晴れ渡る青空。
光満ちし天はスーパーマンが飛び、
暗く蠢く夜闇にはバットマンが跋扈する。
明瞭たるヒーロー時代。
そこに贅沢と加齢で肉が付いた体を、
高級なスーツで誤魔化して、胡散臭い笑みを浮かべた
マクスウェル・ロードが咳払いをした。
「オホン、今日は君達に覚えておいてほしいことがある」
「昨晩の女とはどうだった?」
「おう、よく聞いてくれたな。
部屋の前まで連れて行ったらいきなり帰りたいって言ってきてよ。
ここまで? って思ったら彼氏がキレるとか抜かしたんだよ!」
「ちょっと、離れなさい、ガイ」
「マリモ着火ウーマンは黙ってな。
俺はアイスをデートに誘ってんだからよ!」
いつものことだ。
マクスウェルは平静を保ち、
額に青筋を浮かべただけで済ませた。
マクスウェル・ロードの指揮で発足された
国境なき正義を旨にするジャスティスリーグ・インターナショナル。
冷戦状態だったロシアから
ロケットレッドを引き抜くという歴史的偉業を成し遂げ、
火星人のマーシャン・マンハンター、
善神の長が息子のMr.ミラクル、バットマンのバットマンも招き、
多種多様なるヒーローを揃えていた。
多様性は文化と豊かさの象徴。
我が強いヒーローの中でも、
とりわけ尖った者たちばかりを集めたJLIを御し切れれば、
マクスウェル・ロードの社会的地位も大きく向上するはずだった。
「ジョン」
「なんだ?」
全体的に騒がしい中でも
特に騒がしい辺りを顎でしゃくった。
「黙らせろ。バットマン、君もやるんだ」
「良いだろう」
マーシャン・マンハンターが腕をふりかぶって
大きく突き出した。
火星人の特徴たるシェイプシフターの肉体、
その腕の先端が網目に変形して
ブースターゴールドとブルービートルを絡め取った。
「ぐえええええ!!」
「ぴぃぃぃ!!
騒いでたの俺たちだけじゃないと思いますーー!!」
頭痛がしてこめかみを押さえるマックスウェル・ロード。
これまでは順調だったはずのチームが、
たった一人の金ピカの馬鹿を入れただけで
無軌道な凡愚の群れに成り下がってしまっている。
その馬鹿こそが、25世紀から来たブースターゴールド。
いつも間抜けなアホ面を恥もなく晒して
周囲に後ろ指さされてもしぶとく生きている見下げたアホだ。
「わかった。言うこと大人しく聞きまーす」
「はぁ…………」
「ほら言っちゃおうよマックス!
みんなお行儀よく座ってるよ!?」
何故、こんなことになったのか。
神たるMr.ミラクルはマザーボックスでこっそり
自宅の妻にメッセージを送っている。
バレていないと思っているのだろうか。
キャプテンアトムとロケットレッドは
軍人にふさわしい直立不動だが、
マックスウェルにしてみれば何も考えずに突っ立っているだけだ。
だが良い。
こちらもすでに慣れてきたところだ。
思い出すは製薬会社の不正の責任を一人引き受けて死んだ父、
その父を愚弄して偉大に成れと囁き続けてきた母。
問題ない。マックスウェル・ロードの野心は今も黒く燃え盛っている。
この馬鹿どもを見事に乗りこなし、
世界一に偉大な支配者になってみせる。
「よーし、言うぞ、君たち!!
先日、あるクソくだらないバラエティ番組で、
『子供に見せたくないヒーローチームランキング』が発表された!!
一位はもちろんわかっているな貴様ら!!!」
「フォーエバーピーポー?」
「違うぞ、スコット!」
「オライオン/ライトレイ?」
「それも違う! 後でその執拗な神嫌悪について
カウンセリングを受けておけ!」
「チャレンジャー・オブ・ジ・アンノウン?」
「ニュースボーイ・リージョンでしょ」
「ジャスティスリーグ・デトロイト」
「コングロマリット!」
「ヘイ!! ボクチャンのいたチームをバカにすんのはやめろ!!」
「お前達、少しは真面目に考えろ!」
良識と常識、そして忠誠に溢れしキャプテンアトムがみんなを諌めた。
JLI最大の当たりがこのキャプテンアトムだろう。
バットマンもマーシャン・マンハンターも極めて優れたトップヒーローだ。
が、安定感、言い換えれば御しやすさにおいてキャプテンアトムの右に出る者はいない。
「じゃあ、キャップはどのチームだと思うの?」
「ふむ……タスクフォースX」
「それヒーローチームじゃないよ!」
「うるせええええええええ!!!!!
お前らがダントツトップだよ!!」
平均年齢100は超えかねないチームの
7歳児めいたやかましさに、マックスウェルが怒鳴りつけた。
急に大きな声を出されて、びっくりするJLI一同。
これを遥かに超える喧騒と殺意には日常的に接しているはずなのだが、
ヒーローの生態というのは怪奇極まる。
期せずして得た好機を活かそうと、
マックスウェルが声のトーンを和らげた。
「だがな。私はそんなことは少しも思っていない。
お前たちは、本当は偉大なヒーロー達だ。
本家にも勝ると劣らない。
世界はいつか、きっと、お前達のことを認めてくれるはずさ」
「マックス……」
普段はこちらを舐めた振る舞いしかしないJLIの馬鹿どもが、
感じ入ったように瞳を潤ませていた。
「さあみんな!
今日こそはりきってデカイことをやらかそうじゃないか!」
「あの、マックスウェル・ロードさん」
JLI大使館の庭でやっていた集会に、
無粋にも地元の警察が口を挟んできた。
良い気分なのを邪魔され、
鬱陶しいし自害に追い込んでやろうかとも思ったが、
いつもの営業に使う笑顔を浮かべて対応した。
「やあやあお仕事ご苦労さまです、警察の皆さん!
本日はどういったご用件かな? 中でゆっくりしていきます?」
「そちらに在籍しているヒーローについてなんですが」
「今度はどいつがやらかしました?
射殺したいならお好きなヒーローをご自由にどうぞ!」
ウィットに富んだジョークだったが、警察は反応しない。
無言でスマホに表示したYou Tubeの動画を見せてきた。
『ひいいいいいいいいっ!!』
『オラァ、テメエら祭りだからってゴミを捨ててんじゃねえ!
テメエがゴミになりやがれ!!』
『逃げろ! このヒーロー狂ってやがる!
あぎゃああああああ!!!』
『逃げようったって無駄だぜ。
最明の天も、暗黒の宵も我が瞳はポイ捨てを逃さねえ!!』
地元の祭りで
ガイ・ガードナーが一般人のポイ捨てを
過剰に叱っている光景が見えた。
ゴミ箱に何人も頭からぶちこまれ、
他にもゴミを顔に塗りたくられ、
捨てたジュースを鼻から飲まされている。
「あの、大丈夫ですか?」
動画を見ていたマックスウェルを警察が気遣った。
鼻の下にぬるりと粘ついた感触がし、
指で拭うと、赤い血がついていた。
どうやらあまりの興奮に毛細血管が切れて鼻血が出ていたようだ。
「わかりました。あいつにはキツく言っておきますから!
ここはもうお開きってことで……」
「そういうわけにも行きませんよ。
近隣からの苦情が物凄いですからね。
とにかく、そのヒーローと直接話しを――」
「――話はこれで終わりですね」
頭蓋の内側から人の身に過ぎた強烈な力の反動が生じた。
全身が底から弾ける感触に、目眩がして、視界が暗くなる。
怒りの鼻血に能力の反動による鼻血が交じわる。
「…………はい」
茫洋とした目つきの警官がうなずき、
背を向けて帰っていった。
「なんの話だったんだ?」
そこをバットマンが軽く問いかけた。
何にも疑問と追求をするバットマンだが、
マックスウェルのことを疑う様子は一切ない。
正確に言えば、疑う優先順位が極めて低い。
バットマンにしてみればマックスなど
疑うにも値しない弱者。
ありがたいことだ。本当に。
「いやあ、ただの1つも問題ないさ!
