DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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ジャスティスリーグ・インターナショナル: Legends Of Tomorrow

出会いに別れはつきものだ。

幾千、幾万、幾億もの可能性を見、

それら全てを破壊してきたブースターゴールドは、そのことを真理として知っていた。

 

「お前とは……ここでお別れだ」

 

最悪なことに、この時間軸の、この日、この時、この瞬間は雨が降っていた。

彼がしゃがんで目線を合わせている目の前の少女が、万が一にも風邪を引かなければいいと思った。

 

ラニ、ダークサイドの進攻を受けた都市での任務で知り合った少女。

出会った時はおしっこを漏らしそうになっており、

ブースターゴールドを前門のダークサイド、隣のおしっこという苦境に立たせたが、

特例として面倒を見ていた。

 

「どうして?」

 

涙ぐむラニが尋ねた。

それだけでブースターゴールドの心が締め付けるように痛む。

彼女は、暗闇を恐れ、痛みを恐れ、暴力を恐れ、

なにより喪失を恐れていた。

 

「もう夢から醒める時間だよ、ラニ。

 普通に家族を作り、学校に行き、大人になったら素敵な人と出会って自分の家族を持つんだ。

 それが、人間の生き方なんだ。誰の目にもつかない、歴史を超越した世界なんて、子供のいる場所じゃない」

 

「いやだよ……マイケル。ずっと一緒がいい」

 

「おいおいワガママ言ったらいけないぜ?

 あっこにいるハンサム……まあ俺の次にだけどなブレイニアックが困っちゃうだろ」

 

ラニの後ろでリージョン・オブ・スーパーヒーローズのリーダー、ブレイニアック5が苦笑した。

彼女を探す親類を突き止め、仲介を申し出てくれた。

数少ないブースターゴールドの友人と言うべき存在だ。

 

ブースターゴールド、マイケル・ジョン・カーターはおどけて別れようとしたが、

それは違うのではないかと思い直した。

だが、どうやって別れるべきかと考えても名案は思いつかない。

 

ふわふわな脳みその奥深くまで潜り込み、

人格の根幹まで至って、ブースターゴールド……マイケル・ジョン・カーターは

決して表面に出すまいと決めていた側面を出すことに決めた。

 

悠久の月日に晒され、掠れて罅割れた声音。

無数の歴史と人々を観測してきた者のみが出せる、浮世離れした、

大地というものから遠く離れ、太陽すら届かぬ意識を出す。

 

「…………私はね、ラニ。

 実の父親は酒に狂い、母と妹を殴る男だった。

 ずっと、父親に立ち向かおうとしてきたけれど、失敗して。

 こんな人間に……母を心底失望させたクズに。

 あの男の血を引く者に、父になる資格などあろうはずがないと、思っていた」

 

お利口さんめいた話し方をすると、言葉がするする出てきた。

世の中にはわからないものが、たくさんあるものだ。

例えば、お喋りで在ることを辞めたほうが、言葉が出やすくなる状況も、

生きていれば遭遇するといったように。

 

「幸せになるんだよ、マイガール。

 君は、私が父になれると教えてくれた人なんだからね?」

 

こうして、歴史と多重平行世界の守護者ブースターゴールドは、

その長い年月の中の少しを共有した少女ラニと別れる。

ブースターゴールドは、その気になれば歴史の全容を把握し、掌握できるが、

努めて知らないよう自戒している時間領域がある。

 

それがアース0のテッドやジャスティスリーグ・インターナショナルが生きて戦った21世紀と、

ラニが……ブースターゴールドが娘として接し、育てた少女の生きる31世紀。

何度、バッドエンドを見て、それを受け入れたとしても、

この時代に生きる人々には常に幸せであることを願わずにはいられない。

 

またも広がる心の虚穴を抱きつつも、ブースターゴールドは歴史の向こう側へ還った。

 

########

 

「このマルチバースの中心には永遠の巨岩(ロックオブエタニティ)がある。

 つまり、我らのいる世界は意識しようとしまいとロックを中心に回っているわけだ。

 従ってこの世界はロックンロールを基幹原則としている」

 

語るのはリップハンター。

それを聞いたバットマンとブースターゴールドが頷く。

もちろんブースターゴールドは流れに乗っているだけだ。

歴史を守るヒーローをしていると、世界の真理に触れることが度々あるが、

真に理解できたことは一度もない。

 

ブースターゴールドの脳みそがいささか少なめなちんぽ型なのが原因なのだろうが、

こういう時、彼にはこの世界が言ったもの勝ちなトンチキ理論で成り立っているように思えてならない。

 

「だがバットマンは違う。彼だけはこの世界で唯一、メタルに生きている。

 メタルとはタフであるということであり、ロックを超えし、自滅も破滅も破壊も含めた暴走だ。

 衝動の体現たるバットマンは、己の欲望に突き動かされ、未知を解明していく。

 親友も家族も恋人も、決してその衝動を止められない。

 故に、バットマンは誰よりも恐ろしい怪物になりうる。

 絶対に救われない探求者ほど、不滅と永遠に近い存在はいない」

 

バットマンはまたしてもうなずいた。

多くの場合、世界最高の探偵たる彼は他者を分析することを好むが、

反面、分析されることを酷く嫌う。

 

そんな探偵が言われるがままにしている。

事態の深刻さを物語っていた。

 

「つまりよぉ、その平行世界のバットマンをぶちのめせばいいってことだろぉ!?」

 

ガイ・ガードナーが拳を打ち鳴らす。

ここは二代目ブルービートルが開発した飛空基地バグであり、

青い甲虫のフォルムをしていても、中身は大人数が動けるようにできている。

 

バットマンに呼び寄せられたジャスティスリーグ・インターナショナルは、

マルチバースの裏にあるダークマルチバースからの侵略者、

ブラックビートルの対策に駆り出されていた。

 

「それでどうするわけ?」

 

ブラックビートルと名乗っているとはいえ、

紛れもなくかつては別世界のバットマンだった男だ。

バットマンと戦えと言われて腰が引かぬヒーローともなれば、

ワンダーウーマンやグリーンランタンが必須となるが、

それに並ぶ対バットマンに有効なのがJLIである。

 

リップハンターの説明を引き継ぎ、

バットマンが続けた。

 

「ブラックビートルはこれまでも歴史の中で暗躍し、

 我らの存在を根底から覆そうと試みてきた。

 私はかねてより、リップハンターの助力をしており、

 ようやくブラックビートルがブルース・ウェインだと突き止められた」

 

ブースターゴールドの功績は全てバットマンの物にすることにしている。

だが、今回はタイムトラベル関係の功績をリップハンターの物にもさせている。

全てはブースターゴールドのシークレットアイデンティティと

彼の真ハンサムパワーで全女性が惚れないようにするためだ。

 

「君たちJLIにもブラックビートルを倒すのを手伝ってほしい。

 奴の狙いは私が握る歴史の全てだ」

 

「……それは私達ではない、ジャスティスリーグに任せるべきスケールでは?」

 

事態の重さをいち早く理解したキャプテンアトムが困惑した。

 

「相手はバットマンだった者だ。

 ことダークナイトにおいて、ジャスティスリーグほど御しやすい集団はない。

 私もバットマンだからよくわかる」

 

「だから私達B級のまぐれ勝ちに期待するってこと?」

 

「ああっ! どこのどいつがB級だって蝙蝠クソ野郎が!!!」

 

ガイ・ガードナーがいつものように激怒し、

バットマンは静かに首を振った。

 

「いや、お前たちはヒーローだ、ガイ・ガードナー。

 恐らく、奴はそのことを知らない。

 それこそが勝機になるだろう」

 

「とにかくよぉガイちゃん。

 一緒に頑張ろうぜ!」

 

ブースターゴールドが親指を立てて囃し立てる。

 

「てめえに言われなくてもやってやるっつうの!

 なんならバットマン1ダース持ってこいや!!」

 

率直に言って、ブースターゴールドはJLIがバットマンに勝てる理由が一向にわからない。

だが、バットマンの案なのだ。信じる他ない。

歴史の守護者にして、JLIのリーダーであるブースターゴールドは腕を組んだ。

 

「そこでお前たちに伝えておかなければならないことがある」

 

「あら、いたのねブースター」

 

「喋ったばっかだよ!?」

 

「どうしてバットマンやリップハンターと同じ側に?」

 

「君らのリーダーだからだよ!?」

 

「みんなふざけるのはよせ。

 ここはリーダーの話に耳を傾けるのだ」

 

キャプテンアトムは常にブースターゴールドに敬意を払ってくれる。

ありがたいようでいてボケ殺し的でもあるが、

こうまで忠誠を誓ってくれる理由が、ブースターゴールドには理解できない。

 

「とにかくだ。ここからはマジな話だからよく聞いてくれ。

 ブラックビートルを捕まえるのはもちろんのことだが、

 向こうにはマクシミリオンっていう小型飛行アンドロイド……黒いスキーツがいる。

 絶対に殺さないで何とか捕獲するんだ」

 

「了解した」

 

「やるっきゃないわね」

 

「大切な仲間ですもの」

 

「なんだそれだけかよ、

 それっぽいこと言う顔してんじゃねえぞあーーーっ!?」

 

ジャスティスリーグ・インターナショナルの面々から異論はない。

道徳・道義・人道には中指立てたクズどもとされる彼らだが、

仲間を思う気持ちと正義を成す意思だけは強いものを持っているのも彼らだ。

 

「マイケル……」

 

「よし、後はブラックビートルのとこに行くだけだ。

 ハイメにも今言ったことを伝えて、後は戦いに備えてくれ」

 

スキーツが賛同しかねる様子だったが、遮ってミーティングを切り上げる。

リーグのメンバーが会議室を出ていった後、スキーツは再度切り出した。

 

「お話があります」

 

「何だよ」

 

「マクシミリオン、ブラックビートルアースのスキーツのことです。

 彼を無理に助ける必要はないと判断します」

 

「そんなわけない」

 

ブースターゴールドは常におちゃらけており、

1ドルサンダルよりも薄っぺらい態度をするのがいつものことだ。

しかし、この時だけは頑として譲らない堅さが見えた。

 

「どのアースだろうと、どの時間軸だろうと、スキーツはスキーツだ。

 スキーツである限り、俺は絶対に見殺しにしない。

 テッドとスキーツだけは、俺は絶対に助ける」

 

「私は別のブースターゴールドを助けはしません。

 貴方達、人間の持つ連続性は――」

 

「私は理性で区切るぞ」

 

「バットマン以外の人間……人間。いえ、これも……すみません。

 こういう所でバットファミリーが口を出さないでいただけますか?」

 

「ふむ、了解した」

 

「人間の持つ他者への共感性と連続性を、アンドロイドの私は持ちません。

 私にとってのブースターゴールドは、私に心をくれた貴方だけです。

 それはマクシミリオンも同じでしょう。それに、私なら貴方のいない世界に存在しようとは思いません」

 

「駄目だ」

 

「世界と歴史のためです」

 

「話は終わりだ」

 

ブースターゴールドは逃げるように自室へ帰っていく。

そんな彼を見送り、相棒の小さなアンドロイドはうつむいた。

 

「諦めろ、彼がお前を破壊することは兆に1つもない」

 

「貴方に頼んでもよろしいでしょうか、バットマン?」

 

「断る。そんなことをすれば、彼は今度こそ私を殺すだろう」

 

「貴方なら彼に殺されようとしても生き延びられるはずです」

 

「そういう問題ではない」

 

やりとりを静かに見守ってきたリップハンターが、

諭すようにスキーツへ語りかけた。

 

「これが人間というものだ、スキーツ。

 それに、お前を見捨てるような男だったら、ここまで付いてくることもなかっただろう?

 本当はわかっているんじゃないのか?」

 

「しかし……」

 

「お前も52のマルチバースをMr.マインドより救ったヒーローだ、スキーツ。

 別アースのお前もどうにかしてみせるだろう」

 

#########

 

正体がわかり、出自もわかればブラックビートルの居所を突き止めるのは極めて容易だ。

全ての生き物は独自の波長を発しており、タイムトラベルにて帯びるクロノアルエナジーによって、

波長が変容することもあるが、それでも一貫性はある。

 

加えて、ダークマルチバースの放つ波動は特定が容易でもある。

マルチバースにはないメタラーの持つ周波数は、

時、場所を問わず異常な存在感を放っていた。

 

赤熱した大地、沸騰する大気、膨らむ太陽。

地球が破滅の日(ドゥームズデイ)を迎える日に

ジャスティスリーグ・インターナショナルは降り立っていた。

 

「ここは?」

 

「ブラックビートルが潜伏していた場所だ。

 地球が終わる瞬間」

 

「ヒーローを始めるまでは、こんなところに来るなんて予想もしなかったなあ」

 

「しかし、なんと赤い世界だ。

 地球が最後に迎えるのが我らコミュニストの色とは……これも運命(さだめ)」

 

JLIに入ってまだ日が浅いロケットレッド/ガヴリル・イヴァノビッチと

ブルービートル/ハイメ・レイエスが思い思いにぼやいた。

キャプテンアトムが量子に干渉して大気を人々が生きられるように調整し、

アイスが周囲の気温を動きに支障が発生しないレベルに抑えた。

 

脂汗を流して辛そうにしたキャプテンアトムがリーダーのブースターゴールドに指示を求める。

 

「ここからどうするのだ、リーダー?」

 

「ブラックビートルがいるのは地下だ。

 まったく考えたもんだぜ、ゴッサム跡地の地底、それも地球最後の日なんてよぉ」

 

「見つけたのはリップハンターとバットマンでしょうが」

 

「そうかもしれねえけどよぉ!

