その6本の足は全て胸から生えている。
その為、蜘蛛やムカデなどは昆虫とはされない。
それは緑色の風が香る夏。絶好のピクニック日和のことだった。
今年大学生になった青年、
千景「百花、あまり遠くに行きすぎたらダメだぞ!」
百花「もう、お父さん!こんな時まで子供扱いするのやめてよ!!」
川のせせらぎと鳥のさえずりが耳を癒すのどかな自然の中で、ワイワイとはしゃぐ百花にそれを諌める千景。
家族団欒とした雰囲気の中で枢美と共にテントを貼っていた一の目に何かが止まった。
一「ん…?なんだ、あれ……」
枢美「一、どうしたの?」
作業中の手を止めて見慣れないなにかに近付く一と枢美。直後、その興味の瞳は恐怖に染まった。
枢美「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?」
千景「どうした!!」
一「父さん!人が!!」
倒れている人間を見て思わず息を飲んだ千景だったがポケットから携帯電話を取り出すとすぐに救急に電話する。
千景「はい。救急です。景信山の中腹で人が倒れていて。はい、脈の方は……」
電話しながら脈の有無を確認しようと彼が近付いた直後、むくりと倒れていた人間が立ち上がる。
百花「あ、目を覚ましたみたいだよ…!」
千景「大丈夫ですか?今、救急車を呼んでいるんで……」
安堵に胸をなでおろす一家。しかし、一はどこか違和感を感じていた。
何かがおかしい。まるで死体か…或いは意志のない「何か」が動いているような君の悪さを拭えない。
一「待って!何か変だ……」
直後、男性がもがき苦しむと同時にその身体全体が書き換えられていくかのように変わり始めて行った。
額からは触覚が生え、服が破れてピンク色の硬質な、鎧のような胸筋が顕になり、腕や背中などの全身も緑色の装甲へと変わり服を破り割いていく。
その顔はまるでバッタのように変化し、無機質な複眼は一達一家を見渡していた。
枢美「な、何……これ……」
一「母さ……」
腰が抜けて立てない枢美に駆け寄る一の身体は直後、怪人がふるった腕により容易く吹っ飛ばされてしまう。
千景「一!!大丈夫か!?」
幸いその身体は千景により受け止められ、百花も母親の枢美を手助けしつつ一斉に逃げ出す4人。
その背中を見て狩猟本能に駆られたのか、バッタのような怪人は跳躍するとそのまま4人の間に割って入るように勢いよく着地する。
一「うわぁ!?」
百花「きゃあぁ!?!?」
バラバラになってそれぞれの方向に転がって行った家族を見て、バッタの怪人は、その方向のひとつへと足を進めて行った。
一「ここは……ッ!?」
地面を転がる間に気を失っていたのか。
覚醒した一の目に映ったのは近未来的な天井だった。
ここはどこなのだろうかと身体を起こそうとするが、拘束されている為か腕は全く動かない。額に冷や汗を流しつつ何が起きたのかと焦りを見せる彼の耳に、声が響いた。
「お目覚めかな?」
一「!誰だ…!!俺に何をするつもりだ…!!!」
凄む一相手に怯む様子も見せずに現れたのは白衣を着た1人の男性。
彼は口元に薄気味悪い笑みを浮かべながら近づいてきては、一が拘束されている寝台の横に置かれた様々な道具を眺めるように一つ一つ触れては、注射器を手に取った。
「僕が何者かって?……僕は君を今よりもっと強くできる人間さ。」
そしてニヤリと笑みを浮かべれば、注射器の中に何やら液体のようなものを入れると一の身体に突き刺して注入し始める。
それと同時に一の全身を焼けるような、身体が避けるような痛みが襲った。
一「があああぁぁぁッッ!!!!」
悲鳴と共に先程の人間のように一の体が変異していく。
肩や腕、胸部と脚は茶色い装甲に覆われ、毛のような棘がびっしりと生え始める。
腕部や腹も変異していき、茶黒い布で覆われたような皮膚へと変わっていく。
その頭も先程彼を襲ったような悍ましいものへと変わり、赤い複眼の間からは触覚が生え始める。
「ハハハハハ!素晴らしいよ!量産用の蜚蠊型改造人間…第1号だ!!」
愉快そうに笑う白衣の男。
そんな彼はパネルを操作すると、天井からアニメや漫画に出てくるビームガンのような見た目をした機械が降りてきた。
男はその玉が着いたようなデザインをした先端を一の頭へと向けると、パルスのようなものを発射する。
