DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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ジャスティスリーグ・インターナショナル:彼の黄金時代

 

 

ジャスティスリーグ・インターナショナル。

ジャスティスリーグの後継組織であり、

後に独自の名称を打ち出したチーム。

世界各国に大使館を構えた、

アホの伏魔殿とさえ恐れられる一団。

 

地下奥深くの倉庫にて、

大企業・コード産業の御曹司であり、

大富豪のテッド・コードが

ブルービートルの装いをし、

今日もブースターと密談していた。

 

「僕達も中々知れ渡ってきたと思わないか。

 今日なんて近所のおばあちゃんにウィンクされた」

 

「そりゃよかったな。

 そのまま結婚しちまえよ」

 

外からは想像もできない広大な地下広場に、

ぎっしりと積まれた木箱。

邪神世界、アポカリプスの技術を転用して

開発された収納術によって、

一箱あたり、5tのオレオが入っている。

 

オレオ。

スーパーマン、シャザムと並ぶ強者、

マーシャン・マンハンターの好物だ。

 

「でもせっかくジャスティスリーグに入ったんだから、

 俺達もこう、グワッと来るようなのが欲しいよな」

 

「『正義と悪の境界線がわからなくなってきた』って言えば、

 なんかそれっぽくなるらしいってTTが呟いてた」

 

「TTの誰だよ?」

 

「twitterの公式アカウントだから、

 わからないけど、ロビンの呟きだけは

 バットマンが必ずクソリプ飛ばすからすぐわかるよ」

 

「マジか。

 そいつは正義と悪の境界線がわからなくなってきたぜ」

 

「ああ、わからないな……ゲェーッ!

 これ良いぞ!

 ティーンのパクリっていうのが気になるけど!」

 

「正義と悪の境界せーーーん!!」

 

「境界せーん! わからなーい!」

 

その内の一つの蓋を開け、

四次元世界に収納されたオレオに

ブースターがあれこれ細工している。

 

「マイキー。一緒に街に繰り出そうぜ。

 外ではホットな女性たちがヒーローを待っているんだ」

 

「っていうか、お前も手伝えよな」

 

暗き深淵から、

鼻の頭にクッキーの粉をつけた

マイキーが顔をあげる。

 

「僕は開発担当だろ?」

 

「子供の玩具を小型化しただけじゃねえか。

 終わったから良いけどよ。

 任務完了だ! 帰還せよロックマン!」

 

「オッケー、シグマ!」

 

「そこはゼロにしろよ!」

 

蓋を閉めて、

二人はニヤつきながら甲高く手を鳴らした。

 

「いやー、楽しみだな!

 ジョンがこれを食べてどうなるか」

 

「なんせオレオのクッキー部分を全部、

 コーヒーゼリーに変えたからな!

 こりゃ、さっくりクッキーが

 もっちり寒天に早変わりだぜ!」

 

「あとはバットモービルに仕掛けた

 ブーブークッションの成果を待つのみだな!!」

 

「おうよ!

 犯罪者を捕らえに行こうと

 バットモービルに乗り込んだら、

 ケツから屁の音がするんだ。

 世界最高の探偵にこれができるのは

 ジョーカーと俺達くらいだ!」

 

「楽しみだよなあ。

 いつかバットマンにカンチョーして、

 僕こそが世界最高のアレだって証明するんだ!」

 

笑い合って倉庫から顔を出すと、

緑色の巨大ダンベルが落下してきた。

直撃する前に避けたテッドが、

血相を変えて怒鳴った。

 

「おい、何を考えてるんだ!?

 当たったら死にかねなかったぞ!」

 

「へーっへっへっへ!

 テメエらボケどもが死のうが、

 知ったこっちゃねえぜ!

 青と金なんて、ちょっと上等な金虫じゃねえか!」

 

「野郎っ!

 虫扱いはテッドだけにしやがれ!」

 

「金虫に青は関係ないだろ!」

 

宇宙最強の治安維持部隊、

GLのガイ・ガードナーがふんぞり返った。

緑のジャケットを羽織った彼も、

トラブルメーカーとはいえ

JLIの一員だった。

 

「訳を聞きな、クソども!

 このチームは緑色が多いと思わねえかぁ!?

 ジョンにファイア、三人もいやがる!

 こりゃぁ、俺が

 I AM NO.1 グリーンと示さねえとなあ!」

 

「それでどうして俺たちを狙うんだよ!?」

 

「テメエらが目障りだからさぁ!

 トーラに妙なことも吹き込みやがったなあ!」

 

「妙なことって降参したヴィランを

 ボッコボコにしたことか!?

 それともお前がクソッタレってことか!?

 どっちも事実じゃねえか!」

 

「事実は時として人を傷つけると

 シェイクスピアも言ってたぜ、殺す!!」

 

相変わらず話が通じない。

問答無用で襲いかかったガイに、

マイキーが掴みかかった。

 

ここはJLI大使館。

世界各地にJLIの活動拠点があるが、

アメリカではここだった。

 

某国が維持費を払えずに使い捨てにした

ものを拝借したものだが、

大使館とは事務や接待だけではなく、

様々な用途のために作られるものだ。

 

寝泊まりする施設としては、

甚だ快適と言える。

 

そんな大使館が、

ガイとブースターに壊されていた。

 

「おい、やめろよ!

 みんなが来たらどうするんだ!?」

 

「文句があるなら喧嘩にまざれと言えや!」

 

「文句があるなら全部ガイが悪いと言えや!」

 

「抜かしてくれんじゃねえか、

 金欠の金虫がぁ!」

 

ソリッドライトのグローブを飛ばし、

避けたブースターの足元に大穴が空いた。

質素な作りのライトが揺れ、天井から

埃がいくつも落ちてきた。

 

「やばいぞ、オレオ倉庫が!」

 

突進しあった二人が

穴を広げて暗い倉庫に落ちた。

マーシャン・マンハンターの

憩いの場であり、

何人たりとも侵してはならない

聖域であった。

 

今の今まで

ブルー&ゴールドが侵していたのだが。

 

「何の騒ぎだ?」

 

毎日の騒ぎに、

滅んだ火星の生き残りが

頭痛を覚えながら入ってきた。

 

眉間に寄った皺が

事態を悟ってさらに深くなり、

絶望へと変わっていった。

 

「……なんで私のオレオを傷つけるんだ?」

 

地下で行われる乱闘で

オレオの箱が飛んできた。

逃げ惑うテッドがジョンの後ろに隠れ、

緑の腕で軽々と受け止めた。

一箱、数tもあるそれを

紳士的に降ろし。

 

穴から頭だけ出した

ガイの首根っこを掴み、

持ち上げた。

 

「何をしやがる、テメエもヤル気か!

 って、クソのジョンじゃねえか!

 ぶっ殺してやるぜ!」

 

「やあ、ガイ」

 

「これはどうもご丁寧にだぜ、ダボがぁ!」

 

ソリッドライトが構成されるより速く、

ガイの首筋に手刀を叩き込んだ。

昏倒したGLを投げ捨て、

腰に手を当てたジョンが、

威圧感たっぷりに

居心地悪そうに出てきた

マイケルの言い訳を待った。

 

「全部ガイが悪い」

 

「文句があったら喧嘩にまざれだってさ」

 

「そうか。それで私に文句は?」

 

「いえいえいえいえいえ、滅相もありやせん!

 今日もオレオが似合うダンディさですよ、ジョンさん!

 ささっ、これを食べて

 機嫌を直してくだせえよ!」

 

そう言って恭しく差し出した

オレオの木箱。

好物を前にすれば、

損ねていた火星人の機嫌も緩んだ。

そっと受け取り、

中から放たれるオレオの気配に浸る。

 

「だから、あのクソボケマヌケの

 とんちき野郎とは

 付き合うなと言ったでしょう!」

 

「どうしてそんなことを言うの?

 私には彼の心の奥底に眠る訴えが聞こえるわ!」

 

「それは気のせい! 気のせい!!

 マジで気のせい!!

 ノルウェイと都会の温度差に

 ちょっと頭がやられているのよ!」

 

「誰がどう言おうと私はガイを見捨てないわ!