 よくも俺達を余裕ぶっこいて弄んでくれたもんだぜなあ!!」

 

「下敷きより薄い金ピカ野郎の言うとおりだぜ!

 あのクソ蝙蝠野郎ぶっ殺してやる!」

 

「それにブースターの額は縦に厚くなる一方よ!」

 

ゴッサムシティがあった場所、

それもバットケイブ跡地にある隠しドアにて、

バットマンがロックを開けようと試す。

 

だが、首を振るとキャプテンアトムに委ねた。

 

「やってくれ」

 

「いいのか? 私は精密動作が苦手だから間違いなくバレるぞ」

 

「奴に奇襲は通用しない」

 

「お前がそういうのならそうだろうな」

 

頷いてドアに両手を翳し、

量子の揺らぎが可視化できるほどに高まる。

そして、入り口そのものが忽然と消え、

地下へ潜るポータルが現れた。

 

「ヘバッてんじゃねえだろうな、キャップ」

 

ガイが叱咤するが、キャプテンアトムは到着して5分で疲労困憊だ。

彼のスーパーパワーである量子の操作は、ファイアストームと似ている。

しかし、キャプテンアトムは能力の使い方を、大味な攻撃に使うことが多く、

それ以外の使い方は負担が大きすぎるとして避けている。

 

2人で1人のヒーローとなるファイアストームと違い、

キャプテンアトムは、己の力を持て余すところもあった。

ポータルを通り、ブラックビートルケイブの内部に入るも、

予想されていたタロンの軍団やトラップ、時空ヴィランの出迎えはない。

 

「よしみんな気をつけろ……いざという時は俺に任せときな」

 

「凄い……リーダーがちょこざいに頼もしいわ」

 

「初代ブルービートルは年齢からスカラベの力を使いこなせず、

 二代目ブルービートルはブースターゴールド菌に汚染されてスカラベに嫌われました。

 歴史上で初めてのスカラベを完全に使いこなす存在がブラックビートルと言えるでしょう」

 

「テッドもスカラベで変身したかったでしょうね」

 

「クソボケの親友だったのが運のツキね」

 

「クソボケ本人の前でそういうこと言わないでくれる!?」

 

スキーツの言うブースターゴールド菌は真実を隠すための建前だが、

誰も疑問に感じていない。

これぞブースターゴールドが日頃から行っている”自分をクソボケに見せる”作戦の成功を示していた。

 

一方でブースターゴールド菌とは極めて正確な表現でもある。

ブースターゴールドとブルービートルはマルチバースにおいて

バットマンとロビン、スーパーマンとロイス・レーンのように深い関係になることが多い。

 

これをリップハンターは魂の伴侶などと称していたが、

あながち間違いではない。

 

マイケル・ジョン・カーターもテッド・コードもゲイではないが、

魂レベルで断ち切れない結びつきを持っている。

それはマルチバース間を超え、影響しあい、クライシスを超えても強まっている。

 

そのリンクによってテッド・コードは存在の根底から

ブースターゴールドのクロノアルエナジーとマルチバースエナジーの影響を受けてしまっていた。

 

「まあよ、あいつにはスカラベの武器なんていらねえだろ。

 テッドは腹も膨らんだぼんくら野郎だったが、頭の良さだけは凄まじいもんだ」

 

「だよな」

 

「そして今からぶちあたるブラックビートルはテッドだけじゃなく

 俺ら丸ごと死なせたクソ野郎だと」

 

「その通りだ」

 

「着くぞ、全員気を引き締めろ」

 

バットマンの呼びかけで軽口を叩き合っていたJLIの表情が一様に臨戦態勢に入った。

ケイブの最奥に辿り着くと、広大な空間内に数々の歴史的遺物が飾られ、

正面には巨大なスクリーンにて遠き世界の映像が流れている。

 

『やめてくれ! やめてくれ!!』

 

『テッドの死は歴史に記されている。

 我らの使命を果たすには彼を死地に送るしかない』

 

『俺がなんとかするからさあ! テッドだけは見逃してくれよ!!』

 

『いいよ、マイキー。僕はとっくに覚悟してきたからさ。

 ヒーローらしく見送ってくれよ』

 

『私達は歴史を存続させるため、多くの可能性を消してきた。

 その任務に皆を巻き込んだお前が、ここに来て運命に背を向けるのか』

 

「ダークマルチバースは無限の可能性を内包している。

 私が悪に転じる世界は……確かに多いが、他のヒーローも0ではない」

 

『ブースター! 何をするの!?』

 

『うるせえ! 俺はテッドを守る!』

 

『スキーツ! 彼を止めて!』

 

『……私はマイケルに従います』

 

ダークマルチバースの1アースを背に、

腹が醜く膨らんだブルース・ウェインは静かに語りかける。

 

バットマンなら決してならぬ体型。

それこそが、目の前の男がバットマンではなくなった証左であり、

ゴッサムを守る運命を放棄した象徴である。

 

「タイムトラベラー、マルチバースの観測者ならばわかるだろう。

 無数の世界、歴史においてヒーローもヴィランも万華鏡のように違う顔を見せる。

 だが、データを重ねれば重ねるほどに、共通点も浮かび上がると」

 

「ヘンテコな映像見せて長話か!

 そんなもんは俺の拳に語らせなトンチキ野郎がぁ!!!」

 

ガイが巨大なグローブを構成して殴りかかる。

それを半歩ずれただけで躱し、

悠然たる足取りでブラックビートルは歩を進める。

 

脊椎に埋め込んだスカラベから多脚が展開され、

醜く腹が盛り上がり、鍛錬と無縁になった体を誇示するブルース・ウェインが、

漆黒の装甲に包まれた時空の魔人に転じていく。

 

「私は根源に至ってみせる。

 そのためにはお前が、邪魔なんだ。なあ、ブースター」

 

「偉大なる先達ドミトリの分を喰らえっ!!!!」

 

ジェット噴射による超高速攻撃。

ブラックビートルは低姿勢からのナックルを突き刺した。

 

「アイスとファイアは両側から挟み込め!

 キャプテンアトムとブルービートルは逃げたほうを潰すんだ」

 

「私にそんな波状攻撃が通じると?」

 

指示を出すバットマンをブラックビートルが嘲笑した。

炎と氷の挟み撃ちにて、瞬時に床を引き剥がしアイスへと投げる。

それに追随してブラックビートルが、床によって防がれた氷の下を潜り、

アイスを猛烈に蹴りつけた。

 

「トーラ!!」

 

血相を変えたファイアの意識がアイスへと集中したのを逃さず、

一息に距離を詰めて裏拳で意識を奪い、

5秒と経たずに3名のヒーローを倒したブラックビートルへガイが怒声をあげる。

 

「舐めんじゃねえぞクソがぁ!!!」

 

「正当な評価だろう?」

 

作り上げたメイスを振り回してブラックビートルに仕掛けるが、

相手は意に介すことなく、柳のようにゆらゆら揺れて避けていく。

あまりのブラックビートルの強さに硬直した三代目ブルービートルのハイメ・レイエスへ、

黒い甲虫フォルムのヴィランが襲いかかり、

 

それに激昂したガイが高らかに叫んでメイスを振り上げた。

 

「お前はいつも率先して敵に立ち向かう。

 それは気質もあるだろうが、父に虐待されてきたお前は、

 男らしさというのに強い執着を持っている」

 

スカラベの脚が大きく開き、幾本もの鋭利な棘めいた槍がガイの腹部に突き刺さる。

 

「ごぼぉ!!」

 

口から巨大な血の塊を吐き出したガイが、身を捩って離れようと試みる。

 

「そして、お前が猪突猛進でいるのは、仲間が傷つくのを見たくないからだ。

 自分ならば多少死んでも問題ないと考えているのだろう?

 私には御しやすい相手だ」

 

「うるぜえ!!」

 

吠えるランタンの顔面に鉄拳をお見舞いし、

ぐったりうなだれたガイから脚を引き抜いた。

 

「つ、強すぎるぞ……!?」

 

「当然だ。

 I WAS BATMAN」

 

ブラックビートルの異常な手際の良さに圧倒され、

キャプテンアトムが狼狽した。

 

「臆するな。奴も同じ人間だ。

 勝てない道理はない」

 

「よく言うな、ブルース・ウェイン。

 本心は真逆と知っているくせに」

 

キャプテンアトムとブースターゴールドがハイメのブルービートルを庇って

ブラックビートルに立ちはだかる。

宇宙指折りの強さを持つヒーローを前にしても、

かつてバットマンだった男は両手を広げた。

 

「ロケットレッド……ガヴリル・イヴァノビッチは功を焦る嫌いがあった。

 アイスは過去に能力が暴走して村を滅ぼしたことから、出力を上げるのに躊躇いを見せる。

 ファイアはアイスに過保護と言える執着を見せており、何よりも親友を優先する。

 そしてガイは愚かだ。これがお前たちの弱点だが、何故教えてやっているかわかるか?

 今、語った弱点は我がデータにして億分の1がせいぜいだからだ」

 

「だから何だ!! お前がバットマンだったからって引くわけねえだろ糞野郎!!」

 

ブースターゴールドが殴りかかるが容易く突き手を取られ、

一本背負いで床に叩きつけられた。

とっさに受け身を取ったが、続けざまに顔を踏みつけられてダメージを負う。

 

「再戦必殺。それがバットマンの特性だ。

 生き残れば必ず相手の弱点を見抜き、対応し、勝利を収める。

 それを自覚した時には、私に比肩する者は、スーパーマンとて、ダークサイドとて……

 ましてや、お前ら如きになあ?」

 

「何度、お前に倒されてもゴッサムのヴィランは懲りないのだ!

 我らにできないはずもない!」

 

量子の干渉者たるキャプテンアトムがレーザーを放つが、

跳躍して避けてハイメを狙う。

 

「やめろ!!」

 

ブースターゴールドが青ざめて起き上がろうとするも、

それより早く、ブルービートルが右腕を巨大カノン砲に変形する。

だが迎え討つブラックビートルは人間にはあらざる異形に肉体を再構成し、

多脚の巨大百足になってハイメに迫る。

 

「なんだそれ!?」

 

「お前を解剖して得たデータのおかげだ。

 家族を人質に取ったら、快く研究に協力してくれたぞ。

 とっくにお前の両親も妹も殺していたがな」

 

「…………ッ! 死ね!!!!!」

 

ハイメ・レイエスはまだ十代で経歴も浅い。

地球人史上、初めてのスカラベ完全適合者とはいえ、

異なるアースだろうが家族が殺されたのを聞いて黙っていられはしなかった。

 

キャノン砲から限界を超えたエネルギー弾を放つも、

ブラックビートルは無数の脚でエネルギーを絡め取り、

抱き込めるようにして押しつぶした。

 

「これがスカラベのポテンシャルだ」

 

そのまま少年へ、のしかかるところを、ブースターゴールドのフォースフィールドがハイメを守り、

キャプテンアトムが量子を両手に籠めて巨大なる百足を押し戻さんとする。

 

「ほぉ、この私に歯向かってみせるか?」

 

「当然だ! お前はもはや我が戦友だった者ではない!」

 

「お前の弱点を知っているか、ナサニエル・クリストファー・アダム?」

 

「耳を貸すな、キャップ。挑発だ!」

 

キャプテンアトムは紛れもなく、全宇宙にて最も強力なメタヒューマンの一人だ。

だが、あまりに強すぎる能力とポテンシャルを孕んでいることから、

出力の限界を自分で設けがちという欠点があった。

 

事実、キャプテンアトム……ナサニエル・アダムはブラックビートルとの拮抗状態を維持するのがせいぜいであった。

 

「己自身への恐怖だ。極まった力を持つヒーローは、皆、それぞれの玉座を前にするもの。

 バットマンならば“無敵たる己”を受け入れることだが、

 キャプテンアトムの場合は……量子の支配者に至る覚悟になる」

 

「何度、上から目線の説教する気だ!!」

 

人体の構造上は延髄があるだろう箇所へブースターゴールドが飛び蹴りした。

これが人間ならば昏倒は免れないが、

スカラベアーマーの内部を人ならざるものにしたブラックビートルには痛痒を与えられるかというところだ。

 

両手がふさがったキャプテンアトムは逃れるように首を振る。

しかし、そんな決死の抵抗も虚しく、ブラックビートルは首を物理的に伸ばす。

 

「「ひいいいいいいいいいいいいっ!?」」

 

あまりのおぞましさにハイメとブースターゴールドの二名が悲鳴をあげた。

首のみを伸ばして、かつてのバットマンがキャプテンアトムに耳打ちした。

 

「お前も受け入れればどうだ?