私達の前には黄金なる時代が広がっているのだからね!」
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【New Day, New Life】
赤き空、滅んだマルチバースの血を映してか、
常ならざる色が広がる天。
クライシスは必ず空が赤く染まる。
スーパーマンの象徴が青い空ならば、
クライシスの象徴が赤。
臓腑の色をした空は、心にのしかかる絶望感がある。
マクスウェル・ロードとブースターゴールド/マイケル・ジョン・カーター。
名誉・勝利・称賛とはからっきし無縁の両者が
オウルシップから遠き見知らぬ世界に降りた。
一面に広がる野原のあちらこちらに
見事な薔薇が咲き誇っている。
「ここが青きフルチンスーパーマンがいるってアースか」
「正確にはこのアースのキャプテンアトムが
スーパーマンということだが、その通りだ」
「なんだ、それだとネイトじゃん」
「あのキャップが往来にフルチンを晒すと思うか?」
「それはあ……たしかにな」
キャプテンアトムは量子の力を支配する超常そのものたるヒーローだ。
JLIの4番打者と称された強豪だが、
その力に見合わぬ心根の素直さと生真面目さで
神の領域(フルチン闊歩)に堕ちる/昇るのを踏みとどまっている。
「しかし、聞けば聞くほど意味不明だぜ……
別アースのテッドがインポ治療のためにマルチバース崩壊させるなんてよ」
「人は狂うとわからないものさ」
マルチバースの起源を消されたことで
ブースターゴールドにはタイムマスターである歴史と、
JLIの後期以降の記憶が一切消えている。
そんな彼には異界のテッドこと
ダニエル・ドライバーグの凶行はまったく理解不能だ。
二人が野原を歩いていくと、
赤ん坊を抱えた青い肌で髪の毛が一切ない男性が見えてきた。
「あれが……」
「そうだ。このアースのスーパーマンだ。
名をDr.マンハッタン」
「ちんぽは出してねえな……」
「ああ、たしかに。
いったいどういう風の吹き回しだ?
彼がパンツを履いた記録は長らくなかったはずだ」
そう話をしていると、
マンハッタンと言葉を交わせる距離に来た。
赤子を抱いているとしても、
凄まじい迫力だ。
一瞬でも気を抜くと呑まれそうな存在感を備えている。
何処を向いているのかわからない視線と、
ただそこに在るだけで放つ超越たる威容に
ブースターゴールドとマックスウェル・ロードは肝を冷やした。
すでにブースターゴールドは若干だがパンツを濡らしている。
マックスウェルが先手を取り、笑顔で握手を求めた。
「はじめまして、Dr.マンハッタン。
私の名はマックスウェル・ロード。
JLIのスポンサーさ」
「こいつを殺してほしいのか?」
「ハァ!?」
JLIと変わらぬふるまいでDr.マンハッタンとの距離を縮め、
挨拶からの交渉に入ろうとするマックスを量子のスーパーマンは見もしない。
ただ、ブースターゴールドに、マックスを殺そうか提案した。
これはとてつもない変人・奇人の類だと
ブースターゴールドとマックスは認識を強めた。
「お、おいおいそんなわけねえっしょ!
はじめましてDr.マンハッタン様!
さっそくですが尊敬と親愛をこめて
ブルーのフルチン先生……ブルチン先生と呼んでも良いでゲスか?」
揉み手をして足を舐めん程に擦り寄るブースターゴールド。
そんな彼にブルチン先生は目を細め、
何かを察して頷いた。
「何が起きているのかは理解している。
久々にパンツを脱がなければならないようだ」
量子のフルチン神が抱いていた子供を浮かべ、
絶対のフォースフィールドを展開し、
一切の危害を加えられないようにした。
「私の力もずいぶんと衰えているが……」
「そちらは傍観者ぶれて気楽だろうがね。
君達のアースのヒーローがトチ狂って物凄いことをしでかしたんだよ。
君のアースの男だ。君のせいで狂ったようなものだ」
その言葉に気分を害した様子はないが、
マンハッタンはマックスウェルの腹部に衝撃波を生み出した。
不可視の攻撃をまともに喰らった凡人たる男は
血を吐いて膝を屈した。
気づけばDr.マンハッタンの服が消失し、
話に聞いていた通りの
フルチン形態になっている。
「マックス!! ……テメエ、何をしやがる!!」
友であるマックスウェル・ロードを庇い、
ブースターゴールドがDr.マンハッタンにガントレットを向けた。
「いや、良いんだブースター……
私はそうされて当然の男なんだ。
なにせ……いっぱいお金を稼いできたからね」
「馬鹿野郎、たったそれだけでこんなことされる謂れがあるかよ!」
だが、友情から生じた行為をマックスウェルは冷静に制した。
そして、マンハッタンを真正面から見据える。
「元フルチンマンの責任を果たしてほしい、ブルチン先生」
マックスウェルの真摯な説得を受けても
Dr.マンハッタンは聞く価値の無い言葉の羅列と言わんばかりに反応しない。
そのことに怒ろうとしたブースターゴールドに、
青い肌の量子の男は言った。
「お前達のことは見てきた」
「えっ」
「お前達……特にキャプテンアトムというヒーローについてだ。
彼は私と同じ力を持ち、私と同じになるはずだった」
「まあ、あいつは剥けてるから……
やっぱり帽子の有無はデカイと思うよ」
股間を凝視して馬鹿がうなずく。
「何故か私はわからなかった。
彼も私と同じものを見て、感じ、識っていた。
その上で、何故、あんな地位に甘んずることを選んだのか、
私は故にお前達を観察し、分析した」
「それでよくわかったのか?」
「お前達を観察するだけ無駄だとわかった」
「ムムッ」
よくわからないが馬鹿にされたということはわかる。
馬鹿がカチンと来て、眉を吊り上げた。
「ジャスティスリーグ・インターナショナル。
何のためのチームか、私には理解できない。
お前達はどれだけヒーローの活動をし、
どれだけ遊び呆けていた?」
「テメエ……俺達を説教しようってのか!?
俺だけを説教するのはまだいいがなあ!
俺達を説教しようってんなら正論も度が過ぎてるんだよぉっ!!!!!
先生なのは名前だけにしときなブルチン先生!」
喰ってかかるブースターゴールドに、
Dr.マンハッタンは観察が終わった対象に向ける目をした。
「だがスーパーマンは万物に必要だ」
「おぉ……!!」
「ダニエルに会いに行く。
どちらにせよ、彼にああなられては非常に困る」
「ありがとうございます、ブルチン先生!」
「お前はこの子を見ておけ。
そこの男には指一本触れさせるな」
フォースフィールドで包んだ赤ん坊を渡し、
Dr.マンハッタンが言う。
フォースフィールドに包まれた赤ん坊は
屈託なく笑い、痛みも恐怖も知らないかのようだ。
「えぇっ!? 俺も行きますよ!」
「必要ない」
「ちょっとブルチン先生!!