 貴女は私のパパでもママでもなんでもないんだし!」

 

「信じて送り出した娘が

 ガイ・ガードナーにドハマリして

 デートに行くなんて知った時の

 親御さんの気持ちを考えなさい!!」

 

クッキーに合うミルクのことを考えていた

ジョンに、またしても喧嘩が聞こえてきた。

トーラ・オラフドッターと

ベアトリス・ボニーヤ・ダ・コスタだ。

名前の通りの能力を持つ、

アイス&ファイア。

 

ルーキーなため、

知名度はさほどではないが、

二人とも強力な能力の持ち主だった。

 

ジョン・ジョーンズは、

彼女らがこちらに来て、

オレオに満たされた多幸感を

壊さないことを願ったが、

残念ながら二人とも入ってきた。

 

「ただいま、ジョン」

 

「今帰ったわ。

 うわっ、またボンクラコンビが

 やらかしたのね。

 さっさと脳改造でも受ければいいのに」

 

「本人の前でそういうこと言うなよ!」

 

「僕は天才的な頭脳の持ち主だぞ!?」

 

部屋に入ってくるや否や惨状に

口に手を当てて驚いたアイスと、

顔を歪めて軽蔑を露わにしたファイア。

文句を口にした男二人もあり、

ジョンに再度の頭痛ができた。

 

「とにかく、ブースターとビートルは

 私の部屋に来い」

 

「オレオを食べろって!?」

 

「違うっ!!」

 

「違うのかよ。

 正義と悪の境界線が

 わからなくなってきたぜ」

 

「きゃあっ、ガイが死んでる!」

 

「よっしゃあっ!」

 

ガッツポーズをしたベアトリスを、

テッドが冷静に訂正した。

 

「気絶しているだけだよ」

 

「なら今のうちにぶち殺しましょう!」

 

「手伝うよ。ほら、トンカチ」

 

凶器を渡され、その気になった

ベアの前で、

倒れた者の体に

トーラが覆いかぶさった。

強い意志を感じさせる雪色の瞳が、

燃える熱情の女を睨んだ。

 

親友にそんな風に見られて

怯んだファイアだったが、

自分を奮い立たせ、

トンカチを振り回した。

 

「どきなさい!

 あなたにはもっと

 相応しい男がいるはずよ!

 せめて、ヴィランとの

 禁断の恋くらいに抑えて」

 

「きっと彼も更生できるわ!

 今はトンチキ野郎でも堪えましょう。

 これ以上、下にはならないもの!」

 

毎度のことだが、つくづく気が滅入る。

ジャスティスリーグの後継組織であるはずなのに、

どうしてこうも馬鹿が集まるのか、

ジョンは途方に暮れた。

 

「で、今日はこれでお開きかい?」

 

ブースターゴールドが、

卑しさたっぷりに

伺いを立ててきた。

 

「ダメに決まっているだろう」

 

 

#####

 

郊外の一軒家。

近所づきあいも至って順調。

庭にはプールを買い、

中流家庭の生活を謳歌する。

 

ニューゴッズの長、ハイ・ファーザーの

末子に生まれ、外交のために

無限地獄次元であるアポコリプスにやられた

スコット・フリーは、地球の暮らしを満喫していた。

 

屋外に設置したベンチに寝転がり、

ビール瓶を片手に夜空の星々を眺めている。

 

「いーー人生だ。なあ、二人とも!」

 

隣に寝転がる同僚、

キャプテン・アトムとロケットレッドに声をかけた。

前者は米国の軍属であり、原子の力を支配するヒーロー。

後者はロシアのスーパー兵士であり、

水と油に見えるが、JLIの中では数少ない真面目さを持つ者として

親交を深めていた。

 

国が犬猿の仲であっても、こうして親しくなれるのだ。

互いの息子を交換して奈落のドン底に突き落とすようなことを

する必要もなく。地球で学んだこと。

素晴らしい星だとスコットは思う。

 

ファッキュー・ダークサイド。

ファッキュー・ハイ・ファーザー。

神にはクソッタレしかいない。

 

「同士ナサニエルよ、

 ビールは飲まないのか?」

 

「いや、いい。

 気遣いに感謝する」

 

「何故だ……夜だぞ?

 酒を飲まずしてなんとする。

 労働は美徳だと書記長もおっしゃっていたが、

 屈強な吹雪の民には酒の熱気も必要だ!」

 

「飲食は必要ないんだ」

 

銀色の光沢を放つボディを持つ

キャプテン・アトムが悲しげに答えた。

彼の本名はナサニエル・クリストファー・アダムだが、

1947年に受けた実験により原子の支配者となり、

人の体を失ったことは有名だ。

 

「帝国主義と資本主義の豚どもに乾杯」

 

「……お前、米国軍人の前でいい度胸してるな……

 とにかく、いけ好かない共産主義のアカどもに」

 

ボトルを鳴らしあい、軍人たちが親交を深める。

美しい光景であった。

キャプテン・アトムはともかくとして、

ロケットレッドまでアーマーをつけたままなのが

少し異様ではあるが、些細なことであった。

 

ロシア出身のロケットレッドにも

相手の抱く悲哀と葛藤が伝わったのだろう。

無言でワインの瓶をナサニエルに押し付け、

自分はウォッカのボトルを掲げた。

 

話に置いて行かれたスコットが、ちびちびと

缶ビールを啜っていると、

家の中から愛する妻の声が聞こえてきた。

 

「ちょっとダーリン!

 頼んだものと違うのを買ってるよ!!」

 

「ええっ!? 本当かい、ハニー!?」

 

肝が冷える心地でリビングに飛び込むと、

昼間にバーゲンで主婦にもみくちゃにされながらも

勝ち取ったブラウスを手に、ビッグ・バルダがむくれていた。

 

バルダもまたアポコリプスの生まれで、

ダークサイドの親衛隊として勇猛を馳せた女傑。

色々なすったもんだがあって、

スコットと恋に落ち、地球に居をかまえた。

もう、百年以上昔のことのようだ。

 

「ごめんよ、明日べつのを買ってくるから……」

 

スコット・フリーはMR.ミラクルという名のヒーローだ。

ある能力に長けていることから、

世界中のセールを勝ち抜き、円満な夫婦生活を維持していることで

近所の尻に敷かれる男性達からの羨望をも勝ち取っている。

 

“とりあえず何がなくとも謝って

こっそりサンドバッグを叩け”という

スコットが提唱した理論に依って、

夫婦仲を好調にした夫は100では効かない。

 

身長2mを越える長身に、

炎竜をビンタ一発で倒してみせる腕力。

そんな彼女の怒鳴り声は

スコットの鼓膜を揺らし、三半規管をミキサーにかけた。

 

「すんだことはいいとして、お友達は

 何時までいるんだい?」

 

「ネイトとドミトリのこと?

 そんな、ハニー、彼らは君にとっても大事な戦友じゃないか」

 

「泊まっていくなら寝床を用意しないといけないし、

 酒だけ出すわけにもいかないから聞いているの。

 遅くまでいるなら腹持ちがいいものを作るから」

 

「わかってないなあ。

 お酒だけ呑んでのんびりするのがいいんじゃないか」

 

「いいから聞いてきな!

 こっちは奥様会議で勉強してんだよ!」

 

「はいっ」

 

怒鳴られれば借りてきた猫にもなる。

この切り替えの速さは、過酷なアポコリプス生活で

培った自慢の特技であった。

 

友人たちの所に戻ってみると、

彼らはウォッカやワイン以外のことに

気を取られていた。

 

「おや、あんなところに少女がいるぞ」

 

ロケットレッドが指を差した方を見ると、

たしかに10歳くらいの女の子が立っていた。

少女とは思えない色気であったが、

ボサボサの短髪と極度に露出の高い格好が

ジャングル帰りの野生児のように見えた。

 

「妙だな。

 もう11時だぞ」

 

「やあ……同士!

 女の子とは何と言うんだ?」

 

「お嬢さんだ」

 

「お嬢さん、こんな時間に……うろちょろしては

 危険だよ。

 この私、偉大なるロシアのヒーロー、

 ロケットレッドが家まで送ろう」

 

「待て、ロケットレッド!

 その子はもしや――」

 

見覚えがある顔立ちに

引っかかるものがあったスコットが

警告する前に、燃える赤毛の少女が

ロケットレッドの腕に噛み付いた。

 

「ぐぉぅ!」

 

「ドミトリ!」

 

アーマーに罅が入る程の噛み付きに

ロケットレッドが悲鳴をあげ、

咄嗟にキャプテン・アトムが少女を引き剥がす。

それだけでは済まず、ナサニエルの

鋼の如き腹部に細い肘が突き刺さった。

 

「やばい!

 彼女はフュリーの一人だ!

 ダークサイドの部下だぞ!」

 

「フュリーというと、同士バルダがいた組織か!

