――エンポリオは、逃げ切れただろうか。
もうわからない。
みんな、死んでしまった。
それでも……最後に託すことはできた。
(もし、次があるなら……次は父さんたちと……)
意識が遠のき、そして――
目を開けた瞬間、鼻をくすぐるのは線香の匂いだった。
視界に映ったのは、古びながらも威厳を保つ立派な寺院。
どこか懐かしく、しかし説明のつかない違和感が全身を包み込む。
「……ここはどこ?」
ケープ・カナベラルではない。
日本の寺院……? いや、似ているが何かが違う。
以前どこかで見たような気もするが、昔の記憶でよく覚えてない
誰か人がいるか確かめようと、徐倫は賽銭箱の前まで歩み寄った。
「すみません……誰かいないの?」
その時だった。
寺院の空気とは明らかに異質な存在が、視界の端に映った。
キリスト教の神父服。
褐色の肌に、白い髪。
「すいません、ここがどこか知ってます? 私、迷っちゃって……」
その人物が、ゆっくりと振り向く。
――息が止まった。
「……お前は!! 空条徐倫!!
なぜお前がここにいる!! 私はエンポリオに殺されたはずだ!!」
「それはこっちのセリフよ!
なんであんたが、ここにいるのよ!!」
プッチ神父。
間違いない。あの男だ。
「私も気づいたらここにいた……
だが、お前だけは必ず始末する。
――メイド・イン・ヘブン!!」
「まずい……! 逃げなきゃ!
ストーン・フリー!!」
糸が弾け、徐倫は一瞬の差で屋根へと跳び上がる。
だが背筋に走る寒気が消えない。
「無駄なあがきだ、空条徐倫!!
その能力で、私に勝てると思っているのか!!」
どうする――
このままでは、確実にやられる。
「ストーン・フリー!!」
糸を張り巡らせ、簡易的な結界を作る。
「……気休めだけど、ないよりマシよね」
「そんなもの無意味だ。
あの時は承太郎たちがいたから意味があった。
今は……その承太郎もその仲間たちもいない」
事実だった。
たとえ糸に引っかけても、今の私には決定打がない。
「とどめを刺したいところだが……
確実さが欲しい。もう少し待つとしよう」
その言葉と同時に、プッチの姿が消えた。
――時間加速。
今は新幹線より、少し速い程度。
だが放置すれば、加速は止まらない。
神父は、さらに速くなる“その瞬間”を待っている。
「来るなら来なさい!!
私は、ここにいる!!」
「まだだ……
もう少し“時”が進んだら、お前を始末しに行く」
一秒。
二秒。
徐倫には、その一秒が一分にも感じられた。
――風が吹く。
次の瞬間、何かが視界を遮った。
「……!? これは……落ち葉!?
自然現象? いや……違う、プッチの――」
視界が乱れた、その刹那。
「隙ができたな!!」
鋭い手刀が、徐倫を裂こうと迫る。
――その時。
「そこのあなたたち!!
そこで何をしているのですか!!」
女性の声が、境内に響き渡った。
一瞬の油断。
その刹那を、徐倫は逃さない。
「ストーン・フリー!!
オラオラオラオラオラオラ!!」
拳はほとんど当たらなかった。
それでも――
「チッ……まずい。
ここは一度、引くしかない」
プッチは身を翻し、屋根から降りた。
そして、突然現れた女を睨みつける。
「……それで。
貴様は誰だ。
私の邪魔をするつもりか」
女は一歩も引かず、真っ直ぐに答えた。
「この異常な現象……
あなたが原因なら、私はあなたを止めます」
「ほう……
ならば、お前も始末するまでだ」
徐倫は思わず叫んだ。
「逃げて!!
そいつは普通の人間じゃ相手にならない!!
今のプッチは……新幹線より速い!!
もう285km/hなんて、とっくに超えてる!!」
プッチの気配が、一瞬で背後へ回り込む。
「後ろにいるわ!! 逃げて!!」
次の瞬間、振り下ろされた手刀。
――確実に、入ったはずだった。
「なに……!?
この硬さは……まるで鉄でも叩いているようだ!!」
「……そこですか」
女は即座にプッチの腕を掴み、体を沈める。
次の瞬間――
ドンッ!!
鮮やかな背負い投げ。
神父の体が宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
「このパワーは……!!
なんて力だ……!!」
だが、着地の瞬間。
プッチの姿は、もうそこになかった。
「……速い!!
