政治は変わった。
《愛国者達》という名のAIによって統制、抑制されていた
世界中の文化、情報、技術は流出し、
今や全世界が軛(くびき)を解かれた猛獣達が跋扈している。
政治は変わった。
今は一票の格差は武力によって容易く覆される時代になり、
雌伏の時を耐えていた忍者、侍、中国拳法家、魔術師、エスパー達が
歴史の表舞台に出るようになった。
地球全土がサイボーグと超人達を跋扈するようになった時代。
《リベリアの白い悪魔》は刀ひとつを頼りに戦い続けていた。
いつまで続くかではない、死ぬまで続けるだろう人斬り。
ヒーローが今の自分を見ればどう思うか、
雷電はたまに想像するようになった。
「おーい、話を聞いてるか?」
顔の前で手を振って呼びかけたのはキャプテンコールド。
ある激闘にて発生した超力場に呑み込まれて迷い込んだ平行世界。
そこで活動していた如何なる政治権力の下にもつかない機関、
ジャスティスリーグの一員である男。
「ああ、すまない。考え事をしていた」
「おいおい大丈夫か?
あんたが手伝いたいというから参加を許可したんだぞ」
呆れた様子でコールドが眉をひそめ、
隣で足を組んで座っていたワンダーウーマンが助け舟を出した。
「忍者や侍は、いつ、如何なる時も瞑想の時間を大切にするそうよ。
自分と向き合うという行為は、戦う者にとって欠かせないわ」
「ワンダーウーマンがそういうならかまわないけどよ。
体調が優れなくなったらいつでも言ってくれや」
ヘリの駆動音と振動がサイボーグの体を揺らしている。
名刀ムラサマの握りを意識し、
雷電はコールドに任務を確認した。
「俺はこれから救出任務に取りかかればいいんだな?」
「ああ。ゴリラシティの首長、ソロヴァーからの要請だ。
集落が何者かに襲撃されて、民間人が大勢攫われた」
「そのゴリラシティというのは通称なのか?」
「違う。ゴリラの街だからゴリラシティだ」
「ふむ、なるほど」
頷いた雷電だったが、いまいち要領を掴めない。
まさかゴリラが本当に街を作っているわけではないだろう。
恐らくはゴリラという名前の民族に違いないはず。
雷電の世界にも知能を外部装置によって飛躍的に増大させた猿、
通称ピポサルと呼ばれる軍団がいるが、
奴らが集落を成して生活しているという話は聞いたことがない。
ピポサルもゴリラも同じようなものなのだが、
雷電には石頭の嫌いがあった。
ならば直接、自分の目で見たほうがいいだろう。
助けることには変わりないのだ。
仕事を失って久しく、長い間ひとりで戦ってきた雷電だったが、
理解できそうにない情報は直接見た方が早いという基本は忘れていない。
「注意事項は? ROE(交戦規定)を教えてくれ」
「ジャスティスリーグはどんな権力の下にもつかねえ。
いわば民間の組織だが、アメリカに属していると受け取られがちだ。
やむを得ない場合は仕方ねえが、
国際世論もあるから殺人は原則厳禁で頼む。
活動場所がアフリカだからなおさらだ。
そして民間人の救助は何を置いても最優先にしてくれ」
キャプテンコールドはだらしない面も見受けられるが、
原則的に理性的で計算高い男のようだ。
話していれば計り知れない冷気を感じることもある。
真剣に話を聞いていた雷電は、そう分析した。
「ううむ、了解した」
若干の躊躇いはあったが雷電は受け入れた。
彼は人斬りであり、暴力、殺人の快楽を受け入れている。
悪党を斬るのを生業としているヒトデナシであったが、
ジャスティスリーグは途方に暮れていた彼を
嫌な顔ひとつせず助けてくれた機関だ。
PMSC(民間軍事警備会社)にいた時も
多くの任務をこなしてきた。
経験を活かして一宿一飯の恩義は返す心持ちである。
協力を志願したのが己である以上、
迷惑をかけないようにしたい。
自分の本性と衝動への不安はあったが、
刀を意識して雷電は心を平静に保とうとした。
そんな彼をギリシャの女神、
ワンダーウーマンが意味ありげに視線を送っていたが、
雷電……ジャックは気づかなかった。
「おっ、どうやら着いたようだな」
ヘリが降下を始め、
座っていた雷電達にも荒涼としたアフリカの大地が見えてきた。
「そういえば俺が組む男のことをよく知らないんだが」
「フラッシュのことか」
冷静だったコールドの口の端が吊り上がった。
妙な気配を察知した雷電は奇妙に思ったが、
口を挟むのは控えて、話すよう促した。
「あいつはとんでもねえクソ野郎だ! まず赤いスーツの胸に浮かぶ稲妻が人を舐め腐ってるとしか思えねえ。おまけにどんな戦いだろうとニッコリ笑顔を浮かべることを忘れず、罪もねえ人々を助けることを絶対にやめねえと来た。敵があらゆる手段を講じてぶっ殺そうとしても予想もつかねえ方法で打破するクリエイティブな発想の持ち主よ、気に入らねえったらありゃしねえ!! だがな……なによりムカつくのはあいつの走る姿がまるで真紅の流星の如しってこったあ!!!!!! 淡い電光を纏ってクリムゾンの閃光になる姿はいつ見ても俺に銀行を思い出させ、悪党だろうとプライドを捨てちゃ終わりだって気にさせてくれやがる!! 心に暖けえもんができちまうんだ。きっとそうやって俺達をモンスターにさせねえつもりなのさ…………命がけでそんなメッセージを送るなんて、これが奴の作戦だって言うならまったくクソイラつくこったぜ!! ちくしょうっ! 銀行に行きたくなってきやがった!! やっぱフラッシュってクソだぜ!!!!!」
突然に熱くなったコールドにサイボーグ忍者は圧倒された。
「うぅん…………」
唐突な言葉の洪水に雷電は困惑した。
まだ続きそうなコールドのフラッシュへの罵倒に、
たまらず話をまとめようと試みた。
「わかった。つまりフラッシュを安易に信用しないよう
気をつけろということだな?」
「ああっ!? てめえ人の話を聞いてねえのかっ!!!」
「す、すまない……」
青筋を浮かべてコールドが怒鳴り、雷電は慌てて謝罪をした。
これが異文化コミュニケーション。
《伝説のヒーロー》ソリッド・スネークは何度か異世界に行ったことがあったそうだが、
なるほどこれは異世界であった。
そんなサイボーグ忍者に呆れ返った様子で額に手をやったコールドは、
隣に座って目を瞑るワンダーウーマンに話題を振った。
「どうするよ、ワンダーウーマンさん。
このニンジャ兄ちゃん、なんだか頼りないぜ」
腕組みをして悠然とした佇まいをしていたワンダーウーマン。
彼女の瞳が薄く開いて雷電に意識を向けた。
それだけで雷電の背筋に寒気が走る。
絶世の美女と評して差し支えない美貌だが、
こうして相対しているだけで圧倒される迫力がある。
彼女が顔をヘリの外の荒野に向けた。
アフリカの大地は雷電にとっても因縁深い地だ。
部族間の因縁に、それを利用して私腹を肥やす腐った悪人ども。
政治、宗教というイデオロギーを
弱者と行き場のない人達を騙すツールに使う犯罪組織。
守りきれなかった偉人のことを思い出させる。
「まずは降りましょうか」
「あれ? 俺達は別のところに行くんだよな?