俺の世界が滅んだんだから行くに決まってるでゲスぅ〜〜!!」
全裸になったDr.マンハッタンの足にコアラの様にしがみつき、
タイムマスターだった者が懇願した。
「ほら、お前もお願いしろ、マックス!」
「おいおい勘弁してくれよ」
振られたマックスも苦笑したが
大人しく従い、Dr.マンハッタンのもう片方にしがみついた。
二人がかりで懇願する形になったことで、
ここに来てようやくDr.マンハッタンに不快という感情が浮かんだ。
「うわぁ、こんな顔のすぐ近くに
真っ青なペニスあるの初めてだよ……
相変わらず君といると初体験なことばっかりだ」
「いいから一緒に先生にお願いするんだよぉ!!」
「もうわかった。お前達も連れて行く」
手を触れることなく、
コアラのポーズをしていたブースターゴールドとマックスが
遠く離れた虚空に飛ばされた。
「だが覚えておけ。お前達、タイムトラベラーは私の害だ。
超高濃度のタキオン粒子を纏っているお前達といると、
量子観測が不可能になる」
「だが、それはタイムトラベラーになったダンを相手にする時も同じでは?」
「その通りだ。それでも私はお前を信用していない。
裏切ったお前の手にかかれば私はいつでも死ぬだろう」
「マックスウェルは仲間を裏切らないよ」
ブースターゴールドがいつもの軽薄な口調ではなく、
誠心と確信をこめて保証した。
「こいつは気に入らないところもわんさとあるけど、
それだけは絶対にわかる。それでいいことにしてくれないか」
マックスウェルが俯き、マンハッタンがブースターゴールドを一瞥した。
「ちっ、アホなせいで信用されねえのはしゃあねえ、
一緒に先生の評価を上げていこうぜ、マックス!」
そう励まされたマックスウェル・ロードは
眉を上げてブースターゴールドを凝視し、何かを言おうとした。
そうして、結局は何も言えずにうなずく。
「…………ああ!!」
#############
「何故、このような茶番を続ける?」
「なんのことだい?」
一同がいるのはリンボ。
世界の最果てがソースウォールなら
世界の最底とも言うべき場所。
一切が荒野となり、
マルチバースの全土にて
誰からも忘れ去られし者達の流れ着く場所。
「お前の所業は全て知っている。
クロノ・モータの分体で記憶の上書きをしただろうが、
何故ブースターゴールドを自分の人形に変えない?」
Dr.マンハッタンの問いにマックスウェルは答えない。
代わりに前を歩くブースターゴールドに呼びかけた。
「ブースター!
別アースとは言えテッド・コードと戦えるか!?」
「当たり前だろ。
なんとかしねえとみんな消えたまんまじゃねえか。
マルチバースを救って金と名誉をたっぷり貰っちゃるもんね!」
「それは心強いね」
肩を竦め、マックスウェル・ロードは楽しそうに頷く。
ブースターゴールドはJLI時代までの記憶しかない今と
マックスウェルと戦っていた時代では大きく違う。
軽薄でふざけきり、
およそ真面目さと言えるものがない。
だが、それ以上の違いも見える。
「スキーツもテッドもいないが平気か?」
その言葉に、振り返り、
ゴーグルを曇らせて訝しんだ。
「…………スキーツ? あいつ、まだ俺といるのか」
「当然だろう? 君が盗んできたんだ」
振り返るブースターゴールドには
JLI時代に時たま見せていた顔があった。
無気力で他者に諦めきっている者が見せる虚無感。
すべてを乗り越えて成長した彼とはまるで別人だ。
「俺のことなんてとっく見限って帰ってるか他所行ってるもんだと」
「馬鹿な」
無自覚だが、マックスウェルの語気が少し強まった。
「どうだか。もう電源切って
クローゼットに閉じ込めてから
長いこと会ってねえもん。
今頃、自力で電源つけて帰ってそうだぜ」
そして、親しいものほど軽く扱ってしまう性癖。
不快感に顔をしかめたマックスウェルが
鼻を鳴らして首を振る。
隣の青いフルチンにだけ聞こえるトーンでぼやいた。
「ほら、ご覧の通り、この時期の彼は駄目駄目だ。
まったく、あれがどうして私の最大の邪魔者になったんだか」
「自業自得だ」
Dr.マンハッタンの的確かつ端的な言葉に、
マックスウェルは虚を突かれた。
「私か?」
「そうだろう。お前があの時にテッドを殺したことが、
ブースターゴールドの才能を限界以上に引き出したのだ。
お前の悪意が招いた因果応報に他ならない」
「そうだな」
ブースターゴールドの後を歩くマックスウェルが
か細くつぶやく。
その瞳には悔いよりも郷愁と感慨が浮かんでいた。
「私のせいか」
「にしてもよぉ!
何もねえ誰もいねえってどうなってんのさ!」
人の気配が無く、廃れた廃墟のみが立ち並ぶ光景に
脳天気なヒーローが不平を訴えた。
「歴史が消えたことで忘れ去られし者の記録すら消失したのだ」
「よくわかんねえけど、忘れられたことすら無くなるってぞっとするよ」
そうしているとリンボの中央と呼べなくもない区域、
青白い巨大な光が立ち昇る場所に来た。
無数のOMACが地から天へと螺旋を描き、
これまでと変わらず淡々とDr.マンハッタンが述べた。
「あそこだ」
「よし……腕が鳴るぜ!
頼んますよブルチン先生!!」
「お前達には期待していない」
「おやおや……どうするよマックスくん。
俺ら、すっかり――」
マンハッタンが無造作に腕を翳して、
横にずらした。
それだけでOMACの軍勢の一画が大きく抉れた。
「私に来る攻撃を防げ。
マックスウェル・ロード、
お前はどこかでじっとしてろ」
虚無に近きリンボの中央から無機質な青色が広がっていく。
OMACが凝集から拡散をし、
一体一体が強力極まりない怪物たちが襲いかかってくる。
スーパーマンに勝ると劣らない性能の存在が
一体一体細かく襲ってくる。
ブースターゴールドがフォースフィールドを展開するが、
当然、一瞬で破壊して素通りしてくる。
「おい、なんの役にも立ってないじゃないか」
「うるせえ、お前も洗脳とやらをしてみろ!!」
「無理だよ。あいつらに意思はないからね」
言い合いをするブースターゴールドとマックスウェルにかまわず、
マンハッタンが近づくOMACを消滅させていく。
次々に来るOMAC、果てなきリンボの光源にもなる量がいようと、
量子の巨人たるブルチンの相手になることはない。
百、千、万だろうとマンハッタンが次々に消していく。
「なんだ、大したことないじゃん、あいつら」
拍子抜けした馬鹿が呟くが、
横に立つマックスは顔面を蒼白にしている。
あまりにDr.マンハッタンの力は圧倒的だ。
これがキャプテンアトムがペニスを出せば至っただろう領域。
人の身ではない、これではスーパーマンも相手にすらならないだろうと
マックスウェル・ロードは確信した。
「素晴らしい……!」
そうしていくとじきにOMACが晴れていく。
億にも届くブラザーアイの巨兵が消えていくと、
青い光が収まっていく。
代わりに目が潰れんほどの金色の光が
リンボの地を染めていく。
時空を統べる調停者、渦動調停者のウェブライダーが天から降りてきた。
OMACとは文字通り位が違う存在を目の当たりにし、
Dr.マンハッタンすら警戒をしている。
「…………何故、奴がいると黙っていた?」
「し、知らなかったからでゲスが……
ブルチン先生にかかれば楽勝でがしょ?」
「仕方ないよ、私達はみんな無知なんだから」
「…………………………………………。
とにかくこれが終わったらお前らとは終わりだ」
ウェブライダーの存在は謎が多すぎる。
どのようなことができるのか、
いったい何者なのか、
多くのことが謎に包まれた存在だ。
「ウェブライダーに恐れをなしたか?」
金色の巨人の横に
異境のテッド・コード、
ダン・ドライバーグが現れる。
重厚にして不壊を体現したアーマーに
テッドそのものの頭部を載せたブルービートル。
ブ―スターゴールドが息を呑んだ。
「久しぶりだな、Dr.マンハッタン」
「私を殺したいか?」
「君に問いかけられる日が来るとは思いもしなかったよ。
答えはNOであり、YESだ。
存在そのものを消す、誰も君のことは記憶しなくなる。
リンボよりも深く、暗く、虚ろなる場所にお前は行くのだ」
「おいおいおいおい、
俺達を置いていくのはやめてくれないかテッド、
いやダンちゃんよぉ!