 ならば今すぐ奥方を呼んでくれ。

 異常な力を持っているぞ!」

 

「話が通じる相手じゃない。

 とにかく交戦して捕らえよう!」

 

ロケットレッドが腕を抑え、

スコットがまたも家に飛び込んで

MR.ミラクルに着替えた。

 

それと入れ違いに、戦いの匂いを敏感に嗅ぎつけ、

鎧と兜をまとったビッグ・バルダが

別宇宙のタマラン星の生き残り、クリに斬りかかった。

 

「クリ! 何をしている!?」

 

「お前の師に、仲間を皆殺しにして

 スコットとバルダを連れて帰れと言われた」

 

「師!? まさか」

 

高速で動く山猿の動きで

キャプテン・アトムとバルダを翻弄。

目潰しを避けて裏拳を放つが、

タマラン星人の身体能力とアポコリプスの残虐性が

クリに敢えて攻撃に向かわせた。

 

額に弾かれた手甲。

キャプテン・アトムが光線を放つが、

当たりはしない。

 

「どうする、同士。

 あのアポコリプスの少女は

 かなりの実力者だぞ」

 

「それよりも気になるのは、

 バルダの師の命ということだ」

 

休息の最中、突如として起きた戦闘ながら、

全員がスムーズに戦闘態勢に移行した。

MR.ミラクルが状況を収めようと、

フライングディスクをいつでも出せるようにし、

クリへと穏やかに歩み寄った。

 

「久し振りだね、スコットだよ。

 アポコリプスではともかく、

 地球は君のような少女には優しくするものなんだ。

 ほら、こんな風に頭を撫でよう」

 

「気をつけろ、同士!

 手が噛みちぎられるぞ!」

 

「大丈夫大丈夫、ほら噛み付いた――!!」

 

予想通り手を噛まれ、

アポコリプスの技術を用いた

アーマーが悲鳴をあげた。

 

助けようとする妻に

目配せして、怒れる哀れな女の子に

マントをかぶせた。

 

「ワン・ツー・スリー!」

 

指を鳴らすと、

口の中にあった手は自由となり、

クリとスコットが10m離れた場所に移動していた。

 

“脱出王”の称号を受け継いだ

スコットは手品の達人。

種も仕掛けもある奇跡の使い手である。

 

子供は手品が好きなものだ。

地球で理解したこと。

たとえば夜中まで馬鹿騒ぎして

近隣から苦情が来ても、

街の子供を集めて手品のショーをすれば

評価はうなぎ上り、怒りも収まる。

 

アポコリプスの蛮人にも

通じるか、腕の見せどころと言えよう。

 

何が起きたかわからず、

キョロキョロしたクリは、とりあえず

流れる動作でスコットを殴り飛ばした。

 

「んぐふぅ!?」

 

「ダーリーーーン!」

 

夫が縦回転してバルダに激突した。

ロケットレッドとネイトが

連携してクリに挑むと、

すぐ近くから赤く禍々しいゲートが開いた。

ブームチューブ、次元と空間を越える扉だ。

 

バルダの両腕から降りた

スコットが恐ろしいものを目にして、

恐怖に青ざめた。

 

波動の中から現れた

巨体に、バルダですら戦慄を

露わにした。

 

「やはり彼女が……」

 

「ああ」

 

姿を表したのは、

何処にでもいるような

太った白髪の老婆が

バルダと同じ鎧を付けたもの。

 

「グラニー・グッドネスのお出ましだ」

 

老婆、グラニー・グッドネスは

柔和な笑みを浮かべ、

手近なネイトを殴り飛ばした。

 

######

 

JLIのリーダーは誰かというと、

多くがマーシャン・マンハンターと答える。

それは彼が対外交渉、メンバーの躾、

買い出しの指示、就寝の呼びかけ etc といった、

あらゆる仕事をこなしているせいだ。

 

だが、世界最高のバットマンも

JLIのリーダーという汚名を着せられることがある。

的確な戦術と命令、

常に冷静沈着に動き、

あのガイ・ガードナーを一発で

殴り倒した武勇伝を持っている。

 

ガイとの確執と喧嘩への勝利は、

ヒーロー、ヴィラン問わず語り草となっている。

ある意味で両陣営からの尊敬と称賛を得ている男である。

 

そんな彼が、チームのオペレーター、

小人のオベロンと会話をしている。

 

「儂が思うにだね、バッツ。

 やはりガイとブースターにはもっと

 キツイお仕置きが必要だ。

 彼らは年長者、そう、このオベロンへの

 敬意がなっとらん」

 

地球に不慣れだったスコット夫妻を

手厚く世話をしたこのドワーフは、

小人だったが、年老いていた。

 

「そうか」

 

「ああ、テッドなんてこの前、

 モニターの仕事をサボってゲームをやっとった。

 ヒーローがスマブラをやるか?

 無論、儂のメタナイトで

 八つ裂きにしてやったわ。

 お前さんも今度スマブラに混ざるか?」

 

「ふむ」

 

「はぁーー、忙し忙し。

 マックスの代わりに

 書類仕事をしろだとよ」

 

「わかった」

 

無口なバットマンだが気にせず、

ドワーフは語り続けた。

前職はサーカスのプロモーターであり、

先代MR.ミラクルの弟子であった。

 

有能だが、JLIメンバーのご多分に漏れず、

話し好きだった。

仕事があるからと二階のモニタールームに

上がったオベロンを見送り、

バットマンは掃除用具入れに呼びかけた。

 

「いるんだろう? 出てこい」

 

「いやぁー、どうもどうも!」

 

バツが悪そうに頭を掻いて、

ブースターが出てきた。

バットマンがしょっちゅう顔を合わせている

彼とは違う、未来のブースターだ。

 

「やっぱ探偵さんの目は

 誤魔化せないかあ!」

 

「何をしに来たんだ?」

 

バットマンが尊敬するヒーローと言えば、

スーパーマン、初代グリーンランタンの

アラン・スコット、

尊敬とは若干違うが

ディック・グレイソンが挙げられる。

そしてその中に名を連ねる

もう一人がブースターゴールドであった。

 

ジョーカーがバーバラを辱めたことに

端を発する一種の契機と言える事件。

そこに陰で関与した

ブースターゴールドの行いに

受けた感銘は大きい。

 

「実はちょっとテッドと

 隠れんぼしててさ。

 それでここにいたわけよ!」

 

「取り繕わなくていい」

 

顔つき、そして生え際を確認して、

ブルースが穏やかに言った。

 

「未来から来たんだな?」

 

「そこまでお見通しとは恐れいったぜ!

 まさか時代までわかるとはな!

 どうやってわかったんだ?」

 

「やっぱり頭髪スキャンをしましょう。

 現実から目を逸らさないで」

 

背後から顔を出したスキーツが

マイケルに耳打ちした。

忠実な友の頭を叩き、

彼が呵々大笑した。

 

「ごめんごめん、こいつ

 最近、目が悪くなってさ!」

 

バットマンはいつものように

ニコリともしない。

それでも未来の黄金の男が

しつこいくらいに笑い続けた。

 

ブースターの冗談が好きという性格は

把握していたが、ようやく

違和感に行き当たり、得心がいった。

 

「……私も席を外した方が

 よさそうだな」

 

「悪い。

 知られちゃマズイんだ」

 

おどけた様子から

真剣な表情になったブースター。

彼の知るブースターとは

まさに別人だ。

 

「そうか。

 何をしているかわからないが、

 気をつけろよ」

 

「ありがとさん」

 

ブースターを置いて、

リヴィングを通り、

ジョンが待つ部屋に向かう。

 

マーシャン・マンハンターに

割り当てられた部屋であるのと同時に、

彼の自室兼オレオ部屋同然だった。

ドアを開けると、

緑色をした無毛の巨漢が

腰に手を当てて

ブルー&ゴールドを見下ろしていた。

 

椅子に座って退屈そうにしている二人は、

さっき会ったブースターゴールドとは

明らかに若く、物知らずであった。

 

ソファにガイが寝かされているが、

それはどうでもいい。

いつものことだ。

 

「どうした、ジョン。

 彼らを叱るのは

 君の役目だろう」

 

「今日もガイと問題を起こした」

 

「昨日は起こさなかったよ!」

 

「なら一週間は

 保たせるべきだったな」

 

「おいおい、そんなことをしたら

 禿げちまうぜ!」

 

手を挙げて訂正した

テッドとブースターだったが、

ジョンに睨まれて

すごすごと引き下がった。

 

「大丈夫だ」

 

金色の方に

バッツが声をかけた。

 

「一週間先はまだ、

 大丈夫だ」

 

「……?」

 

言われた方は

クエスチョンマークを浮かべたが、

バットマンは悠然と頷いた。

 

眉間に皺が寄り、

言葉を探して

JLIのリーダーが

とりあえずオレオを食べた。

 

「おぉ……!!」

 

険悪だった火星人の顔が、

氷解した氷のように

溶けていった。

 

オレオ。

チョコレートクッキーに

バニラを挟んだジョンの好物。

その好物っぷりは、

中毒症状ではないかと

疑うほどだ。

 

以前、ためしに

チョコ味のポテトチップスを

自室に投げ込んでみたことがあったが、

ウェイン社の技術の結晶といえど、

烈火の如く怒鳴りこんできた。

 

その時はガイがやったことにして、

事なきを得た。

 

「やはり……オレオ……

 つまりだな、ブースターにテッド。

 お前達はまだ

 学生気分なんだ」

 

「馬鹿言うなよ、ジョンちゃん」

 

「学生時代にはもう

 大人だったよ、ジョンちゃん」

 

「そっちの大人じゃない!