水源を占拠してる奴をぶちのめすって聞いたぞ」
「少し彼に用ができたわ」
ワンダーウーマンと雷電を交互に見やって
冷や汗を流したコールドは気が動転して間に割って入った。
「おいおい待ってくれよ!
色々と気疲れもしてるだろうし
ちょっと話を聞いてなかったくらいでそこまで――
なんなら俺がフラッシュの編集ビデオを貸してやるよ」
「いえ、そういう話ではないの」
「待ってくれ。どうしてそんな物を持ってるんだ?」
一足先にヘリから降りたワンダーウーマンの長い黒髪がたなびく。
腰に差した剣を抜いて雷電を誘った。
「あなたから異様な気を感じるわ。
それを見極めさせてもらう」
「マジかよ。
断っていいんだぞニンジャ兄ちゃん。
あの人、くっそ強えからな」
心配そうに気遣うコールドの肩に手を置き、
首を振って雷電もヘリから降りた。
広々とした地平線まで続く大地。
雲一つない青い空が太陽の明るさを伝えている。
美しい光景であった。
こんな大地で屈強な荒くれ者や
らくだ愚連隊が暴れまわっているとは考えられない。
刀を抜いて構えると、ワンダーウーマンが満足気に微笑んだ。
「やはり貴方も戦士。
まだ斬ってもいないというのに、刀が私に語りかけてくる」
「それは幻聴だと思う」
「なあ! マジでやるなら撮影していいかな!?
ダチに見せてやりたいんだ」
「私はかまわないけど」
「俺も気にしない。
どうせならお前もやるか?」
「そいつはやめとくわ。怖い。
とにかく気張っていけよニンジャ!
彼女のギリシャ超人ファイトは慈愛に満ちてやがるぜ!」
コールドの言うとおり、
ギリシャの半神からは慈愛が漂ってきた。
剣を構え、盾を持つ優雅な立ち姿は
世界中の彫刻家が羨む美しさであることだろう。
正眼に構えた雷電が目の端でコールドがビデオカメラを準備するのを待った。
ヘリから大仰なものを持ってきたコールドが親指を立てたのを見て、
アフリカの風に二人は溶けた。
「おおぉっと! 手合わせが始まったぁ!
ギリシャ女神とサイボーグ忍者の一戦とは、
こいつぁ、何を質に入れても観戦したいしろもんだぜ!」
超高速で疾走する雷電が、ワンダーウーマン――ダイアナに斬りかかった。
盾で防御されると、逆方向から剣閃が煌めく。
上体を逸らしてスウェーの形をとったが、サイボーグ化されて剥き出しのメタリックボディとなった顎を、剣が掠めた。
それだけで灼熱の温度を発した。
雷電は前蹴りでダイアナの胸を蹴った。
それを同じく足で受け止めた女神が、ニンジャへと強力な突きを放った。
それをシノギでガードした雷電は、懐に潜り込んで掌底を打つ。
まともに捉えたが、カウンター気味に盾を鼻梁にくらい、雷電とワンダーウーマンは同時に吹き飛んだ。
「あぁーーーと! 最初の交戦は相打ちだぁ!」
はしゃいでコールドがカメラを回しているのが聞こえた。
受け身を失敗した雷電とは対照的に、柔らかく着地し、そこからの運動エネルギーを流麗に全身に使ったワンダーウーマンの爪先が、雷電の脇腹に衝突した。
それを斬撃と回避を両立した基礎にして、神業の攻防一体にて躱し、切っ先がワンダーウーマンの頬に一条の切り傷を作った。
押していると判断した雷電が追撃しようとするも、投擲した盾が放物線ではなく直線上に飛来して、雷電の胸にめりこんだ。
重量、速さ。どれも常人が再現すれば肩が粉砕されるだろう。
やはり女神といっても神。
その筋力、膂力はメタルギアREY程度ならば、造作もなく一本背負いだろう。
盾を手放したダイアナが大きく足を開いて、顔の横に剣を置く。
その口元には激戦への高揚が浮かんでいる。
「あ、あぁーーーっ! ワンダーウーマンが盾を捨てたあーーー!
これはいわば、どちらも剣に頼みを置いた男の勝負!!
たまんねえぜぇ!」
「戦士の勝負と言ってもらえないかしら?
あなたも同感でしょう」
「どうだかな。
戦うときに戦うだけだ」
「ぐ、ぐむーーーー!
こいつは一本取られた!」
油断なく相手の付け入る間を観察しながら、雷電は器用に肩を竦めた。
己を戦士と言って憚らないダイアナは強力な力を持ち、技術においても歴戦の兵士と比べて何一つ劣らない強者だ。
だが雷電は若々しい外見を持っても、経験において勝ってはいる。
こちらに来てから改造してもらった速力特化のボディを試す時だ。
出足を強く踏みしめて走りだした。
遠く見知ったアフリカの乾きと砂の風が、機械化されたボディを打ち付ける。
跳躍し、体重を乗せた唐立ち割りを、ダイアナが剣を腹にして受け、押し返した雷電は、そのままスピードに任せてヒット・アンド・アウェイ戦法に移った。
「ああーーーーっと!
ニンジャの兄ちゃんがワンダーウーマンの周囲を走り回りながら、
切り傷を生み出していくーーーー!」
力を込めない、勢いだけの斬りの嵐。
勝負を決めるには至らないが、相手の集中力を削っていく効果がある。
侍の道を学ぼうと思った雷電は、オタコン……ハイル・エメリッヒという科学者に、参考文献として日本の学術書を渡された。
幕末の人斬り抜刀斎の生涯を綴った剣客浪漫譚に魅了された雷電は、スネークと共同作業で幕末スタイルを研究した。
寝っ転がりながら学術書を読みふけるという自然体で研究に臨めたスネークとは対照的に、雷電は正座して研究に没頭するしかなかった。
ここでもヒーローと半人前の差を痛感した雷電だったが、三日三晩の研究によって、幕末もスピードを重視していたのを掴めた。
音速を超えた幕末の摺り足は、ソニックブームとともに視界から消え、神速になる。
アマゾンの戦士であるワンダーウーマンには知らない戦術のはずだ。
砂煙が舞い、幾百の砂礫が女戦士の周囲に立ち上る。
ニンジャを捉えられないと判断したワンダーウーマンは剣も鞘に置き、クラウチングスタートの姿勢をとった。
「こいつはヤベえ!
ワンダーウーマンが剣を捨てやがった!
おまけに取っているポーズはクラウチングスタート!!
気をつけな兄ちゃん! 彼女はアマゾンの戦士だが、
ギリシャ神話の血筋を引いている!