インポ治すためにマルチバースぶっ壊したんだってなあ!
舐めんじゃねえぞ、コラァ!!
何処の世界にてめぇのチンポのご機嫌で人殺して良い理由があんだボケ!!」
「それが復讐の形か」
「いいや」
「無視してんじゃねえ!
テメエみたいなポコチンに負けたボクチャンを憐れんでるのをなあ、
『自己愛に呑まれたクズ(ヴィラン)』って世間は言うんだ!!」
「我らは無垢に戻る」
「マックス!! 堂々と無視されてるんだがどうすれば良い!?」
「ほぉ」
激しい剣幕でダンを罵るブースターを置き、
ブルービートル、マンハッタン、マックスウェルは話を進めた。
「初めはヒーローコミックに憧れただけだった。
カラフルなコスチュームに身を包み、明瞭快活に悪を倒す姿に
我らはひどく憧れ、こうなりたいと思い、屈託なく戦った。
Dr.マンハッタンという我らの脆弱な無敵様が来るまでは」
抑揚のない平坦な喋り方でダンは話を続ける。
彼に感情といったものが見えない、
展望・野望よりもすでに決まった事実を語る節があった。
リンボの景色に相応しい空気をまとってもいた。
「たしかに我らの時代は政情が不安定だった
だが……マンハッタンの登場がすべてを変えた。
我らはスーパーマンに狂ったのだ。偽りの、心弱き偽神にな」
「だから消すと?」
「そうだ。我らは無垢の時代に生きてきた。
変わらず、王道たるヒーローのままでいるべきだった。
あの時代にいるには、光満ちし太陽も、全てを呑み込み喰らう暗黒も不要。
お前は消え失せろ、Dr.マンハッタン」
「ちょっと待てよ。
よくわかんねえけど自分の苦境の責任を
ブルチンの旦那だけに押し付けちゃあいけないよ!
見ろよ、このペニス! 包茎だ!」
ダンの説得を試みるブースターの横を、
ウェブライダーが通り過ぎた。
OMACと同じくおよそ人間性というのが見えない。
心のない力場の塊が人の姿となっているのみのようだ。
「そいつを撃て、ブースター!」
マックスの叫びを聞き、
ガントレットから光線を放つ。
岩も砕く光はウェブライダーに届くこと無く粒子に消えた。
「パンチだ、ブースター!」
「おりゃああ!!」
またもマックスの指示により
時空の神に大ぶりで全力の攻撃を繰り出す。
メッキの臭いがしそうな金ピカのパンチを
真の強大な黄金は一瞥すらせずに止める。
しかし、それだけでブースターゴールドを攻撃はしない。
「ふっ、やはりな。奴は時空の特異点にして頂点。
唯一の到達する可能性を持つ者なら、自己の確定性のために、
本能レベルで攻撃をしないんだ! 同一人物になりかねないからな!」
「なに!? 俺とあれがなんだって!?」
「奴は未来の君だ、ブースターゴールド!」
「俺、未来は神になって
勃起不全治療目的のマルチバース崩壊に協力するの!?」
「色々あるがそうじゃないしその通りだ!
ついでにいうと君が死んでもそいつは消えない!」
「よくわかんねえが、こいつを倒せるのは俺だけってことだな。
俺そういうシチュエーション大好きぃ!」
ブースターゴールドが息つく暇もない猛攻をしかける。
ほんの少しのダメージも与えられていなく、
ウェブライダーとDr.マンハッタンが対峙する。
どちらもこの世ならざる神秘性を持ち、
方や黄金の神、方や青きフルチンという対称性を持っていた存在。
互いが本気を出せば割って入れるのは
ダークサイドかトライゴン……5次元の神々でようやくだろう。
「私に勝利できると思うのか?」
「君はスーパーマンに勝てる。
バットマンにすら負けないかもしれない。
だが、タキオン粒子そのものであるウェブライダーは君の天敵だ」
「ブースターゴールド!
なんとしてでもマンハッタンからそいつを引き剥がせ!」
「よぉし、テメエこの野郎!
ボクチャンのブルチン先生から離れやがれ!」
後ろから腰に両腕をまわし、
なんとか引き剥がそうとするが、
その場に座標が固定されているようにびくともしない。
先に足場が砕けて、陥没していく。
業を煮やしたマックスウェル・ロードが
時空の神に意識を集中させる。
今のウェブライダーは過去が消失した空虚な存在だ。
ブースターゴールドがその頂に至る道が、
本来は造られていたが、
それはとうに破綻し、今やただの特異点が動くのみ。
神と言えども操るのは容易。
しかし読んでいたブルービートルがマックスを襲う。
「危ねえ!!」
ブースターがフォースフィールド防護膜を作り、
一瞬だがダンの動きが弱まる。
マックスを抱えて離れるブースター。
「クソッ、気をつけろ、ブースターゴールド。
その男、ダンは私の力が極めて効きにくい!
私を守りながら奴に立ち向かえ!」
「無理じゃねえの!?」
「できるさ、JLIを思い出せ!
ブースターゴールド/ブルービートル/マックスウェル・ロードの絆は絶対だ!
奴を倒したら二人で先生に加勢しよう」
「ちっ、そこまで言われたらやる気出さずにはいられねえ」
最初にOMACブルービートルを対処することを決めた二人。
一方でDr.マンハッタンとウェブライダーが
宙に浮遊していく。
赤き空、黄金と青が人智、
神の識るところも超えた領域で
波動をぶつけあう。
その余波は地上にも影響を与える。
建造物の数々が砕け散り、粉になって光に消えていく。
リンボそのものが絶えてなかった激突に震えている。
ぶつかりあいの最中を金色の線が伸びた。
レーザーを推進力にし、
ブースターゴールドがダンに掴みかかる。
「まだ手心を加えるつもりか」
両腕を掴み、OMACの万力、億力がへし折らんとする。
それよりも早くブースターゴールドが
フォースフィールドを相手の両掌中に生み出す。
「いいぞ、ブースター!!
勝ち目はゼロだが、君はそんなことは気にしない!
スーパーマンを殺したドゥームズデイに真っ先に立ち向かったのが君だ!」
「応よ、わかってんじゃねえの!」
ガントレットレーザーを無造作に放ち、
こっそり帯びさせていた磁力を辿り、
マグネティックフィールドを発動させる。
あらかじめダンに帯びさせていた磁気を狙って、
無数の光弾が襲いかかる。
光の熱と破壊にさらされたリンボに粉塵が巻き上がった。
「当然だが倒してないぞ!
気を抜くな! 絶対にノーダメージだ!」
「ちょっと、結果見る前から心が折れるようなことやめろよ!」
突風が生まれて、土煙が裂かれる。
怒鳴ったブースターゴールドの前に、
超高速で動いたOMACブルービートルが急停止した。
「あ……」
反応して声を出した刹那には
ブースターゴールドが遥か遠くに突き飛ばされた。
終わりなき領域のリンボにて、
途方も無い距離を飛ばされたブースターゴールド。
途中で自力の体勢変更をし、
飛行機能を付与するリージョンのリングを駆使して着地した。
無理な着地に膝が砕け、
全身の至る箇所が骨折と破裂をしていた。
「己の無力さがわかったか?」
膝をつき、死ぬことと気絶することは避けられても
立つ力が皆無なブースターゴールドは、
血濡れたゴーグル越しにダンを睨みあげた。
たったの一発でこのダメージ。
OMACブルービートルは間違いなく、
最強期のドゥームズデイをも凌駕する力を持っている。
しかし、ダンはどういう訳かブースターゴールドにトドメを刺さない。
「何故、今のお前が私に歯向かう?」
「…………お前がインポを儚んで52の世界を消したからだ」
「その世界にそれほどの価値と未練があるか?
両親に疎まれ、憎まれ、利用されてきたのだろう」
本来の記憶を無くし、
馬鹿な時代のブースターゴールドが、
その言葉に少し揺れるがすぐに言い返す。
「だからなんだ。俺はJLIのメンバーだ!