一「が……あぁ……ッッ」
脳が無理やり歪められるような感覚。
吐き気という言葉では言い表せないような気持ち悪さから逃れんと暴れようとするものの拘束は壊れる様子がない。
「無駄無駄。その拘束は改造人間用に作った特注品。そう簡単に破壊することはできないよ。大人しく脳改造を受けてテクシン星人の兵士になってくれよ。」
為す術なく洗脳パルスを浴びせ続けられる一。しかし、無機質な瞳に宿る抵抗の意思は消えない。
ゴキブリは高い生命力と共に様々な環境に適応できる昆虫である。その多種多様さはスピードを捨てて頑丈な鎧を手に入れた種類、果てには与える餌で攻撃性を得るものもいる。
改造人間とされたことでその適応力という特徴も強化され、一は既に洗脳パルスの影響を受け付けなくなっていた。
一「うおおおぉぉぉぉッッ!!!!」
「馬鹿な……ッ何故……!?」
そして、力を振り絞った彼は拘束具を粉砕。そのまま立ち上がれば、驚愕を隠せていない男へと殴り掛かる。
男は腕をクロスしてガードしつつ後ろに飛んでダメージを最小限に抑え、僅かに吹っ飛びながらも着地。
不気味な笑みを浮かべた顔を向けては口を開く。
「なるほど……私としたことが、始祖の昆虫の適応力を舐めていた………やれ。」
ニヤニヤとしながら指を鳴らした彼の隣に現れたのは先程一達を襲ったバッタの怪人。笑みを消して言い放った冷徹な言葉と同時に怪人は跳躍すると一へと殴りかかってきた。
一「うわぁ!?!?」
咄嗟に身体を転がし攻撃を躱したものの、即座に蹴りを受けて吹っ飛んだ一。壁に叩きつけられた上で拳が腹にめり込み、思わず呻く彼の触覚を掴んで立ち上がらせたバッタの怪人は跳躍して屋根を突き破るように外に出ると一を蹴り飛ばし地面へと叩きつけた。
一「が……あぁ………ッ」
ダメージと衝撃で動けない一の真横に着地するなり再度触覚を掴んで立ち上がらせては拳を振るうバッタ怪人。一はその攻撃を受け続けるしかなく、殴られ続けて河原まで吹っ飛ばされてしまう。
中流特有のゴツゴツと乱立した岩を転がる一。せめてもの抵抗にと大きな岩に手を伸ばせば、次の瞬間驚くほど簡単に持ち上がった岩を見た彼はすかさずバッタ怪人へと投げつける。
振るわれた腕により岩は破壊されるがそれでいい。岩を投げると同時に反射的に足は動いていた。そして、腕を振るってできた隙を狙い急接近しては腹部へと拳を振るう。
一「だあアァァ!!」
拳がめり込んで今度はバッタ怪人が吹き飛んだが、ただでやられるものかとばかりに放たれる蹴り。
咄嗟にバックステップで躱した一だが、宙に浮いた身体をバネの如く伸びた足が捕らえた。
一「ぐ……ッッ」
先端に鋭い爪が着いた細い足に突き刺されるように蹴り飛ばされ対岸の岩に叩きつけられる一。
緑色の血が流れる傷口を抑えつつふらつきながら立ち上がる一目掛けて今度こそ仕留めてやるとばかりに怒りに身を任せて襲いかかるバッタ怪人。何とか躱した一だが、なにかに躓き仰向けに転んでしまう。
一「な、なんだ…!?」
何に躓いたのかと体を起こす彼の目に映ったのは河原に突き刺さる流木。
それを目にした一の行動はまるで最初から決まっていたかのようにスムーズだった。
飛びかかってくるバッタ怪人相手に全身を使って迎え撃つと力任せに腕を振るい、流木目掛けて仰向けに倒す。
狙い通りバッタ怪人の身体は流木に貫かれ、抜け出そうと藻掻く相手目掛け一は何度も拳を振るった。
一「俺は……何を………」
我に返り拳を止めた時には既に息絶えていたバッタ怪人を見て思わず後ずさる一。
川に足が入りふと見てみれば、自身の姿が怪人のそれになっていたことに気付く。
一「あ……あ………うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!」
人ならざる者になってしまったことと、人を殺めたことへの恐怖に悲鳴をあげながらその場から逃げるように走り去る一。
その背中を、虚空から出てきたかのように姿を表した別のゴキブリの怪人がらじっと見つめていた。
リメイク前より大分ダークなストーリーになってる気がします。
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