つまりはオリンピック競技の申し子よぉ!!」
「元気な奴だな」
的確なキャプテンコールドの助言。
頷いた雷電の横に貫手が飛んできた。
あやうく直撃するところを肩で受け流した。
彼の隣を、ダイアナが超高速で並走している。
ワンダーウーマンの口元に戦いの喜びを示す笑みが浮かんだ。
つられて雷電も口元が緩む。
胸の奥底で疼く殺人衝動が鎌首をもたげ、出口を探す。
遠く何処までも続くアフリカの地平線を二人は何処までも駆け、剣を走らせれば拳がいなし、拳が来れば剣で受け止める。
そういった攻防を数百繰り返し、大きく前に跳んだダイアナが雷電の前に着地し、拳を大きく振り上げて右ストレートを放った。
唸りを上げて突進する突きに、走りながらの攻撃しかできない雷電の刀が弾かれた。
が、雷電は腰を深く沈めると裂帛の気合を込めて掌底を放った。
風の塊がワンダーウーマンの腹部を襲うが、ダイアナは豪風が込められた球体を力任せに握りつぶした。
予想以上の攻撃を交わし合う。
これだけで楽しいと感じる己がいるのを認識した。
人を斬るだけでしか快楽を得られない己に、新たな側面を発見しているのが自分でもわかる。
背後の大地に突き刺さった名刀ムラサマ。
両者徒手になり、ワンダーウーマンが両腕を大きく広げ、無言で雷電を待ち受けた。
「げ、げぇーーーーーーっ!
あれはワンダーウーマンお得意の、
アマゾン戦法・慈愛のクロックアップ!
敵でもねえのにこれを引き出すたぁつくづく侮れねえし、
中々にスピードスターなニンジャだぁっ!!」
ワンダーウーマンの腕の形、抱擁のポーズにも似たその構えを、雷電は首を傾げて訝しんだ。
だがそんな彼に半神は不敵に笑いかけた。
「我が兄、ヘラクレスはネメアの獅子を屠る力を得るために、
まずは三日三晩、あらゆる強者と力比べをしたというわ。
それがこの四つ指よ。
あなたの底力を見せてちょうだい」
「よしきた」
応じた雷電とワンダーウーマンの両手の指が絡みあい、互いの全身全力をもって握り合う。
小島くらいならば単身で持ち上げられるスペックを持つ二人の力比べに、大気が張り詰め、風が歓声を送った。
アフリカの大自然が両者の健闘を応援しているのだ。
両腕の筋肉に血管が浮き出て、ワンダーウーマンが唇をめくった。
「ふんんんんんんっ!
見事ぅ!! 鋼鉄のボディに血潮が脈打っているわ!!」
「君も大したものだ!!」
組み付いた両手の位置が次第に下がっていく。
慈愛の女神の圧力に、じりじりと後方へ押されていくニンジャ。
そうして降りていった四ツ指は雷電の背中に回り、サイボーグ忍者の両肘だけでなく胴体ごと抱擁した。
「決まったぁーーーーっ!
こうなりゃ流石のニンジャも、
ナワヌケ、カワリミといった忍法を使わざるを得ねえ!
はやいとこ隠し手を出しちまいな!
遠慮はいらねえ、こっちはNARUTOで予習完璧だぜ!」
「ぐっ……そんな技は使えない!」
律儀に否定した雷電は、踵に当たった名刀ムラサマの刃を蹴り上げた。
宙に回転した柄を、雷電は歯で掴む。
慈愛の抱擁とニンジャの刀が戦況を膠着させた。
「戦いとロックアップで見えてきたわ。
あなたの裡にあるのは灼熱の尽きぬ闘争意欲!
悪への圧倒的な怒りと憎悪! そして愛情!」
両腕でがっちりと組み付いたクラッチを解いたワンダーウーマンが、ファイティングポーズを取った。
ベアナックルの場合にとる、最も攻撃に向けた型だ。
距離を取った二人がじりじりと距離を測りあい、緊迫した空気の中で攻撃のチャンスを探す。
白熱していたコールドが押し黙るほどの綱渡りであり、雷電の中の闘争本能が火花のように弾けた。
CNT筋繊維を意識し、雷電が全身の動きを意識して高周波ブレードを前に倒す。
手首だけの動きで成した小手先の攻撃。
ワンダーウーマンがすり抜けるように躱して、フックを繰り出した。
豪腕が頬に迫り、拳と顔の間の大気が破壊に熱量を帯びる。
脳が融解するくらいに集中した雷電の視界内の事象が遅滞した。
手首を素早く切り返し、強引に腕を畳んだ雷電が横に鋭く薙いだ。
甲高いというよりも鈍い轟音が、ダイアナの拳より発せられた。
よろめく、かつてのジャック・ザ・リッパー。
刀は相手の肩に小さく切り込まれたのみだった。
脳が揺さぶられて膝をついた雷電へ、ダイアナが優しく手を差し伸べた。
「素晴らしい戦いだったわ」
「ああ、ナイスなスピードだった。
俺はビックリしたぜ。
最後の一撃ときたら、とんでもねえハイスピードな雷だ!」
健闘を讃えてコールドが拍手をしていた。
CNT筋繊維を限界まで酷使したというのに、残るのはプラトニックな晴れ晴れとした気持ちだった。
「模擬戦は久しぶりにやったよ。
悪くないものだな」
ダイアナの手を取って立ち上がった雷電が微笑んだ。
「戦ってみて貴方のことが少しわかったわ。
その瞳にあるのは一振りの刀。
雨雲のように蠢き、胎動する戦いへの渇望」
そう言われて、かつての少年兵は握ったままの刀に意識をやった。
戦いの中で馴染んでいく得物。
これが模擬でなかったなら、どういう結末を迎えていたか。
そんなことはおくびにも出さず、雷電は戦いの余韻に浸っている。
ダイアナは思考の海に浮かぶサイボーグ忍者、人造の人斬りでしか生きられない者の瞳を、まっすぐに見つめた。
これまでとは違う、戦いの匂いが皆無の、すべてを包み込むような慈愛深き眼差しであった。
「貴方は自分の衝動を受け入れているようね」
返答に詰まった雷電は沈黙を選ぶ。
先ほどの慈愛のクロックアップとは正反対の、優しく柔らかくダイアナが肩に手を置いた。
「会ったばかりの私が言うことではないけれど。
自信をもった方がいいんじゃないかしら。
あなたは、なりたいあなたになっているんじゃない?」
「そんなものはない。
今の俺は……尊敬するヒーローの言葉に応えられず、
戦い続けた挙句に、気に入らない奴をぶった斬るだけの悪漢でしかないと終わった」
「とにかく、自分を信じてあげたら?
私の目に映るのは、嫌う自分を受け入れても立ち上がろうとするヒーローだけよ」
「よしよーし! 難しいお説教はここまでにして、
俺達もそろそろ出ないと不味いぜ、姐さん」
こちらに手を振りながらヘリに戻っていく二人。
ふと気になった雷電はコールドに大声で呼びかけた。
「なあ、コールド。一言で表してくれ!