私が投げた“その瞬間”に、もう逃げた……!」
「あ、危なかった……
今の、寸前で逃げられてなかったら……」
徐倫の言葉が終わる前に、嫌な予感が走る。
――消えた。
「……っ、姿が!!」
どこからともなく、声だけが響く。
「正直……君のことはなめていたよ。
だが、ここからは本気でいかせてもらう」
その瞬間。
世界が、静止した。
「……?
時間の加速が……止まった?」
そう思った刹那――
天地が、反転した。
「――ッ!?
世界が……落ちる!!」
上下の感覚が崩れ、寺院も空も、すべてがひっくり返る。
「まずい……!」
女は咄嗟に、先ほどまで“地面だったもの”へ腕を突き立てる。
岩を砕き、穴を穿ち、そこへしがみついた。
徐倫も瓦に糸を絡め、必死に体を固定する。
「これ……C-MOONの能力!?
でも……そんなはずない!!
あのスタンドは、もう――」
足音。
今度は、隠す気もない。
天地が逆さになった世界を、プッチは堂々と歩いてきた。
「確かに……
C-MOONは、もはや私のスタンドではない」
ゆっくりと、胸に手を当てる。
「だが……ここに来た時から感じていた。
“いる”のだ。
この体の中に……C-MOONが」
「理由は分からん。
だが……使わせてもらう」
「……それも、あなたの能力なんですか?」
「ああ。
これなら――お前を始末できる」
「C-MOON!!」
見えない拳が、一直線に振り抜かれる。
女はスタンドが見えない。
だが、本能で理解した。
――何かが、来る。
防御のため、腕を前に出した、その瞬間。
「やめろ!!
そいつの拳に触るな!!」
徐倫の叫びは、間に合わなかった。
拳が、当たる。
次の瞬間。
「――ッ!!」
女の腕が、裏返った。
皮膚も、骨も、関節も。
“内と外”が反転し、あり得ない形へと変わる。
「これは……ッ!!
くっ……動け……ない……!!」
同時に、見えない力が体を拘束する。
徐倫は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
プッチが、静かに口を開く。
「……なぜだ」
女を見下ろし、問いかける。
「なぜ、あの時……
力を緩めた?」
「君のパワーなら、私を逃すことはなかったはずだ。
――答えろ」
女は、痛みに歪む表情のまま、まっすぐにプッチを見返した。
「……あなたは……
私と、同じだと思ったんです」
「大切な人を失った……
そんな“重さ”を、感じた」
「だから……
あの時、力を緩めてしまった」
一拍置き、静かに続ける。
「……殺すなら、そうしてください」
その瞳に、死への恐怖はなかった。
プッチは、わずかに目を見開く。
「……そうか」
拳を振り上げる。
「ならば……
望み通りにしてやろう!!」
C-MOONの拳が、振り下ろされ――
「やめろ!! プッチ!!」
――当たった。
だが。
急所ではない。
裏返った“その腕”に、拳が叩き込まれる。
次の瞬間。
ぐにり、と音を立てて、腕は元の形へ戻った。
拘束が解ける。
同時に、天地が元に戻り、重力が正しく働き始めた。
プッチは、静かにスタンドを解除する。
「……なぜ……助けたんですか」
女の問いに、プッチは振り向かず答えた。
「お前たちの“覚悟”と……
私の“覚悟”」
「その違いを……
知りたかっただけだ」
徐倫も地面へ降り立つ。
「……ねえ、プッチ。
一回、休戦しない?」
「ここがどこかも分からないし……
状況も、最悪すぎる」
プッチは、肩の力を抜き、短く息を吐いた。
「……そうだな。
だが、今だけだぞ」
「はいはい……」
徐倫は呆れたように肩をすくめ、女の方を見る。
「それで……
あなた、名前は?」
「私は――
聖 白蓮。
この寺の、管理主です」
「……じゃあ、質問は山ほどあるけど」
徐倫が聞く。
「ここは……どこなんだ?」
白蓮は、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「――ここは、幻想郷です」
どうだったでしょうか面白かったらコメントお願します
m(_ _)m
ちなみにこの小説ではプッチはホワイトスネイク、C-MOON、メイドインヘブンの三つのスタンドが使えますが切り替えは一日一回しかできないのでホワイトスネイクからC-MOONまたホワイトスネイクみたいなことはできませんあとこれから僕忙しくなるので書くの遅れるかもしれませんm(_ _)m