DCコミックス二次創作   作:スカンジナビア半島

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アクアマン:アーサーとブラックマンタ

 

 

子供の頃は、海が好きだった。

少年の頃は、海が疎ましかった。

蒼く澄み渡り、純粋な生き物が色彩豊かに暮らす世界。

 

「シン博士。この子がアーサーです。ほら、挨拶しなさい」

 

「こんにちは、アーサー。会えて光栄だよ」

 

父は地上に生きる人間で、母は海底に生きるアトランティス人。

夕日が郷愁を帯びるボストンの海面を、亡き母を探すように父は私の手を引いて眺めていた。

 

その頃の私は「アトランティス人」という言葉を特に意識していなかった。

父は、幼い頃から魚に意思を伝える力に目覚め、徐々に超人的な身体能力を得ていく私を愛してくれていた。

親しかったシン博士も、アトランティス人の能力を見せると無邪気に喜んでくれた。

 

今にして思えば、あの頃は幸せだったのかもしれない。

 

 

---

 

「父さん、しっかりしてくれ、父さん!!」

 

「アーサー……」

 

海を荒らす凶悪な犯罪者ブラックマンタとの戦いの直後。

心臓発作を起こした父は、病院のベッドで潰えゆく命の中、私の手を握って力強く語りかけた。

 

「決して、誰のことも恨むな。

 これは避けられない死だ。

 お前の善性を、怒りで埋めないでくれ」

 

父の心臓発作は、ブラックマンタとの戦いとは無関係だった。

そんな説明は、どうでもよかった。

繰り返し説明する医師に背を向け、私は嵐の中――父を殺したに違いない男の胸を貫いた。

 

「父さん!!」

 

暗かったからではない。

夜闇より暗い場所など、海中にはいくらでもある。

ただ、仇を討つために殺したかった私は、ブラックマンタの死だけを望んでいた。

 

絶望に揺れる瞳が怨嗟に燃えていくのが、倒れた男の顔を通して見えた。

 

「貴様……貴様ぁ!! よくも、父を!!

 俺のたった一人の家族を!!」

 

復讐の輪廻のきっかけはくだらない――誰かがそう言った。

そのとおりなのだろう。

私が間違って殺めた宿敵の父が倒れ、ブラックマンタと私は初めて戦った。

 

「殺してやるぞ、モンスター!!」

 

私が顔につけられたトライデントの傷跡を押さえ、ブラックマンタは憎しみに狂っている。

私も怒りに燃え、奴を殺そうと願っている。

それが、日常の崩壊だった。

 

 

---

 

「シン博士! どうして俺を裏切ったんですか!?」

 

「違うんだ、アーサー! 私はただ……アトランティスを証明して、名誉が欲しくて――」

 

「彼がアトランティス人なんでしょう、博士!

 その少年と話をさせてください!」

 

「やめてくれ! 彼は父を失ったばかりなんだ!」

 

マスコミが詰めかけ、シン博士が必死に私へ叫んでいる。

父が死に、信じていた博士に売られたと知った瞬間――私は悟った。

 

地上のどこにも、居場所はないのだと。

 

その時を最後に、私は一度、地上に背を向けた。

 

海中を自由に動けるようになった私は、何年もかけて母の故郷を見つけだし、王の血筋であったことからアトランティスの玉座についた。

 

そしてダークサイド襲来の時、初めて私は自ら戦う道を選んだ。

同じく超常の力を持つ者たちの集まり――ジャスティス・リーグ。

そこなら居場所を得られると思った。

 

だが。

 

「あの王はダメだ。ヌルすぎる。

 我らの世界を汚すだけの地上人を、なぜああも庇う」

 

「きっと地上人の血を引いているからだ。

 王とは名ばかりの裏切り者なのだろうよ」

 

「あんたをTVで見たぜ。魚と話ができるらしいけど、主食はミミズか? ルアーか?」

 

「さて、ヒーローランキングの最下位は~~~~?

 みんな予想通り、アクアマンでしたーー!

 さっすがアトランティス人、底が似合うよね!!(会場爆笑)」

 

「これまではジョークのネタにしてきたけど。

 ゴッサムを津波で襲ったのってアトランティスなんだろ?

