何もしてないのに壊れました~異世界漂着物調査課~   作:包紙くらげ

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ひょうちゃくぶつ5 『わりばし』

「変態がいる……」

「あらラビアちゃんこんにちわ~」

「あっ、シプル先輩こんにちわ……じゃなくてなんですかこの男(変態)!?」

 

 ラビアと呼ばれた大きなウサ耳と、これまた大きなポニーテールがトレードマークの女の子は、僕に向かって腰に携えてある剣を抜いて、指を刺すように突き付けていた。よく見ると騎士がつけるような胸当てをスーツの上からつけている。元騎士とかそんなところだろうか?

 ところで変態か……、どこにいるんだろう?僕はちゅぽんと哺乳瓶から口を放す。とりあえずさわやかに挨拶だよね。

 

「こんにちわ、えっと僕は田秩テトです。」

「最近の変態は礼儀正しいのね、あたしはラビア・ノーベンバー、あんたママのおっぱいがどうとか叫んでたけど何者なの……?」

 

 それこそ変態を見るような目で僕に剣を突き付ける。

 ああちゃんと説明しないとダメだったよね、要点だけちゃんとまとめてっと。

 

「あはは、実は赤ちゃんなんです今のところは」

「わかったわ、ド変態ね」

 

 あれ何かを僕は間違えたかな?えっと、剣を下ろしてくれると助かるんだけど……そうだ、落ち着いてもらうには……

 

「ふふ、良かったらどうですか、哺乳瓶」

「切るわ」

 

 あれ?僕は何か間違え続けてる?最初からすべてを間違えてる気もするけど。

 

「違うんですよラビアさん~テト君は~」

「シプル先輩……でもこいつどうみても変態でしょう」

 

 どうやらシプルさんが助けに入ってくれるらしい、なんて優しいんだ。

 

「おっぱいが好きなだけなんです」

 

 否定はしないけども!今はもっとほかの説明を!

 

「より変態度が増してきたわ……ここで切っておけば未然に何らかの犯罪を防げるんじゃないかしら」

「あー待った待った、こいつは漂着物調査課の備品で、そして今は調査中なんだ。」

「ゴリウス先輩……?それってどういう……」

 

 ようやくゴリウスさんが僕についての説明と経緯、そして今何をしてるのか説明してくれた。

 

「二度も遭難……ふんふん、ぱ、パンツ一丁!?へ、へえそんな経緯こいつはここ(調査課)備品(モノ)になったのね、それは納得したわ」

 

 そこは納得しちゃだめだと思う。

 

「それと、ありがと……」

 

ラビアさんは頭をペコリと下げた、ポニーテールとうさ耳が大きく揺れる。

 

「ほえ?」

「調査課、無くならないように頑張ってくれたんでしょ、だからありがと」

 

 お礼を言われた、なんかこういうのは予想してなかったから照れる。

 あの時は僕はただ二人に笑っててほしかっただけで……

 

「でも変態って印象はあまり消えそうにないわ、第一印象が鮮烈すぎたし」

「……」

「テトも好きでやったことだ、後悔はないはずだ」

「いや、後悔しかないです」

 

 僕、この島に流れ着いてからロクな初対面を経験してない気がする、呪いかなにかかな?

 などと考えてると、そわそわとラビアさんはずんずん近寄ってきた、ワクワク、そう顔に書いてあるみたいだ。

 

「そういえばアンタ今何歳よ、教えなさい」

「18歳ですけど……?」

「こっち19~!よーしあたしの勝ち!あたしのことはラビア先輩って呼びなさい、いいわね!」

「ラビア先輩……?」

「っ~~!!いい響きね!ラビア先輩かぁ~!変態なのはこの際目をつぶってあげる!」

「ラビアちゃん、ずっと後輩が欲しそうでしたもんね~よかったよかった~」

 

 そういうことか、僕が来るまでラビア先輩は一番下っ端だったんだ、この飛び跳ねての喜びよう相当自分が先輩になったのが嬉しいようだ。こんなに喜んでくれるとここに入った甲斐があるってものだね。