 その玉座からは全てを見渡せるぞ」

 

「黙れ!!」

 

顔を歪めて絶叫したナサニエルが脚を灼いて、

ブラックビートルのボディに大穴を開けさせた。

やっとのことだが、ブラックビートルの口の端から血が溢れ、

眼球がぐるんと上を向き、前へ倒れんとした。

 

「憐れなものだな」

 

「馬鹿な――――」

 

キャプテンアトムが量子によって存在そのものを分解した穴が、

虹色のオーラを放ってみるみる復元していく。

倒れたのではなく、超低空姿勢となったブラックビートルが左腕を強固な万力に変えて、

キャプテンアトムの胴体を挟んだ。

 

「私を全身消滅させるのが唯一の勝機だったぞ」

 

「ネイト!!」

 

「クッ……」

 

がっちり掴まれた量子の使い手が、拘束から逃れようとするがびくともしない。

 

「解析できました。ブラックビートルは体内に膨大な量のクロノアルエナジーを貯蔵しています!」

 

冷静に敵を観察し、データを収集してきたスキーツが叫んだ。

 

「スカラベは巨大な力を封じ込めるポテンシャルがありますが、

 ブラックビートルは強引にオート再生できる体にした上で

 スカラベに無理矢理に適合させていますよ!」

 

「よくやった。聞け! ブラックビートルはもう人間の体ではない!

 しょせんはバットマンだった者とて、

 これほどの力を振るうには人ならざる身にならなければ不可能ということだ!

 人間でないブルース・ウェインならば勝機は十分にあるぞ!」

 

「この状況でそんなん気休めにもならねえよ!?」

 

不平をあげるブースターゴールドだったが、

冷静に打つ手を考案し、仲間を縛る万力に触れた。

ブラックビートルの腕が忽然と消失し、

胴体両断を免れたキャプテンアトムが気絶した。

 

「凄い! ブースターゴールドさんカッコいい!」

 

「だろぉ!!」

 

ブラックビートルがクロノアルエナジーを使っているのであれば、

知識と経験においてはブースターゴールドの方に一日の長がある。

正確にはリップハンターの指導とスキーツの助言を受けたブースターゴールドにだ。

 

「クロノアルエナジーを完全に封じ込めるのはスカラベとて不可能だ!

 敵の脊髄からエネルギーの引き出し口をこじ開けろ!」

 

「おっしゃあ! 援護を頼むぜ、みんな!」

 

現在、継戦可能なのは4名のみ。

しかし、種がわかれば十分だ。

ブラックビートルがクロノアルエナジーによって人体を強引に捻じ曲げ、

伸ばし、生じた激痛を超克たる理性でこらえる。

 

巨大な百足だったビジュアルの黒甲虫が、

針金の細さの蟷螂に変容する。

 

「ブースター! スピード形態だ!!」

 

「外見で判断してません!?」

 

「バッキャロ―、とりあえず見た目で対応は基本だぜボーイ!」

 

フォースフィールドのドームでブラックビートルの尻尾を挟んだ。

すぐに引きちぎるも、速度が緩まり、

ハイメの飛行タックルに捕まった。

 

その隙を逃さずに、ブースターゴールドが貫手をつくり、

敵の背骨に渾身の突きを繰り出した。

指の手が木っ端微塵に砕けたが、

それはそれとしてブラックビートルのスカラベが溜め込んだクロノアルエナジーの在り処を本能的に察知する。

自身も人間の形でいるのが不思議なほどのエネルギー体なブースターゴールドは、

部品を取るように手を動かして掴み取るイメージを作り、抜き出す。

 

「奪ったあ!」

 

「すげえ! やっぱテッドさんの親友はすっげえっす!!」

 

宇宙広しといえども、ブースターゴールドを先輩として扱う十代は

ハイメ・レイエスを置いて他にいないだろう。

 

「ぐうぅ…………」

 

難攻不落に見えたブラックビートルに初めて、

苦戦を思わせる唸りが出た。

 

「手を止めるな、奴はブルース・ウェインだ!

 意識の底の底まで刈り取るまで攻撃を続けろ!」

 

バットマンの号令に倣い、

その場の全員が遠距離からのレーザー照射を続ける。

光の乱舞が敵を覆い隠して、これでもかと敵を撃ちまくった。

 

全員による攻撃がようやく終わり、

肩で息をした一同。

目を細めて相手の状態を見極めようとすると、

残念なことに、疲労もダメージもないブラックビートルが見え、

次の瞬間には俊敏な動作で躍りかかってくる。

 

「ぶっへへっへ〜〜〜ん!!

 もうやだああああああああ!!!

 こいつ強すぎんよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

泣きべそをかく寸前の表情でブースターゴールドが絶叫した。

しかし、それはそれとして動きに一糸の乱れもない。

伸びてくるブラックビートルの触手を手の甲で弾いていき、

その合間合間にガントレットレーザーを撃っていく。

 

「ど、どうすればいいんですか?」

 

挫けないブースターゴールドを目の当たりにしても、

勝ち目のなさに戦闘意欲が大きく削がれていく少年が弱音を吐いた。

 

「続け、リーダーは彼だ。勝利は我らにあるぞ!」

 

バットラングを堂々と投げ、当然のように表皮に跳ね返された。

ところがあえなく落下したガジェットが極度の冷気を生み出し、

周囲を氷結させる。

 

ブラックビートルに直接のダメージを与えられてはいない。

それでもスカラベを損傷させたのは事実。

テッドの例を見ても、ブースターゴールド菌であるクロノアルエナジーと

スカラベは直接連結はできない。

 

ならば、スカラベ自体を叩くのは、

ブースターゴールドのような自動超再生ができない以上、

有効な手段になりうる。

 

今のスカラベならば氷上を戦うのは困難。

そしてJLIは全員が飛行能力を持っているチームだ。

バットマンにはないが、ダークナイトが氷上戦闘術を修めていないわけがない。

 

裏付けるかのように、ブースターゴールドの膝蹴りが

ブラックビートルの顎に吸い込まれ、ヒットする。

相手が背中側に反り、連携してハイメが両腕を鎌にして切り裂いていく。

 

「見つけましたよ」

 

 

スキーツが虚空に狙いを定め、特定した座標に時空の歪を生み出した。

そこから現れたのは、同じく小さな弁当箱型のアンドロイド。

違いがあるならば、ボディの色がブラックと同じ黒ということだ。

 

ダークマルチバースのブースターゴールドから奪ってプログラミングされ直した、

かつてスキーツだったもの、マクシミリオンである。

 

「これがブラックビートルの不死身さの正体です。

 彼がスカラベを遠隔管理し、

 クロノアルエナジーが適合条件を阻害しないように調整していました」

 

「私とスキーツで彼に対処する。

 ブースターゴールドとブルービートルで時間を稼ぐんだ」

 

バットマンとスキーツが、マクシミリオンのいる時空の歪に飛び込んでいく。

残されたブースターゴールドとブルービートルで、堕ちたブルースに立ち向かう。

無数の連打を浴びせていくと、ブラックビートル自身の体術によって攻撃はそう当たらない。

 

しかし、流れが来ているという実感があった。

 

「まだ私に勝てると思い込んでいるのか?」

 

「現在進行形で勝ちに向かっているだろうが、バーカ!!」

 

凍った地面に足が取られないよう気をつけ、

ブースターゴールドは上下を入れ混ぜた攻撃を続ける。

だがブラックビートルの体勢はすでに立て直され、

こちらの攻撃はブルービートルと連携しても掠りすらしない。

 

頬を殴り飛ばされた黄金の男が、数回転して舞う。

 

「なあ、ブースターゴールド。

 お前は幸せになろうとしたことはないか?」

 

左肩を抉られたが、クロノアルエナジーによってすぐに回復した。

黒鋼色のボディへ至近距離からガントレットレーザーを当て、

反対側からブルービートルがキャノン砲を撃つ。

 

「いつも思ってるけどテメエレベルに腐ってられっかボケ!!」

 

「私はいつも思ってきた。

 アルフレッドを父にし、ディックを息子にし、クラークを親友にし、

 なのに心は少しも満たされることがなく」

 

両手でエネルギーを受け止めたことで、

ブラックビートルの装甲が剥がれ始めた。

 

「私は無敵だ。死なない限りは必ず勝利する。

 ……私の子ども達も同じ素質を備え、私を超える力を持っていた。

 だが、結果は死だ」

 

「……俺だってテッドが死んで悲しいけどよ。

 お前みたいに仲間を何人も殺そうとは思わないぞ」

 

「あんたは俺の家族を殺したんだ!」

 

片腕を鎌に変形し、遠心力と推進力で

ブルービートルがブラックビートルの首に斬りつける。

身を引いたブルース・ウェインが横蹴りでハイメの腹を打ち、

そのまま踏み込んだ拳を打ち付ける。

 

「あぶねえ!」

 

少年を庇ったブースターゴールドの腹が陥没し、

即死はせずとも、跪いて悶絶した。

 

「普通のメタヒューマンならば、まず死んでいた攻撃だ。

 立派になったものだな……脳みそポコチン頭が」

 

「ポコチン?」

 

戸惑ったハイメの喉元に、ブラックビートルの巨大な手が迫った。

躱せず、完全に組み付かれたハイメは気道を締められ、

両足をばたばたと蹴りつけた。

 

「よせ!」

 

「ゴッサムに生まれ、私達ヒーローに憧れ、

 21世紀に来てジャスティスリーグに加入し、

 行き着く先は笑顔浮かべて歴史の守護天使と来たか。

 私達の奮闘も、死も、すべてお前のためのお膳立てなのか?」

 

「……聞いてくれ、ブルース。

 お前の無念はよくわかる。俺も何度も叫んだよ。

 なんでこんな人生なんだって。でも、全てに意味があるんだ」

 

「貴様を偉大なヒーローにするという意味だろう!!」

 

ハイメ・レイエスを押し倒し、高く上げた足で踏みつけた。

内臓が口から飛び出るだろう圧力と衝撃に、

ハイメの体が鋭角に折れた。

 

「ハイメ!」

 

「脳みそポコチン頭! KGBにそう呼ばれていたな!

 あの子と同じ名だ! 貴様を歴史に呼び出すため、犯罪との戦いで斃れた我が子の名だ!

 我がロビンフッドの!! ポコチン!! 貴様がその名で呼ばれていることこそが、

 私には耐えることができようはずもない!!」

 

JLIのメンバーが、ブースターゴールド以外、全て敗北し。

ヒーローとヴィランの相対となる。

スカラベの自己修復が終わったブラックビートルが翅を展開し、

空中飛行で攻撃のみに振った突撃を仕掛けてくる。

 

「ポコチンポコチンポコチン!

 私達の苦しみも死も喰わせるものか!!

 ブースターゴールド。私は、貴様に何一つ託すことなく! 幸せを掴んでみせる!!」

 

両腕を上げてガードをし、ラッシュを防いだが、

両拳が銃に変形し、弾丸ではなく銛が打ち出された。

 

「ポコチン(DICK)……!」

 

両肩が壁に縫われたが、

それよりもブルース・ウェインの叫びによって、

敵と知ってもブースターゴールドは悲痛な面持ちになる。

 

「すまない……ブルース。

 俺は、そんな……」

 

「謝る必要はない。私に頭を垂れ、全てを差し出すがいい。

 お前の力を手にし、私こそが原初のブルース・ウェインになるのだ」

 

言っている意味はよくわからないが、

ヒーローは首を振った。

 

「それは無理だ、ブルース」

 

「この世界になんの未練がある?