 ……ハァ。

 お前からも何か言ってやってくれ。

 ここにはスーパーマンも

 ロビンもいない。

 お前も社交性に満ちた

 尊敬を集める大人となるんだ」

 

「ふむ……」

 

口元に曲げた人差し指を添えて、

バットマンは思考した。

 

ブルー&ゴールドの無能っぷりには、

彼とて思うところはある。

 

しかし、彼はすでに

二人が未来には

偉大なヒーローに

なるだろうことを知っている。

 

正確には

ブルービートルの方はわからないが、

親友、師弟とは

切磋琢磨しあうものだ。

自ずと互いに影響を受けて

立派になるに違いない。

 

「普段のロビンへの振る舞いを

 他の子供にすれば

 私はお前を警察に引き渡す。

 だが今回は子供ではなく、大人だ。

 25も越えよう大人だ。

 ガツンと虐待してやれ」

 

「虐待とは心外だな」

 

「なに……

 まさか自覚がないのか?」

 

驚いたジョンを無視して

バットマンは話した。

これもいい機会だ。

 

「かつて、諸国を行き来した際に、

 某国の武術の達人と

 話し合ったことがある。

 ロビンを弟子にして

 すぐの頃だった」

 

「おっ、バッツの昔話だ」

 

「めったに聞けないけど

 面白いよな」

 

「無敵超人、我流Xと尊敬される、

 メタヒューマンめいた好々爺だ。

 彼との夜通しの対談は

 実に有意義だった。

 『つか内弟子に人権って

 いらなくね?』という言葉には、

 この私とて

 感動を禁じ得なかった」

 

教え子を持つというのは

いつになっても慣れないものだ。

それは時に心を強くするが、

同時に弱さも生んでしまう。

 

しかし、真心をこめて接すれば

相手にはいつか伝わると

信じてきた。

 

「そうして私はロビンが

 TTからの活動から帰れば

 アーカムに潜入しろと告げ、

 それも終われば

 盗聴器と小型カメラを使って

 事細かにモニターしておいた

 彼の生活について

 じっくり諭し、

 反論があっても

 相手がこちらの真意を

 理解するまで口を閉じる。

 休みなど五年に一度あれば十分という

 綿密なプランに基づいた

 カリキュラムに添っての

 ことだった」

 

「虐待だ……

 それはどう考えても

 虐待だ……」

 

ジョンが失礼なことを呟く。

それは間違いだ。

「いつか殺す」と何度言われたか

わからないが、

喧嘩ひとつなく、

ブルースとディックは

絆を深めていった。

外から内側とは

わからないものだ。

 

頭痛を覚えたのか、

オレオを十個、

一気に口内に入れて、

火星人は何かに耐えていた。

 

「つまり結論を述べるとだな。

 お前達は覚醒しろ」

 

「……………………?」

 

「なんか変なこと言い出したぞ」

 

「いつものことだろ」

 

慣れない長口上だったが、

言い切ると

気分がいいものだった。

 

聞いていた三人は

真意を呑み込めなかったが、

直に意味がわかることだろう。

格言とは

そういうものだ。

 

満足していたバットマンに

通信が届いた。

焦りに満ちた

激しい声音の

ロケットレッドからだった。

 

『聞いてるか、同士よ!

 スコット家で

 偉いことが起きた!

 白熊のウォッカ並だ!』

 

「落ち着け。

 例えがわからない」

 

『アポコリプスからの侵略だ!

 老婆と少女だが、

 実力は全盛期の

 スターリン書記長に匹敵する!

 スコットが攫われた事件では

 オベロンが

 ダークサイドとTRPGをして

 解決したが、

 今回はそうは行きそうにない!』

 

「わかった。

 今すぐ向かう。

 お前達も

 持ちこたえてくれ」

 

通信を終えると、

荒事の気配を察知したのだろう、

ガイがのそのそと起き上がった。

 

「スコットとバルダの家に

 アポコリプスが

 襲撃してきた。

 今から対処しに行く」

 

「ああっ!?

 無能力者の無能が

 何リーダーヅラして

 ヌカしてんだ、タコがぁ!

 この場でぶっ殺してやる!!

 テッド!

 俺のリングを

 持ってな!」

 

目覚めてそうそう、

ガイが自分からリングを外し、

突っかかってきた。

時間がないので

殴り飛ばし、

壁に頭を埋めた。

 

「ファイアとアイスにも連絡して、

 すぐにでも向かおう」

 

「よっしゃ、行くぜテッド!

 お前のバグまで競争だ!」

 

威勢よくかけ出した二人。

残ったマーシャン・マンハンターが

渋い顔で言った。

 

「最近、心配になるんだが……

 君もこのチームに

 染まってきてないか?」

 

「何を馬鹿なことを。

 それはそうと、

 頼まれた『鼻で吸えるオレオ』だ。

 これを食べたら

 彼らの子守りへの意欲も

 増幅するだろう。

 注文通り……

 ガツンと来るぞ」

 

「ありがとう!!」

 

布に包まれた

オレオの粉末を受け取り、

何を話したかも忘れて、

ジョンが

嬉しそうに笑った。

 

#####

 

「さて、この中で

 少女や老婆と戦うのは道徳的に

 無理だと言う者はいるか?」

 

バットマンの質問に、その場の全員が首を振った。

 

「最低だこいつら……」

 

世間知らずの火星人が打ちひしがれたが、

頼もしい奴らだ。倫理的には軒並みクズだが、

こういう時は役に立つ。

 

「僕はおばあちゃん子だから、

 むしろあっちの方が無理」

 

「スコット~~、婆やが迎えに来たよぉ!」

 

「すまない、グラニー。

 僕はもうあそこに戻る気はないんだ!!」

 

「そんなこと言って、あたしにはお見通しだよ。

 なんせ、あんたのおしめを換えたのは、

 このグラニー様だからねえ!」

 

交戦というよりは逃げ惑っているスコット。

しかしそれも無理は無い。

彼は接近戦向きではないのだ。

 

「なら私、ジョン、アイス、ファイアが老婆と戦うから、

 残りはフュリーの刺客と戦え」

 

「ああ!? クソババアなんて俺がワンパンだぜ!」

 

指示を無視してスコットとグラニーの間に

突入したガイがカウンターを喰らい、ダウンした。

よくあることなのでJLIは気にしない。

 

「しかし、あんな小さい子を親衛隊に入れるって

 ダークサイドはどんな趣味をしてるんだ。

 おまけにババアもいるんだぞ。

 ストライクゾーンもアポコリプスかよ」

 

「親衛隊はそういう意味じゃないんじゃないか?」

 

「バルダには絶対に言わないほうがいいな」

 

ブースター、テッド、マーシャン・マンハンターが

バルダとロケットレッドに加勢した。

 

スターファイアの面影を強く持つ

クリの容貌にマイケルが声をあげた。

 

「おいおい、めっちゃ激マブの素養があるじゃねえの!

 タマラン星人ってみんなこうなのか!?」

 

「彼女はアース2のクリーだ。

 タマラン星人の身体能力は知ってるな!」

 

「よし!! ほどほどに戦って、

 俺の優しさと恩で唾つけてやらァ!」

 

士気が向上したブースターが

我先にと殴りかかったが、

圧倒的な身体能力であっさり躱され、

顔面を殴られた。

 

「ウギャア!!」

 

「油断するな、クソ金!」

 

「してねえっ!

 つか仲間のアダ名にクソをつけるなよ!」

 

ブースターの鼻骨が折れて鼻血が垂れ流しになる。

ロケットレッドが庇うように前に飛び出し、

クリの猛攻を凌ぐ。

 

「くうっ、怖いお嬢さんだ!」

 

「負けるな、ドミー!

 アポコリプスは尋常じゃない帝国主義者だぞ!!