 ぴょんぴょん、ぴょんぴょこ、跳ねて喜ぶものだから大きい耳が揺れる揺れる、だからつい口に出てしまった。

 

「それにしても、大きいですね(耳)ラビア先輩」

「っ!?」

 

 ラビア先輩は急に自分のおしりを両手で急いで包み隠すように手で押さえた。

 いや、大きいっておしりのことじゃなくて、でも言われてみるとめちゃくちゃ大きい。

 顔を真っ赤にしたラビア先輩はまたずんずん近寄ってきた。

 

「あんた人が気にしてることをぉー!!……ウサビット族の中では小さいほうなんだからね!?」

「あちゃ~、おいテト、お前デリカシーがないのか、それはそいつのコンプレックスなんだ、触れてやるな」

「いや、大きいって言ったのはおしりじゃなくて耳のことで……」

 

 ウサビット族っていうんだ、ラビア先輩の種族。ウサギ×ラビットか……可愛らしい種族名だ、そういや、僕と同じ人間族にまだこの世界で会えていない、珍しいんだろうか、人間。

 

「ま、まああたしは先輩だから?多少のセクハラ発言も許してあげる、なぜなら先輩だから!感謝しなさい!」

「ありがとうさぎ」

「ぶっとばすわよ」

「テトをぶっとばすのは構わんが、哺乳瓶はやめてくれ、安全確認も終わったし俺はシプルと二人でセンター長に提出してくる、その間テトとラビアはまた浜辺で漂着物が無いか調査してこい。」

「ふん、テトほらいくわよ、先輩であるこのあたしといけるのを感謝しなさい」

「はーい……」

 

 やれやれ、備品扱いの荒い職場だ。でもこうして振り回されるのもちょっとだけたのしかったりするんだよね。これを機に同じ職場だしラビア先輩とも仲良くなっておこう。

 そして僕とラビアさんは二人で浜辺に向かうことになった。

 

 

「ねえねえ、テトのいた国ではどんな食べ物が流行ってたの?」

「タピオカミルクティーとかですかねぇ……」

「なにそれおいしそう!……ねえねえテトの家族構成ってどうだったの?」

「父と母と、あと妹の四人でしたね」

「なにそれ普通!……ねえねえ」

「もうちょい話広げませんか!?」

 

 砂浜へ向かう途中も、砂浜で漂着物を探す間もずっとこの調子だ、好奇心旺盛で無言が苦手で尚且つ話を広げられないタイプだ!

 

「だって暇なんだもん、なにか面白いことないかしら」

「この島は僕の顔を眺めるか、サイコロくらいしか娯楽はないらしいですよ」

「なにそれつまんない、テトの顔見たって面白くもなんともないわよ」

「嬉しいような悲しいような……っと木箱発見」

 

 今回は僕のお手柄!

 

「よくやったわテト!さあ先輩である私が最初に開けるわ、どきなさい」

 

 そうでもないらしい。

 先輩に手柄を奪われながら二人で箱を開けると、中には見慣れたものが入っていた。

 

「なにこれ木の棒?」

「これは……割りばしですね」

 

 木箱いっぱいに入ってたのは割りばし、いったい何膳、何本あるんだろう。

 お約束の適当説明書にはこう書いてあった。

 

『わりばし わってはさんでみよう』

 

 相変わらず超おおざっぱで超適当だ、これで伝わる者がどのくらいいるのやら。

 

「テト、アンタ異世界人でしょ?ぱぱっと使い方教えてよ」

「使い方もなにも……」

 

 僕は袋から割りばしを取り出し、開いて割って見せた。

 ついでにその辺の貝殻を箸でつまんで見せる。

 

「一本が二本に……爆アドじゃない!」

「どこで覚えてくるんですかそういう言葉……」

「貸しなさい、私が使い方見つけたことにするから!」

 

 こうも悪びれもなく、手柄横取りします!と言われるとあははと笑うしかない。

 

「じゃあ一膳、どうぞ」

「じゃあいくわよ…ふんッ!!」

 

 割りばしは割れるっていうよりもへし折れた、本来割れる方向とは逆に。

 

「できた!」

「僕の何を見てたらそうなるんですか!?こうですよ、もっかいいきますからね?」

 

 割りばしの先端付近を指でつまんで……割る!