 お前に何を与えてくれた」

 

「未来をもらったよ、白紙の未来をね」

 

肩の機能が壊れるのをかまわずに、銛ごと

体を壁から抜き取る。

筋繊維が何本も弾けて、全身を激痛が襲ったが、

気にするものでもない。

 

「全てを知る玉座を持つお前が?」

 

「そうさ。お前にこの歴史を渡す気はない」

 

瞬間、ブラックビートルの脊椎にあるスカラベが解放され、

ブルース・ウェインが貯めていたクロノアルエナジーが流れ出していく。

 

「ようやく始まったか」

 

再度、虚空にポータルが発生し、

スキーツと、黒いスキーツを抱えたバットマンが帰還した。

 

「マクシミリオンの対処が終わりました」

 

「殺してないだろうな?」

 

返答しない別アースのスキーツを見て、

ブースターゴールドが尋ねた。

 

「私が開発しておいたバットクリーンアップ装置によって、

 奴が植え付けたプログラミングは除去した。

 かつてのデータが残っているかは、これからわかることだな」

クロノアルエナジーが抜け、ブラックビートルに超再生はない。

それと連動する超変形も不可能となり、

対処は十分に可能だろう。

 

「どうだブラックビートル。これで三対一だ」

 

「言われるまでもないだろうが、お前と私は同一存在。

 つまりバットマンとブラックビートルは100対100が同義。

 そこにJLIメンバーとブースターゴールドにスキーツの戦力も合わせれば……

 クロノアルエナジーが使えない今、お前の勝利は風前の灯火だ」

 

「ふっ…………」

 

圧倒的有利な状態から限りなく五分まで持ち込まれても、

バットマンだったものの余裕は消えない。

それにヒーロー側にはバットマンがいるのだ。

JLIとブラックビートルの戦いをあれだけ観察した後ならば、

いくら別アースのブルース・ウェイン相手といえど、裸同然だろう。

 

「たしかにマクシミリオンのデータと能力は非常に有力だった。

 バットマン。さしずめ、お前が立てた策はここまでが絵図だったろう。

 だが私の技術は、とうにマクシミリオンなしでも成り立っている」

 

ブラックビートルが指を鳴らすと、基地中の機器が稼働した。

周囲の変化をスキーツが敏感に察知する。

 

「これは……室内のタキオン粒子が激増しています。

 地下全体がクロノアルエナジーの過剰照射に晒されるでしょう。

 私とブースターゴールド、

 ブラックビートルを除いた面々はタイムトラベル用の装備はありません。

 間違いなく、JLIが全滅するでしょう」

 

「何をするつもりだ、ブラックビートル!」

 

「さてな」

 

不敵に笑うブラックビートルに、

バットマンは考慮外の事態が起きているのを悟った。

 

「2人とも、この状況で起こりうるのは何だ!?」

 

「…………ブースターゴールドがウェブライダーになりますね」

 

「ウェブライダー? 彼はすでに……」

 

バットマンが事態がわからない中で、

ブースターゴールドがブラックビートルにかかっていく。

これまでは軽佻浮薄な振る舞いが旨だった彼に、

明確な焦りと恐怖が浮かぶ。

 

「どうした? 人ならざる者になるのがそんなに怖いか?」

 

「何のつもりだ!」

 

「己を解放しろブースターゴールド。

 脳みそポコチン頭? ジャスティスリーグの終生汚点メンバー?

 どれもくだらん、あまねく時空を睥睨し、無限に重なる歴史を貫く波動に至るがいい」

 

「お断りだ!」

 

クロノアルエナジーが抜け、ブラックビートルに超再生はない。

それと連動する超変形も不可能となり、

対処は十分に可能だろう。

 

「どうだブラックビートル。これで三対一だ」

 

「言われるまでもないだろうが、お前と私は同一存在。

 つまりバットマンとブラックビートルは100対100が同義。

 そこにJLIメンバーとブースターゴールドにスキーツの戦力も合わせれば……

 クロノアルエナジーが使えない今、お前の勝利は風前の灯火だ」

 

「ふっ…………」

 

圧倒的有利な状態から限りなく五分まで持ち込まれても、

バットマンだったものの余裕は消えない。

それにヒーロー側にはバットマンがいるのだ。

JLIとブラックビートルの戦いをあれだけ観察した後ならば、

いくら別アースのブルース・ウェイン相手といえど、裸同然だろう。

 

「たしかにマクシミリオンのデータと能力は非常に有力だった。

 バットマン。さしずめ、お前が立てた策はここまでが絵図だったろう。

 だが私の技術は、とうにマクシミリオンなしでも成り立っている」

 

ブラックビートルが指を鳴らすと、基地中の機器が稼働した。

周囲の変化をスキーツが敏感に察知する。

 

「これは……室内のタキオン粒子が激増しています。

 地下全体がクロノアルエナジーの過剰照射に晒されるでしょう。

 私とブースターゴールド、

 ブラックビートルを除いた面々はタイムトラベル用の装備はありません。

 間違いなく、JLIが全滅するでしょう」

 

「何をするつもりだ、ブラックビートル!」

 

「さてな」

 

不敵に笑うブラックビートルに、

バットマンは考慮外の事態が起きているのを悟った。

 

「2人とも、この状況で起こりうるのは何だ!?」

 

「…………ブースターゴールドがウェブライダーになりますね」

 

「ウェブライダー? 彼はすでに……」

 

バットマンが事態がわからない中で、

ブースターゴールドがブラックビートルにかかっていく。

これまでは軽佻浮薄な振る舞いが旨だった彼に、

明確な焦りと恐怖が浮かぶ。

 

「どうした? 人ならざる者になるのがそんなに怖いか?」

 

「何のつもりだ!」

 

「己を解放しろブースターゴールド。

 脳みそポコチン頭? ジャスティスリーグの終生汚点メンバー?

 どれもくだらん、あまねく時空を睥睨し、無限に重なる歴史を貫く波動に至るがいい」

 

「お断りだ!」

 

この戦いで膨大なクロノアルエナジーを消費したブースターゴールドは、

存在を維持するためにエネルギーを受け入れる体勢ができている。

そこに用意されたクロノアルエナジーを注ぎ込まれれば、

ブースターゴールドの存在は取り返しがつかない変貌を遂げるだろう。

 

「……そういえば、思い出したな。

 あのブラザーアイ。バットマン最大の失敗についてだが、

 お前は、私が何故そんなことをしたかわかっているか?」

 

ブースターゴールドとて、このタイミングで言葉を弄するのは、

心を惑わせるためと理解できる。

下唇を噛んでブラックビートルへ攻撃を続け、

スキーツやバットマンが何かしてくれるのに賭けた。

 

「この基地をジャックしよう」

 

「ですが、それには使われている技術の年代を特定しないと……」

 

「やらないよりはマシだ」

 

右ストレートを放つもカウンターにジャブを喰らい、

それでたたらを踏んだ瞬間には胸と喉に爪先蹴りを喰らった。

クロノアルエナジーはブースターゴールドの存在を構成する主要物質。

それが消耗されていることで、動きも鈍くなっている。

 

「私がブラザーアイを作ったのは……人間不信。その通りだ。

 だが、それ以上にあったのは、己の最高の策を試してみたかった。

 ハハハッ、ちょうどイイところにザターナ達が私の記憶を封じていたのを思い出して……

 裏切られたと失望したが……それよりもずっと……ずっとな」

 

露出している口元が左右に大きく引き吊り、

耳まで届かんばかりのチェシャ笑いになった。

 

「“シメた!”って思ったよ」

 

ブースターゴールドの目が血走り、

激情が燃えて暴れているのが誰からもわかった。

 

「そしてドミトリが死に、テッドが死に――」

 

「もういい」

 

誰も聞いたことがない冷たく低い声音。

首を傾げたブラックビートルに、

ぞっとする空虚な表情に移ったブースターゴールドが囁いた。

 

「お前は話すな」

 

飛び上がり、ブースターゴールドのクロノアルエナジーが急上昇し、

全身を虹色のオーラが包み、髪が炎のように長く逆立つ。

黄金のアーマーが黄金の体躯へと変じていく。

 

ブラックビートルが恍惚とした面持ちで、それを迎える。

ウェブライダーとなったブースターゴールドの拳が、

異界のブルース・ウェインへと伸びていった。

 

ウェブライダーは時空、波動を司る巨人だ。

万物を自在に時空転移させられ、

その気になれば敵の構成粒子の全てを、

それぞれ違う時代・空間・世界に飛ばすこともできる。

 

「消えるがいい、傲慢窮まりし者よ」

 

冷淡に吐き捨て、渦動の調停者が攻撃する。

 

「おや、お利口さんな話し方になったな。

 ……本当はとっくにそうなっていたんだろう?」

 

「黙れ」

 

すぐにでも消滅するはずだったブラックビートルが、

奇妙な力場に阻まれて平然としている。

 

「どれだけの時間、人間という体裁で歴史を守ってきた?

 あり得た歴史……ここは分史とでも呼ぼうか。

 いくつの分史を見て、触れて、破壊した」

 

「黙れと言っている」

 

ウェブライダーの存在干渉は弾かれているのではなく、

吸収されていた。

 

「膨大な叡智を溜め込んだ自己。

 必死に箍をかけていたそれを解き放てば、

 ジャスティスリーグ・インターナショナルの記憶も、繋がりも残ろうものか」

 

「消えろ」

 

ウェブライダーの体から、

ありとあらゆるクロノアルエナジーが、

ブラックビートルのスカラベへと呑み込まれていく。

 

「製造者ですら予想しなかったことかもしれないが……

 スカラベの最大の長所は、底知れぬエネルギー貯蔵器たる点だ」

 

時空の巨人から戻り、

激しい虚脱感に襲われて蹲るブースターゴールドを、

ブラックビートルは無感動に見下ろした。

 

「お前こそが私の狙いだ。

 歴史、時を流動するクロノアルエナジーが化身、ウェブライダー。

 その力があれば、私は…………真の我が根源に至るだろう」

 

「何言ってんだ?」

 

「お前も知っての通り、アースとは独立するものではない。

 互いに隣接しあい、異なる周波数によって隔てられ、影響し合う。

 ダークマルチバースは規則性がない混沌たるメタルだが、

 マルチバースはスーパーマンより始まり、フラッシュが先導するパンクロックだ」

 

バットマンとは気が違っていても、

地に足の付いた理論に基づく男だ。

ブースターゴールドの想像する探偵と、

目の前の人間には、埒外の法則を振りかざす男が結びつかない。

 

「このマルチバースでなくてはならないのだ。

 この、スーパーマンより始まった規則性のある多重平行世界ならば!

 私はマルチバースという旋律……パンクロックを解読、理解、支配を完了した暁には

 『あまねくブルース・ウェインが幸せになる』因果律を掴み取る。

 私こそが真のブルース・ウェインに成り代わり、

 私から生まれる因果によってバットマンだけは幸福になるのだよ」

 

「…………狂っているぞ、貴様」

 

「とっくに狂っていただろう。お前は何処にあると思う?

 39年か69年か86年か……まさか05年にはないだろう。

 あのバットマンだけは幸福を掴んだ」

 

黒き甲虫、紛れもなき狂い、怒れる妄想狂が

ブースターゴールドの首を掴み、持ち上げる。

ケイブが放たんとするクロノアルエナジーに、

ブースターゴールドを避雷針にして使おうとしていた。

力を使い切ったブースターゴールドが、悲しげに呟いた。

 

「お前は俺のこともみんなのことも信じなかったんだろうけどさ。

 俺はお前のことを信じていたんだよ、ちくしょう」

 

そんな独白もブラックビートルには届かない。

だが、その代わりに、黒い小さな影が接着した。

 

「なにっ――!?」

 

この戦いで最も、ブラックビートルの表情が動いた。

 

「終わりにしてもらいます」

 

「スキーツ!」

 

ウェブライダーへの変化が停止し、

ブースターゴールドは黒く染まっていようと、

紛れもない異世界の親友が動いたことに声を上げた。

 

「意識が残っていたのか」

 

「ヒーローの対策をしていたのが、ご自分だけと思っていましたか?

