目が覚めた瞬間、鼻腔をくすぐったのは青臭い竹の匂いだった。
見渡す限り、細く高い竹が空を覆い、不思議な静けさが辺りを支配している。
「……竹やぶ?」
思わず呟き、周囲を見回す。
「杜王町に、こんな場所はない。……まさか、杉本鈴美が言っていた“安心なんてない場所”か?」
そこで、ようやく自分自身の異変に気づいた。 着ているのは川尻浩作になる前の服。手で頬を触れれば、そこにあるのは慣れ親しんだ――吉良吉影の顔だった。
「ふ……ふふ……フハハハハ!」
抑えきれない笑いが込み上げる。
「やったぞ……! これで私は自由になれる!!」
だが、すぐに表情を引き締める。
「……いや、待て。落ち着け。そもそも、ここはどこだ。杜王町ではないのは確かだが……」
慎重に視線を巡らせた、その時だった。
――そこに立っていたのは、かつて自分を追い詰めた宿敵。
「……東方仗助!! なぜお前がここにいるんだ!!」
学生服にリーゼント。仗助もまたこちらを見て、目を見開いていた。
「テメェは……吉良吉影!! なんでお前がここにいるんだ!!」
「それはこちらの台詞だ。せっかく平穏に生きられると思っていたのに……」
「お前みたいなやつに平穏が訪れるか! このボケ!!」
怒号が竹やぶに響く。
「しかし……お前さえいなくなれば、私は今度こそ平穏に生きられる」
「やってみろコラ! またぶちのめすだけだからよ!!」
二人は同時にスタンドを構えた。
先に動いたのは、吉良だった。
「近接戦では、確かにお前のクレイジー・ダイヤモンドの方が強い。だが――」
竹林を見渡し、口元を歪める。
「ここは竹やぶ。なぜかは分からんが、この状況では私の方が有利だ!」
「距離を取らせるかよ! クレイジー・ダイヤモンド!」
仗助のスタンドが唸りを上げ、竹を次々となぎ倒していく。
「さすがに力は本物だな……だが!」
「キラークイーン! 第一の爆弾、点火!!」
なぎ倒された竹が、突如として爆発した。
「くっ!」
仗助は間一髪で回避する。
「やるじゃねぇか……逃がすかよ!」
距離を詰める仗助。
「ちっ……ならば、これならどうだ!」
「キラークイーン! この竹を爆弾に変えろ! 点火!」
爆ぜる竹。衝撃で周囲の竹林がなぎ倒される。
「この程度――」
「クレイジー・ダイヤモンド! ドララララララララ!!」
拳の嵐が爆風で倒れた竹を弾き返す。
「隙ができたな、東方仗助」
キラークイーンが小石を投げた。
「点火」
それはすでに、爆弾だった。
「ぐっ……!」
仗助は防御したものの、衝撃を完全には殺しきれない。
「一発では仕留めきれないか……だが、ダメージは与えたぞ」
「俺が、ただ防いでるだけだと思ったのか?」
仗助は不敵に笑う。
「クレイジー・ダイヤモンド……竹を治す!」
爆発で倒れていた竹が、一斉に元へ戻り始めた。
「なっ……!」
吉良は、その“治る軌道”の上にいた。
「まずい! キラークイーン、防御しろ!!」
しかし間に合わない。
竹は吉良を打ち据え、彼の身体は大きく吹き飛ばされた。
「これで……同じダメージだな」
「くっ……距離を取らなければ……!」
後退しようとした、その瞬間。
足元の地面が崩れ落ちた。
「なにっ!?」
落とし穴。その底には、無数の竹槍が突き出ていた。
「なぜ、こんなところに……! まずい、キラークイーンは前に……防げない!!」
死を覚悟する。
――せっかく、再び生を得たというのに。
だが、その瞬間だった。
誰かが、キラークイーンの腕を掴み、強引に引き上げた。
「……!」
地上に投げ出された吉良の視界に映ったのは――仗助だった。
「危ねぇとこだったっすね」
「……なぜ、私を助けた?」
混乱したまま、問いかける。
「私はお前を憎んでいる。お前も、私を憎んでいるはずだ」
仗助は真っ直ぐにこちらを見た。
「たしかに、俺はお前が憎い。重ちーを殺したからな」
胸がざわつく。
「……だからこそだ」
「どういう事だ?」
「見て分かった。お前、まだしっかりと裁かれてねぇだろ」
仗助は静かに言葉を続ける。