 

「なるほど、大体わかったわ」

 

 割りばしの中心を掴んで……へし折る!

 

「……」

「な、なによあたしが何か悪いっての!?」

 

 悪いとすれば物覚えと手際が悪い、あと態度もってのは秘めておこう。

 

「じゃあもう僕これセンターに運んでいきますから……」

「待ってよ!あたしだけできないみたいじゃない!できるようになるまで付き合いなさい!」

「ええ……」

 

 それからもう、なが~い時間をかけて割りばしを割る作業が始まった。

 割りばしの先端付近を指でつまんで……割る!ということに気づくまで127膳。

 左右均一に割るのができるようになるまで206膳。

 時刻が昼前だったのがもう真っ暗、20時くらいだろうか、それで今は何してるかというと……

 

「ふん!ふん!全然貝殻つかめないじゃない!ちょっとテト、ちゃんとコーチして!」

「はい……まずお箸はこう持ってですね……」

 

 僕がラビア先輩の後ろから抱きしめるように手を重ねてあげる、こう持つんだよ、と僕の指とラビア先輩の指が重なるように沿って割りばしの持ち方を伝授する。

 

「な、なんかデートみたいねこういうの」

「いや、全然……」

「ちょっとぉ!意識してるのあたしだけみたいじゃない!あんたもドキドキしなさい!先輩命令よ!……あっまた箸折れちゃった」

「動機がしてきました」

「ドキドキしてるってこと?やだもうやっぱりテトも男の子じゃない!えっち!」

 

 なんだろう一日目より、二度遭難した日より疲れる!こんなに人にモノを教えるのって大変だったっけ!?

 

「でも先輩だからドキドキするのも許してあげる!でもテトのえっち!さっ、早く続きを教えなさい!」

「ラビア先輩もう許してください、お箸持てなくてもフォークがありますから!」

「嫌よ、一度決めたことは何が何でもやり通すのがあたしの家訓よ!弱音を吐いてないでレッツトライよ!」

 

 教える側が疲れ切り、教わる側が元気いっぱい、そんな不思議な構図がそこにはありました。

 それからもう二時間ほど経ったころ、奇跡が起きた。

 

「やったわテト!この丸い貝殻やっと掴めたわ、ふふんコツさえ掴めば楽勝だったわね……ってなんでテトが泣いてるのよもう、先輩だから私が慰めてあげる!」

「自分でもなんで泣いてるのかわかんなくって……開放感がすごくって……」

「よしよしテト泣かないの、そんな嬉しくなっても簡単に泣いちゃだめよ?でも先輩だから許してあげる、さ!帰るわよ!」

「はい……っ!」

「ほんと手がかかるわね~テトは困った後輩だわ~♪」

 

 僕からすると手のかかる先輩、もはや後輩と言いたいのだけれど、

 

「もう少しでセンターよーテト、もう……きついならあたしの背中で寝ててもいいわよ」

「……」

 

 手がかかる不器用な人なんだけど、やっぱり先輩っていうか、謎の包容力がある不思議な人だ。

 へとへとの僕は、ラビア先輩におんぶされてセンターに戻った、すごく安定感抜群で不思議と僕はいつの間にか少しの間だけ眠りに落ちていた。

 

「あら寝ちゃった、あたしこれからバイトもあるのに、、まったくやっぱり先輩はつらいわね~♪」

 

 僕とラビア先輩はずいぶん遅くに帰ったから心配されたけど、特訓に付き合わされたと言ったらみんな『ああ~……』とわかってくれた。前からこうなんだこの人。 

 でもおぶってくれたり、ある意味根性があったり不思議な先輩だ。もしかしたらすごい大物なのかもしれない。

 あと一人先輩がいるらしいけどどんな人なんだろう、もしかしたらラビア先輩と似てたりして……

 

「これが今日の成果の割りばしでーす……ってもうほとんどないじゃない!テト!使いすぎよ!」

「……」

 

 はあ、とため息が出た。恋煩いとかそういうのじゃなくて、もっとこう一言でいうなら『疲れる』の、はあだった。

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