 私は……私はずっと……

 マイケルに消えない傷を植え付けた貴方達を、深く憎悪してきました」

 

「待て!! そいつから離れろスキーツ!」

 

「この施設におけるアクセス権は私も持っています。

 私に向けてエネルギーを極点集中させれば、

 この男もろとも時空の彼方へ消えられるはず」

 

「そんなことはしなくていい!! お前は生きて……」

 

「貴方だけでも幸せになってくださいね、マイケル・ジョン・カーター」

 

マクシミリオンがブラックビートルを巻き込み、

超極小だが、余波に触れた一切を時空の彼方に連れて行く爆発が発生した。

とっさにフォースフィールドで周囲を隔離したが、

それがなくとも、ブースターゴールドが知るスキーツならば、

第二被害を起こさない気遣いはしていたはずだ。

 

ケイブのコンソールに没頭していたバットマンとスキーツが、

事態が収拾されたことに安堵した。

 

「クソっ……けっきょく、助けられなかった……」

 

「自分を責めるな」

 

肩に手を置き、ブルースが慰めた。

ブラックビートルは消失し、

居場所もわからない彼方へ飛んでいった。

 

「奴が死んだのかはわからないが……

 いや、生きていると仮定すべきだ」

 

「馬鹿な。マクシミリオン……

 スキーツが身を呈して飛ばしたんだぞ」

 

「HE WAS BATMAN.(奴は元バットマンだ)

 それだけで、ありとあらゆる事象を考慮する必要がある。

 だが、安心しろ。

 この戦いでブラックビートルのデータは十分に集めた。

 次で決着をつけられるはずだ」

 

倒れたメンバーを起こしながら、バットマンが話す。

ブースターゴールドは一人、思いつめた様子で黙り込み、

やがて決心したように頷いた。

 

「お前たちはタイムスフィアでヴァニッシングポイントへ戻ってくれ。

 俺は別に行くところができた」

 

##########

 

31世紀。

クラーク・ケントがスモールヴィルに流れ着き、

ケント夫妻に育てられてスーパーマンとなったことが、

もはや歴史として周知されている時代。

 

地球は宇宙の中心地となり、

ヒーローを夢見る少年少女の登竜門となっていた。

中でも、宇宙最大規模にして最も偉大と尊敬を集めるチーム――

リージョン・オブ・スーパーヒーローズ。

その本拠地を、ブースターゴールドは訪れていた。

 

「ブレイニー! 会いに来たよーー!!」

 

エントランスで喉を振り絞って叫ぶと、

即座に上空から影が降りてくる。

緑の肌を持つ端正な顔立ちの青年――

リージョン・オブ・スーパーヒーローズのリーダー、

ブレイニアック5だった。

 

「……少しは静かにできないのか。

 正規の手続きを踏んで面会を申請してくれ」

 

「なによぉ、お高く止まっちゃってぇ。

 俺達の仲にそんな堅苦しいの、いらないだろぉ?」

 

軽口を叩きながら、二人は握手を交わす。

 

ブレイニアック5は天才的な頭脳を持つがゆえに、

半ば独学で、ブースターゴールド――

すなわちタイムマスターの域に迫る

時空理論と歴史干渉の知識を修めている。

 

リージョンは歴史を戦場とすることも多く、

かつては衝突したこともあった。

だが今では、互いの立場を理解した上で

良好な関係を築いていた。

 

「それにしても……

 連絡を受けたときは目を疑ったよ。

 本気なのかい?」

 

ブレイニアック5は、隠しきれない不安を声に滲ませた。

 

「ああ。責任は俺が持つ」

 

即答だった。

迷いも、照れもない。

 

「……31世紀で管理しているとはいえ、

 あれはあくまで一時的な措置だが……」

 

二人は面会室へと移動する。

ブレイニアック5が操作端末に触れ、

ファントムゾーン・プロジェクターを起動した。

 

かつてスーパーマンが

“どうしても殺せない危険人物”を封じるために使った装置。

この時代では、リージョンが厳重に管理している。

 

空間に裂け目が生じ、

そこから一人の男が引きずり出される。

 

目と耳を塞がれ、

脳へ直接情報を流し込む拘束ギアを装着された――

マクスウェル・ロード。

 

多少やつれた様子はあるが、

ブースターゴールドと死闘を繰り広げていた頃と、

本質は何一つ変わっていない。

 

「……そこにいるのは?」

 

「喜べ。テメエを出してやるぞ、クソ野郎」

 

「なんだ、ブースターか。

 悪いが帰っていいかい?

 今ちょうど、私の空想世界旅行が佳境でね」

 

「フザケたこと抜かすな。

 道中で話してやるから協力してもらう」

 

「見返りは?」

 

「無い。

 だが、世界と一緒に死なずに済む」

 

「それは……魅力的だなあ」

 

へらへらと笑う不倶戴天の敵。

ブースターゴールドの腸は煮えくり返る。

殴り飛ばしたい衝動を抑えるだけで、

かなりの精神力を要した。

 

背中を蹴りつけ、

進行方向を乱暴に指示するブースターゴールドを、

ブレイニアック5は気遣うように見つめ、

前髪をかき上げた。

 

「以前、君がクロノアルエナジー体になったと話した時、

 『長生きできて、いつまでも若いなんて最高じゃん。

 ビンビンフォーエバー』

 そう言っていたね。

 今でも、同じ気持ちなのかい?」

 

答えられなかった。

 

もちろん、と言えるはずだった。

冗談めかして、

「もろちん」と返すことだって、できたはずだ。

 

「君は非リージョン・オブ・スーパーヒーローズの人間で、

 唯一、恒久的にリージョン・フライトリングの所持を

 許可された存在だ」

 

ブレイニアック5は後ろ手を組み、続ける。

 

「私が設計したフォースベルトと合わせて、

 君が持つそれらは、本来なら

 私の与り知らぬ因果で、

 ――言ってしまえば、卑劣にも君が盗んだ物だ」

 

「……意味があるって言いたいのか?」

 

ブースターゴールドが首を傾げる。

 

ブレイニアック5は、

ほんの一瞬だけ優しい表情を見せて微笑んだ。

 

「君は空を飛び、

 人を助けられるという意味さ。

 素晴らしいことじゃないか」

 

#############

 

「――――と、

 キャプテンアトムがペニスを露出することが勝利の鍵になるわけだ」

 

「やるっきゃないわね」

 

「ちっ、認めたくねえが……クソバッツの作戦は相変わらず隙間がねえぜ」

 

「大丈夫?」

 

士気を燃やすファイアとガイ。

後ろで頭を抱えるキャプテンアトムの背中を、アイスが撫でた。

葛藤している量子のヒーローが首を振る。

 

「心配いらない……いつかはやらなければと思っていたんだ。それが、今日とはわからないものだな」

 

「ネイトがポコチンを晒すって?」

 

バットマンに作戦を伝えられているJLIの元に、

31世紀からブースターゴールドが戻ってきた。

隣には巨大なヘッドギアを付けたマックスウェル・ロードもいる。

 

その場の全員が、宿敵が来たことに驚愕した。

 

「マックスウェル・ロード!?」

 

「何考えてやがるんですか!」

 

「俺の判断だ。マックスウェル・ロードをブラックビートルにぶつけてみよう」

 

「相談してからでもよかったでしょうが!」

 

歓迎するとは思わなかったし、反対もされると予想していた。

しかし、JLIのリーダーが立てた予想と違い、

みんながこちらを怒りではなく、心配の目で見てきた。

 

ガイ・ガードナーが、粗暴を体現した男がブースターゴールドに言った。

 

「お前、平気か?」

 

「アホなこと言うなよあったりまえじゃあん! まあ、不安なのもわかるし、ぶっ殺したいのもわかるけど、危険はないからやらせてみようぜ」

 

強引にメンバーを散らせ、

バットマンだけが頑として残った。

 

「なんのつもりだ?」

 

「お前がいても勝てなかったんだ。それなら、俺が知る限りで唯一、お前に勝ったこいつを使うのは理に適ってる」

 

「奴はヴィランだ」

 

「知ってるよ」

 

「君はヒーローだ」

 

「かもね」

 

へらへら笑うリーダーの肩に、

バットマンの手が載った。

 

「自分を見失うな」

 

「自分って何だよ。……お前もとっくに見抜いているんだろ。俺はとっくの昔に、お利口さんになっちまってる」

 

「それは君の本質ではないだろう」

 

「何処がだよ。『僕のことは笑って思い出してくれよな、ブワハハハ!』それがあいつの最期の言葉だった。だから、俺はずっと……アホでいなければいけないんだ」

 

「人は変わるものだ。過去に戻ってテッドと組んだとしよう。そうすれば、君は必然的にツッコミ役にまわっているはずだ。テッドは過去にしか存在し得ず、君は常に世界を救い続けているのだからな」

 

「だとしても俺は、お利口さんになるのが怖いんだ。アホでなくなった我がハートの何処にヒーローがいる?」

 

「そこにいる」

 

1秒もない返事だったが、

ブースターゴールドの瞳が淀み、

硬質な印象が強くなる。

 

しかし、それもすぐに消えた。

肩を竦めてブースターは話した。

 

「糞親父の暴力から妹を庇ってきて、お前らに憧れて21世紀に来たよ。でも俺のヒーローは、誰に信じられなくても戦って死んだテッドとか、俺を助けてくれたドミトリとか、世界のために死んだスキーツだった」

 

インフィニットクライシス、

そして次に繋がるMr.マインド相手のマルチバース防衛戦。

いずれもブースターゴールドは少数であり、

だが常に友が、彼に命と未来を託して散っていった。

 

「ずっと、俺は俺がヒーローと思った奴らに恥じないように戦ってきたんだ。あいつらの墓標の前で、歴史のために見殺しにしてきた友の前で、俺は歴史の検事、判事、そして執行者であろうと決意してきた」

 

「それだけではないだろう」

 

「それだけだよ! なのに何度も何度もお前らが殺してくれるけどなあ!!」

 

限界を超えたブースターゴールドが、

バットマンの胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

マックスウェル・ロードが大笑いしているのが聞こえた。

 

「なんでなんだ!? なんであいつらが死なないといけなかったんだ! あいつらがお前らに何をしたっていうんだよ! ただ世界を良くしようとしてきただけだっていうのに!!」

 

言い切って頭が冷えるどころか、さらに加速していく。

 

「俺は……私は……父親を奪われたドミィの家族の痛みを……ゴーグルだけを返された時の私の……俺の……っ! 私は………ッ!!」

 

「君はバットマンのことも、奴のことも殺さなかった」

 

「それはヒーローがそうすべきだからだ!」

 

「違う」

 

ブースターゴールドの腕を掴み、

如何なる技術によってか相手を投げ飛ばした。

空中で体勢を整えたブースターゴールドが、音もなく着地した。

 

「そこに君の根源を掴む手がかりがある。決して忘れるな」

 

「いやあ、参ったよなあ、バットマンくん。まさかあそこまで怒らせてたとはねえ」

 

味方のような振る舞いで接してきた

マックスウェル・ロードを、バットマンが殴り飛ばした。

部屋を出ようというバットマンの背中へ、

ようやっと頭が冷えた黄金の男が気まずそうに言った。

 

「何処に行く?」

 

「君の策は理解した。だが私には、かねてより練っていた対メタルの秘策がある」

 

「それは?」

 

「今こそ、私はラッパーになる」

 

「えっ、何故?」

 

 

###########

 

世界にはあらゆる学派が存在し、研究対象もある。

中でも、脳とは無限の可能性を秘めた器官として、

あらゆる専門家を魅了してきた。

 

日常的に使う脳の機能はあくまで一部分。

それはもはや誤りだが、脳を改造することで新たな領域に至らんとする者は跡を絶たない。

例えば、脳みそを筋肉にする学問、

または脳みそに瞳を増やす学問などが挙げられる。

 

前者は未だに未知の領域だったが、後者はいくつかの方法が発見されている。

脳に瞳を増やす、これは思考の観点を増やすためである。

つまり、真実を鋭く抉るためであり、それはラッパーの極みということだ。

 

ラッパーになれば脳に瞳が増える。

それは、探偵である者ならば自明の理である。

推理を披露する時、探偵は犯人の手落ちと欠点を鋭く糾弾する。

すなわちラッパーがイカしたライムで敵をグルーヴィにdisるのと同じ。

 

ヒーローはパンクロックだが、

探偵はラッパーである。

これは、否定の余地もないだろう。

 

宇宙の彼方、ラップを極めに極め、

弟子のエトリガンをして「マジパねえ、勝ち場ねえ」と言わしめた

賢者で高僧のヒップ・ホップ・ビショップ。

 

遍く真実をdisる瞳に目覚めたが故に、

世俗を離れ、ラップを捨て、

ソースウォールの側に座遊せし知慧を手にした者。

 

究極リリックを編み出すのに命を捧げたことで、

脳に発生した瞳によって後頭部が肥大化。

腕は三対となり、双眼よりも巨大な瞳が額にある三眼の相。

 

そこに、世界最高の探偵と尊敬されるバットマンが現れた。

 

ヒップ・ホップ・ビショップにやわなリリックは通用しない。

だがバットマンは左脳を刺激するツボに設置したスイッチを押し、

マスクにキャップが生え、ケープはだぼっとした西海岸スタイルとなった。

 

 

ゴッサムは東海岸の都市。

ここで西海岸スタイルを使うのはバットマンらしい天邪鬼と言えよう。

 

 