あいつらが俺に幸福をくれたんだ。
消えたままにするわけがない!」
「ヒーローはお前達(JLI)を見捨てるぞ」
OMACブルービートルが、
内蔵ブラザーアイにて構成した立体映像を投射する。
そこには人々が、ヒーローが
ジャスティスリーグ・インターナショナルについて語る姿があった。
『JLIなんていっつもちゃらんぽらんで
ヒーローの風上にもおけないやつらだろ。
スーパーマンだって関わったことを恥じてるだろうぜ』
『ブルー&ゴールド! 友達がこの間、しつこくナンパされたってさ。
世界を毎日救ってから出なおせっての』
『彼らといたのは悪い冗談だった』
『なんであのようなチームが長続きしたのか
献身と奉仕を旨とする我らには理解できない』
『バットマン最大の過ちTOP3だろ』
『ただのヨゴレ連中だ、あんなもん』
次々にJLIを批難し、否定する声が届く。
とっくに知っていたとは言え、
こうして目の当たりにするとブースターゴールドの眉間にも皺が寄る。
「……こんなのどうってことねえよ」
「奴らはテッド・コードを見殺しにするぞ。
側にいたのはお前だけだが、
力及ばず、彼は一人で死んだ」
ダンの言葉にブースターゴールドは目を見開く。
嘘だ、と言おうとしたが、彼の何かがそれを言わせなかった。
どうしてか、ほとんど感情の通らないように見えた
ダン・ドライバーグ/ブルービートルにも、
今だけは感情があるように思えた。
テッドが死ぬ。
それもヒーローに見捨てられて、
幼き頃、父に殴られ、母が泣くのを見る日々で
見上げるのみだった過去の栄光ある神々の伝説。
ずっとそれを追いかけてきたブースターゴールドには、
否定したいが、否定できず、
その上で根底を崩す話だった。
「そして、テッドの死の理由にはバットマンが深く関与している。
奴の狂気が生み出した兵器を追い、
その兵器に追い詰められ……」
それはどうでもいいことだ。
ヒーローの死など、
どうせヴィランかバットマンのどちらかによるものだと、
ブースターゴールドもJLIの日々で受け入れていた。
ただ、ダンの発言に信憑性が増したに過ぎない。
ダンは口元に露悪混じった愉しみを浮かべ、
自傷的な喜びすら見せている。
衝撃を受けるブースターゴールドに
最後のひと押しをしようとする。
「おまけにテッドを殺したのは――」
「ようやく掴んだぞ」
OMACブルービートルの動きが止まった。
鼻から夥しい血を流すマックスウェル・ロードが、
その能力によって強大にして無敵さすら見せる相手を制御していた。
「ようやく馬脚を露わしたというところか。
何処かに君の心があるとはわかっていたよ。
側にはかつてブラザーアイを奪った、この私がいるのだからね。
バットマン製絶対無敵兵器といえど、
すべてを委ねるのは無理というものだ」
停止したマックスウェル・ロードの足元にたちまち血溜まりが広がっていく。
鼻からだけでなく目、耳、口からも鉄砲水の如く血が流れ、
それは全身の穴も同様だとわかった。
動きを止めたダンだが、歯を食いしばり、
眼球が激しく震えている。
「さあ、浮上せよ、ダニエル・ドライバーグ」
「ぐっ…………!」
ダンを取り巻き、構成するナノマシンが
薄布めいた幕として持ち上がる。
心臓に挿げ替えたブラザーアイがダンを守護するように、
マックスウェルの壁になった。
「ふふふ、抵抗しても無駄さ。
私の能力はハッキリ言ってハズレない。
さあ――――跪き、頭を垂れろ」
「お前がな」
冷然としたダンの返答に、
マックスウェル・ロードは崩れ落ち、
這いつくばって吐血した。
目をしばたかせ、何が起きたかわからずに、
彼はブルービートルを見上げる。
金と青の神々の激突はまだ続き、
その下で黒を貴重にしたラフな格好の男が歯ぎしりした。
「お前はブラザーアイの暴力性にのみ注目しすぎだ。
そも、これはバットマンの狂気と暴走を投影した兵器。
本質とは他者をナノマシンにて操ること以上に、
バットマンを掌中にできることにある」
「マックス、どうしたんだ。
はやく立て!!」
血まみれのブースターゴールドが割って入ろうと足に力を入れると、
ブルービートルのレーザーに足を吹き飛ばされた。
両足を喪失したショックによる絶叫が響き渡る。
「そしてバットマンの力とは観察と分析だ。
ナノマシンとバットマンがあればお前の力も理解と再現は容易い。
どうだ、意思に反して好きなようにされる気分は」
「やめろ……!!」
血走った目でマックスを助けようとブースターゴールドが腕を使って足掻く。
今にも殺される当人は、眼前のブルービートルよりも
ブースターゴールドへ振り返り、微笑みを浮かべた。
「よく見ておけよぉ?」
そう言ったマックスの胴体に大穴が穿たれ、
目を見開いたブースターが悲鳴をあげて這い進む。
倒れるマックスを抱きかかえると、
意識が残っている彼がまだ笑っていた。
ブルービートルが上空のマンハッタンとウェブライダーの戦いに加勢し、
無力と見限られた二人だけが、
JLIの頃からずっとそうだったかのように地面にいる。
急速に生命が失われていく友が
青褪めて震える唇を動かす。
「これで良い」
「馬鹿野郎、これでいいわけねえだろ!
お前が死んでどうする!
俺とお前で始まったのがJLIだぞ!?」
「ああ、君と私で始まったJLIだ……
そして私が破滅させたチームだ」
「……何を言って」
「――――思い出せ」
クロノ・モータの分体をくすね、
その力で強引に維持していた記憶・記録を
マックスウェル・ロードはブースターゴールドに移した。
秘密裏に待機させていたオウルシップには、
赤ん坊とはべつに保管していた
クロノ・モータの分体がある。
胴体に空いた穴は綺麗に焼け焦げて
血も肉片も溢れず、
ようやく鼻孔から血の一筋が堕ちる。
「ずっと……母に言われていた。
父のようにはなるな、強大な力の駒になるな、
誰よりも偉大な第一者であれと」
ブースターゴールドの頭ががくんと震え、
タイムマスターとしての悠久の年月を注ぎ込まれたことで、
全身から体液が噴き出した。
人事不省に陥るブースターゴールドを
マックスウェル・ロードは慈愛に満ちた視線で
穏やかに観察するのみ。
「私はずっと、そうなろうとしてきた。
そのためなら何でもしてきた……
テッドを殺し、君達と殺し合った」
そう述べていると、
タイムマスターが平静を取り戻してきた。
マックスを見下ろす彼の表情は
凄絶を極め、抱きかかえる手に力がこもった。
その様に、マックスウェル・ロードは
永遠に消えぬ満面の笑みを浮かべた。
「だが私はこれでいい……!!