今から会うフラッシュはどんな奴なんだ!?」
「一言か! 一言ならあの野郎は、まさにパンクロック!!!!!」
一切の迷いなく、満面の笑みで即答したコールド。
追求するより早く、ヘリが離陸して雲一つない澄み渡る空へと消えていった。
それを見送っていた雷電は現在時刻を確認した。
合流するのは1500のはずだが、それがちょうど今である。
もしや遅刻したというのか。
スピードスターには似つかわしくない出来事だと訝しんだが、空いた時間にサイボーグ……ヴィクターへの通信を始めた。
『こちらウォッチタワー』
「こちら雷電。
お前が改造してくれたボディで、初めての戦闘をしてみた」
AR現実。視界の中に様々なヴァーチャルリアリティめいた機能群が浮かぶ。
メモリ、ウィンドウ、脳内に奏でるBGMの選択。
どれもが雷電は、まるでそこに存在しているかのように弄ることができ、無線もその応用であった。
『はやかったな。それでどうだった?
自己修復パック斬奪機能すら捨てた、攻撃と逃走に特化させたスペックは?』
「上々といったところだ。
まるでちょっとしたマトリックスにいるかのようだった。
もっとも……ワンダーウーマンには勝てなかったがな」
無線のウィンドウに浮かんだ半人半機のヴィクターが、肩を竦めて笑った。
『それは仕方がない。
彼女に勝てる者は、そういないだろうな』
「とりあえず戦闘データは蓄積されるから、後で解析して役立ててくれ。
俺のリベンジを代わりに果たすんだ」
『善処するよ』
サイボーグ、ヴィクターは世界ではじめてのサイボーグだ。
ヒーローの道を選んだ彼はデトロイトをホームグラウンドにし、五体不満足の人々に新たな手足を提供できるように日々努力している。
これはフラッシュは大幅に遅れるパターンだと考え、色々と二人の身の上や人生を話した。
『あんた結婚しているのか?』
「そうだが、お前はそういう人はいないのか?」
ジャスティスリーグに保護されてから最も話をしたのが、サイボーグことヴィクターだ。
半ば全身を機械化されたという、公的には世界で初めてのサイボーグだ。
雷電も《愛国者達》に捕まった際にサイボーグ手術を受けたことから、何度か話をする機会があった。
『いるにはいるが』
歯切れの悪い口ぶりに、雷電は眉を上げた。
「なんだ。問題でもあるのか。
お互い、肩身が狭いサイボーグなんだ。
先輩としてプロフェッショナルな視点からアドバイスをするとだな。
やはり帰る家や待つ人がいるというのはいいもんだぞ。
おまけに子供が可愛い。温かい飯が待っているのが難点だがな」
『でも……難しくないか?
言ってみれば人間と機械だぞ。
世間の好奇の目に晒されれば、彼女にだって迷惑がかかる』
サイボーグの疑問も最もだ。
ヴィクターはデトロイトにて体の一部を欠損した人達のための講習会やチャリティーイベントに、ヒーローとして出演したり、イベントの責任者をやったりしている。
この世界においてデトロイトは義手、義足を求める人にとってのメッカだ。
ロボコップがその事実を知ったら驚くことだろう。
「俺はヒーローじゃなかったから、戦いが終わったら就職を考えたが、
やはりサイボーグという異邦人を受け入れる先はなかった。
お前がヒーローとしてサイボーグの地位向上に努めているなら、
きっとそう遠くないうちに周りの見る目も変わるさ」
それに、と付け足して雷電はからかうように言った。
「まさかコンピューターと結婚するわけにはいくまい」
『もしそうなったら、花嫁の付き添いをあんたに頼むとするかな』
「とっておきのキャスターを持ってきてやろう」
ひとしきり笑いあうと、地平線の遥か彼方に赤い影が見えた。
蜃気楼の向こう側であり、距離感が掴めないが、あれがフラッシュなのだろう。
「あとでサイボーグが恋人と波風立てずに過ごすコツを教えてやる。
とっておきだからな。教えるのはお前がはじめてだ。
これも世話になったお礼ってやつだ」
ほお、とヴィクターが感心した。
『まるで侍のような義理人情だな。
刀を使うだけのことはある』
「ふふっ、そうだろうそうだろう」
『それで何を教えてくれるんだ?』
「味覚をオフにした上で、美味そうに料理を食べるコツだ」
『……なんだか、えらく限定的だな』
白けた様子のヴィクターを見て、心外そうに雷電は眉を上げた。
「結婚したことがないやつに限ってそう言うがな、
これが本当に役に立つんだ。
もしこれがなかったら、結婚生活は俺だけ外食に逃げたことだろう。
サイボーグも悪いことばかりじゃないという証明だな」
いっぱしの教師のように誇らしげに雷電は語った。
『あんたも苦労してるんだな』
無線を切ると、赤い影がどんどん近づいてきた。
と、思った瞬間には、両手にクレープを抱えた全身赤の青年が立っていた。
「すいません、遅れてしまって。
はじめまして、僕はフラッシュ!」
クレープを落としそうになりながらも、人の良い笑顔で握手を求めてきた。
「俺は雷電だ。
あくまで協力者という立ち位置だから、
君の指示に従うことになるな」
握手に応えて、雷電はフラッシュが胸に抱きかかえているものに目を向けた。
「それは?」
「遅れてしまったお詫びにクレープを買ってきたんだ。
アレクサンドリアの地中海ビーチの近くに良い屋台を知ってたからさ。
お近づきの印に一つどうぞ」
そう言って差し出された二つのうちの一つを、渋々受け取る。
「今は任務中なんだが」
釈然としない気分だったが、渡されたクレープを大口を開けて頬張った。
熱々の生地に小さく切られた薄い味付けの鶏肉がレタスの上に乗せてあり、チーズをふんだんにまぶしてあるというものだ。
クレープ生地の熱さでチーズが蕩けて鶏肉と絡み合い、豊潤な美味さが機械の味覚にもわかった。
これは味覚をオフにはできない。
「美味い……」
実に美味かった。
乾ききった荒野の上、草木がまばらな大地。
湿度のない超高温度の場所だからか、濃い目の味口が機械の全身を流れる電解質すら喜ぶ心地だ。
「それならよかった!
じつは居候先の人に恋愛相談を受けて長引いてしまって。
お詫びってことで許してくれるかな?」
「気にするな。こんなに美味しいのなら遅刻もチャラだ。
しかし、まいったな。
こんな美味しいものを食べては家に帰りたくなくなる」
瞬く間にすべて平らげた雷電は、口を動かしながら手ぶらのフラッシュが食べ終わるのを待った。
「食べないのか?」
「もう食べたよ」
クレープに巻かれた紙を、真紅の男がひらひらと振った。
凄腕エージェントでもあった雷電にすら、食べ終わるのがわからないスピード。
なるほど、これはスピードスターと唸らざるを得なかった。
「それじゃあ行こうか」
何も見えない開けた大地のド真ん中で、フラッシュが言った。
「何処にだ? ここから近いんだろうな」
「大丈夫。ほんの50km先だから」
「勘弁してくれ。何のためにここで集合したんだ」
「近くまで行き過ぎたらバレるかなと思ってさ、ごめん」
うんざりする雷電。
そんな彼にウィンクすると、フラッシュの影が掻き消え、不承不承ながらもニンジャも走った。
#####
雷。ミスター・ライトニングボルト。
暗い夜空に轟く光と音。
それがジャック、雷電の呼び名。
命じられるままに人を殺し続け、付いた仇名が《ジャック・ザ・リッパー》。
今の彼に迷いも躊躇いもないが、ただひとつ、ぼんやりと思うことがひとつある。
ジャックはヒーローにはなれなかった。
見たことのある工場だ。
工場というのは、どれも大体が似たような構造をする。
それは機能美や効率性を追求した結果だが、雷電がそう感じたのは、重く閉ざされたゲートの向こうに聞こえる気配と音から察してのものだ。
草がお情けに生えている荒野。
高く聳え立つ電子ロックのゲート。
それを囲むように鉄条網が敷かれており、触れるものを高圧電流で死に至らしめかねない。
「これは何のための工場なんだ?」
見上げる雷電が、隣のフラッシュに尋ねた。
「それがわからないんだ。
一週間前に予兆もなく建っていて、
あらゆる干渉を絶っている。
ちょうどゴリラが誘拐されたのと同じ時期さ」
「ゴリラ……」
また聞いた不思議な単語に、雷電は眉をひそめた。
だが追求はせずに、彼はムラサマ高周波ブレードを抜き放つと正眼の構えを取ってから、厚さ100mmのゲートを両断する。
「すごいなあ。まるでゼロみたいだ」
「ゼロ?」
「メガマンに出てくるんだけど知ってる?」
「赤いアーマーをつけた金髪のキャラクターだったか?