 スーパーマンはなんであんな奴をジャスティス・リーグに置いてるんだ」

 

居場所など、どこにもなかった。

簡単な話だ。アトランティス人でも地上人でもない私が、

王になろうとヒーローになろうと、どちらにとっても紛い物。

 

だから、王位を弟に譲り、父の仇を討つためにブラックマンタを探し回った。

それしか、やりたいことがなかった。

 

 

---

 

「アーサー。マンタとは関係ない村の人たちの命を危険に晒してまで、奴を探す意義はあるのか?」

 

「正義のためだ。仕方がない」

 

「復讐は正義などではないだろう!!」

 

己だけのチーム、アザーズを結成し、世界を巡っていた頃。

ブラックマンタの消息を掴むために赴いた雪山で、交戦中に雪崩が起きた。

村人を抱えて逃げた後、仲間の一人が私と激しく言い争った。

 

私たちと距離を取っていた予知能力者カイナが、新たな未来を観測して戻ってくる。

出発しようとしていた私を呼び止め、幾重ものローブをまとった彼女は、嬉しそうに目を細めて私の頬に触れた。

 

「未来が視えたわ、アーサー」

 

「ブラックマンタを殺した私の姿でも見たか?」

 

「違うわ」

 

私の名はアクアマン。

アーサー・カリーとして地上で暮らし、ある大災害を起こした弟から再び王冠を受け取った。

 

「あなたは幸せを見つけるのよ」

 

その時は、馬鹿なことを――と思った。

当時の私は、自分が幸福になれる未来を一片も描けなかった。

だから彼女の予知は、きっと当たらないと信じていた。

 

だが、その結果を――もう教えることはできない。

彼女もまた、ブラックマンタに殺されてしまった。

いつか必ず、報いを与えねばならない。

 

 

###

 

海底国家アトランティスは暗い。

海といえば色彩豊かな生物の宝庫だが、奥深くとなれば光は差さない。

 

一日の執務を終え、玉座に腰掛けたアクアマンは、ぼんやりと凝った体を休めていた。

再び王位に就き、悲しきファースト・キングとの激闘に勝利して以来、日々は目まぐるしかった。

 

国民の信頼を得ようと奮闘し、侵入を試みる犯罪者や怪物とも戦う。

ようやく、僅かな休息が確保できそうだった。

コスチュームでもある金色の鱗のメイルが、ひどく息苦しい。

 

「お疲れさま」

 

優雅に泳いできたのは、妻のメラ。

燃えるような赤い髪。引き締まった肢体。強い意志を湛えた瞳。

美しい女性だ。

 

彼女は今、反対派に目を付けられないよう注意を払いつつ、故郷と地上――双方と共存する道を率先して進めている。

 

「お茶にでもしましょうか?」

 

女王の椅子に腰掛け、穏やかに首を傾げるメラ。

アーサーは肘掛けに置いた彼女の手に自分の手を重ね、首を振った。

 

「少し、このままでいよう」

 

もう片方の手で、髭を剃ったばかりの顎を撫でる。

個人的には気に入ってもいたが、メラには不評だった。

後悔はない――が、名残惜しさはある。

 

「髭を伸ばしたかった?」

 

「そうすれば威厳が出たかもしれない」

 

メラは嫌そうに口をへの字にする。

 

「嫌よ。せっかく若く見える顔立ちなのに。

 髭を伸ばしたら、あなたの魅力が損なわれるわ」

 

肩を竦めたアクアマンは玉座から立ち上がり、手を差し出した。

 

「少し泳ぎに行かないか?」

 

メラが嬉しそうに、その手を取る。

ふたりで泳ぐと、多くのことが見つかる。

 

メラは怒りっぽいところもあるが、王妃として迎えられてからは努めて自省し、国民に溶け込もうとしていた。

それは功を奏し始めている。

 

「王よ、ご機嫌麗しゅう!」

 

「メラ様も今日は一段とお美しい。妹がこの前、世話になったそうで」

 

「ずいぶん馴染んだな」

 

わかってはいた。

だが改めて直面すると、面食らう。

 

メラが指で彼の頬をつつく。

 

「あなたも、もう少し笑えばいいのよ」

 

「バットマンよりは笑っているだろう……」

 

「ふふ。それは当たり前ね」

 

彼女の笑いに、抗議は飲み込まれた。

 

アトランティスの外れへ向かう。

深海の人里では魚群は少ないが、それでも時折、出会える。

 

穏やかな海流が疲れた体を撫でていく。

見上げても海面は遠い。深い。

 

「地上の暮らしが恋しい?」

 

寄り添って腕に手を添えるメラが見上げる。

 

「少しだけ」

 

飼い犬のサルティはどうしているだろう。

灯台の麓の一軒家。質素な暮らし。

泳ぎを教えはしたが、まだ覚えているのか。

 

「きっと、あの子も元気にしてるわ」

 

メラは見透かすように言う。

その横顔が愛おしく、アーサーは目を細めた。

 

そこへ兵士が息を切らし駆け込んできた。

 