 ロシア男児の心意気の見せ所だ!」

 

「ぬうっ! 帝国主義の豚がァッ!!

 アカき鉄拳をお見舞いしてくれるわ!」

 

テッドの激励によって燃え上がる

共産主義者の使命が背中を押した。

KGBの遺児が細い腕から繰り出される鉄拳を

見事にいなし、至近距離からレーザーを放った。

 

「ナーーイス」

 

ブルービートルが天才的頭脳を駆使し、

製作したソニックガンの引き金を引いた。

超音波がクリの動きを止め、

そこにバルダが斧の柄で刺突した。

 

初めて表情に苦痛が浮かんだ少女の体を、

背後からクソ金が羽交い締めにする。

 

「今だ! 俺ごとや――」

 

「この拝金主義者めえ!」

 

「ゴバァッ!!」

 

市場経済への怒りが乗った

極大の光線がフュリーの一員に直撃し、

背後の拝金主義者ごとダメージを与えた。

 

重症を負いかねなかったブースターを、

静かにしていたジョンが

体を変形させて構成したネットで優しく受け止める。

 

「ママ……!」

 

「寝ぼけるな」

 

潤んだ瞳で見上げたブースターを

ジョンはおざなりに投げ捨てた。

火星の生き残りと

タマラン星の生き残りが対峙する。

 

「お前の故郷はどうした?」

 

「滅んだ」

 

「そうか……」

 

「同じ生き残りだった姉も私が殺したがな」

 

獣面で笑うクリに、

ジョンが悲しそうに肩を竦めた。

 

「私はこの星が好きなんだ。

 オレオも自然も……人も良いものだ。

 まあ……こいつらのことは……除外してな」

 

「そこは良いものチームに入れてくれよ!!」

 

「夢を見るな、テッド」

 

「ダークサイド様万歳!!」

 

鬨の声をあげて、

10になるかならないかの女児が襲いかかってきた。

 

人の良さと面倒見の良さ、

地球人以上に地球の常識に通じていることで

面倒事を押し付けられがちなジョン・ジョーンズだが、

その実力はスーパーマンとシャザムに匹敵する。

 

自在に変形できる体は撹乱に秀でており、

両腕が変化した触手を繰り出す。

 

大地に亀裂が走り、

街路樹が砕け散った。

 

市街地から遠く、

寂れた場所にスコット達が住んでいたのと、

極たまにJLIが大騒動を起こしたので、

人が住んでいるのはお隣だけだ。

 

おかげでMR.ミラクルの家は

地価が暴落し、中古車と同じ値段になったが、

それがジョンにとっては幸運だ。

 

心の中で謝罪をして、

スコットの自家用車を持ち上げ、

モーニングスター代わりに振り回す。

 

バルダの悲鳴が耳をつんざいたが、

バットマンに弁償してもらうことにしよう。

 

1.5tにもなる乗用車が

クリの側面に激突した。

光景だけは痛々しいが、超筋力で受け止められた。

 

幼子の小さな手で車に深い手形が入る。

そこにジョンの拳がクリを捉えた。

スーパーマンに匹敵する力を持った膂力が繰り出すパンチに、

アポコリプスの精鋭もダメージを食らった。

 

火星人の中でも群を抜く力を持ったジョンは

肉体変化の達人だ。

全身を背景に同化させ、

相手の掌からこぼれた乗用車を掴むと、

そのまま至近距離でグローブ代わりにぶつける。

 

タマラン星人特有の橙色の肌に

真っ赤な血が流れ、

そこへバルダが加勢し、

透明火星人と残虐次元惑星一の女戦士の二人がかりで

畳み掛ける。

 

腕を伸ばし、少女の眉間を人差し指で突くが、

それをクリが躱し嘲笑う。

だが伸びた人差し指がロープとなって

彼女の首に巻き付いて、上空へ放り投げた。

 

間髪入れずに、

元フュリーにして現主婦のバルダが敵に追いつくと、

圧倒的な暴力で斧を振った。

 

腕に深手を負って、年端もいかない少女の顔が

大きく苦痛に歪んだ。

 

「最後の通告だ。

 お前達は地球に何をしに来たか

 教えた上で降伏すれば――」

 

「破壊! 蹂躙! 虐殺!!」

 

言い終わる前に返され、

ジョンは悲しそうに、

クリをひたすらに殴り続ける。

 

「ヒュー! やっちまいなあ、ジョジョ!

 近所のクソガキにオレオを買い占められた恨みを

 その娘にぶつけるがいいぜえ!?」

 

眉を顰めかねない大の大人、

二人がかりによる少女への鮮烈な攻撃を、

ブースターが腕を振り上げて応援した。

 

「流石は我が同士!

 少女であろうと敵であればお構いなしだ!」

 

最低なエールを受けている最中も

ジョンは次の手を考えており、

それを実行するより早く、

彼の頭に激痛が走った。

精神干渉を受けている。

 

禍々しい犬歯を剥いた

滅んだ星のバーバリアンが

ジョンを下方に叩き落とした。

 

「バルダ!

 彼女はテレパスを使えるのか!?」

 

「え、本当に!?

 タマラン星人ってそんなの使えたっけ!?」

 

「おいおい、ヤバイぞ!

 俺がスターファイアと会った時の

 あんなことやこんなヌプヌプも見られてたのかもしれないのかよ!

 ……対応が変わらないってことは、もしかしてイケたのか?」

 

「夢を見るな、クソ金。

 彼女は特別変異だ。きっと

 ジョンを警戒して温存していたのね」

 

「ずいぶんと情報収集してきたな。

 イメージと違う」

 

集中攻撃を受け、

この中では最強格の実力者な

ジョン・ジョーンズの動きが止まった。

 

クリがブースターへと殴りかかるのを、

加速したロケットレッドが止めた。

 

「ロシアのロケット技術を舐めるなよ!」

 

極寒とウォッカと共産主義の結晶たる技術で

制作されたアーマーは飛行技術に長けている。

 

名前の通りロケットと同じ機構で飛ぶそれは、

飛行距離が増せば増すほど

速度が跳ね上がっていく。

 

しがみついて地面に擦り付け、

クリを引きずるロケットレッド。

業を煮やしたクリが

彼の頭部を力の限り叩いた。

 

ヘルメットが砕け、

ロケットレッドがクラッチを外した。

脇腹に膝蹴りを喰らい、体勢を崩して

ロケットのように滑った。

 

「ドミー! 大丈夫か?」

 

倒れたロシアのヒーローを助け起こし、

テッドがクリを睨みつけた。

 

「彼女に弱点は?」

 

「……思い付かないが、

 彼女は紫外線で強さを底上げしている。

 昼にあたっていたら

 もっと強かっただろう」

 

「紫外線……?」

 

ドミトリにソニックガンから音波を放ち、

敵を牽制しつつ、頭脳を働かせた。

ブルービートルは普段はブースターとつるみ、

馬鹿なことばかりしている真性のアホだが、

頭脳だけに注目すれば世界で5本指に入る天才だ。

 

そんな彼に名案が浮かび、

ブースター達に叫んだ。

 

「ちょっと彼女を足止めしてくれ!」

 

青虫が遠くに止めていた巨大な青虫に

向かっていく。

嫌な予感がしただろうクリがテッドの後を追う。

彼女の両腕それぞれを

ブースターとドミトリが掴み、

バルダがドロップキックで三人を

テッドから遠ざけた。

 

巨大な青虫はブルービートル・バグ。

先代のブルービートルは

古代エジプト王朝の秘宝であるスカラベを

メインウェポンにしていたが、

テッドには適正がなく。

 

悩みに悩んだ彼は

コード・インダストリーの資金と技術力、

持ち前の頭脳で高水準のガジェットを開発し、

戦ってきた。

 

その結晶の最たるものであるバグは、

バットウィングに負けない武装と兵器を持っている。

光線、電磁、太陽光線。

 

「ふふん、青虫の頑張りどころさ」

 

コクピットに乗り込んだテッドだが、

目当ての武器を稼働する前に

機体が大きく揺れた。

 

外で下に張り付いたタマラン星の蛮族が、

しつこいくらいに素手でマシンを叩き続けた。

虫で言う腹部を猛打され、

席にしがみつくのが精一杯のテッド。

 

機体に大穴を開けんとしたクリに、

ブースターとロケットレッドが飛びつく。

 

「クソっ、なんて力だ!!」

 

「負けるな共産党員!