息子がやっていたな」
「おぉ、結婚してるんだ。それなら一刻も早く帰らないとね」
まるでスナック菓子のように切れたゲートの残骸を乗り越えれば、開けた場所に子供のゴリラが周囲を二脚の大型ロボットに囲まれていた。
すぐに助けようとしたフラッシュを制止して、雷電は短く告げた。
「待て。こんな場所で実験動物が逃げ出しているのはおかしい。
これは罠だ。少し様子を見たほうがいい」
「あの子は要救助者だよ!」
「バカな! 本当にゴリラを助けに来たのか!?」
驚愕する雷電の前で、ゴリラの子供がこちらを見つけた。
心細さと怯えを見せる眼差しが、サイボーグ忍者にも目視できた。
「助けて!」
その声を聞くよりも速く、フラッシュは一閃の影法師となって無人兵器へと駆けていく。
月光。雷電の世界では最もポピュラーな兵器の一つだ。
牛のような動作を持っている。
まだ生後間もないだろうゴリラを、まばたきの間にフラッシュが抱えた。
取り囲んでいた月光は三体。
全速力からの滑り込みで敵の足の間を潜り抜け、そのついでに両足を切断した。
くぐもった苦痛めいた音を出して崩れた月光の頭部に乗り、高速で迫る電磁縄を跳躍で追い越した。
全長5mはあろう月光を飛び越えざまに斬り、断面を晒した敵の向こうに最後の生き残りが見える。
足を後ろに数回蹴る動作をしてから、猛牛の如く月光が突進してくる。
それを迎え討とうとした雷電だったが、真紅の流星が横入りし、敵を透過していった。
フラッシュの手には月光のハードウェアがあり、抜き取られた敵がバランスを崩して大きく転倒していった。
戦いが終わり、高周波ブレードを雷電は鞘に収めた。
「しかしゴリラだったとは……」
「ゴリラだけど高い知性もあるし、他人を思いやる心も持っている。
あなたの世界にゴリラはいないの?」
フラッシュの質問に腕組みをして、もどかしげに雷電はたどたどしく説明を試みた。
「いない……いや、いるはいるが。
なんというか…………動物園にいる。
でも、そのゴリラは街を作っているわけではなくて――」
「こっちでも最近までは似たようなものだったよ」
あちらこちらから無人機が動き出す気配を感じる。
元の世界で使っていたソリトンレーダーを頼ろうとしたが、ジャミングされて使用が不可能となっている。
「今見た機械は俺の世界のものだ。
さっきの子供から何か話は聞いているか?」
左右には倉庫が立ち、周囲には漏れたオイルが溢れて流れている。
アフリカのレーザー光めいた陽射しに影が差し込み、ゴリラのような形をした無人機が二人の周囲に降り立ってくる。
マスティフという名前の人型だが、土管ほどある両腕が威圧感を与える。
「黄色と黒の影がゴリラシティからみんなを連れて行った。
脳を摘出しようとしたけど上手く行かなかったから、
パワードスーツの形にして脳波に攻撃衝動を増幅させるチップを埋め込んだようだね」
説明された今起きている事態に、CNT筋繊維が悲鳴をあげるほど、雷電は歯噛みする。
「つまりメタルゴリラのボディの中には生身のゴリラか。
はっきり言えば胸糞悪いな。
フラッシュ。ここは俺が引き付けるから、
お前はまだ無事なゴリラの救出をしてくれ」
「一人で大丈夫かい?」
次々と降りてくるマスティフは、それぞれが胸を叩いて自らの力を誇示していた。
まるでゴリラのようだ。中身がゴリラだからか。
平和に暮らしていた人々を無理やり攫って利用するとは。
「任せろ」
胸の奥に渦巻く決壊しそうな激情とともに、雷電は背後のフラッシュに請け負った。
「この手のことは慣れている」
黒鉄に包まれたマスティフの体躯から右腕を突き出すと、展開した射出口から夥しい弾丸が連射される。
フラッシュの背中を守って次々に弾く。
跳躍したメカゴリラが視界から消え、疾駆した雷電は次々にマスティフの腕を斬っていく。
だが浅い。月光を相手にしている時のようにはいかない。
足を掴まれた雷電が、両腕と両足を掴まれて担がれる。
その胴体にマスティフが高度20mから着地した。
トンを凌駕する重量をまともに食らって、雷電の口から体液代わりの電解質が吐き出された。
もがいて抜けだしたニンジャの背後に忍び寄ったマスティフの足を深く斬り裂く。
ナノマシンを使った感情コントロールは彼の世界ではポピュラーなものだ。
恐らくゴリラも似たような施術をされている。
装甲の先の生身に刃が触れて、ゴリラの分厚い腱を切った。
中身と外が連動するのならば、操縦者を倒せば大人しくなるのは自明の理。
まずは一人、マスティフが膝を屈した。
雷電の頭部を潰そうとメカゴリラが両手を開いて挟みにかかるのを、後方を確認することなくバク宙で避け、相手の背後にある装甲の継ぎ目に剣先をねじ込み、こじ開ける。
開いた中にはゴリラが虚ろな目つきで口から涎を垂らし、引きずりだした雷電が当身を食らわせて意識を断った。
目標ははじめから雷電とフラッシュだと設定されているのだろう。
倒れた仲間には目もくれず、マスティフ三体が同時に雷電へドロップキックを仕掛けた。
普段のマスティフと違う点があるとすれば、互いに連携を取り合うということだ。
感情操作をしての戦場投入は無人機と変わらないとされているが、おそらくはゴリラという種族は極めて創造性が高いのだろう。
三方からのドロップキックをすり抜けた雷電は、一際高く垂直に建つ鉄塔を、ところどころ切れ込みを刻みながら駆け上がる。
それを追って二体のマスティフが、一体のマスティフの両腕を掴んで放り投げてきた。
弾丸となって突き刺さったメカゴリラに鉄塔が揺れる。
先端部に来た雷電が縁に手をやり、鉄塔を下に引き落としにかかると、追いすがるマスティフごと鉄塔が破片となって崩れ落ちた。
上からの攻撃にその場の全員が両手を上げて頭部をガードする。
無人機が頭部への衝撃を防ぐ理由は希薄なのだが、中にゴリラが入っているとなれば話は別だ。
雷電は慎重に無防備のマスティフの装甲を斬り裂いていく。
取り出したゴリラは安全な一箇所に纏め、その作業をしばらく続け、ようやく襲いかかってきた群れを全滅させた。
「大丈夫か。怪我は?」
暴れられても生身のゴリラなら制圧できると判断した雷電は、意識を失った一人を揺さぶり起こした。
薄く目を開けたゴリラがこちらを目にして、恐怖に身を縮こまらせた。
「安心しろ、俺は味方だ」
「あ、あいつひでえよ!
