何もしてないのに壊れました~異世界漂着物調査課~   作:包紙くらげ

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ひょうちゃくぶつ4 『ほにゅうびん』

 お酒が入ってたからだろうか、その日は全てを出しきった僕はいつの間にか部室で死んだように眠っていた。

 朝日が瞼をくすぐり、小鳥のさえずる声が耳を心地よく撫で……ることもなく、鼓膜に響いたのは野太い声で僕の意識を叩き起こした。

 

「いつまで寝ているテト、そろそろ点呼の時間だぞ」

「んあ……知らない天井……じゃなくて、ゴリウスさんおはようございます」

 

 重い瞼をこじ開けると、そこには朝日を背負って仁王立ちしていたゴリウスさん、なんだか絵になる。

 そうだ、僕はここで今日から働くことになったんだった……備品として。

 カニで味わった地獄とシプルさんからお礼で頭が少々ぐるぐると混乱してる……顔でも洗ってこよう。

 のそのそと歩き洗面台の蛇口を捻ると冷たい水が溢れ出す、手でお皿をつくって顔に水を打ち付ける。くぅ~冷たくて気持ちいい!気持ちもシャキッとした。

 

「体調に異常はないな?朝飯は食ったか?顔色は……昨日よりはマシだな」

「朝飯はまだですけど大分マシですね!一晩寝たら大体の不調が治るのが僕の取り柄です」

 

 ゴリウスさんが至近距離まで顔を寄せ、僕の健康状態を検品でもするかのようにじろじろとチェックする。その手際の良さと妙な安心感に、僕は思わず口をついた。

 

「ホントに先輩みたいですね」

「先輩だ、今日からな」

「ふふ……今日からよろしくお願いします!『部員』として」

「ああ、『備品』として頼りにしてるぜ」

「はい『部員』としてがんばります」

「頑張れよ『備品』」

 

 しばらくにらみ会う僕ら、僕が人間扱いを取り戻すのはまだ遠いのかもしれない。

 

「あっ起きてたんですねテトくん~おはようございます~」

「シプルさん!おはようございます!」

「急に元気になったな、わかりやすいやつ」

 

 振り返るとそこにいたのは黒と黄色の制服姿のシプルさん、ほんとにいつ見てもふわふわした髪とおっきなお胸、それから大きな角が目に入る、羊じゃなくて鬼族なんだよねたしか。

 

「二人とも朝ごはんもう食べましたか?食べてないなら私のお弁当わけてあげ……」

「俺は食ったからテトに食わせてやってくれ!じゃ先に浜辺の散策してくるぜ」

 

 食いぎみにシプルさんの言葉を遮ってゴリウスさんは出ていってしまった、もしかして不味いんだろうかシプルさんの手料理。

 

「じゃあテトくんにわけてあげますね、まずこれです」

「あっ、ありがとう……ございます……?」

 

 ドカンとテーブルに置かれたのはパン、ソーセージやらハムやらが挟んであるサンドイッチだ。

 見た目はどうみてもただのサンドイッチ、野菜がちょっと足りないかなって感じのサンドイッチなんだけど問題はその量!

 

「足りませんか?これで1/3くらいなんですけど」

「これで!?」

 

 凄まじい肉と小麦の質量の暴力って感じ、信じられない量のサンドイッチが鞄からヒョイヒョイ出てくる。テーブル埋まっちゃうぞこれ……

 

「テトくんお腹空いてるだろうな~って思ってすこし張り切っちゃいました!さ、残さずちゃんと食べてくださいね」

「の、残さずですか」

 

 初仕事前に僕は葬式を上げられるかもしれない

 

「一日の始まりは良い食事からです!さあたーんと召し上がれです」

 

 これが鬼族と人間の違いなんだろうか?シプルさん超大食いなんだなぁ…

 

「ええいままよ!!いただきます!!」

 

 この後わかったんだけど人間死ぬ気になればだいたいのことは出来るってことと胃袋ってあんなに広がるんだって我ながらそう思った、あと困ったことに味は絶品。

 

 

「シプルの飯を食って無事とは、その頑丈さお前やっぱここ(調査課)向いてるよ」

「ゴリウス先輩が逃げ出した理由がよくわかりましたよ……目をキラキラさせながら次々口に運ばれると断りきれません」

「善意100%だからな、っと腹がきついと思うが浜辺のチェックはしっかりな」

「んー?何のお話ですかぁ?」

 