君を真のヒーローのしたのは私だ。
私があの時、断腸の思いでテッドを殺害したことで君が生まれた。
最も偉大な人間にはなれずとも、
マルチバースで最も偉大なヒーローを生み出せた。
だから……なあ……マイケル・ジョン・カーター」
ブースターゴールドの顎を両手で挟み、
決して己から目を外せないようにし、
呪詛のように懇願した。
マックスウェルは知っている。
こうすればブースターゴールドは
永遠に自分を記憶し続ける。
真に偉大なヒーローの一部として、
マックスウェルは無限の神と同一になる。
「私を見ろ、私を忘れるな。
貴様の行く手は全て私が作ったことを、
最も偉大なヒーローが記憶し続けろ。
そして、私を許すな」
視界がぼやけ、焦点が合わなくなっても、
マックスウェル・ロードは
言葉だけはボヤけさせることなく、息絶えた。
亡骸を横たわらせ、
ブースターゴールドはクロノアルエナジーを経由して
足を取り戻し、はっきりと直立した。
蘇った記憶に翻弄され、
極彩色の経験が浮かび上がり、
ブースターゴールドは突如として再認識した。
胸に開いた深く巨大な虚を抑えて声なき慟哭を叫ぶ。
天上での波動のぶつかり合いが終わり、
敗れたマンハッタンの肉片が降り注いだ。
ペニスも残さず爆散したマンハッタンを下し、
黄金の時空神とブルービートルが荘厳な威圧感を維持している。
無限の過去と経験、喪失と痛みが蘇り、
それに耐えて帰還した
タイムマスターの視界に、在り得ざる者が映る。
「さあ、やってやろう」
ブースターゴールドの肩を叩き、
腹が少し膨れた体型のテッド・コードが笑いかける。
決まっている、これはブースターのイマジナリーフレンドだ。
どんな時も心の中心にある者だ。
「だからこれで良いと言っただろう?
お前は拝金主義者界の名誉コミュニストだ、友よ」
ロケットレッド、OMACからブースターゴールドを庇って
生命を落としたマルチバースの救世主が親指を立てる。
ずっと、彼がブースターゴールドのスーパーマンだった。
「行くんだ、マイキー。
スゥの死も私の死も伝説に変えろ」
ラルフ・ディブニィがスゥと共に立ち、
醜く鼻を変形させている。
「BWAHAHA……」
乾いた笑い声をあげ、ブースターゴールドが走り出す。
思考はめちゃくちゃだが、
やることはハッキリしていた。
「お前は私がオレオ1枚を譲った唯一の男だ。
進め、マンハンターの後継者よ」
ジョン・ジョーンズが腕組みをして
ブースターゴールドの行く道を顎でしゃくる。
「ブワハハハ」
笑い声が表情に移り、
ブースターゴールドの全身に力が漲る。
「自分に示せ。最高のヒーローここに在りと」
「ご武運を、我がリーダー」
「ヘドが出る話だが、
俺とテメエはクソみたいによく似てたな……
なら俺なら行くからテメエも行かなきゃなあ!!」
「ブワハハハ!!」
バットマン、キャプテンアトム、ガイ・ガードナーが
ぐんぐんと速度を上げていくブースターゴールドを見送る。
「あんたはうちらのアホンダラよ。
他人に馬鹿にされようもんなら噛ましてやりな!」
「頑張ってね、ブースター」
「僕達はいつでも会えるけどせっかくだから応援するよ。
31世紀辺りでまた飲もうよ」
「ダーリンが立て替えた飯代、いつになったら返すの。
こっちは3,000年も待ってるんだけど」
ファイア・アイス・Mr.ミラクル・ビッグバルダも思い思いの声援を送る。
「ブワハハハハハハハハハハ!!!!!!」
どれもブースターゴールドの願望が生み出した幻影、
妄想、イマジナリーだ。
彼は今や一人、クライシスに相対している。
だがそれでも彼の意気は挫けない。
心、魂は常に伝説とともにある。
「無駄だ、ブースターゴールド。
お前だけで何ができる」
ダンの制止を無視しブースターゴールドは、
リージョン・フライト・リングを使って天に飛び立った。
無論、そこを逃さずに2柱の巨人が
金メッキのヒーローにスーパーマンくらいなら消し飛ぶ攻撃を放つ。
マックスウェル・ロードが持ってきたクロノモータ分体を通じ、
クロノアルエナジーの吸収・凝縮をし、
瞬時にウェブライダーへの進化を果たす。
しかし、それでも戦力差は歴然。
ダンの隣にもウェブライダーが在り、
本人も無敵兵器ブラザーアイの力を手にしている。
2柱の光撃がリンボを激震させ、
空間にも亀裂が走った。
ウェブライダーの体が両断。
ブルービートルの隣にいた柱が、
ブースターゴールドの手刀でたやすく消える。
ありえないことだ。
だが、それを可能にする方法が
ブラザーアイが導く計算結果の中に、ただ1つある。
「ハッ」
ダンが侮蔑に嗤う。
ウェブライダーの股間はつるりとした表面で、
ペニスの痕跡がない。
だが、時空の力の構成体たる神ならば
人間性を無くしてペニスを出せば――――
「I am The Legends(我は草子の群体)」
だが、ウェブライダー、
限りなくマイケル・ジョン・カーターの裸体に近づいても、
Dr.マンハッタンが堕ちたような人間性の喪失を迎えてはいない。
むしろ、その双眸には豊かな知性と人間が宿り。
「I am The Penis(魂、心は堕ちることなく)」
その股間にはペニスではなく、
ブースターゴールドの顔があった。
「I'm BOOSTERGOLD(それが私だ)」
ペニスを出せば人間ではなくなる。
ならば、ペニスを出すことの何が人間性にて致命的か。
常にポコチンを晒すということは不意のチンピク、
つまりは勃起をしてしまう危険性を孕んでいる。
その中での超越者の至る無限ポコチン晒しは、
決して不意の勃起をしないという
スーパーマンでも到底不可能な領域に突入することを意味する。
故に、ブースターゴールドはクロノアルエナジーによって、
ペニスに幸福な表情をした自分の顔を常に投影。
そうすることでペニスを晒しながらも人間でいるという
両立不可能な荒業を発している。
「脳みそポコチン頭…………!?」
ブラザーアイの力を持ってしても、
目の前の事象にはそう呟くのが限界。
万物を見通し、分解、再構築するバットマンでも、
ペニスを顔にすることの意味・効果を分析するのは
あまりにも負荷がかかりすぎた。
ありえないペニス。
不可解な事象。
暗黒の窮極では会えない混沌のアホに
ブラザーアイは混乱し、観測・分析・演算に手間取った。
レトロチープな火花が
ブルービートルの心臓部にて発生を始めた。
「さあ、お前も倣え、マンハッタンよ」
了解。文を削らず/省略せず/意味を変えず/長台詞の「」は分割せずで、あなたが貼ってくれた範囲を全文校正します(※誤字・誤用・脱字・助詞の不足・表記ゆれ・不自然な接続のみを整え、内容そのものは変えません)。
---
量子による復活を既に遂げていたDr.マンハッタンが、
瞬時にウェブライダー/ブースターゴールドの意図を汲み取って頷く。
ペニスを顔にしたことへのブラザーアイのオーバーロードと並行し、
マンハッタンのペニスが物理的に形を変え、
ペニスがマンハッタンの顔へと……
「足りない! お前も今やJLIの一人!!
俺と関われば誰もがJLI!!
故に、大笑せよ……ブルチン先生よ!!!!!」
「えぇ…………?」
流石に戸惑うDr.マンハッタン。
しかし、量子の支配者にしてスーパーマンも理解した彼は、
世界法則を理解し、ペニスの顔を変形させた。
「ぐあああああああああっ!!」
胸を抑えて苦しみに
滂沱の涙を流すはダニエル・ドライバーグ。
時空を支配できる巨人2柱がペニスの異常現象に、
バットマンの狂気の結晶体は砕け散っていく。
ちんこ(DICK)、
どれだけ狂おうとも、それは常にバットマンの心の弱点になる。
「あああああああああっ!!!」
支配と隠蔽を無くし、
残ったのは真のダン・ドライバーグ、
二代目ナイトオウル、その人である。
その彼が、穏和で理知的な面持ちに戻りながらも、
目の前の現象に改めて頬を歪め、忌々しげに言い捨てた。
「マンハッタンのペニスが………………………………笑っている」
絶対に信じられない事態であった。
Dr.マンハッタンがペニス越しだろうと笑顔を浮かべるなど、
ダンの話であれば精神の異常と脳の暴走を確信されるだろう。
驚天動地、青天の霹靂に打ちのめされたが、
ダンはようやく立ち直り、
眉間に皺を寄せて歯軋りをした。
「だから何だと言うんだ!!