いきなり俺達の村にやって来て訳もわからないままに、
こんな場所に連れて来やがった!
あんた、妻と娘を見なかったか!? 一緒に連れ去られたんだ!」
「フラッシュというヒーローが救助に向かった。
気を確かに持て。きっと大丈夫だ。
みんな必ず故郷に送り届ける」
あのマスティフに組み込まれることで、はじめて意識が変容するのか。
攫われたゴリラは平静状態にあった。
全員を起こして、フラッシュが子ゴリラ達を連れて行った回収地点を教え、走り去っていく彼らを見送る。
「気をつけて行け。
何かあったら女子供老人を優先して逃がすようにな!」
「わかった! あんたも無事にな!」
手を次々に振ってくるゴリラに、雷電も手を振り返す。
すると、ゴリラの行く手に黄色と黒の人影がいるのが、何故か今になって気づいた。
まるではじめからそこにいたかのような違和感を抱くその男。
外見はフラッシュに酷似しているが、口元には残忍な笑みが浮かんでいる。
異変に気づいた雷電が投げナイフを投擲するより速く、謎の男――プロフェッサー・ズームが大きく伸びる影となって雷電の前に現れた。
その背後で血飛沫を次々に上げて倒れるゴリラ達。
激怒に腹の奥底が煮え滾った雷電が、迷わず首筋にムラサマを走らせた。
迷わず高速で命を殺めようとした一撃は、まるで夢幻を斬ったかのように逸れる。
驚愕に目を見開いた雷電。
しかし、なによりも驚いたのが、確かに目の前にいたズームが今や10m遠くにいるという厳然たる事実。
必殺の一撃を理解不能のやり方で躱された戦場のジャック・ザ・リッパー。
大きく腕を開き、気取った口調でズームが語りかけてきた。
「これはこれは異郷のサイボーグ忍者殿。
いかがしましたかな?」
「貴様が攫ったゴリラを助けに来た」
焦りをおくびにも出さず、雷電は油断なく刀を握り直すと単刀直入に言った。
ピクリともしないゴリラを視界に入れただけで、刀を握る手に力が入る。
くっくっと含み笑いをしたズームは、雷電を嘲る。
「今の出来事で気づかなかったのか?
君と私にある絶対の差。
すなわちそれはスピードスター」
「ぺちゃくちゃとよく喋る口だ」
先手を打った雷電は、今度は相手が避けられないようにフェイントをつけて斬りかかる。
忍者の腹部に100の衝撃が破裂して、CNT筋繊維が絶叫をした。
「襲い! 遅いなあ!! ニンジャ君!」
激痛を堪えて反撃しようとするが、衝撃が後からやってくる。
一発、一発の威力はそうでもないが、塵も積もれば山となるを実践されれば脅威というほかない。
周囲を黄黒の影が周回し、無数の打撃が浴びせられて雷電は打ち手に困った。
「遅すぎる!」
嘲笑とともに貫手を構えたズームの横から、赤き閃光が割り入った。
突進によって敵を弾き飛ばしたフラッシュが、息を切らした雷電に呼びかけた。
「大丈夫かい!?」
「ありがとう、助かった。
それにしてもあいつは何者だ?」
真剣な表情でズームを睨みつけるフラッシュが、苦々しく口を開けた。
「ズーム。本名イオバード・ソーン。
25世紀から来た危険な犯罪者だ」
「25世紀? デロリアンでも開発したのか」
「……さあね、映画好きなの?」
「よく観る」
話をしながらも二人の視線は、仰向けに倒れたズームから動かない。
微動だにしないが、いつ動き出しても危険なのは雷電ですら肌で理解している。
「ズームは時間の流動性を操って高速移動をしている。
僕はあくまで高速に動くけど、相手は時間操作だ。
同じスピードフォース使いでも能力の発露の方向が違う」
「ライトサイドとダークサイドのようなものか。
ダークサイドになれば雷を出せたりするからな」
「喩えとしてはあんまりだね。
そういえばEP7観た?」
「まだだ。そうか、こっちで観ればよかったのか。
しかし妻と息子と一緒に観る約束をしているからなあ」
全身を怖気が襲い、ズームの姿がコマ送りのように消えてフラッシュが横からいなくなった。
素早く周囲を見渡すと、フラッシュとズームが超高速移動をしながら互いに殴り合いを続けている。
なんというスピード。
雷電では強化された脚部を持っても、ついていくことは不可能だ。
だが、それで黙っている訳にはいかない。
黄色と赤の光線が絡みあう最中、軌跡の行き先を予測し、先回りする。
先の対ワンダーウーマンで行った極限集中の斬撃モードに、雷電は没入する。
雨雫一つ一つが止まり、弾丸もスローになる程の集中力。
そうやってすらフラッシュ達のことは朧にしか捉えられない。
前方に雷電が待ち受けているのに気づいたフラッシュは減速し、ズームを先に行かせる。
眼前に来るタイミングを測って袈裟斬り一閃。
黒と黄色のツートンカラーから血が噴く。
頬についた血を意識するよりも速く、腹部が大きく抉られたサイボーグ忍者の視界が明滅した。
「雷電!」
鬼気迫った形相で叫んだフラッシュを安心させるように頷き、雷電は噴き出す夥しい電解質――血液代わりの燃料電池をムラサマに付着させ、フラッシュへと刀を突き出す。
彼の狙いを悟ったフラッシュが高周波ブレードに足を乗せる。
損傷を押して、雷電は横薙ぎに背中まで振り切った。
サイボーグを生かす純白の血液が橋となり、フラッシュがその上を駆けていく。
雷電が生み出したズームの傷から出る赤色を追い、フラッシュが疾走する。
黄色い影に追いすがり追いつこうとした瞬間、ズームのシルエットがぼやけ、多重に連なりフラッシュの逆方向へと回りこむ。
反対方向を向いているヒーローへ、ヴィランが醜悪な笑みを貼り付けて殴りかかる。
そしてその更に横を、先読みしていた雷電が斬りかかった。
「何ぃ!?」
点々と落ちた血痕で辛うじて進行方向を辿った雷電が、今度こそズームに一太刀を浴びせた。
深く斬られた脇腹を押さえ、ズームは脂汗を流して二人を睨みつけた。
底知れぬ憎悪を発する双眸のままに、未来からの来訪者が語り始めた。
「2496年。私達の時代にはフラッシュが神として崇められていた。
セントラルシティの愚民どもは何をするにもフラッシュへの狂信から、
目を離しもしない。貴様が私達を停滞に追いやったのだ!」
「だからゴリラを誘拐したっていうのか!?