「お前は、ちゃんと裁かれるべきなんだ。ここで死んだら、殺された奴らはどう思う?」
「……」
「きっと、『裁かれてほしい』って思うはずだ」
「……意味が、わからんな」
「とりあえずよ」
仗助は周囲を見回す。
「ここがどこか、調べねぇか。何も分かんねぇまま戦っても、埒があかねぇ」
「……分かった」
吉良は、しばし沈黙した後に頷いた。
「一度、休戦だ。あくまで休戦だからな」
「はいはい。わかりましたよ」
「とりあえず……ここには、人がいるみたいだな」
吉良は周囲を見渡しながら、冷静に呟いた。
「なんでわかるんすか?」
「さっきの落とし穴だ。あれは確実に人工のものだ。それに、よく見ろ」
吉良が指差した先には、地面に残る掘削の痕跡があった。
「おそらく、タケノコでも掘っていたのだろう。自然にできた穴ではない」
「なるほどっすね。でも、どうやって探すんすか? ここ一面、竹しか見えないっすけど」
「……多分、そろそろ来る」
「え? なんでわかるんすか?」
その言葉と同時だった。
ざわり、と竹やぶが揺れる。
やがて、その奥から一人の少女が姿を現した。
「お前たち……道に迷ったのか?」
モンペのような服を着た、赤い大きなリボンの少女。 警戒しながらも、どこか素朴な雰囲気をまとっている。
「ああ。少し迷ってしまってね。君は誰なんだ?」
「私の名前は藤原妹紅だ」
少女はそう名乗り、二人を見て眉をひそめた。
「……それより、お前たち大丈夫なのか? 怪我してるが」
仗助は、何事もなかったかのように肩をすくめる。
「全然、大丈夫っすよ」
「強がるな。この先に永遠亭っていう病院がある。行くか?」
「いえ、大丈――」
「では、お言葉に甘えて案内してくれるか」
吉良が即座に言葉を遮った。
仗助は小声で囁く。
「なんでっすか? ここについて聞いた方がいいでしょ」
「病院ということは、人がいるはずだ。そこに行けば情報も集まる。ここで聞くより効率的だ」
「……確かに、グッドアイディアっすね」
「じゃあ、よろしく頼む」
「分かった。ついてきてくれ」
妹紅に導かれ、三人は竹やぶの奥へ進んだ。
しばらく歩いた先に現れたのは――
まるで大昔の日本の屋敷そのもののような建物だった。 にもかかわらず、不思議なほど古びた様子はなく、どこか現実離れした気配を放っている。
「ここが……永遠亭ってやつっすか」
「そうだ。とりあえず、中に入れ」
屋敷の中へ足を踏み入れた瞬間、二人の少女の言い争う声が響いてきた。
「だから! また落とし穴作ったの、やめろって言ってるじゃない!」
「ナンノコトカ、ワカラナイワ」
一人は、ふわふわした兎耳をつけた黒髪の少女。 もう一人は、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪と紅い瞳を持つ少女だった。
吉良と仗助は、呆れたように顔を見合わせる。
「口論中すまないが、少し話を聞いてくれないか」
二人の少女が同時にこちらを向いた。
「……怪我人ですか?」
長髪の少女が鋭い視線を向ける。
「二人とも、出血していますけど」
「はい。落とし穴に落ちまして」
仗助が適当に答えた。
さすがに“殺し合いをしていた”などと言えるはずもない。
その瞬間だった。
兎耳の少女の身体が、びくりと震えた。
「まさか……落とし穴って……」
長髪の少女がゆっくりと振り返る。
「……あなたが作ったものじゃないでしょうね?」
次の瞬間、兎耳の少女は全力で走り出していた。
「あっ、こら!!」
長髪の少女が叫ぶ。
「ごめんなさい。その落とし穴……あいつが作ったものなんです」
(やはり、あの少女が……)
吉良は内心で呟いた。
「とりあえず、聞きたいんだが……ここはどこなんだ?」
その問いに、妹紅は目を見開いた。
「……お前たち、本当に知らないのか?」
しばしの沈黙の後、彼女は静かに告げた。
「ここは――幻想郷だ」
どうだったでしょうか面白かったらコメントお願します
m(_ _)m
不定期連載になるかもしれないのでよろしくお願いします
ちなみに作者は4部が大好きなのでこうなりました