 アカ色の未来が待ってるぞ」

 

「本当か?」

 

「ああ!」

 

パワードアーマーの限界域を超えた出力を出した

ロケットレッドが根性で、

悪しき帝国主義者をバグから引き剥がした。

 

「レーニンの名のもとに!」

 

宙に少女の華奢な体を投げ、

空中に飛んだバルダが

巨大な戦斧を振りかぶって叩きつけた。

 

周囲500mに亀裂が走り、

夫婦の愛の巣が余波で沈む。

 

敵の手から逃れた

ビートルのバグが展開した銃口から

紫外線を放射する。

 

タマラン星の野蛮人の全身を覆うレーザーが

彼女にさらなる力を与え、

目視不可能な攻撃によって

ロケットレッドのアーマーが粉砕され、

次にブースターが掌底を食らった。

 

『なんとかして抑えてくれ!』

 

機内から聴こえたテッドの要請に、

口から血を流したマイケルが

電磁フィールドを構成し、

クリの行動を縛り付ける。

 

パワーアップしたクリを

紫外線の放射が付け狙う。

逃げる気もなく、

電磁の拘束を簡単に振りほどいたフュリーの背後から

バルダが斬りかかった。

 

巨大なドラゴンをビンタ一発で倒す膂力の

彼女の一撃が掌だけで止められた。

 

「生きてるか、ドミー!?」

 

昏倒したドミトリを抱き起こし、

マイケルが呼びかけた。

 

「あぎゃーー!!」

 

その隣に、別チームで戦っていたガイが

錐揉みして飛ばされてきた。

 

「ざまあみさらせ!!

 大丈夫か!?」

 

「テメエに心配される筋合いはねえぞ、ダボが!

 こっちは百回殴っても死なねえクソババアを殺る機会ができて

 気分ルンルンだぜ!!」

 

頭から血を流しているガイが、

鼻息荒く立ち上がって

グラニー・グッドネスを睨み上げる。

中年の老女がアーマーをつけた姿だが、

放つプレッシャーは

全身が総毛立つほどだ。

 

「同士よ……」

 

「辛いなら話すな!

 ヴァルハラ行きはまだ早いぜ」

 

「これを使え……」

 

壊れたアーマーからレーザーを撃つ

ガントレットを外してブースターに託した。

 

「お前のスーツに付ければ

 役立つはずだ」

 

ロシアの技術が結集した代物を押し付けられ、

困惑して黄金の男が首を振った。

 

「でも――」

 

「恐れるな、兵士よ。

 スターリンの祝福あれ」

 

友の言葉にブースターの目の色が変わった。

周囲には一度も話したことがないが、

マイケル・ジョン・カーターは

機械に関してかなりの腕と知識を持っていた。

 

25世紀と21世紀の技術差が理由でもあるが、

貧しい家庭で育った彼は

旺盛な性への好奇心を満たすため、

学友のナードと放課後にしょっちゅう

機械を弄くっていたのだ。

 

「弱い、弱いねえ、あんた達!!

 ダークサイド様に献上するんだから、

 もうちょっとしゃんとしなぁ!!」

 

「頼む、帰ってくれ婆や!

 私達はここで平和のために生きるんだ!」

 

「平和だってぇ!?

 男は殺され、女は強ければ屈強な子種を貰えるんだ!!

 これ以上に幸せなことがあるかい!!」

 

「そういうのが嫌だから地球で暮らしてるんだ!」

 

老婆をアイスとファイアの同時攻撃が襲うが、

屁とも思わず、それどころかクリをけしかけた。

 

キャプテン・アトムが原子を変化させ、

有害な放射能物質を両手に展開し、

グラニーへ仕掛ける。

 

軍隊格闘術の鋭い右フックが躱され、

放射物質により顔が焼けた狂信者に

スコットが飛び蹴りを放った。

 

グラニーの注意を阻む目的の攻撃だが、

肉弾戦は常人と変わらないMR.ミラクルは無視され、

首を締められたネイトが苦しげに呻いた。

 

「テッドは何をしている?」

 

「あのタマラン星の幼女は

 紫外線を吸収して強くなるんだってよ。

 それを知ったら、かえって強くしにかかりやがった!」

 

「ふむ……」

 

状況を整理し、思案したバットマンに

明暗が浮かび、周囲に指示を出す。

 

「タマラン星人とアポコリプスの女を一箇所に固めろ!

 ファイアとアイスは後方援護!

 ランタンは少女を老婆に引き寄せろ!

 他は周囲を守り、相手を射線から出すな!」

 

ガイのリングが固体の風を放ち、

クリに吹き付ける。

足を止めたタマラン星人に

ファイアの炎がかぶさった。

 

「本当にテッドの作戦で大丈夫なの!?」

 

「馬鹿言ってんじゃねえぜ、ファイア!

 あのクソ野郎はマジもんのボンクラだが、

 ファッキン蝙蝠より賢いナードは

 あのボケしかいねえ!!」

 

『聞こえてるよ、ガイ』

 

「甘いねえ、あんた達!

 ここはひとつ、婆やが躾けてやろうかねえ!」

 

ファイアに襲いかかったグラニーを、

ロシアの精密兵器を付けたブースターがレーザーを撃つ。

出力が上がった光線にアポコリプスの女傑がよろめいたが、

倒すことは出来ず、黄金のヒーローにストレートを出す。

 

「危ねえ!」

 

前に倒れこんで避けたブースターが、

密着してグラニーに攻撃をし続ける。

闇雲な撃ち方だが不快感を露わにしたグラニーが

雄叫びを上げた。

 

「クリィィィ!

 火星人をぶつけろぉ!!」

 

精神攻撃を受けて止まっていた火星人が操られ、

味方へと向かっていく。

背後からのパンチを反射的に避けた

ブースターの前で、グラニーが顔面に被弾した。

 

「よっしゃ、ラッキー!」

 

歓声を上げた瞬間に、

グラニーの豪腕がブースターを捉え、

拳で上空100マイルに打ち上げられた。

 

「残念だったねえ。

 筋は良いけど中身がお粗末だよ!」

 

「まぐれにしてはいい動きだ!

 ブースター!」

 

グラニーの腹部をバルダが斧で斬り裂く。

鮮血を流した老婆の標的がバルダに向き、

空いたファイアとアイスに

ジョンが襲いかかった。

 

だが緑肌の心優しき火星人の全身を

スコットのマントが覆いかぶさり、

脱出マジックによって

マーシャン・マンハンターの位置がずれた。

 

「哀れな子だよ、スコット!

 傲慢なハイ・ファーザーの子で

 ダークサイド様の義息なのに、

 こんな奴らと一緒に

 子供だましの技に満足するなんてさあ!」

 

「これが今の私なんだ。

 MR.ミラクルの名を

 いけ好かない神々のためには使わない」

 

「ベア、私と攻撃を合わせろ!」

 

隣りに立ったキャプテン・アトムの呼びかけの意味を

理解してファイアがジョンに緑色の炎を放った。

その火炎をキャプテン・アトムの原子操作能力によって、

ジョンの周りの大気を全て酸素に変えて威力をブーストした。

 

火星人の弱点は炎。

マッチの火くらいなら不快なだけで終わるが、

縦一直線に燃え立つ緑の柱炎が火星人を燃やした。

 

「ぐおぉぉっ!」

 

悲鳴と共に倒れたジョンを抱き起こして、

アイスは必死に冷やし、看病した。

 

「しっかりして!

 ほら、オレオよ!

 貴方の大好きな

 チョコとクリームの幸せな融合!」

 

口にオレオをねじ込むと、

火星人の黒焦げの顔にみるみる生気が戻る。

チームワークの結晶であった。

 

「ちぃっ!

 使えないビスケット狂いだよ!

 あんたらを連れ帰って

 地球を骨抜きにするだけなのに!」

 

「ここが私達の故郷だ。

 貴女の居場所はない」

 

癇癪を起こしたグラニー・グッドネスが、

前方100mのアスファルトを

トイレットペーパーのように素手でめくり上げ、引きちぎる。

そのまま面にしてかつての弟子を叩いてきたが、

両腕を交差して防いだバルダが

猪のように突進した。

 

クリが紫外線を限界まで放射され、

許容外の力にオーバードーズを起こして

発生しだした。

グラニーを助けようと自分からバルダに近づいたが、

地面をすでにソリッドライトのトラバサミが

敷き詰められていることを知らず、

直前で豪快に転んだ。

 

眼と口から光を放ちつつタマラン星人に、

バットマンが冷静沈着に分析した。

 

「ブームチューブを開け、スコット!