いったい何のために!」
「我が手駒を増やすためだ!
貴様との戦いで、私は速力よりも腕力の駒を増やすべきだと考えた。
そのために異世界から技術を盗んだ!
そこのサイボーグ君の世界のな!!」
暴虐を自慢気に語るズームに、フラッシュは怒りで拳を震わせた。
「耳を貸すな、フラッシュ。
この手の手合いがやることはいつも同じだ」
「ほぉ!? なら言ってもらおうか!」
「自分のために弱者を虐げる。
どこに行ってもお前たちのような輩は絶えない。
いつになったら滅んでくれるんだ?」
張り付いた仮面の如き笑みを崩さぬままに、
プロフェッサー・ズームは雷電へと攻撃を繰り出した。
重なる影は傷を負って陰りを帯びても、勢いをやめることなく。
地面に落ちていたマスティフの装甲片を拾い上げて、
ズームが繰り返し投擲してくる。
致命傷になるもの以外は敢えて受け止め、雷電が迎え討つ。
雷電は防戦一方になりつつも、
たしかに一つずつ敵の速さに近づいていく。
百のパンチを全て捌き、会心の刺突を出そうとする。
「25世紀はいつも言っていた。
フラッシュがどれだけ素晴らしいヒーローか!
偉大なスピードフォースに選ばれたこの私が、
どれだけ呪われた男か!
我が父が母を殺したという、それだけのことで!」
斬撃がズームの胴体を斬り裂かんとし――
だが雷電の頭に、大きな装甲片が落ちてきた。
周囲のスピードを操作するのがズームの能力。
落下速度を操作され、隙を突かれた雷電の動きが止まった。
「神(フラッシュ)に私と同じ刻印を刻み、邪神に落とし!
この邪神(リバースフラッシュ)こそが真の神になる!
死ねい! 異郷の忍者!」
ズームの漆黒の腕が雷電の目の前に迫る。
その前に、真紅の流星がズームを越えて雷電を抱えて走った。
勢い余って工場へ突っ込んだフラッシュは地面を転げまわり、
向こう側の荒野まで行って、ようやく止まった。
背後でゴリラ達を捉えていた工場の至る所に爆発が生じ、
燃え盛っていくアフリカの大地。
起き上がった雷電は、倒れるフラッシュを抱き起こして揺さぶった。
「おい! しっかりしろ、フラッシュ!!」
雷電の声に、薄く目を開けたバリー・アレン――フラッシュは、
うっすらと微笑んだ。
背中に回った雷電の腕に、彼を庇って大きく貫かれた傷から
血が流れて付着しだした。
フラッシュの手に、ズームの両腕両足と同じ
漆黒の刀が握られていたのに、雷電はようやく気づいた。
刃を握りしめ、自身に流れる稲妻を流し込み、
スピードスターは雷電に柄を向けた。
「これは、父さんが作ったスピードフォースアブソーバーの改良型だ。
本当はズームの背中に刺してやるつもりだったんだけど……
やっぱりダメだったね。けっきょく斬られてるのは僕だ」
「そんなことはどうでもいい!
何故、俺を助けた!?」
質問に対して、不思議そうに首を傾げたフラッシュが、
当たり前のように青ざめた顔に浮かぶ紫がかった唇を開いた。
「だって、息子さんとスターウォーズを観に行くんでしょ?」
「おまえ――――」
サイボーグ忍者が言葉を失い、
意識が消えていくフラッシュが、思い出したように付け足した。
「あっ、でも覚悟しておいて。
EP7のハン・ソロは――」
最後まで言い切ることができず、
目を閉じたフラッシュに雷電は必死に呼びかけた。
「なんだ!?
ハン・ソロの何を俺は覚悟すればいいんだ!?
たぶんEP6後には普通に共和国の将軍になって
まともに働いているだろ!?
出るのすら今知ったんだ、応えてくれ!!
無性に気になるぞ!!」
雷電はEP7をまっさらな気持ちで観るため、
あらゆる情報をシャットしてきた。
まさかこんなところで重大なネタバレを聞かされるとは。
何度訴えてもフラッシュは答えない。
だが、握りしめていたスピードフォースアブソーバーは倒れず。
かつての切り裂きジャックはそれを強く掴み、
ウォッチタワーに待機しているヴィクターへ無線を開いた。
「こちら雷電。フラッシュが負傷した。
今すぐ救助をよこしてくれ」
『わかった。あんたはどうする?』
「なあ、スターウォーズ新作のヴィランは誰だ?」
突拍子もない発言に、ヴィクターは一瞬困惑したが、
思慮に沈黙してから返事をした。
『……強いて言えば、カイロ・レンかなあ』
「そうか。なら俺は今から――」
ある浪人から受け継いだ刀と、
フラッシュから託された刀を構え、
雷電は獰猛な表情を浮かべた。
「――カイロ・レン狩りをしよう」
『ん? ちょっと待て!
言葉が悪かった。
今からきちんと説明するから、早まるな!』
雷電の真意を悟ったのだろう、
ヴィクターが必死に説得を試みる。
「本当にすまないが、お前達の流儀に付き合うのは終わりだ。
もう奴が来た。切るぞ」
通信を遮断した雷電の前に、
余裕綽々といった佇まいのズームが現れた。
こちらを侮りきった顔で、フラッシュへ顎をしゃくる。
「君に用はないよ、ジャック君。
その男を差し出せば、君だけは見逃すと約束しよう。
ゴリラは諦めたまえ。
しょせん、君には関係のない世界の住人だ」
「黙れ、カイロ・レン」
その言葉に、ズームのこめかみに青筋が浮かんだ。
「この原始人め……
言っていいことと悪いことの区別をつけんかぁ!!」
激高して怒鳴ったズームの声は届かない。
雷電の意識が「人を斬る」という一点に集中し、
燃え上がる赫怒と狂気が心と体に満ち満ちていく。
「俺は雨。雷の化身。
スネークのようなヒーローにも、
スネークが望むような人間にもなれなかった」
銀髪が鬼気に揺れる。
「だが、俺でもヒーローを守ることはできる」
全身に赤いオーラを立ち上らせ、
雷電は笑みを浮かべて地面を蹴った。
「ここからは俺(人斬り)の時間だ!!」
リベリアの悪魔、ジャック・ザ・リッパーの精神となり、
雷電は一足でトップスピードに持っていく。
予想外の速さにズームの動きが遅れ、
かすり傷が生まれた。
しかし、すぐに態勢を立て直したズームは、
黒色の暗闇を大きく震わせ、
黄色の悪魔となって雷電へと超高速の攻撃を仕掛けていく。
ストレート×100。
光速の連弾を丸ごと躱し、
雷電が手にした黒刀がズームを狙う。
「ハッハッハ!
たかがアブソーバーひとつで私に並んだつもりか!?
