計算し、X-RAYビジョンで煙の中を見透かした。

そして瞳からヒートビジョンを放ち、

メタロバズーカの背を焼いた。

 

すでに体も砲身も耐久度を超えるほどに

熱くなっていたバズーカは呆気なく破壊され、

背中の爆発に甲羅を持っていないメタロが大きく破壊された。

 

元来、甲羅の亀というのは凄まじい硬度を持っている。

日本には河童の川流れという諺がある。

これは泳ぎが得意な河童も時には溺れるという意味だが、

注目すべきはそのありえぬ事態の原因だ。

 

河童というのは近年の調べによると、

超古代に栄えたアトランティス大陸の民が日本に流れ着き、

独自の進化を遂げた末裔達と言われている。

 

夏は暑く、冬は寒い日本の四季。

季節によってバリエーションが違う

妖怪や忍者といった外敵から身を守るために、

アトランティス人はまだ残っていた超科学を用いて

亀の甲羅を自らにつけたのだ。

 

本来はそれほど亀の甲羅とは強力な盾。

河童の水難事故の主要な原因となろうとも捨てられないもの。

 

それを無しにバズーカだけを背負ったメタロは、

度重なる酷使によって早くも限界を迎えていたのだ。

背中が無残にも溶けたメタロを逃さずに、

スーパーマンと仮面ライダーは同時に疾走した。

 

「クソォッ! おのれ、スーパーマン!!

 貴様さえ、死ねば!」

 

怒りに身を任せたメタロがバズーカを持ち上げて無理やり発射する。

スーパーマンの腹部へとまともに直撃し、

視界が明滅した彼へとメタロは更に打ち出そうとするのを、

仮面ライダー1号が砲身を蹴りあげて逸らす。

 

覚醒したスーパーマンは一号が上へと蹴った砲身にしがみついた。

 

「ええい、離れろ!」

 

スーパーマンを引き剥がし、

二人を斜線上に載せたメタロがもろともに消し飛ぼうと試みた。

だが仮面ライダー1号が砲弾の出口へと

大きく拳を振り上げて飛び上がった。

 

「愚か者め! さすがの貴様でも砲撃に勝てるかあぁ!」

 

「俺のパンチに合わせろ!」

 

一号が叫ぶより早くに、

スーパーマンは口から絶対零度の息吹を吹き付けて

弾の行き場を塞ぎ。

 

仮面ライダー1号の強力なストレートがバズーカを打ち、

行き場を氷で塞がれた発射前の弾丸が超高熱を放ち、

スーパーマンと仮面ライダー1号、両方のパンチが

バズーカをついに砕いた。

 

言葉にならない叫びをあげたメタロがめげずに襲いかかる。

頬を殴られたスーパーマンが大きくよろけ、

仮面ライダー1号が突きをメタロに食らわせた。

 

「なぜ、俺の邪魔をする!

 貴様を殺せば、このクリプトナイトの心臓すら意義を証明できる!」

 

「君が誰かを傷つけるからだ!!」

 

スーパーマンが叫びと圧倒的な威力の突きをメタロに出した。

たまらず宙に浮かんだメタロを仮面ライダー1号が追い打ちで上に突き上げた。

すると壊れた腹部から見慣れないものが見える。

 

「まさか奴にまであれを仕掛けていたとは。

 ショッカーめ。己の基地がどうなっても構わないというのか!!」

 

「もしやあれは…………核爆弾!?」

 

「うむ、カメバズーカにも同じものがあった。

 これまで転用していたとは、

 ショッカーの念の入れようにも恐れ入るというものだ」

 

戦闘で発生した熱量がメタロに取り付けられていた

自爆型核爆弾の起動を早めていた。

メタロとは元からスーパーマンにもスキャンできない物質でできている。

核爆弾を隠すにはまさに格好の対象と言えた。

 

迷わずスーパーマンは空へと飛び上がってメタロを宇宙空間に送ろうとしたが、

そんな彼を仮面ライダー1号が留めた。

 

「待て、俺も行く」

 

「飛べるのは僕だけです!

 時間が残されていないならやらなくては!」

 

「お前にはスーパーパワーがあるように、

 俺にはライダーパワーがある。舐めるな。

 二人で行けば時間を短縮できるはず」

 

議論をしている時間がない二人は一斉にメタロへと跳びかかり、

そのまま空へと連れて行く。

勢いを弱めずに成層圏も大気圏も超えていき、

無数の雲の海を越えた二人は宇宙空間に出ていく。

 

深遠なる宇宙に出たメタロが憎悪に燃える瞳で

スーパーマンを睨みつけて口汚く罵り続けた。

黒い空間で核爆発を成そうとする直前、

メタロは必死にスーパーマンを羽交い締めにした。

 

「メタロ……!」

 

「フハハ! これで大願を果たせる。

 メトロポリスという墓標はないが!!