言うまでもないが、ラッパーの多くがキャップをかぶるのは、

脳に瞳がができて三眼になったのを避けるためだ。

そして大きな衣装を着るのは体にも瞳があるから、否、そこまで言及するのは……。

 

 

全てを舐め尽くしながらも、鋭き観察眼を持つ探偵/ラッパーたるバットマンが宣言した。

 

 

「バットラップを喰らいな、メーン」

 

#########

 

 

ヴァニッシングポイント。

無限に流れるクロノアルエナジーにぽかりと浮かぶ小島。

その上空にて縦に皴が入り、

漆黒の装甲、スカラベを背負うヴィランが現れた。

 

「ブースターゴールド…………!!」

 

もはや狙いを隠すこともせず、バットマンだった悪魔は

タイムマスターへ狙いを定めて、狂的な執着をぶちまけている。

 

「へぇー、あれがブラックビートルか! ところで君たちは私がこのギアを外せば、奴なんて洗脳で瞬殺だと理解しているかい?」

 

「喋るなクズ野郎」

 

「ひゃあ怖い」

 

待ち構えていたJLIとマックスウェル・ロード。

 

「手はずはわかっているな、キャプテンアトム」

 

「……ペニスを晒すんだろう」

 

「そうだ。お前がJLIで貯めに貯めた人間性を、いまこそ焼却するのだ」

 

そう言うやバットマンは特製バット量子ジェネレーターを、

キャプテンアトムに照射した。

ラッパーになると言っていたが、外見に変化はない。

やはりラッパーとはただの比喩だったのかとブースターゴールドは不思議に安堵した。

 

米軍の実験にてメタヒューマーンになったキャプテンアトム。

100年近く生きてきた彼だが、初めの頃は普通の人間と同じ姿をしていた。

 

それが、世界を脅かす者達との激戦を繰り広げ、

さらなる力を求めた結果、全身白銀の彫像が如き外見となった。

 

今のキャプテンアトムは全身を量子フィールドでコーティングしており、

ボディラインがはっきりしていてもペニスは隠れている。

そして、本来は体毛がないところを、量子の力でカツラを形成してかぶっているのだ。

 

ふさふさヘアーとペニスカバー。

それがキャプテンアトムが失うことのできない人間性であった。

だが、より先の力を振るう巨人になると決めたらば、

髪は霧散し、ペニスは露出されるだろう。

 

「JLIのみんな」

 

己の怪物性を、パワーの玉座に座ると決意したキャプテンアトムが、

苦楽をともにし、苦を己に課すこともあったジャスティスリーグ・インターナショナルに告げた。

 

「私がかねてより叫びたかったことを、叫ばせてほしい」

 

「へっ、バカヤロー、今生の別れみたいにいうんじゃねえよ、キャップ」

 

「先達、ドミトリの名にかけて絶対にあなたをポコチンさらしモンスターになんてさせませんよ!」

 

仲間たちの激励に頷き、

リーダーのブースターゴールドに目配せした。

 

「ネイト……」

 

「私達はみな、米軍の狗とされたり、気が触れたキチガイとされたり、村を滅ぼした魔女だったり、コミュニストだったり、バットマンだったり、火星から来たりアポコリプスから来たり……未来から来た馬鹿だったりした。他のチームではそうそう馴染めないはみ出し者揃いだ」

 

「おーい、私のことも忘れないでくれよ」

 

「だまりやがれ!!」

 

マクスウェル・ロードの鳩尾に膝をめり込ませ、

ガイが怒鳴った。

 

「ふっ、だが私達は今や、尊敬と称賛を浴びるヒーローにはなれなくとも、ブースターゴールドに希望を見出し、壮大な冒険へ乗り出したのだ」

 

白銀の極光に放たれ、

キャプテンアトムの頭から量子疑似頭髪が虚空へ溶けていく。

そして、全身を包む量子コーディングは薄く、さらに薄く、

強度を高めながらも、ナノミリより微細な粒へ、

ペニスが出るほどに薄く、硬く。

 

「ジャスティスリーグ・インターナショナル……」

 

ペニスが先端の、亀頭も丸見えになる刹那。

キャプテンアトムが盛大に叫んだ。

 

「団結せよ!!!!」

 

ウェブライダーの力を吸い取り、

完全に人ならざるものへと堕ちたブラックビートルが、

クロノアルエナジーの力場球体を放つ。

 

ウェブライダーとはクロノアルエナジーの結晶体。

時空改変とあまねくを支配する時の巨人。

いわば、究極の歴史改変者だ。

 

完全体のウェブライダーがビームを撃てば、

それは究極の歴史改変ビームに他ならない。

 

まだその域には至らずとも、

ブラックビートルの力に抗うのは、並のメタでは不可能であった。

 

だが実質的に白銀の肌となり、

無毛の頭部、存在を主張するペニスをぶらつかせ、

量子の最強になったキャプテンアトムがクロノアルエナジーを一瞬にて分解させた。

 

「ネイト……!」

 

「キャプテンアトムがおちんちんを出しているわ!」

 

「……包茎だったんですね」

 

キャプテンアトムとブラックビートルが空中でぶつかり合う。

歴史を統べる力と量子を統べる力。

人間性を捨てた者と人間性を燃やした者。

 

一合だけでヴァニッシングポイントが揺さぶられ、

空間全体が悲鳴を上げていく。

 

「おいおい、どうすんだよ。俺達の出る幕ないじゃん」

 

「これはもう全てが終わったらこいつをリンチしてスッキリするしかやることねえよ」

 

「モテモテだなあ、私」

 

ブースターゴールドとガイ・ガードナーが、

途方に暮れて戦いを見物していた。

 

「言っただろう。まずは奴の力を削るのだ。そこに我らの勝機があるのだ」

 

キャプテンアトムがブラックビートルの右腕を分解消滅させる。

だが時間を巻き戻し、損失は修復され、

クロノアルエナジーを籠めたキャノンを砲射した。

量子によって消される直前、

エネルギー体は時空転移してキャプテンアトムの背後から出た。

 

「…………」

 

一切の言葉を発することなく、エネルギー弾が直撃した

量子の巨人は、全身を時空間の彼方へ飛ばされる前に躊躇わず背面を切り離した。

削られた背中からおびただしい出血と、内臓などが溢れていった。

 

「クソっ、こうしちゃあいられねえ! みんなでネイトに加勢しようぜ!!」

 

「でもバットマンが――」

 

「かまわん、行って来い」

 

バットマンに後押しされてJLIが飛び出していった。

キャプテンアトムによって、

ブースターゴールドから吸い取ったクロノアルエナジーは大きく減退していた。

 

断続的に発生する存在の削り合い、

真正面からガイ・ガードナーが飛びかかり、

巨大なブリーフをぶつけた。

 

「驕るなよ、ランタン風情が」

 

ブラックビートルが緑のブリーフを切り払う。

2つに割れたパンツからロケットレッドが突進してきた。

 

「アカパンチ!!」

 

愛と正義と共産主義が結集したパンチに、

正面から消滅させようとしたところを量子力場に阻まれ、まともに喰らってしまう。

ブラックビートルは苛立たしさを隠せず、つい舌打ちをした。

 

「おーっ!? 今舌打ちしたよねブルースちゃん!? ヘソ曲げちゃったんでちゅかああ!」

 

目ざとく見つけたガイが盛大に罵る。

リングのソリッドライトでマシンガンを撃つ。

 

「ぐおぉぉぉ!?」

 

その乱れ撃ちが時空転移してガイの胴体を縦横無尽に襲った。

 

ファイア、アイス、ブルービートル、ブースターゴールドによる四方からの遠距離攻撃。

力を行使しようにもキャプテンアトムの干渉に気が散ってしまっている。

敢えなく直撃し、大きな損傷を受けたブラックビートルの双眸が爛と濁った。

 

「ナサニエル・クリストファー・アダム」

 

時空転移し、キャプテンアトムの背後に立ったブラックビートルが耳打ちする。

 

「お前の力を狙わなかった理由を教えてやろう。量子の玉座は、巨人の膂力は、ラプラスの魔を体現するだろう。だが、それは運命の奴隷としてだ。ウェブライダーを完璧なものにすれば、私は運命を支配できる」

 

 

「おい、大丈夫なのか! ポコチン晒したキャプテンアトム……ポコチンアトムは善悪の認識ができているんだろうな!?」

 

「全てが見えてさぞかし退屈だろう? 私に降るが良い。そうすればいくらでも楽しい歴史を、バットマンが求めてやまなかった無限の未知をやる」

 

「ちょっとちょっと大丈夫なんでしょうね!? 超越的なの二人も相手にしたくないわよ!」

 

「信じましょう! おちんちんを出していても、彼は私達のキャップのはずよ」

 

「さあ……私と手を取り合おう」

 

キャプテンアトムがペニスを晒す力を最も忌避した理由が、それだ。

量子を操る能力は全未来の見通しを可能とするだろう。

だが、そんな人間には大きすぎる力を持てば、

いつもの何も考えていないようでいてそれなりに考えている

キャプテンアトムの鷹揚さにどんな激変がもたらされることか。

 

一切の人間的感情が払われたキャプテンアトムに

ブラックビートルが手を差し伸べる。

躊躇いなく、キャプテンアトムがその手を握り返した。

 

会心の笑みをブラックビートルが浮かべ。

 

「断る」

 

キャプテンアトムが、普段の軍人めいた物々しい話し方ではなく、

超然的な様子で口を開けた。

 

「何っ!?」

 

「驚いたかブラックビートル」

 

予想の埒外な返答にブラックビートルは驚愕した。

そんな元バットマンの醜態に、バットマンが頷いた。

 

「キャプテンアトムのスーパーパワー。極論すれば『ペニスを出せば無敵になる』と言って良いだろう」

 

至近距離まで、そのペニスを晒したキャプテンアトムに寄った、

ブラックビートルは避ける暇なく量子の干渉を受けた。

 

「ペニスを出せば人間性を失う。だが、睨んだ通りだ。お前はこの世界のヒーローについてはあまり調べていないな?」

 

「何故だ……ネイト、その力を持っていながら」

 

「お前は別アースだろうと我が戦友達を殺したのだ」

 

人間性を灼ききったはずのキャプテンアトムから

あるはずのない怒りが、変わらぬ義憤が見える。

 

「そうだ、彼は」

 

「それを────許すはずがないだろう!!」

 

「人間性を失ってはいない」

 

クロノアルエナジーを充填し、ウェブライダーに酷似した存在になっていようと、

量子の支配者に直で鷲掴みされた箇所を通じての、存在感賞はひとたまりもない。

絶叫をあげたブラックビートルが腕を切り捨て、逃げていく。

 

「おお、流石は偉大なる先達キャプテンアトム!」

 

「わからん……キャプテンアトム。量子の巨人たる貴様が私を否定するのか! 全てを見通す力を持てば、この歴史など退屈な――」

 

「それが間違いだ。私の狙いはあくまで、お前の力を削ぐこと。よく観察するがいい」

 

「まさか…………!!」

 

自由意志を使い果たしたのか、キャプテンアトムは動かない。

だからこそ、ブラックビートルにも不自然さがわかり、

あまりの事態にかつて世界最高の探偵と尊ばれたヒーローが震えた。

 

「そう、彼は包茎ではない」

 

ペニスを晒せば無敵になる。

言い換えればそれは、人間性を捨てることで

万物の破壊と再生、創造を司る神に近づくということだ。

 

それが紛れもないキャプテンアトムの能力が持つ発展性とリスク。

 

 

全てを曝け出すのではなく、

先端を優しく包むようにすれば大抵の者は人間性の維持ではなく、

仮性包茎と見紛うだろう。バットマンの仕込みであった。

 

「お前はブースターが脳みそポコチン頭と呼ばれていたことに激昂したな。ふっ、ポコチン……ポコチンね……。かつてのお前ならば、皮かむりと量子コーティングの違いなど、一目で見破っただろうな。ポコチンから目を逸し、逃げてきたのはどちらだ?」

 

「やめろ!!!」

 

なりふりかまわない悲鳴を絞り出し、

ブラックビートルが、別アースの己自身だろうバットマンを襲う。

JLIの誰もが間に合わない速度。

バットマンでは躱せない速さのはずが高く跳躍、

黒甲虫のナックルが大きく空振った。

 

ケープを纏い、無数のガジェットを抱えて動くバットマンには似つかわしくない上昇力。

のみならず、巨大な腕に着地してみせた。

 

他ならない元バットマンであるブラックビートルは、

見覚えのある動きに呟いた。

 

「………ディック?」

 

「その通りさ、ブルース」

 

そのままに、ディック・グレイソン、ナイトウィングが敵の顔面を蹴り上げた。

ダメージよりも事態の方に衝撃を受けたブラックビートルは顔を抑えてよろめいた。

 

「貴方の大好きなリチャードだ」

 

歯軋りをして、目の前の青年を睨みつける。

形容し難い感情のうねりがブラックビートルの裡でせめぎ合っている。

両腕が様々な兵器に構成され、不安定な変容を繰り返していく。

 

「もうやめないか。こんなことをしても貴方の望みは決して――」

 

「ブルース・ウェインは何処だ!!」

 

両腕をマシンガンに変形させて乱射をするブラックビートル。

大地を蹴って軽やかに避けていくナイトウィングを助けようと、

ブルービートルとブースターゴールドがカバーに出る。

 

「そいつはディックだぞ!?」

 

「だから何だ!?」

 

ガントレットレーザーをシールドで斜めに弾き、

跳ね返す方向をコントロールすることで、味方のハイメに直撃させられた。

それによって硬直した黄金の男の顔を鷲掴みにして、膝へと叩きつける。

 

1秒未満でヒーロー2人を圧倒したブラックビートルが周囲に咆哮した。

 

「クロノアルエナジーを減退させようと、私がバットマンだったことには変わらない! さあ、無知で弱々しい超人どもよ! 私がいなければとっくに滅んでいた愚民! いつものようにひれ伏し、頭を垂れ、許しを乞うといい!!」

 

 

腹の底に響く重低音が、歴史の彼方――ヴァニッシングポイントに流れた。

リズミカルであり、世界の真実を鋭く貫くリリックを連れて、

DJバットラッパーが特製チューニングを施したバットタイムスフィアで帰還した。

 

「バットマン!?」

 

「あれはバットマンなの!?」

 

「落ち着け! こんなところにただのラッパーがいるはずねえ!