 彼女達を祖国に利子を付けて送り出すんだ」

 

「やってみよう」

 

PING、PINGとアラームを鳴らす

マザーボックスが異次元への扉を開く。

バルダがババアの首根っこを掴み、

ブームチューブの入り口まで行くが、

その先へ行こうとして進まず。

クリの方もガイのソリッドライトでは動かない。

 

「ちいっ!!

 可愛くねえクソガキだぜ!

 俺のリングちゃんが泣き言を垂れ流しそうだ!」

 

「私に任せろ!」

 

オーバードーズで爆発しそうなタマラン星人を抱きかかえ、

キャプテン・アトムが

ブームチューブ間近のグラニー・グッドネスの側に行き、

バルダも引き剥がした。

 

限界以上の力で

アポコリプスの邪神二柱を量子フィールドで閉じ込め、

グラニー・グッドネスが顔を真っ赤にして殴りだす。

 

『ネイト!?

 今すぐそこから逃げろ!!

 彼女の爆発は

 お前でも耐えられるかわからないぞ!』

 

「間に合いそうにない。

 ブームチューブと私で爆発を吸い込む」

 

「そんな、キャップ!!」

 

「かっこつけるのはよせ、キャップ!

 米国に義理立てするつもりか」

 

「米国にではない。

 戦友を守るためだ。

 勇敢たれ、ヒーロー」

 

笑みを浮かべ、略式の敬礼を送り、

タマラン星人を基点に大爆発が起こった。

 

キャプテン・アトムは原子力のヒーローだ。

核爆発にも耐えられると言われがちだが、

実際のところ、許容放射能には限界がある。

 

尊い自己犠牲によって、

爆心地が溶けただけに留まっていた。

 

バグから降りたテッドが、

量子の支配者がいた所へ

一心不乱に走ってきた。

 

「ネイト! ネイーーート!?」

 

「落ち着けや!

 あの爆発で時空の歪みが出来たって

 リングが報告したぞ!

 またどっかの時代や次元に

 飛ばされたんじゃねえか?」

 

「どちらにしたって手がかりは必要だろ!

 ほら、みんなも手伝って」

 

瓦礫を掻き分け、

白銀の戦友の手がかりを探すテッドに続き、

ファイア、アイス、

そしてガイも渋々探し始めた。

その様子を見てジョンは頭を抱え、

周囲の惨状を見渡した。

 

街路樹は粉砕され、

道路は砕け、家も全て壊れていた。

スコットの隣の夫婦は慣れたものなのか、

すぐに逃げ出していたのは不幸中の幸いか。

 

だがアポコリプスの侵略行為には

一切の区別、限度がないとはいえ、

初めに攻撃しに来たのは

間違いなくスコット夫妻の家だ。

 

「……どうする、バットマン。

 この地区の人々にお金を渡して

 納得してもらえると思うか?」

 

「金で解決する気とは

 信じられないな」

 

「えぇ?」

 

ダークナイトには最も似つかわしくない言葉に

ジョン・ジョーンズは耳を疑った。

いけしゃあしゃあとバットマンはジョンを諭した。

 

「真心だ。ジョン。

 誠意と正直さが君の武器だ」

 

バットマンの言葉にも一理ある。

彼は世界最高の探偵。

エロンゲイテッドマンこと

ラルフ・ディブニィは最も理性的な探偵。

クエスチョンは最も執念深い探偵。

 

名だたる探偵と比較すれば、

ジョン・ジョーンズは

世界で最も誠実で人徳のある探偵であった。

 

今回もそんな彼の生真面目さを嗅ぎつけた

ハイエナの如き厄介事がやって来る。

抗議をしに来たスコットと

同じ区に住む人々だ。

 

先頭に立つプライドの高そうな中年男性へ、

ジョンよりも早くスコットが

腰を低くして躍り出た。

 

「いやー、こんばんは!!

 すいません、ちょっと異次元世界の邪神から

 侵略を受けちゃって!

 ですが死人は出ませんでしたので

 ご安心ください!」

 

コスチュームを着たまま、

“新しき神(ニューゴッズ)”は

愛想笑いを浮かべた。

 

「あのねえ、スコットさん。

 私達だってこんなことは言いたくないよ?

 でも、いくらお世話になってるヒーローだからって、

 こうも厄介事を持ち込まれたら

 たまったもんじゃないよ」

 

「はい、仰るとおりです。

 ですがもうここ以外に行き場が……

 それに周囲30km内の防犯設備なら私が

 アップグレードさせましたから

 B級ヴィランなら木っ端微塵に――」

 

「少しいいかな?」

 

このままでは埒が明かないと判断し、

スコットの肩に手を置いて

ジョンが交渉の場に出た。

 

中身を知れば警戒されるどころか

舐められがちなマーシャン・マンハンターだが、

外見だけで言えば身長2mを優に超え、

肌は緑色、体毛なしの奇っ怪な外見だ。

 

気圧された市民代表の男性が青ざめた。

 

「な……なんでしょうか?」

 

「貴方達の不満はよくわかる。

 だがこちらとしてもMR.ミラクルの存在は

 非常に重要だ。

 貴方達が心優しき隣人なのは

 彼からよく聞いている。

 どうか妥協点を見つけてくれないだろうか?」

 

「資金援助はこれまで通り、

 ウェイン・エンタープライズが

 惜しみなくさせてもらう。

 雇用斡旋も優先的にだ」

 

「あんた、うちらが金で動くと思ってるのか?」

 

助け舟のつもりだろうが、

金をちらつかせたバットマンの交渉にて

市民が気分が著しく害してしまった。

 

批難染みた視線をジョンがバットマンに送ったが、

蝙蝠は自分の出番は終わったと言わんばかりに

沈黙を選んでいた。

 

「そんなことないですよ!!

 貴方達のパーティに私も手品師として

 何度もお邪魔したじゃないですか!

 お子さんたちの笑顔は

 忘れられないなあ!」

 

「彼の発言には私達一同、心から謝罪する。

 だがどうか理解して欲しい。

 バットマンも含め、私達は

 市民との円満な関係を常に望んでいるのだ」

 

交渉の雲行きが怪しくなり、

スコットが狼狽し、

マーシャン・マンハンターは

強い腹痛と頭痛を覚えた。

 

「だからってねえ……」

 

「やあやあ、市民の皆様ご機嫌麗しゅう!」

 

「マックス……」

 

そんなタイミングに、

JLIの発起人にして大富豪の

マックスウェル・ロードが

外向きの笑顔で重役出勤して来た。

 

超高級なスーツに胡散臭い笑顔、

ワックスで後ろに撫で付けた髪型に

信じられない値段の香水。

いつものマックスウェル・ロードであった。

 

「あんたは?」

 

「これは申し遅れました。

 私、ジャスティスリーグ・インターナショナルの

 代表を務める

 マックスウェル・ロードと申します。

 以後お見知り置きを」

 

「はあ……」

 

押しの強さに困惑したのを見てか、

マックスはマシンガンのように話し続けた。

 

「貴方達のご不満は最もです。

 ですがよく考えてみましょう。

 ヒーローのいる街が

 どのようなものか。

 スーパーマンのいるメトロポリスは愛に満ちた都市、

 グリーンランタンのコーストシティは

 犯罪検挙率の高さは驚異的です。

 バットマンのいるゴッサムシティすら

 あんなありさまなのに世界一の巨大都市。

 ならMR.ミラクルの住むここは?

 残念ながら現在の地価は

 セロテープより安くなっていますが、

 私の計算によれば5年後には……

 オベロン、あれを」

 

「はいよ」

 

マックスに同伴して来たオベロンが示した書類を読み、

住人達の眼の色が変わる。

 

「本当にこうなるのかい?」

 

「ええ、もう間違いなく。

 今じゃ世界中のスローガンが

 “HEROES ARE COMING(世界は彼らの手に)”

 なんですから!」

 

「どうやら大丈夫そうだな」

 

話し合いがプラスに向かっているのをわかり、

バットマンが言った。

 

「相変わらず得体が知れないが、

 口だけは異常に上手い男だ」

 

「よかった! 本当によかった!!」

 

心から安堵し、はしゃいだスコットが

バルダと抱き合った。

 

とにかくこれ以上することはないと判断した

マーシャン・マンハンターは、

事態を狸寝入りで乗り切ろうと考えていた

ブースターの襟首を掴み、立たせた。

 

「後片付けと復旧作業をするか」

 

 

###########

 

「ああ、よくやってくれた。

 いざとなったらまたお願いしよう」

 

JLI大使館の自室で、

ワインを啜りながら、マックスは

宇宙の犯罪者、

ロード・マンガ・カーンとの通信を終えた。

 

アポコリプスからの侵略。

巻き込まれた周辺住人はたまったものでは

ないだろうが、解決すればこれほどのアピールはない。

 