 僕はシプルさんの朝ごはんを片付けた後、いつもの砂浜に来ていた。漂着物調査課の仕事といえばこの島に流れ着いた漂着物がないか探すこと。

 それってつまり漂着物がないとすっごい暇ってこと

 

「暇ですねぇ、なんか面白いことないですかねゴリウス先輩」

「トイレに鏡があったぞ、じっくり見てこい」

「それは僕の顔が面白いって言いたいんですか?」

「この島にはサイコロとお前の顔を見るくらいしか娯楽がないからな」

「それはそれは、僕が流れ着いて良かったですね」

 

 僕らが軽口を交わしながら浜辺を散歩しているとシプルさんが大声で僕らを呼んだ。

 

「テト君ゴリウスさん~、ありましたよ~『漂着物』!」

「ほんとですか!」

「よかったなテト、お前の異世界人としての知恵を期待してるぜ」

「いわれなくとも!正しい使い方ってやつをばっちり実演してやりますよ!」

 

 どんな漂着物だろう、シプルさん前だしバシっと正しい使い方ってやつを見せていいとこ見せてやるぞ!

 

「さあどんな漂着物かなっと……」

「どうした急に固まって」

 

 大きな木箱に入ってたのは僕の想像斜め上のもので、説明書には、

 

『ほにゅうびん 赤ちゃんにもどったつもりでちうちうやってみよう』

 

 ほにゅうびんと粉ミルクがセットで漂着していた。

 

「なんだかかわいい形ですねえ~テト君使い方の実演楽しみにしてます~」

「えっとその……」

 

一旦、持ち帰りで……と僕は消えゆく声でぼそりと呟いた。

 

 

「ほにゅうびん……中に多分この粉ミルクってやつをいれて飲むんだろうか変な形だがボトルのようなものなんだろう」

「うーん形状は何だかおっぱいみたいですねぇ~、先端とかが特に~」

「あとは使い方だが……テト、どうしたさっきから黙って」

「いやその……これ実演しないとダメな感じですか」

 

 そのあと哺乳瓶を木箱ごと回収した後に僕らは部室に戻った。

 僕はこれを今から咥えなきゃいけないと思うとこみ上げる恥ずかしさでそわそわしている、ええとその役割僕じゃないとダメなのかな。

 

「あんなに張り切っていたじゃないかそれに備品としての初仕事だろ、期待している」

「どうやって使うんですかぁ~?ワクワクします」

「せ、説明書の通りです、赤ちゃんにもどったつもりでこう……吸うんです」

 

 嫌だ、シプルさんの前で哺乳瓶でちうちう吸う所を見られるなんてとんだ変態プレイだ。

 どうにか切り抜けないと……、そうだ!

 

「二人とも実はこれ大人が使うものじゃなくて、赤ちゃん用の器具なんだ」

「ほえっ?赤ちゃん用ですかぁ?」

「うん、乳児にこの粉ミルクや母乳を安全に与えるための器具で、とにかく僕が吸うものじゃなくてね」

 

 なにも嘘はついていない、絶対に僕が吸うものじゃないんだ、これは赤ちゃんようで……

 

「──だったら尚更、お前が実演して安全性を確かめなきゃいけねえんじゃねえか、テト」

「えっ」

「ただでさえ漂着物、このアイテムが安全で実用的か俺たちは調べなきゃならねえ。実用的と判断されればこれを元に島の魔道具職人たちが量産を始めるだろう」

 

 ゴリウスさんの目は真剣だった、そうなのかこれが島に出回ってもいいか調べるのが僕らの仕事だった。

 

「そしてその使う人ってのは赤子やその母親なんだろ?なら俺たちがしっかり調べねえといけねえ、母親の授乳の代わりになるかもしれないものなら赤子の命がかかってるのと同じだ」

「で、でもそんな大役、僕でいいんでしょうか……なにかあったら……」

「テト安心しろ」

 

 ゴリウスさんが僕の肩に手を乗せる。そんな真剣な表情で僕を見つめ……なんだろうお前なら出来るとかかな、そんなにいつの間にか信頼されてたのかな。

 

