「取り逃した…か。」
暗闇を近未来的な色とりどりの光が照らす部屋にて、玉座に座しながら苦言を呈する侍のような風貌の人物に白衣を着た男性は跪いていた。
「申し訳ございません、将軍様。すぐに捕獲、回収を…」
「要らん。見つけ次第殺せ。…我々の存在を知られる前に家族諸共な。」
土下座して謝罪する男の言葉を一瞥した侍のような人物が指を軽く鳴らせば、天井から降ってきたかのように編笠を被った3人の忍者が降ってきた。
「脱走した改造人間を始末しろ。一緒にいた家族諸共な。」
その言葉を受けては、跳躍とともに姿を消した3人の忍者。
その様子を見送った侍は別の人物にも視線を移した。
「お前にも出番ができた。改造人間の素材を捕獲しろ。…我々も急がなくてはならぬからな。」
「承知しました。」
話しかけられた人物が8つの目を蘭々と輝かせつつ一礼をして去っていくのを見送りながら、侍は静かに笑った。
「見ていろ…今にこの星は我々がいただく……。」
クラクションがけたたましく鳴り響く都心。
灰色のセダンに乗る千景は深くため息を着いた。
山を降りた後に無事に枢美や百花と合流ることこそ出来たが、一の行方が全くわからない。
警察にも相談したものの「怪物に襲われた」という証言は嘘としてあしらわれ行方不明者届も履行されなかった。
千景「一…済まない…ッッ」
もしかすると自分たちを襲った怪人にやられて既に死んでしまっているのかもしれない。そうでなくても山の中で野生動物に食べられてしまっているだろう。
頭を過ぎる最悪な予想とこんな時にも出社命令を出してくる会社への恨みを振り払うかのように頭を振るう彼の目にふと、何かが止まった。
人間のような何かがビルの壁を這うように移動している。
あれはなんだと目を凝らす千景だったが、それはビルの影へと移動しすぐに見えなくなってしまった。
千景「……気のせいか…まさか幻覚まで見るなんてな……」
深いため息を着きながら青になった信号を見て車を発進させる千景。
そのトランクをビルに張り付く忍者のような怪人がじっと見つめていた。
そして残りの2体は今まさに、一と戦っている最中だった。
一「く…ッ!なんだ、こいつら……!!」
「ゲーロゲロゲロ!!大人しく我々に倒されろ!蜚蠊男!!」
「その通り!裏切り者は大人しく散るべし!」
忍者のような改造人間…蛙忍者の兄弟の連携攻撃に押される一。
ダイヤ型をしたカエルの頭のようなデザインの編笠を被った怪人が振るう、蛞のような苦無を躱せばもう一体の怪人が跳び上がりつつ蹴りを放ってくる。
一「が…ッ!!」
蹴りを受けて吹っ飛んだ身体目掛け投げつけられた苦無が突き刺さりその場に膝を着く一。
多くのカエルは体の表面から毒を出すが、この苦無の表面にも毒が塗られており人間が刺されれば即死。改造人間…それも生命力が特別強いゴキブリの怪人である一だからこそ身体が多少痺れる程度で済んでいた。
一「くそ……ッ」
一が彼らの襲撃を受けたのはつい先程のこと。
どうするかの考えも分からず山中を彷徨っていたところ、突然彼らの襲撃を受けて戦闘に入っていたのである。
一体一体の戦闘能力はバッタ怪人ほどでは無いものの、2人から成される連続攻撃の前に反撃の隙を見いだせない一。彼を見た蛙忍者はゲロゲロと笑い声を上げつつその顎に蹴りを入れる。
蛙忍者1「この様子なら簡単に始末できそうだな。」
蛙忍者2「安心しろ。お前の家族もすぐに地獄に送ってやるよ。今頃兄者もお前の父親を殺しに行ってる最中だ。」
一「父さんを…!?」
驚愕と絶望に染まる表情。
呆然としつつも父親を助けに行かねばと走り出す一だったが、その腹部に蛙忍者の拳がめり込む
一「がは……ッ」
蛙忍者2「忘れるな、お前の相手は我々だ。」
そのまま殴り飛ばされればさらに跳躍したもう一体が再び蹴りを放ち、一の身体を地面に叩きつける。
仰向けに倒れる一の頭部を踏みつけながら、蛙忍者はオタマジャクシ型の苦無を首元へと近づけた。
蛙忍者1「さて…この世へのお別れは終わったか?」
一「………ッ!!」
蛙忍者2「早く終わらせて、我々も兄上と合流するぞ。」
首元に苦無を当てて一を見つめていた蛙忍者であったが、もう一体の言葉を聞けば頷くと同時に腕を振り下ろす。
断末魔を上げて痙攣しつつも少しと経たないうちに動かなくなった一を一瞥し蛙忍者達はその場から走り去っていった。
蛙忍者が一の元を離れたのと同じ頃、千景の元にももう一体の蛙忍者が現れていた。
千景「な、なんだ…お前は…!!」
先日邂逅したものとは全く違うものの、それが同じような怪人であったことは千景も理解していた。
他に違いがあるとするならば今、自身ににじり寄る怪人には知性のようなものが感じられた。
蛙忍者3「拙者は貴様を討ち取る者…同胞を見たものとして、その命…頂戴致す!」
苦無を片手に握り走り出す蛙忍者。その振るわれた腕を躱せば苦無は容易く彼が乗ってきた車のボンネットを貫き、エンジンを破壊した。
逃げるための足を失った千景にさらに歩を進める蛙忍者は新たな苦無を用意すれば再び口を開く。
蛙忍者3「貴様の喉笛を掻っ切る前に訪ねよう。貴様の妻と娘は何処にいる…?」
ここで口を開けば妻子の命が危ない。
口を噤ぎながらジリジリと後ずさる千景。するとその背後に二つの影が現れた。
蛙忍者3「ほう、裏切り者の始末は終わったようだな。」
蛙忍者1「ああ、完了した。次はそいつを殺すのか?」
息を飲み、冷や汗を流しながら三体の怪人を見る蛙忍者。
そんな彼の息の根を止めんと苦無を抜く蛙忍者の一体をふと、別の一体が制した。
蛙忍者3「よせ。…そいつには利用価値がある。」
蛙忍者2「…こんな下等生物がどう使えるという?我々のように改造人間にでもするのか?」
蛙忍者3「否……。」
改造人間となり無機質な顔面と化した表情の奥で不気味な笑みを浮かべつつ、蛙忍者は己の狙いを口にする。
それを耳にした残りの2体も納得したように頷いてみせ、共学と絶望に染まった顔をした千景へと近づいていく。
迫る蛙忍者を前にして千景が思い浮かべた家族の1人、一。
森の中で倒れる彼の元に1人の男性が近づき、その身体を揺さぶると口元に笑みを浮かべた。
「ほう…まさかこんなことがあるとは……」
彼はゴキブリの改造人間の身体を引き摺りながらどこかへと歩いていった。
蛙忍者
蛙の遺伝子を打ち込まれる形で改造手術を施された怪人。ダイヤのようなカエルの頭を模した編笠を被ったようなデザインをしており、壁や天井に貼り付けるような忍者のような身のこなしが特徴でオタマジャクシを模した苦無を武器として使用する。
元は常に仲良しだった三羽烏のような関係だったらしい。