「ご歓談のところ失礼します。

 ゴッサム・シティ沖で密輸取引の現場を確保しようとした警官たちが襲撃を受けました。

 目撃情報によると――敵はブラックマンタとその一味。救助要請が出ています」

 

アクアマンとメラは瞬時に切り替え、海上へ浮上した。

 

 

---

 

####

 

荒れた海は嫌いだ。

雨風そのものはどうでもいい。

だが、感情の制御が難しくなる。

 

「来てくれたか、アクアマン。早速で悪いがブラックマンタが現れた。

 バットマンは来れねえ。急に天気が変わってな。

 こんな“水泳日和”じゃ、俺たちには近寄れもしないが――」

 

「問題ない。すぐ向かう」

 

「……あの。彼に任せていいんでしょうか?

 アクアマンは、この前のランキングじゃ最下位でしたよ?

 アトランティスのゴッサム侵攻の首謀者だって噂も――」

 

「黙ってろ。悪いなアクアマン。こいつはまだ新人でよ」

 

 

---

 

ハービー・ブロックの言った通りだった。

 

暴風雨に翻弄される船が五隻。

味方は一隻で、残り四隻は敵。

普通の犯罪者が相手なら、やれる。

 

数百メートル離れていても、銃を下げて民間人を恫喝する姿が見える。

一隻に捕虜が固められていた。

両手を頭の後ろに組まされ、猿轡を噛まされている。

 

訓練された警官だ。怯えは見せない。

だが銃口をこめかみに突きつけられれば、身体は強張る。

 

他の四隻は無人に見える。

人気がなく、荒波に弄ばれるままだった。

 

豪雨が波面に落ちて溶ける。

アクアマンの視力でもはっきりわかった。

ブラックマンタがいる。特徴的な円盤型ヘルメット。真紅の両目。

黒一色のスーツは、海底の色をしていた。

 

海に浮かぶアクアマンは、じっと時を待つ。

まだ殺していない。身代金目的か。

あるいは別の理由か。

 

冷たい海中で黄金のトライデントを意識した。

 

「アクアマン! 来ているんだろう!!」

 

嵐の中、しわがれた声が叫ぶ。

怨嗟に濡れた声だった。

 

「来なければ、こいつらを一人ずつ殺していく。

 それが嫌なら――俺に殺されるために出てこい!!」

 

捕虜に銃を向けた男が引き金に力を込める。

ブラックマンタが左腕を上げた。処刑の合図だ。

 

捕虜が観念して目を閉じる。

 

その瞬間。

処刑役の男が海に引きずり込まれた。

 

水の触手が海面から幾本も立ち上がり暴れ回る。

恐慌した犯罪者たちが撃ちまくる。

 

「待っていたぞ、アクアマン!!」

 

獰猛な喜色。

怨敵と相対した悪鬼の威容。

 

海面を直進し、アクアマンが飛び出して着地する。

五メートル圏内に敵が十名。散弾銃。距離を詰める判断は賢い。

 

だが――足りない。

 

トライデント一薙ぎで大半が昏倒。

残った一人の銃口が揺れ、人質へ向きかける。

 

やむを得ず手首を切断し、泣き喚く男を海へ蹴り落とした。

 

「貴様の善意の下は、いつも化け物そのものだ。

 俺にだけは、その姿が最初から見えていた」

 

部下が一人落ちたことなど気にもせず、ブラックマンタは両腕を広げる。

仮面の奥の表情はわからない。

だが、その紙一枚向こうの感情は手に取るようにわかる。

 

アクアマンは腰を落とし、トライデントを構えた。

 

「今夜がお前の最期だ。ブラックマンタ」

 

「死ねえぃ!」

 

ブラックマンタは体術のエキスパートだ。

ヘルメットの機構で何らかの強化を得ているのか、身体能力も常軌を逸している。

 

殴りかかってきた拳を柄で受け止め、返しで頸動脈を斬り裂きにいく。

その背後では、メラが捕虜救出のため、武装した部下たちと交戦を始めた。

 

薄皮を斬っただけでマンタは避ける。

バク転の動作で鳩尾へ蹴りを叩き込まれ、銃弾程度ならかすり傷の肉体が苦痛を訴えた。

無視して、海の王は犯罪者を海へ引きずり込もうとする。

 

黒兜の真紅の双眼が熱線を放ち、掴みにかかった腕を弾き飛ばした。

その隙を逃さず、マンタが距離を詰めて首を締め上げる。

 

哄笑。

デッキに押し付けられ、脱出しようと藻掻くが、考えられない膂力がアクアマンを固定していた。

 

窮地を察したのか、もぬけの殻に見えた船から援軍が湧き出し、メラと捕虜に向けて銃撃を続ける。

彼女なら負けはしない。こちらに加勢できないのも、今はそれでいい。

 

「貴様を殺して、俺は父の墓前に復讐の終わりを報告してやる!