マンハッタンのペニスがにっこりした……
それがなんだというんだ!! 僕のクライシスには関係ない!」
ダンの背後に、マックスウェルが持ってきたそれと同じく
ナノマシンクロークで隠蔽されていたクロノ・モータが現出した。
マルチバースの大半を破壊しても、
残存している力は、世界の再構築に十分なものだ。
「ダニエル。私を憎んで良い。
時が来たら即座に私を殺せば良い。
だが、彼らのいる世界を巻き込むのはよせ」
「黙れ! 何がにっこりペニスだ!
そんな存在じゃなかったはずだろう!!」
「スーパーマンの心に触れた」
「スーパーマンの心に触れたらペニスがニッコリすると!?」
「………………どうやらそうだったらしい。
これが世界だったのだ。傍観者では理解できず、
直接に触れることで、当然のことなのだと理解できた」
力強いウィンクに純白の歯を見せて笑う
マンハッタンのペニスをぶらさげ、量子の支配者は語りかける。
「私もお前も特別であることに囚われすぎたのだ。
世界のために誰かが何かをしないといけない。
それは誰かであり、必ずしも我らである必要はなかった。
……ロールシャッハはそれに気づいていた」
「うるさい……!!」
ロールシャッハの名前を出され、
ブルービートルが構えた。
マンハッタンに憎悪をぶつけているのが、
それすらも何処か空々しい。
「その名前を口にするな。
彼を殺したくせに、
それで世界が良くなったわけでもないのに!!」
手を挙げるとクロノ・モータが
ダンの頭上に転移した。
途方も無い力を持つエネルギー体に、
堕ちた梟が呼びかける。
「さあ、クロノ・モータ!
力を寄越せ。こいつらを滅ぼす力を!!」
だが、エネルギー体は応えずに、沈黙をしていた。
業を煮やしてブルービートルが再度、
訴えようとしたところで、異常に気づき呻いた。
「クロノ・モータに……笑顔が」
人には無き年月を過ごし、
心を喪ったはずのクロノ・モータに
キャプテンアトムの顔が浮かぶ。
ブースターゴールドとDr.マンハッタンのニッコリペニス、
心を亡くしても魂に刻まれたJLIの絆が
その光景を見逃すことを許さなかった。
「馬鹿な……!
どちらだ!! ニッコリペニスにペニスが共鳴したか!?
それとも、こいつらのペニスに心が浮かんできたかあ!?」
クロノ・モータに浮かんだ笑みが顔かペニスかもわからずに、
ただひたすらに不明なことに囲まれて
優れた頭脳を持っているダン・ドライバーグは絶叫した。
「ダン」
Dr.マンハッタンと同じく
ニッコリペニスを下げたブースターが
改めて相対する。
「来いよ、相手してやる」
ファイティングポーズを取って、
握っていない方の手で相手に手招きをした。
「僕に手も足も出なかったのに、何を……!」
「今の俺はフルチンの踏破者だ。
ビビってんのか?
ヒーローはみんな素手ゴロからデビューするもんだろ」
軽い挑発でもダンにはきっかけとして十分。
残されたOMACの力を使い、
殴りかかってくる。
そこにかぶせたブースターゴールドの拳、
互いの頭が弾けて修復をする。
「どうしたボーイ、
テッドに比べてずいぶんとやわいじゃねえの」
「僕はダンだ!」
ストレートが出て、
ブースターゴールドが大きく後退する。
そこにダンが体当たり気味に殴りかかった。
「ずっと……お前のお友達に唆されてから、
僕と彼がともに生きているアースを探してきた!
だがそんなものは無い!
近似していたアースでも僕たちは半ば袂をわかっていた!
それぞれの信念に従って!」
「じゃあ、お前の信念はなんだ!」
腹部にブースターゴールドの貫手が刺さり、
ブルービートルの腹部を通り抜けた。
「そんなものはない!
……ああ、そうだ! 僕にはなんの信念もなかった!
それでも……僕はヒーローでいたかった!」
「なってたんじゃねえのか!」
胸ぐらを掴んできたブースターゴールドの顔に
ブルービートルが頭突きをかます。
鼻が陥没したブースターゴールドが泣きそうな悲鳴をあげた。
「政府がヒーローを辞めろと言うまでは……!
僕は政府に従った、そして……勃起ペニスを失った……」
「また勃起か! なんでこんなところでペニスを持ってくる!?」
「え……引っ張っていたのはお前の方だろ!?」
ダンがブースターゴールドの両肩を掴み、
膝蹴りをぶつけた。
「ぐえええええええええっ!?」
えづいた男の頭部を掴み、
金色の画面に拳を短く繰り返しぶつけていく。
「それでも彼と活動を再開したら、
僕の勃起ペニスは復活した。
…………悪党を殴るのにペニスが興奮しているのかと思った。
しかし、違った……彼を喪い、ペニスは世界に屈した」
殴り負けたブースターゴールドは抵抗せず、
荒らげないはずの息を荒らげさせて
ブルービートルは顔を抑えた。
「もう……愛する人を前にしても、ペニスは微動だにしない。
彼と一緒にいることが《正しさの羅針盤(勃起ペニス)》の鍵だった。
どんな時だろうと、
ものいわぬ僕のペニスがあの日、あの瞬間に、
彼を追わなかった僕を責め苛む……」
「ダン……お前は勘違いをしている」
敵の胸部に接し、光線を放つ。
ウェブライダーの力が
OMACに大きく距離を取らせた。
「ペニスは……勃起するだけのものじゃない。
重要なのは、お前の心が何処に在るかだ。
それがわかればペニスもニッコリ微笑む」
「言っただろう! 心はとうに消えた!
世界大戦の危機だけは収まった世界で、
みんなが安堵している中で、
僕だけが何も感じなくなっている!」
「だからなんでお前の親友が死んだ後のことばかりなんだ?
お前は……ロールシャッハが死んだ時のことをどう思っている?」
「決まっているだろ!
だが、それは────!!」
痛みの感じない体、
何も浮かばない心を抱えてダンは激痛に耐えるように、
ブースターゴールドにだけ意識を向け、
全身全霊の力をこめて巨大な右腕を進める。
対話は終わりだと言わんばかりの。
直撃すればさしものウェブライダーでも
どうなるかは予想できないが、
ブースターゴールドは両腕を広げ、無防備に受け入れる。
対話が止んでも、ブースターゴールドに彼を見捨てる道理は一つもなかった。
「Do It(やれよ)」
タイムマスターの目の前に青色が広がり、
訪れるはずの衝撃は無く。
ただ子供のようにへたりこみ、ぐずって泣くインポの姿があった。
「ごめん……ウォルター。
君を追えなくて……君を死なせたことに怒れなくて……!」
「そうだ。ダン。
俺もお前も、ずっと自分だけを許せなかった。
無力感と虚無への怒りが、俺をここまで運んだのかもしれない。
……あいつの言う通りだったのかもしれない」
目を閉じると奇妙な因縁で結ばれた宿敵を思い出しかけてしまう。
慌てて首を振って、ブースターゴールドは親指を立てて、
テッドの写し身に笑いかけた。
見た目はウェブライダーだが
たしかに同じマヌケ面。
「でも俺はヒーローやっててずっと楽しかったよ。
お前だってそうだろ?
何よりも、ロールシャッハといて楽しかったはずだ」
ダン・ドライバーグは目を細め、
彼を見つめ、溜め息をついて笑った。
「ハ……ハハハッ!