事実、あの後には記者が殺到し、

マックスウェル・ロードのインタビューが

世界中に流れた。

 

以前にスコット・フリーを誘拐し、

アポコリプスとのコネクションを得ていた

マンガ・カーンを通じて情報を流し、

そそのかした甲斐がある。

 

暗転したブラウザに

裕福な自分の顔が映り、

凡庸な中流階級から成り上がった己に

ほくそ笑む。

 

「こんなところで何やってんだよ」

 

ほろ酔い気分のブースターが

ノックもなしにドアを開けて来た。

監視カメラの映像ですでにわかっていたことだ。

ここは彼の要塞とも言える。

バットマンすら全容に気づけばすまい。

 

「やあ」

 

「みんな下で騒いでるぞ。

 なんせドミトリの誕生日だ。

 ロシアに帰れない分、俺達で祝おうぜ」

 

「そうだな」

 

気のない返事をやり、

TVを付ければ今日の事件が早速流れていた。

リポーターのクラーク・ケントが

いつもの様に、何処か垢抜けないトーンで

ニュースを読み上げる。

 

「いやあ、俺達も頑張ったもんだよな。

 お前が俺をこのチームに入れたお陰じゃね!?」

 

「かもな」

 

ブースターゴールドをJLIに入れたのは

マックスウェル・ロード自身だ。

未来から来たという彼に興味を持ち、接触。

本人は気づかない……恐らく無意識下で萎縮し、

抑えている才能を見抜いて招き入れた。

 

紹介当初は難色を示したジョンとバットマンだが、

ロイヤルフラッシュギャングの襲来を

解決に導いたブースターの活躍で

入団を許可してくれた。

 

まあ、あのヴィラン達をおびき寄せたのは

マックスウェル・ロード本人ではあるのだが。

 

 

断りもなく椅子に腰掛け、

高い白ワインをラッパ飲みし、

マイケルの鼻の穴が大きく膨らんだ。

 

「ううーーーん、良いねーーーぃ。

 お金の香りがプンプンするワインだぜぇ」

 

「美味いか?」

 

「美味すぎて舌が麻痺しちまったよ」

 

「好きに飲むといい。

 それが成功の味だよ。

 君が八百長試合に乗って逃したね」

 

マイケル・ジョン・カーター。

25世紀のゴッサム大学ではフットボールのスター選手。

誰もが成功を確信した名プレイヤーだ。

彼が父親の懇願に折れて

賭博試合に乗るまでは。

 

「…………待てよ。

 お前にそのことを話した覚えはねえぞ」

 

「そうだったかな?

 じゃあお返しに私の話をしようか。

 父は製薬会社で真面目に働く一般市民でね。

 本当に真面目さだけが取り柄だった。

 もっとも……医薬品に発ガン性物質が検出されても、

 会社のために全責任を負う類の真面目さだったがね」

 

「あの、俺の質問を無視するなよ」

 

「いいから聞き給え。

 結局、父は失意のうちにこの世を去ったんだが、

 私は思ったねえ。

 この世界はとんでもなく巨大な存在が

 監視(watch)してるって。

 じゃあ、私はそいつらになれない?

 そんな馬鹿な。

 真理を悟った私は今日まで、

 あれやこれやで頑張ってきたよ」

 

先ほどの交渉と同じく、

外向きの笑顔でプレゼンをするような調子で

マックスは喋り続け、

ブースターは俯き、黙っていた。

 

「君の過去を知って私は納得したよ。

 “あっ、君に感じたシンパシーは

 これだったか!”ってね。

 どうだい、ブースター。

 一緒に今日みたいに

 世界を裏側から操る存在になってみないか?」

 

「今日みたいにって?」

 

「もちろん、アポコリプスの奴らが来ただろ?

 誰も死なずに、私らの評判が上がって

 終わったじゃないか」

 

指を組み合わせ、これまでになく深刻な面持ちで

ブースターはマックスを凝視した。

酔いも醒め、虚飾もなくなった彼の素顔だ。

胸にある巨大な空虚感。

人生にありがちな失敗と、そこからの成功への渇望。

 

マックスはブースターゴールドに

抱いた友情の正体を得た。

 

「……これって他の奴らは知ってんの?」

 

「いいや」

 

「……お前のお袋さんは?」

 

「コーストシティを気に入っていてね。

 何度、メトロポリスやNYに招待しても

 動きやしないんだ。

 まあグリーンランタンもいるし、

 安全なのは間違いないだろうがね。

 あの街は軍事産業のメッカでもある」

 

両指の上に載せた顎を上げ、

マイケルは静かに告げた。

 

「俺は遠慮するわ」

 

「そうか。言っておくが、

 お前はスーパーマンを越えられないぞ」

 

「いいよ。

 お前の話を聞いてわかったけど、

 俺って意外と善人でいたがるタイプらしいわ」

 

断られたのは予想外だが、

特に衝撃はなかった。

ただ、そうなのかと思っただけだ。

 

椅子を立ったブースターが

マックスに手を差し伸べ、言う。

 

「ほら、自首しようぜ。

 俺も付き添ってやるからよ」

 

口元に薄ら笑いを浮かべ、

マックスはブースターを見上げ、

ややあって、首を振った。

 

「自首はしないよ。

 忘れてくれ」

 

「ダメだ、連れて行く」

 

「――忘れろ」

 

脳に強烈な圧力がかかり、

全身の血流が沸騰する錯覚がした後、

ブースターの顔が茫漠したものになった。

 

「……わかった。忘れる」

 

「ああ、良い子だ」

 

覚束ない足取りで部屋を出るマイケルを見送り、

鼻から流れ出た血を拭った。

メトロンから気まぐれで授かった能力。

 

ジョン・ジョーンズですら欺く洗脳。

記憶の書き換え、人格の汚染。

代償は出血と体温の異常な上昇だが、

使い方によっては最強の武器だ。

 

引き出しから冷えピタを取り出し、

額に貼ったマックスウェルは

誰もいない部屋で一人つぶやく。

 

「さよならだ、ブースター。

 世界の監視者はこの私だけが成ろう」

 

#########

 

テッド・コードの墓前。

立つのはブースターゴールドとバットマンの二名。

 

「来るたびに雑草が生えるんだよなあ」

 

しゃがみ込んで草を抜くマイケルの横で、

ブルースが墓にウォッカを手向けた。

 

「ここに来るといつもあの日々を思い出すよ。

 知ってたか?

 あいつ、お前にカンチョーしたがってたんだ」

 

ブルービートルの命日には

JLIのメンバーが集まるのが恒例だ。

 

「マックスウェル・ロードはこの世界に潜伏し、

 スパイ組織のチェックメイトを掌握した上で

 世界中の人々から奴の記憶を消した。

 だが私達は奴の所業を忘れはしない」

 

「必ずここにズタボロのあいつを

 連れて来てやるよ」

 

マックスウェル・ロードの復活を契機に

再結成したJLI。

ロケットレッドは代替わりし、

マーシャン・マンハンターもMR.ミラクルもおらず。

何の因果かバットマンとキャプテン・アトムを抑えて、

ブースターがリーダーになった。

 

「俺がリーダーでいいのかね?」

 

「ジョーカーがバーバラを撃ち、

 ゴードンを攫った夜。

 君の存在を知り、

 後に若かりし君に出会った瞬間。

 この世界には監視者がいると確信した。

 正義と悪、地位と名誉に囚われず、

 真実のために動く者が」

 

テッド・コードの墓前に

蝙蝠の影を落としてバットマンは続けた。

 

「誰もが疑わなかった友人すらも疑い、

 一人、真実を追い続け、巨悪を明らかにしたテッドは、

 まさしく私の理想とする正義の在り方だった」

 

ブースターの胸に拳をあて、

ブルースは穏やかな様子で語った。

 

「彼の気高さが君に受け継がれ、

 ようやくあの時の君に会った瞬間。

 私があのチームに構想した

 『国境なき正義(JUSTICE LEAGUE INTERNATIONAL)』

 の在り方が実現したと知ったのだ」

 

数十分後には

この場にファイア、アイス、パワーガール、

キャプテン・アトムが集い、

新たなロケットレッドとブルービートルも来る。

 

「リーダーは君しかいない。

 “真実の監視者(マン・オブ・ゴールド)”」

 

彼らが来る前に、

ブースターは2つのグラスに

安いビールを注ぎ、

一方をブルースに渡した。

 

「とりあえず乾杯しようぜ。

 俺達の親友、テッド・コードに」

 

「テッド・コードに」

 

 

 

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