 ならあいつはバットマンのはずだ!」

 

激闘の最中も構わずに動揺する周囲。

バットラッパーはバットユーティリティベルトから赤い直方体を取り出した。

 

「バットマンは無敵、再戦必殺。たしかにそうだろう。

 だが、お前は大きな見落としをしている」

 

ラッパー。

宇宙一の賢人ヒップ・ホップ・ビショップとのラップバトルに見事勝利してきたバットマン――バットラッパー。

戦利品であるレンガを誇示し、大きく振りかぶった。

 

「ダークナイトとは、積み重ねるものだ。他者との関係、闘争、監視、盗聴によって知識を蓄える探偵だ。

 お前が、幸せになれる歴史を求めてきたのはわかったが、そこで一つわからなかったことがある。

 どうして自分のアースを歴史改変して好きに改造しようとしなかったか。

 スキーツが観測できた以上、お前の出身アースは依然としてJLIを滅ぼしたままにされてある」

 

あまねくアースには、決して表に出してはいけない秘密がある。

それは、ブースターゴールドが歴史の守護者であるということなどが挙げられる。

だが、同じく門外不出なのが、太古の昔にてスーパーヒーローを司る神を殴殺せしめた、

ヒーロー殺しのレンガである。

 

「バットマンとはヘビメタラップ野郎なのだ」

 

ヒップ・ホップ・ビショップが秘蔵していた神器。

ヒーローという概念に特効たる兵器を、

ラップに脳を支配されたバットマンが投擲した。

 

放物線を描き、緩やかに飛んでいく。

ブラックビートルの頭にレンガが激突する。

ヒーローだった者、かつてヒーローだった者は、そのレンガを絶対に避けられない。

 

「ぐあああああああっ!!」

 

「さあ、バットマンだった歴史から解放してやる」

 

ヒーロー殺しのレンガによって、

ブラックビートルから“バットマンだった”因果が失われた。

ラップバトルに勝った宇宙一のラッパーの前に、

歴史を束ねようという野望に憑かれた男が膝を屈した。

 

「さあ、ジャスティスリーグ・インターナショナル!

 今の奴には対タイムマスター以外の経験はない!

 再戦必殺とは裏を返せば初戦は無力ということだ!!!」

 

号令に従い、JLIが一斉にブラックビートルへ総攻撃を仕掛けた。

ブースターゴールドとスキーツは離れたところから見守ると、

その通りに味方の攻撃が通用していくのがわかった。

 

アイスとファイアの氷と炎には大げさに防御をし、

ガイのグリーンライトが生み出した殺虫剤が神経を逆撫でる。

 

「おいおい、これイケるじゃん!」

 

「ここはみなさんに任せましょう」

 

「私は何のために来たんだ?」

 

事態を見物するマックスをブースターゴールドが蹴った。

 

「うるせぇ! でも今思うとテメエなんて

 バットマンに勝っても俺に負けたヘボじゃねえか!

 マグレワンパンに頼った俺が馬鹿だったわ!」

 

緑のソリッドライトスプレーがべったりへばり付き、

動きが阻害されたブラックビートルは、

ロケットレッドの突き抜けるアッパーを喰らう。

 

「同志の仇!!」

 

上空に飛ばされた巨体を、しなやかな少年の影が掠め取り、空中でもみ合う。

蹴り飛ばされた若きスカラベ適合者が空中でホバリングし、

斜め後ろに旋回した敵の刃を反射的に受け止めた。

 

威力だけなら相手が上だが、

ハイメは瞬時に敵の目にレーザーを当て、

目眩ましにかける。

 

面白いくらいに引っかかった敵の両腕を、

鎌にした左腕が交差際に絡め取って切断する。

 

「できた!?」

 

「よくやったぜ新兵(プーザー)。

 後は全員で仕上げだ!」

 

「やったれみんな!」

 

ブースターゴールドが応援し、

動けるJLIメンバーがブラックビートルを遠距離から攻撃する。

エネルギーが溶け合う中央にいる劣勢のヴィランが攻撃をもらい、

損傷と修復を繰り返しながらも力を振り絞って掻き消えた。

 

「消えた!」

 

「大丈夫だ。野郎はもう体力も残ってねえはずだ」

 

ガイがサーチライトを百位以上は構成し、

エネルギーの余波で確保しにくい視界を照らす。

 

ヴァニッシングポイントの管理システムとAIをリンクさせている

スキーツもスキャンする。

 

「ブラックビートルを発見しました。

 データを送りますので、やってください」

 

「見つけたわ、スキーツ」

 

「おい、こっちにもいるぞ」

 

「もう交戦してるんで、手伝ってくださーい!」

 

スキーツのデータにも次々に

敵影が出現していく。

 

「これは……」

 

気づけばJLIを取り囲んで、無数のブラックビートルがいた。

バットラッパーが頭を押さえて呻く。

 

「馬鹿な……私を時空連続体で増やしたのか。

 ブルース・ウェインを増やすことが、どれほど危険かわからないのか」

 

そのまま倒れたバットマンを、ディックが抱きとめる。

ブラックビートルの軍勢は冷然と見下ろす。

とうに人間らしさが失われ、

強欲な怪物になった者が叫ぶ。

 

「ここまで追い詰めたのは貴様らだ。

 私はただ、ブースターゴールドを殺して歴史の支配権を取りたかっただけ。

 幸せになりたかっただけだと言うのに……」

 

ブルース・ウェイン一人でも制御不可能というのに、

軍勢を作るほど集める愚行。

だが、驚異的なことは確かでもあった。

 

「こいつらはクロノアルエナジーを手に入れる前の私だ。

 それでも、これだけの数がいれば……新たなデータを渡しにフィードバックしてくれる。

 いやいや、物量で圧殺できるかな」

 

「クソっ……バットマン! こんな時の作戦も――」

 

「駄目だ、昏睡している。

 ヒップホップの後遺症だ!!」

 

ブラックビートルの一人が、マックスウェル・ロードのギアを撃ち抜いた。

データによって周囲の音と映像を脳に送られていたマックスウェルは、

肉眼で状況を確認し、かつてと同じように優雅に首を傾げた。

 

「さて、どれだけ靴かケツ穴を舐めれば生かしてくれるかな?」

 

タイムスフィアを指さされ、顎で促す。

 

「消えるがいい」

 

「やったー!!」

 

ドタドタ走ってラッパーが乗ってきた

タイムスフィアに搭乗し、マックスウェルは別の時間へ飛んでいく。

 

「クソっ! ごめん、みんな!

 あいつ連れてきたの、マジで役に立たなかった!」

 

「気にしないでリーダー。毒にも薬にもならないなら上出来よ」

 

「悪いのはマックスウェルのゴミクソ野郎だ」

 

ブラックビートル一体だけなら対処できるまで迫ったが、

多勢に無勢だ。

 

「どれだけの策を持ってきたか。

 それがお前たちの限界だ」

 

ファイアとアイスが押し切られて傷を負い、

ガイ・ガードナーが敵を引きつけるが、

それで勢いを抑えられる量ではない。

 

「クソっ」

 

「待ってください。ここは彼らに任せるしかありません。

 奴の狙いは貴方ですし、貴方と私の対策だけは相手も完了しているのですよ」

 

「だからって指咥えて眺められっかよ!」

 

ブースターが駆け出そうとするのを、

フォースフィールドの円蓋が阻んだ。

反射的に殴り壊そうとするも、罅の一つも入らない。

 

ブレイニアック5が作成したフォースフィールドジェネレータに手をやるも、

オーバーロードによって使用不可能となっている。

スキーツのジャックによるものに他ならない。

 

「代わりに私が加勢してきます」

 

「馬鹿言うなよ!?」

 

「世界が貴方を必要としているのです。

 また会いましょう、ヒーローさん」

 

「よせ!」

 

ブースターゴールドの静止も虚しく、

スキーツが敵の中へと飛び込む。

 

「私の前で愛するものが死んでいく、

 私の外で愛するものが死んでいく。

 すると孔が広がっていくんだ」

 

「やめてくれ! やめてくれよ!!」

 

ブースターゴールドの前で、

JLIが敵に蹂躙されていく。

O.M.A.C.がドミトリを殺した時のように。

 

「孔が生み出す無限の黒が、

 郷愁も、安らぎも洗い流していく」

 

ブースターゴールドの視界から

JLIが消えていく。

かつて、テッドが単身でブラザーアイに挑んだ時のように。

 

「そして、全ては一切の光明なき暗黒へ――」

 

「やだああああああっ!!!」

 

顔をぐしゃぐしゃにしたブースターゴールドが、

捨て身の体当たりを試みる。

障壁が消え、来るべき反動がなかったことで、

ブースターは顔から滑り込んだ。

 

戦いの騒音は不自然に止まり、

静寂があった。

 

「ひっどい顔だなあ」

 

「お前…………」

 

声の主を見上げ、ブースターゴールドは目を見開いた。

いるはずのない、だがずっといて欲しかった者の姿があった。

 

「テッド?」

 

「僕もいるよー」

 

テッド・コード。二代目ブルービートル。

大きく腹が出た、ヒーローにあるまじき体型をしていた頃の外見だった。

そして、フォースフィールドを解除したMr.ミラクル、

スコット・フリーも手を振ってアピールしていた。

 

「みんなもいるよ、けっこう知らないのもいるけど」

 

首を回してみると、

ヒップホップの後遺症で半生半死のブルースを庇うディックがいた。

そして、その前にレッドフード&アウトローズがいる。

 

「マックスがタイムスフィアで、色んな時間軸から喚んできたんだ」

 

胡乱気にブースターゴールドが遠くで

タイムスフィアから降り、にこやかにしているマックスを見やった。

 

「これは……なんのつもりだ、マックスウェル・ロード!」

 

動かないブラックビートル、スカラベを知り、

ブルース・ウェインが憤った。

 

「なんてことはない、アークヴィランのやることさ。

 “こいつらは私の獲物だ”」

 

「私が恐ろしくは……!!」

 

「恐ろしい? 笑えるジョークか、ブルース?

 我らJLIは暗黒の極み(ダークエイジ)にて産声をあげたのだ。

 今更、怖がる黒があるもんかい」

 

せせら笑うマックスを、

かつて世界最高の探偵であったはずの男が歯噛みする。

 

ブラックビートルが、徐々に活動を再開していく。

 

「動き出してるぞ、あいつら」

 

「僕が急造した対スカラベ妨害電磁波だからね。

 つか、なんで使ってないの? あれ使っとけば、もっと簡単だったでしょ。

 僕の基地に設計図を隠してたんだけど、探さなかったの?」

 

そう返されて、鼻の下に手をあて、

しばらく考えたが首を振った。

 

「……いや、無かったよ、そんなん?

 同じこと考えて、俺とバットマンとスキーツで、

 改めてお前の基地を探し回ったもん」

 

「うっそぉ~~~、赤いクローゼットの隠し戸だよ?」

 

「そこにあったのって、お前のスペシャルエロ編集だろ」

 

「確認してなかったのか! 偽装だよ!」

 

「げ、げえ~~~~~~~!!