 俺から唯一の家族を奪った貴様の首で、俺は俺の人生をも終わらせよう!!」

 

意識が朦朧としかける。

反射的に、アクアマンはトライデントの先端をマンタのこめかみに突き刺した。

 

黒兜が割れる。

頭蓋に罅が入り、敵は絶叫してよろめく。

 

アクアマンは追い打ちをかけた。

流れるような、ではない。荒く、力任せの連続突きで、ブラックマンタの体を抉る。

返り血を頬に浴びながら、無表情のまま淡々と告げた。

 

「ようやく、お前を殺す日が来た」

 

細まった瞳の奥。

海のように深い底が、燃え滾る激情を露わにする。

鼓動が激流のように全身を揺さぶり、震える手を握りしめる。

獲物に牙を向ける鮫の貌が、アクアマンに浮かんだ。

 

「お前を殺し、父と――貴様が殺した親友たちの報いを、この手で!!」

 

殺意と殺意が衝突し、周囲の温度が上がる。

銃声も喧騒も遠ざかり、世界に“ぽっかりとした穴”が空いた錯覚すらした。

 

「やれるものならやってみせろ!

 この復讐の輪廻は、どちらかが死なねば終わらない!!」

 

捨て身で飛びかかってきたマンタを、トライデントが貫いた。

そのまま疾走し、二人まとめて海へ飛び込む。

 

並の地上人なら、水温だけでもただでは済まない。

腹部に刺さったトライデントを捻れば、血がさらに上へ流れていく。

 

――もうすぐだ。もうすぐ終わる。

 

父の顔が脳裏に浮かぶ。

カイナやヴォストクの亡骸も、よぎる。

二人まとめて海底へ沈んでいく。速い。戦闘機よりも速い。

 

嵐の空の下、海はどこまでも昏い。

海上から海底へ落ちるより速く、アクアマンは潜り続ける。

 

マンタの仮面の奥から、くぐもった掠れ声が漏れた。

 

「貴様は、俺の全てを奪った」

 

震える指が、何かを押した。

 

海上で爆発音。

それが水中の耳にも届く。

 

見上げた視界に飛び込んだのは――

船底が爆破され、デッキに並べさせられていた警官たちとは別の、

一目でわかる“暴力とは無縁の地上人”が、海へ放り出される光景だった。

 

「だから、俺も貴様の全てを……!

 それが無理だとしても――」

 

息も絶え絶えのマンタの内側に、歓喜が立ち上がっているのがわかった。

 

「貴様が、馬鹿な連中が考えるより遥かにおぞましい化け物だと証明してやる」

 

海中はアクアマンの領域だ。

落ちた人々をメラが救助しようとしているのもわかる。

だが犯罪者たちを相手にしながらでは、どうしても無理が出る。

 

――これが目的か。

 

捕らえた警官たちは、ついで。

本命は、事前に捕らえていた民間人を“見殺しにさせる”こと。

 

噛み締めた奥歯。

仇敵の血の温度が、すぐそこにある距離。

 

アクアマンはマンタを引き上げ、高速で海面へ浮上した。

無事だった船へマンタを投げ捨て、周囲にイルカの群れが集まっているのを確認する。

 

アトランティス人は魚へテレパシーを送れる。

彼はその中でも伝達信号が強い。

だが、相手がイルカとなると時間がかかった。脳が大きく、単純ではない。

 

テレパスで救助を要請し、アクアマン自身も加勢に向かう。

 

咳き込みながら、マンタが叫ぶ。

 

「待て……アクアマン。俺を殺せ! 殺すんだ!!」

 

「それは次の機会だ」

 

振り返らず、飛び込みの姿勢で冷たく告げる。

 

「助けを求める人を見捨てるわけにはいかない」

 

悔しさと絶望が、マンタの声に滲んだ。

 

「戯れ言を!

 奴らが貴様に何をした!?