「お前は備品だ、何かあってもどうにかなる」

「ハッ倒しますよ」

 

 でももう僕がやるしかない流れが出来つつある、よく考えたらゴリウスさんが哺乳瓶なんて咥えた姿を見たら僕は朝食べたものを戻すかもしれないし、シプルさんにそんな恥ずかしい思いはさせられない。とほほ、僕が吸うしかないってことね、まったく他の調査課メンバーは何をしてるんだ。

 

「わかりました、僕が吸います……──粉ミルクの用意、頼みますよ。ぬるめでね。」

「はいわかりました!」

「流石はテトだ、ぬるめのお湯準備できてるぞ。」

 

 テキパキと粉ミルクがお湯に溶かされ、要望通りの粉ミルクがとくとくと哺乳瓶を満たしていく、うわあ幼い頃嗅いだことのあるような乳臭い香りだ。

 そして僕が座る席の前にトレイ付きでどうぞとご注文の粉ミルクが届いた、しっかり哺乳瓶に入れられて。

 僕は震える指の動きを抑えながらゆっくりとそれを手に取った、田秩(たちつ)テト18歳、赤ちゃんプレイ、行きます。

 

「そ、それじゃ吸わせていただきます……」

「はい♪テト君召し上がれ♪」

「これは仕事だテト、恥ずかしがることは何もない」

 

 そう言われても僕は恥ずかしい、物凄く恥ずかしい、ああシプルさんどうかこんな情けない僕の姿を見ないで……

 僕は覚悟を決めて哺乳瓶に、吸い付いた。それはもうゆっくりと

 

「んちゅ……ちう……ちう」

 

 吸うたびにじんわりと乳首の先からミルクがじんわりと染み出てくる、急にあふれるようには決して出てこない、吸っても吸っても出て来るミルクは口内をじんわりと湿らせる程度、もっともっととこっちが求めないとミルクは僕の喉を潤してはくれない。

 粉ミルクの味はぬるくてやさしい甘み、ほのかな甘みの中に母乳に含まれるDHAとアラキドン酸を再現してるのか鉄分の風味、血、乳臭い香りが鼻を抜ける。決して美味しくはないでも不味くもない、舌に、体に馴染む不思議な味がした。

 

「テト君どうですか、おいしいですかぁ~?」

「お、おいしいですかね……何とも言えない甘みがあって、馴染む味って感じで……」

「違うだろテト、今お前は赤ちゃんのために検証してるんだ、それならお前は今だけ赤ちゃんになれ」

 

 ああもうやけだ!どうとでもなれ!

 

「おいちいでちゅ!体に染み渡るような、一滴一滴が口内で味わうと母性の塊って感じでじんわりと体の一部になるようなそんな神秘的な雫でちゅ!」

「赤ちゃんはそんな表現はしない、もっと幼くなれ」

「おいちいでちゅ、おいちいでちゅ!ミルクおいちいでちゅ!」

 

 ふっ、僕は何をやってるんだろう。

 

「テトくんかわいい……なんか胸がじんじん、キュンキュンしちゃいます、どうでちゅかテト君おいちいでちゅか?」

 

 ああ、もう死にたい。シプルさんにもバカにされてる。

 

「テト今お前は何を吸ってるんだ、がんばれテト、絞り出せ!」

 

 今僕が吸ってるのは、今吸い付いてるのは何だ田秩テト……!!

 

「──僕が今吸ってるのは」

「ああもう遅れた遅れた!昨日はバイトが忙しくて顔も出せずにすみません!ラビア・ノーベンバー、ただいま到着しました!」

 

「ママのおっぱいでちゅ!ママのおっぱいおいちいでちゅ!もっと飲みたいでちゅ―!!!」

 

 ガラリと勢いよく開け放たれた扉。

 叫びと同時に僕の視界に飛び込んできたのは青、青い髪のボリュームポニーテールの女の子。きりっとした赤い釣り目とそれからおおきなウサギ耳、その元気そうな女の子の表情がみるみる変化して……

 

「へ、変態……」

 

「あっラビアちゃんです、こんにちわ~」

 

 漂着物調査課の新たるメンバー、ラビア・ノーベンバー。この子との出会いは、

 

「変態が……いる」

 

いやもうほんとに、最悪の出会いでした。

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