 祝勝会で上映しようと思ってたぜ!」

 

「なんで僕のエロ動画を晒そうとするかな!?」

 

「じゃあ、枕の中に隠してあったのも秘密兵器だった?」

 

「それは普通に普通の……もう、言わせるなって、ブヘヘヘ」

 

「あっちゃあ、こりゃ失礼しやした、ブヘヘヘ」

 

あらゆる時間から集結したヒーロー。

その中でも女性達が、戦場にも関わらず、軽蔑しきった視線を注ぐ。

だが、これがブルー&ゴールド。

歴史に刻まれたアホの極みたるタッグ。

比類なき伝説がここにあった。

 

死にかけていたハイメ・レイエス、現ブルービートルを、

スーパーバディズのL-ロン、シャザム、マリー・マーベル、エロンゲイテッドマン、スゥ・ディブニィが助け、

ロケットレッドの周囲には、ジャスティスリーグ・ヨーロッパの

フラッシュ、パワーガール、メタモルフォがいる。

 

「ブースターゴールド」

 

背後からかけられた声に振り返ると、

マーシャン・マンハンターがいた。

 

その背後に、アイス&ファイアやガイを救助したブラックキャナリー、

二代目Dr.ライトのホシ・キミヨ、オベロン、ビッグバルダ、Dr.フェイトもいた。

 

ジャスティスリーグ・インターナショナルの面々だ。

ともにアホとボンクラの黄金時代を支えた仲間であった。

 

そのリーダーだったマーシャン・マンハンターが、

コイン状の何かを投げた。

ブースターゴールドがキャッチをし、掴んだものに声を失う。

 

「事態は聞いている。

 理解できたかはわからないが、果敢に戦い、世界を救うんだろう。

 お前がリーダーとなって」

 

「これは、オレ――――」

 

「希望と栄光だ」

 

ブースターゴールドの手のひらに収まる、

チョコクッキーとクリームの幸せな融合を果たしたお菓子。

マーシャン・マンハンターが、それを渡すことの意味が、

どれほどのものか、想像できる者はいない。

 

マーシャン・マンハンター、

火星にて妻と息子を失い、地球に流れ着いたヒーローは頷いた。

 

「行って来い、息子よ」

 

「…………!? ああっ!」

 

心臓が動きだした。

永久に近き年月を歴史の守護に捧げ、

あり得た未来、可能性、無数の分史を殺してきたブースターゴールド。

本当はとっくにお利口さんとなり、アホではなくなっていたはずの、

心が跳ね、暴れまわり、全身が脈々と燃えるのを感じる。

 

「さあ、行こう!

 僕のバグが……あるな!

 なんて変な改造をしたんだ、バットマン!」

 

通信機で呼び出したバグに乗り、

テッドがブースターゴールドを促す。

 

「さあ、乗ろう!

 ヤツのところへ一直線だ!」

 

「当たり前よぉ!」

 

いつものようにテッドの隣の席に座り、

二人でバグで飛び出していく。

 

『私もお手伝いします』

 

テッドが操縦桿を握ると、

ウィンドウが現れ、スキーツの顔がアップになった。

 

『貴方の到着を把握した瞬間から、

 AIをこちらに転送しました。

 私が微調整を担当しますので、快適な空の旅をお約束いたします』

 

「やあ、スキーツ」

 

『お久しぶりです、テッド』

 

「よっしゃ、いつもの三人って感じじゃん。負ける気がしねえ!」

 

彼らを、ブルー&ゴールドを通すため、

あらゆる時間軸から集まったアホの流れにいる者達が、

ブラックビートルとぶつかり合う。

 

クロノアルエナジーを抱えたブラックビートルは、唯一人、最奥にいる。

スカラベの力のみで向かってくるブラックビートルを、

バグが強引に跳ね飛ばしていく。

 

「おいおい、力技すぎねえ!?」

 

『私の神テクならお茶の子さいさいです』

 

「ここに来るまでに経緯は聞いたよ。

 ブラックビートルは、ヒーロー殺しの煉瓦でヒーローだった因果を壊された。

 でも、まだ定着しきってはいないはずだ。

 じゃないと歴史通りに、スカラベの適合条件から外れているはずだしね」

 

「じゃあ、待ってたら勝てるってこと!?」

 

フロントウィンドウにブラックビートルが激突し、

大の字になって潰れた蛙の声を上げて落ちていく。

 

「相手はブルース・ウェインで、この量だ。

 妙なことを考えつかれる前に、短期決戦の流れに乗る!」

 

「なるほどね~~! やっぱお前ってすっげえぜ!」

 

『捕まってな、お嬢さんたち』

 

「「イエーーーイ!!!!!」」

 

一際、多くのブラックビートルが密集している箇所。

そこを超えた先に真のボスがいるのは、一目瞭然だ。

 

「できる!?」

 

「やるしかない、ここは命懸けだ!!」

 

だが、覚悟するまでもなく、ブラックビートルが同士討ちを始めていく。

一糸乱れぬ意思で向かってきたはずの軍隊が、

統率も感情もかき回され、互いに砲撃と刃を向けあった。

 

「マックスウェル・ロードの力だ!」

 

「あいつのスーパーパワー、やっぱインチキだろ」

 

「バッキャロウ、俺の方が億倍すげえって見せてやる!」

 

殺し合う中を突っ切り、

両手を広げて待ち構えていたブラックビートルに、

バグが最大速度で突進した。

 

どちらが勝つかの確認をする前に、

ブースターゴールドは飛空船から飛び出して、

ブラックビートルを殴り倒す。

 

「ブゥゥゥスタァァァゴォォォォルドォォォォ!!」

 

「おぉぉぉやぁぁぁってやるぜ、くそったれ!」

 

燃え盛る憎しみを目前の黄金の男にぶつけ、

ブラックビートルは腕をハンマーに変えて殴りぬく。

ゴーグルが砕け、血が舞う。

 

そして、ブースターゴールドがお返しに、

最大膂力でブラックビートルを殴った。

上半身がひしゃげたが、もはや人間の体ではない奴には無効だ。

それでも、砕けた仮面から素顔が露出した。

 

太りきった豚に堕ちし、ブルース・ウェインが。

 

「この大馬鹿野郎め!

 あんな馬鹿どもが来たくらいで、何が変わる!

 貴様が救われたとでも言うのか!?」

 

「そうさ、ブルース。もはや、私に恐れるものは一つとてない」

 

「黙れ!!」

 

大事に溜めていたクロノアルエナジーを、

ブルースが解放していく。

ウェブライダーに極限まで近づいた者が持てる、時空自由操作。

 

「この戦いで成し遂げたつもりか!?

 奴らの記憶も消すだろう! 歴史を守るために!

 お前の功績も、JLIの功績も、世界は忘れていくのだ!」

 

ヴァニッシングポイントが縦に割れ、

開いた歪へブースターゴールドを蹴り落とした。

 

「歴史が貴様らを記録することなく、消滅するがいい!」

 

駄目押しに歪を直接、閉じようと行使し、

蓋される孔にブースターゴールドは落ちていく。

歴史、時間の流れを司るクロノアルエナジー。

その極限の挟間にて、ブースターゴールドは握りしめていた

栄光と未来を口に放り込んだ。

 

噛めば噛むほどに、

チョコとミルク、希望と栄光の味がした。

 

「サンキュー、父ちゃん」

 

そして、ブースターゴールドの全身が虹色に発光し、

腕も足も髪も、人ならざる、超常的な一者へと変わる。

ブラックビートルの元へと両腕を突き出し、

空間を開ける動作をする。

 

「歴史は記録しない

 だが、伝説はどうだ?」

 

歪に両手をやり、力でこじ開ける、黄金の巨人。

燃える鬣に黄金の甲殻、内に渦巻く無限のエナジー。

渦動の調停者、ウェブライダーが帰還する。

 

「貴様、貴様ああ!!」

 

巨人が右腕を直立させる。

連動して、ブラックビートルの全身から

クロノアルエナジーが強制的に引き出された。

 

「歴史は彼らをアホと呼び、記録せずに忘却する。

 だが、我らジャスティスリーグ・インターナショナルの足跡は、伝説となり。

 世界は彼らを刻みつけ、彼らの息吹と爪痕は、

 やがて明日への伝説となりて、無限の渦動へ向かうだろう」

 

完全たるウェブライダーならば、

歴史、時空の事象すべてを使いこなせる。

 

「我は歴史のアホ、ボンクラ、脳みそポコチン頭。

 そして歴史の達人、渦動の調停者にして、

 伝説へと続く黄金の旅程――ブースターゴールド!!」

 

腕を振り下ろし、ブラックビートルのクロノアルエナジーが、

時の巨人に裁断される。

 

あらゆる力を吸い取られ、

バットマンではなかったという因果も定着したブルース・ウェインが、

スカラベも背骨から外れて落下した。

 

全身に肉のついた醜怪さ。

バットマンであるという歴史を否定し、

一番ヤバかった時期の体型を再現することで、

ブースターゴールドへのあてつけをした証。

 

いつもの人間体に戻ったブースターゴールドは、

そんなブルースを無理やり立たせた。

暗く濡れた憎悪でブースターゴールドを睨みつける。

対するヒーローは、笑顔で言った。

 

「お前を逮捕するぜ」

 

「殺すがいい」

 

「駄目だ」

 

「この期に及んで、

 ヒーローであることに固執するか」

 

「お前を信じているからだ、ブルース」

 

その答えに、ブルースは虚を突かれ、

呆けた表情となった。

しかし、すぐに顔を真っ赤にし、怒りを露わにした。

 

「ならば使うがいい」

 

隠し持っていたチップを押し付けられ、

ブースターが首を傾げた。

 

「回収しておいた、スキーツのデータだ。

 これがあれば、私のアースの奴を復活させられる」

 

「マジで!? やったああ!! サンキューな!」

 

大喜びした黄金の男を、ブルースは鼻で笑う。

 

「だが、本当に復活させていいのか?

 奴に私のプログラミングがまだ残っていないか?

 自分のブースターゴールドを喪ったスキーツが、悪に転じないと予想できるか?

 お前を隅々まで知った奴が自由意志で悪に堕ちた時、お前は破滅するだろう。

 それでも、復活させるのか?」

 

「信じるよ。それがタイムマスターに必要な本当の強さだ。

 明日も、人も、今日より良くなると信じていくさ」

 

「後悔するだろう」

 

「しないっての」

 

このブルースはもはや無力だが、

バグに連行していき、

特別牢に繋ぐまではすることにした。

テッドの待つ、操縦席へ戻った。

 

「よぉ、見てくれた俺の勇姿!?」

 

「大変だよ、ブースター!!

 あ、すごかったね。それよりこっちだ!

 僕らのキャップがおちんちんをしまわない!」

 

「何ぃっ!?」

 

激戦が終わったばかりだが、

新たな難問にブースターゴールドはのけぞった。

テッドが表示したディスプレイにて、

ブラックビートル軍が消えたフィールドで、

女性達が懸命にキャプテンアトムにパンツを履かせようとしているのが映った。

 

「お願いよ、ネイト! パンツを履いて!

 本当の貴方はおちんちんを出さないジェントルさを持っていたわ!

 さあ、片足をあげてパンツに通すのよ!!」

 

「いらない」

 

物質の無意味さを知ったキャプテンアトムが、

そっけなくパンツを分解消失させた。

 

「俺に任せな!

 やいキャップ! このグリーンパンツはウールな履き心地だあ!」

 

「必要ない」

 

「ぐああああああっ!?」

 

ソリッドライトが強引に破壊され、

反動によってガイ・ガードナーが吹き飛んだ。

 

「こいつは……」

 

「ああ、緊急事態だ。それもJLI向けの」

 

「うだうだしてられねえ!

 奴にパンツを履かせてやろうぜ!」

 

その場の全ヒーローが奮闘する、強敵、難問。

息のつく暇もなく、

ブルー&ゴールドは次の任務に取り掛かった。

 

 

###########

 

「いやあ、君と組めるなんて、実に幸福だよ」

 

ヴァニッシングポイントから逃亡を果たしたマックスウェル・ロードが、

頭の後ろに両腕を組んで椅子にもたれかかった。

タイムスフィアの行き先はまだ決めていないが、

やることはゴマンとある。

 

「さあ、君はどうしたい、テッド?」

 

「何度も言わせるな。私はテッド・コードではない」

 

話を振られた赤甲虫のヴィラン、

レッドビートルは、うんざりして仮面を解く。

肉付きの良い中年の偉丈夫が顔を見せた。

 

「ダニエル・ドライバーグだ」

 

 

 

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