 嘲り、恐怖し、不信を露わにするだけだっただろう!!」

 

アクアマンは振り返らない。

 

「人の命より大事なものはない」

 

即答。

ブラックマンタが屈辱に拳を叩きつける。

 

「俺たちの復讐に勝るものなどない!!」

 

数拍。

アクアマンは瞳を閉じた。背後の怨敵を殺す機会を、振り切るための時間。

 

荒れ狂う暴風に、船が悲鳴を上げる。

 

「地上にも、アトランティスにも、私の居場所など用意されていなかった」

 

一度だけ、息を吸う。

 

「だが、すべきことだけはある。

 王として、アクアマンとして、私は生きる」

 

「よせ! 俺を殺せ! さもなくば貴様を殺す!!」

 

「お前は無意味に死ぬ。

 私の何も犠牲にできずに――苦しんで」

 

アクアマンは海へ飛び込んだ。

ついに最後の船も転覆し、ブラックマンタの声は黒い津波に呑まれていった。

 

---

 

ゴッサム港は騒然としていた。

 

「話を聞かせてください!

 犯罪者が複数死亡したという情報がありますが、

 アトランティス人について市警としてコメントは?」

 

「いい加減にしろ! 彼は英雄だぞ!!」

 

「今回の件、アクアマンこそが首謀者という声も――」

 

「そんなわけあるか!!」

 

民間人、警官ともに死亡者はゼロ。

犯罪者側には行方不明者多数。

それが、公式な結果だった。

 

港に集まった家族たちは、

イルカに乗って帰還した人々を涙ながらに迎えていた。

 

少し離れた場所で、

壁にもたれて物思いに沈んでいたアクアマンのもとへ、

ハービー・ブロックが缶コーヒーを手に歩み寄る。

 

「おつかれさん」

 

「ありがとう」

 

「あのべっぴんは?」

 

「友人が来ていてな。話し込んでいる」

 

「そうか」

 

屋根の下で雨をやり過ごしながら、

ブロックは煙草に火をつけ、大きく煙を吐いた。

 

「上はご機嫌斜めだ。

 『バットマンならもっと上手くやれただろう』だとさ。

 現場も知らねえで、無茶言いやがる」

 

「仕方ない」

 

ブラックマンタは行方不明。

致命傷は与えたが、死んだとは思えなかった。

 

歓声を遠くに聞きながら、

アクアマンはぬるくなったコーヒーに口をつける。

 

「アトランティスにコーヒーはあるのか?」

 

「ない。煙草も」

 

「俺なら三日で音を上げるな」

 

「私は海鮮サラダが恋しい」

 

ブロックは顔をしかめて舌を出した。

 

帽子を持ち上げ、頭を掻きながら、

彼は少し言いづらそうに口を開く。

 

「……テレビのことは、あんまり気にするな。

 連中は仕事で煽ってるだけだ。

 民間人もアトランティスを知らねえから、不安で余計なことを言う」

 

「わかっている。

 私も地上で生まれ育った」

 

「そうかい」

 

沈黙。

 

その向こうで、

救助された刑事と、その家族が近づいてきた。

 

先頭に立った新人らしい警官が、

勢いよくアクアマンの手を掴む。

 

「ありがとうございます!

 親友を助けてくれて!

 あなたは最高のヒーローです!」

 

慣れない握手に戸惑うアクアマン。

続いて、家族たちが次々と感謝の言葉を口にする。

 

右から左へ流れる声を、

どこか他人事のように受け止めていたその時――

小さな手が、彼の指を引いた。

 

涙で目を赤くした少女が、

それでも満面の笑みで見上げてくる。

 

「ありがとう。

 明日、クラスのみんなに言うね。

 アクアマンは、最高のヒーローだって!」

 

アクアマンは、一瞬言葉を失い、

それから、静かに頷いた。

 

 

---

 

####

 

「結局、ブラックマンタとの決着はつけられなかった」

 

「そう……」

 

「奴が生き延びれば、また犠牲者が出るだろう」

 

「その時は、一緒に止めに行きましょう」

 

力のこもったメラの言葉に、

アーサーは目を細めて頷く。

 

「そうだな」

 

並んで歩く二人。

メラは楽しげに鼻歌を口ずさんでいた。

 

「君がいてくれてよかった。

 本当に、心から思う」

 

何の変哲もない墓地。

小さな墓標。

カイナが眠っている。

 

花束を供え、

アーサーは静かに語りかける。

 

「君とヴォストクの仇は、まだ取れていない。

 気にしているとは思わないが……」

 

口下手な近況報告を終え、

メラの手を強く握る。

 

「あの時の予知の結果を、報告しに来た」

 

メラが嬉しそうに微笑む。

つられて、アーサーの表情も柔らいだ。

 

「見事に、的中したよ」

 

墓標の前で、

潮の流れのように静かな時間が過ぎていく。

 

子供の頃は、海が好きだった。

少年の頃は、海が疎ましかった。

 

けれど今、

この深く、暗く、広大な世界の中で――

ようやく、自分の居場所を見つけた。

 

アクアマンは、

静かに海へと帰っていった。

 

 

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