たしかに、そうだった。
彼にはいつも振り回されて……楽しかった」
「だが、彼もお前に引っ張られていた」
ずっと事態を静観していたマンハッタンが
満面のニッコリペニスとともに口を挟んできた。
「お前だけが私達の中で極めて貴重な
純粋で善良な動機でヒーローになった者だった。
ロールシャッハもお前という存在にさぞ救われたことだろう」
「…………どうだか」
自嘲してダンは立ち上がる。
出し切った晴れ晴れとした様子で、
ズタズタになったリンボ全土を見通す。
「クロノ・モータの力で過去の僕にこの戦いの記録を移植する。
それだけで全ては元に戻るはずさ」
「いいのか?」
「もう満足したよ。よくわかった。
僕は……君達のようなアホにはなれない。
でも、まあ……せっかくだし」
ダンがマンハッタンの頬を拳骨で殴った。
鈍い殴打の音が響く。
一発で、ブルービートルは拳を引いた。
「これでオッケーだ。
僕は股間に笑顔を貼り付けるなんてごめんだからね」
クロノ・モータが過去に情報を送り、
歴史が巻き戻り、修正されていく。
誰にも知られることなく、
記憶されることもなく。
赤く染まっていたリンボに虹色の垂れ絹がかかる。
ダニエル・ドライバーグも歴史修正の波にさらされ、
両手足の末端から透けていく。
己に起きていることを冷静に受け止め、
頭に浮かんだ疑問を口にした。
「砕けた歴史は永遠の開闢(ハイパータイム)に行くんだろう?」
「そうだ。お前もそこに向かう。
俺がこれまで破壊・修正してきた世界と同じく」
「なら探してみるか」
「探すってなにをだ?」
「疑問が持てるような未知のことをさ。
想像も超えたことにワクワクしたのが、僕の始まりだった。
スーパーマンが僕のオリジンだ。
…………それに気づくのに、ここまで来てしまった」
「気にすんなよ、お前もJLIだ」
「いいや」
首を振ってダンは笑った。
笑った顔は驚くほどにテッド・コードと瓜二つだ。
「絶対になりたくない。だから僕の負けなんだ。
クライムバスター(Crime Buster)にEDENは似合わない。
君は僕の親友ではない、逆もそうだ。
さようなら、助けてくれてありがとう、テッドの親友」
タイムマスターの前で、
いつものように歴史の残滓が融けていく。
マルチバースが復活をしていく中で、
Dr.マンハッタンが変わらぬニッコリペニスをぶら下げ、
ブースターゴールドに言った。
「子供を育てる上で……私は悩んできた。
彼にどう笑いかければいいのか」
「もう解決したじゃん」
ペニスを指差してブースターが肩を竦めた。
これほどの笑顔はないという笑顔を浮かべている
Dr.マンハッタンのペニス。
ペニスほどのスマイルとまではいかないが、
彼自身も目元を和らげ、口の両端を少し上にした。
「…………かもしれないな」
「また組もうぜ、あんたもJLIだ」
「それは――――」
口ごもったDr.マンハッタンはいそいそと
パンツを履いてスーツを羽織り、
赤ん坊が待つオウルシップに戻った。
「まったく、みんな照れ屋だよなあ?」
かつての友、キャプテンアトムである
クロノ・モータを見上げてブースターゴールドは嘆息した。
##########
【say goodbye&good day】
25世紀のメトロポリス博物館。
ヒーローの黄金時代も暗黒時代も、クライシスも問わずに
過去も未来も記録した世界一の記念館。
ブースターゴールドとスキーツが向かい合う。
周囲の景色が止まり、
もはやウェブライダー同然になった
ブースターゴールドが時間を止めていた。
「いつでも、ここでお前に会った時のことを思い出せるよ」
「ええ、そうですね」
「決意は変わらないのか」
「今回でわかったでしょう。
世界は貴方を必須としています。
私がその道筋になれるなら、悔いはありません」
どうにか彼の心変わりを誘発できないのか、
ブースターゴールドは必死に考えを巡らせる。
だが、駄目だ。この後に息子のリップハンターが来て、
スキーツは別れを告げて初期化する。
その流れが変わるようには思えない。
第一に、ブースターゴールドの頭脳では
相手の心に響く言葉を告げられなさそうだった。
「だが…………」
心からの納得ができないブースターゴールドが
渋面で首を振る。
それを諭すようにスキーツが言った。
「貴方が偉大なヒーローになるのを見届けるのが私の意義でした」
「誰が決めたんだ、そんなこと」
「そして、私はずっと、貴方の心が無くならないように、
ジョークとギャグの知識を刷新し続けてきました。
…………心のない私には上出来だったと思います」
絢爛、豪勢、華美を究めた博物館、
その隅に座る2名。
ここで生まれたヒーローが
永く苦楽をともにした相棒を撫でた。
感謝の言葉は何度も告げてきたが、
別れの言葉は一度も考えなかった。
そんな関係だった。
「お前が俺の心だったよ、兄弟」
目を閉じ、鼻の奥がツンとするのを堪える。
「父親に八百長を持ちかけられた時に、
俺の心に過ぎったのは……『これで愛してもらえるかも』だった。
そんなはずもないのに、俺は馬鹿だったよ」
過去を掘り返しても、痛みはもはやない。
返って来ない愛に惑わされたのも、
今となっては無数の愚行の1つだ。
「21世紀に来てからも、求めるものは同じだった。
でも……本当に欲しかったのは、愛される自分じゃなかった」
それでも、過ぎた過去ではなく
目の前の兄弟に、どうしようもなく涙が流れる。
「俺は……『誰かに誇ってもらえる自分』になりたかった。
胸を張って、
『あいつは俺の息子なんだぜ』って言ってもらいたかった。
お前だけが、ずっと、そんな俺を信じてくれた。
俺を本当のヒーローにしてくれたのはお前だ」
トースターほどの大きさのスキーツを胸に抱き。
「ありがとう、兄弟」
そして、腕を離してスキーツにリップへの別れを告げさせるため、
止まらせた時を動かす。
「さよならだ、俺の最高のヒーロー」
「駄目ですね……
最後になると、どうしても未練が出てしまいます」
感極まって無言だったスキーツが
ボディを小刻みに振動させた。
「あの…………入りにくいんだけど、二人ともいいかな」
動いた時の中で、すぐそこまで来ていたリップハンターが顔を出す。
涙を拭ってブースターゴールドは頷いた。
「ああ、父さんは席を外すから
ゆっくり最後の話をするといい」
「いやそういうんじゃなくてね。
ほら、入って入って」
隠れていた誰かをリップが優しく引っ張りだす。
スラリとした美女だった。
優しく、面倒見が良さそうな女性だ。
事態の主役なはずのスキーツが
首を傾げる風にして尋ねた。
「どなたです?」
「人間体に精神を移したギデオンだよ、スキーツ!!
いやあ、間に合ってよかった!
これを見せてあげたくてさあ」
「おぉ……すいません、私には凄さがよくは……」
「これを聞いたら初期化なんて言ってられないよ!」
鼻息荒くしたリップハンターが
隣のギデオンの肩を抱き寄せた。
戸惑う彼女に笑いかけ、せーのと2人が叫んだ。
「「私達、付き合ってます!!!」」
「「ええええええええええええええええええ!?」」
ブースターゴールドとスキーツは
同じタイミングで仰天した。
『アホ・愚か・無価値とされるジャスティスリーグ・インターナショナル。
だが、特筆すべきは彼らが有史最初の”敵国のヒーローと固い絆を結んだ”チームだということだ。
ロケットレッド・ブリゲイドはロシアの厳しい訓練を積んだ軍団だが、
そこから派遣されたロケットレッドは常に豪快に笑っている。
Dr.マンハッタンの平行世界が同一人物ことキャプテンアトムと
ロケットレッドが友誼を結ぶ記録は1つや2つではない。
永く疑問だった”ナサニエル・クリストファー・アダムがDr.マンハッタンにならなかった”理由だが、
それはきっとJLIが全歴史・全アースで最も”幸福を見つける技に長けた”チームだからなのかもしれない。
これにて、我が探求と記録は一旦の終了とする。
記録者:ジョナサン・オスターマン』