それを考案したのは、この私だ!」
哄笑を浮かべたズームが、雷電の頬に痛烈な打撃を浴びせる。
一発目はまともに直撃し、
二発目は寸前で刀を合わせた。
驚愕を露わにしたズームを、
超高速化した集中力が捉える。
赤い刀身のムラサマと、
黒い刀身のアブソーバーを交互に繰り出し、
敵の速度に迫る、迫る。
青空に炎が燃え上がる中、
認識を改めたズームが雷電の攻撃に即座に対応し、
双刀と拳の交戦が続いていく。
黄色の影が雷電から大きく離れ、
両腕を回して巨大な竜巻を作った。
雷電が舌打ちして猛威から逃れるが、
その先には、すでにズームが待ち受けていた。
超高速のステップによって、
雷電の全方角へ打撃が叩き込まれる。
限界を超えた脳細胞の活性化による超集中状態でも、
首まで同速度で動かすことは不可能だった。
なすすべもなく叩かれていく雷電を見て、
ズームは会心の笑みを浮かべる。
雷電に強力な掌底を食らわせ、
体が折れ曲がったのを確認すると、
背後に回って超振動によって
あらゆる物質を透過する貫手を構えた。
「やはり、そう来たか」
戦いの中で持ち手を柄から刃へ移し、
アブソーバーの刀身を握りしめる。
強烈な感電とともに、
雷電は一瞬だがスピードフォースへアクセスした。
攻防一体の斬撃によって僅かに軌道を逸らした貫手が、
雷電の左腕を斬り飛ばす。
超高速から超光速へ進化した斬撃モードが、
束の間の“ズーム超え”を雷電にもたらした。
「お前は超光速で動いているんじゃない。
ただ周りの速度を遅めて、
自分だけが速く動いているだけだ。
神でも皇帝でもない。
足を引っ張るだけのハイエナの速さなど――
俺たちに効くか!!」
お返しとばかりにズームの左腕を切断し、
返し刀で首を跳ねようと目論む。
だが、憎悪に濡れた瞳と同じ残忍な笑みを浮かべたズームが、
それよりも速く雷電の右腕を跳ね飛ばした。
勝利を確信したズームだったが、
その口から巨大な血塊を吐き出し、凍りつく。
右足で掴んだアブソーバーが、
ズームの腹部に深々と突き刺さっていた。
さらに落ちてきたムラサマを左足で掴み、
大きく体を捻る。
首の付け根を起点に、
雷電の両足が回転する。
逃げようと跳んだズームの足首が切り落とされ、
走る脚を失ったネガティブ・スピードスターが倒れる。
雷電は片足でアブソーバーを、
もう片足でムラサマを掴み、
ボートを漕ぐオールのように地面を蹴り続け、
ズームを燃え盛る工場へと引きずっていった。
「バカな……貴様ごときに!!」
際限なく速力を上げていく己の体に抗えず、
未来からの犯罪者は憤怒の声をあげた。
「違う!
私はフラッシュのような、真のヒーローになるんだ!!」
「お互い、力と才に恵まれていたようだな。
だが、ヒーローになるチャンスは平等だった。
お前の場合は――
五百年、遅かった」
超高熱に燃える炎へとズームを蹴り飛ばし、
言葉にならない絶叫とともに、
彼は工場最後の爆発に呑まれた。
着地しようとした雷電は、崩れ落ちる。
最後の攻撃で脚を酷使し、
もはや動くことはできなかった。
ゴリラ改造工場は跡形もなく消えたが、
燃え盛る炎から逃れる術はない。
「……ここまでか」
冷静に己の状況を判断し、
雷電の胸を一匙の後悔が過ぎった。
だが、満足そうに目を閉じる。
「まだ、眠ったらダメだよ」
明るい声音に目を開けると、
横に立つフラッシュが笑顔で見下ろしていた。
「まだ動けたのか!?」
驚きに目を見開く雷電に、
フラッシュは苦笑混じりに肩を竦める。
「いや、全然。
人よりちょっと速いくらいかな。
スピードフォースは、ほとんど君に託したからね。
回復には、まだまだ時間がかかるよ」
「なら、どうして来た!
今すぐ、お前だけでも逃げろ!」
焦りを滲ませる雷電に、
フラッシュは少し困ったように笑った。
「これから、ゴリラを助けに行くんだ。
彼らはタフだから、
もう目を覚ましているのもいるだろうけど……
念のため、君にも手伝ってほしいんだ」
もどかしげに上体を起こした雷電は、
突き放すようにフラッシュを見上げる。
半ば投げやりな調子で、首を振った。
「黙っていたが、俺は人殺しだ。
お前たちとは違う。
……元の世界に戻っても、
俺は自分の信念に従って、
悪党を斬り続ける。
そんな奴を、助けるな」
「あなたは、僕を助けてくれたじゃない」
にっこりと笑い、
雷電を助け起こしながら、
フラッシュは当然のように言った。
「奥さんも子供も待ってるんでしょ?
なら、一緒に帰ろうよ」
その言葉に、
雷電――ジャックは目を見開いた。
数秒だけ瞳が震え、
何かを言いかけたが、
結局言葉にできず、苦笑する。
「……まったく、パンクロックな奴だ」
---
校正(回想・ラスト)
ゴリラ救出作戦の数カ月前。
アイアンハイツ刑務所。
ズームを投獄するまでは、
日課のように通っていた場所だ。
バリー・アレンは、
母を殺した罪で服役している父に面会するため、
よくここへ足を運んでいた。
分厚いガラスを挟み、
腰掛ける父――ヘンリー・アレンと、
息子のバリー・アレン。
受話器を取り、
バリーが穏やかに語りかける。
「やあ、父さん。
気分はどう?」
「私は、いつも通りさ」
元気づけるように言うヘンリーだが、
それが空元気だと、
バリーはとっくに気づいていた。
罪悪感に押され、
バリーは額に手を当てて俯く。
「ごめん。
少しでも早く父さんを出そうとしているんだけど……
僕にはまだ、
母さんを殺した奴の手がかりが、
全然つかめなくて」
「かまわないよ。
お前は、お前の人生を生きてくれればいい」
「そんなわけないよ!!」
感情を荒らげるバリーに、
ヘンリーは諭すような口調で続けた。
「覚えているか?
お前が、初めて競争で一等賞を取った日のことを」
「えっ?
う、うん……」
意表を突かれ、
気の抜けた返事をするバリー。
父は懐かしむように微笑んだ。
「あの日は、
母さんの親しい人に不幸があって、
ノーラが落ち込んでいた直後だったな。
その前で、
いつもビリッケツだったお前は、
『今日は絶対に一等賞を取る』と息巻いた」
「無謀だったよね。
一度も取れてなかったのに」
「だが、お前は本当に取った。
母さんを勇気づけようと走るお前は、
誰よりも速かった」
ヘンリーは静かに言葉を重ねる。
「お前は、いつでも俺のチャンピオンだ。
誰かのためなら、
お前は誰よりも速く走れる。
誰かに勇気を与えるためなら、
お前は稲妻になれる」
両目を閉じ、
刑務所の中で、
ヘンリーは幼い頃のバリーを思い浮かべる。
バリーは、その姿を黙って見つめていた。
「子供の頃から、
お前は雷だった。
みんなを勇気づける、
晴雲の化身だった」