 世界最高のヒーローを暗闇に溶かすというのも悪くはない最後だ!」

 

最後の力を振り絞ったメタロの拘束に抜け出せないスーパーマンが、

憂いを帯びた瞳で敵を見つめ、首を振った。

胸部から展開されたクリプトナイトが力を奪い、

もはや自力では為す術がない。

 

だが仮面ライダー1号は一人、宇宙空間を跳び続け、

ついには太陽の真ん前まで来るとスーパーマン達から離れた。

 

「耐えろよ」

 

大きく身を捩り、飛び蹴りの体勢をとった一号は

酸素も空気もない世界の中でも威力を弱めず、

フェイバリットフィニッシュをスーパーマンごとメタロに食らわせた。

 

足のもとであまりのダメージに仰け反ったメタロから仮面ライダー1号は

核爆弾を無理矢理に引きちぎり、

渾身の力で太陽に投げ込む。

 

太陽へと吸い込まれていく核爆弾を目にし、

絶望に染まったメタロが仮面ライダー1号へと無念の眼差しを送った。

 

「俺に二度も同じ手が通用すると思わないことだ」

 

蹴りによってメタロとスーパーマンを地表に連れて行こうとしたが、

正真正銘の余力によって抜けだしたメタロは

異常な執念で核爆弾へとしがみついた。

 

抱きかかえ、暗く濁った心で笑ったメタロは核爆弾を二人へ投げつけようとした。

 

「死ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

だがその前に、太陽の熱で起爆した核爆弾が爆発し、

メタロは呆気なく消えていく。

 

「メタロ!!」

 

ヴィランの名を呼んでスーパーマンは手を差し伸べようとしたが、

遠い宇宙空間の中では届くはずもなかった。

 

######

 

体育座りをして黄昏れるスーパーマンが沈む太陽を眺めていた。

デイリープラネットの屋上、人の入らない空間。

仮面ライダー1号はそんなヒーローの哀愁に黙していた。

 

「お前は信じたかったのだろう?」

 

「信じるというか……僕が少しでもよく出来ていたら、

 せめて、良いヴィランくらいにはなってくれればと願っていた」

 

「そうか」

 

「上手く行かないなあ」

 

「一つ伝言がある。

 『道案内、ありがとう。メトロポリスは良い街だ』だそうだ」

 

それを聞いたスーパーマンは横顔だけ振り返って、

何かしら言おうとしたがやめた。

 

「その優しさと高潔さがお前なんだろう」

 

「だといいけれども」

 

冷たくなりはじめたコンクリートから立ち上がり、

大きく伸びて深呼吸をしてから頬を叩き、

一転、明るい表情で本郷猛に笑いかけてきた。

 

「じゃあショッカー・メトロポリス基地に行こうか」

 

「うむ」

 

夕日に背を向けて二人はその場を立ち去り、

摩天楼になっていく都市の中を縦横無尽に駆け抜ける。

 

「そういえば、これが終わった後はどうする?」

 

「戦いに集中しておけ」

 

本郷はバイクに跨り、

人間の動体視力には鳥かチーターに間違われる速度で走る。

風を切る彼へとスーパーマンは切り出した。

 

「実は美味しいケーキ屋さんを知っているんだけど、

 きっと終わったら朝か昼にはなるだろうし。

 一緒に行かないかい?」

 

「ケーキ……」

 

押し黙る仮面ライダー1号に、

失敗したかとスーパーマンは不安がった。

昨晩、もてなすために調べておいた店だったが、

もしや普通に日本レストランの方がよかったのだろうか。

 

「いいだろう」

 

「よかった」

 

「将来的に同伴したい女性でもいるのだろう?

 その下見というなら付き合おう」

 

ほんの少しあった目論見を見抜かれたスーパーマンは、

焦って取り繕おうとするも、無理と判断した。

僅かな沈黙、ネオンの群れを通り抜け、

仮面ライダー1号は問いかけた。

 

「ところでスーパーマン。

 良いヴィランとはいったいどういう意味だ?」

 

本郷猛も頷けない単語が一つあった。

 

 

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