怪縁怪談   作:ないあるら

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オタク特有の早口


呪いのビデオ

 "呪いのビデオ"をご存知ですか?

 それを再生すると1週間以内に死ぬ、みたいな。

 ええ、リングシリーズの貞子なんか有名ですよね。

 そう、井戸から這い出てくるやつ。

 

 今時ビデオなんて古い?まあ、そうですね。今やDVDやBlu-rayですら過去の遺物になりかけてますし。

 ただ、今回のは、あー、そうですね、概念的なものなので。

 元々、それが収録されてたのがビデオだったから、惰性的に"呪いのビデオ"って呼ばれてるわけです。

 今改めて名付けるなら、"呪いのクソアニメ"ですかね?

 

 それが発売されたのは1990年代の前半、いわゆるOVA全盛期のものです。

 ジョジョのOVAとか超名作ですよ、おすすめです。

 

 ああ、OVAってのはOriginal Video Animation(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の略で、テレビ放送や劇場での公開を経由せず、ビデオなんかで直接リリースされるアニメ作品の事です。

 テレビ放送なんかより制作の自由度が非常に高いので、よりマニア向け、とでも思って貰えば良いかと。

 

 いや、失礼。私もオタクでして、どうしても早口になってしまいますね。

 

 さて、その"呪いのビデオ"に戻るのですが。

 完全オリジナルのOVA映画作品でして、有志が作ったいわゆる同人作品なのです。

 

 ストーリーこそ、硬派で王道的な努力・友情・勝利、仲間の死と受け継ぐ思い、矛盾のない伏線や大どんでん返しと、素晴らしいの一言ですが、他の全ての要素がお粗末すぎまして。

 セリフは、棒読みか過剰な演技のクソ2択。

 アニメーションも、やりたいことを盛りすぎたんでしょうね、どこに視線を向けるべきかさっぱりわかりません。

 絵なんて、粗を探すまでもなく粗まみれです。粗が多すぎてウェカピポですよ。

 上映時間が3時間と長めなのもバッドポイントです。「懲役3時間」だの「知らない幼稚園の興味のないお遊戯会」だの揶揄されてしまっているのも致し方ないところでしょう。

 

 まるで評論家?

 ええ、オタクと言うのは、全員ではないのですが、頼まれてもいないのに評論家を気取って戯言を垂れ流す悲しい生き物なのです。温かい目で見守るか、一思いに殺してやってください。

 

 ところで、私、会場は持ち回りで各々その月に見たベストとワーストの作品を持ち寄って、上映会をする集まりを月に一度催してまして。

 もちろん酒やお菓子も持ち寄りますし、ピザなんかの出前も頼みまくります。 

 

 ええ、お察しの通り、そこに"呪いのビデオ"が持ち込まれた、と言うわけです。

 

 その日は私の家で開催したのですが、珍しく集まりが悪く、私を含めて3人しか居ませんでした。

 "呪いのビデオ"を持ち込んだのをA、もう1人をBとしましょうか。

 上映順はいつもじゃんけんで決めてまして、その日はB→私→Aの順でした。

 

 私とBの持ってきた作品は、ベスト・ワースト共に何事もなく上映が終わりました。

 しかし、いざAの番になるとベストは快く上映してくれたのですが、ワーストの上映を渋り始めたのです。

 

何故かを聞いてみたところ、「以前お前たちと見たものと内容が違う」と言うのです。

 

 はい、実は"呪いのビデオ"が持ち込まれたのは初めてですが、見たのは初めてでは無いのです。

 より正確に言うなら、"呪いのビデオ"に収録されている、先ほどこき下ろした"クソアニメ"は、一度集まりで上映されたことがあるのです。

 まあ、私はそれ以前にも何度かネットで見たのですが。もちろん違法サイトでは無いですよ!

 無断転載……?知らない言葉ですね……。

 

 さて、そう言われると気になるのが人間というもの。

 せっかく持ってきたのだし、早速上映してみようとAを急かすのですが、酷く渋るのです。

 怯えているわけでも、面倒そうにしているわけでもないのですが、得も言われぬ雰囲気で嫌がるのです。

 

 見せろ、見せない、見せろ、見せないの問答が数回続いたあと、ついにAが折れて上映することになったのです。

 

 相変わらずのクソアニメでした。

 以前見た、ストーリー100点・他0点のままでした。

 

 私とBが、どこが変わったのか尋ねてみたのですが、Aはこう言うのです。

 「何もかも違ったじゃないか、何を見てたんだ」と。

 

 「何を見てたんだ」はこちらのセリフでしたね。

 実際にBは言いましたよ、「何もかも同じじゃないか、何を見てたんだ」って。

 

 そう言われたAは癇癪を起こしました。

 「そんなはずがない、だってあんな子供のキャラなんていなかったじゃないか!」

 

 そう言われても、私はなんのことかさっぱりでした。

 しかしBは違いました。

 

 「何を言ってるんだよ、あの子供が死ぬシーンが1番盛り上がるだろ?」

 

 これも意味がわかりません。

 だって2人の言う子供なんて出てこないのですから。

 

 それに、Bの名誉の為にも言っておきますが、Bは創作でも子供に危害が及ぶ内容には顔を顰める男です。そんなのを喜ぶ鬼畜ではないはずなのです。

 だというのに、この時のBは満面の笑みでした。

 

 2人が結託して私を揶揄っている、にしてはあまりにもマジに言い争ってます。

 珍しくヒートアップし始めた2人を止めるべく、私は提案しました。

 

 「落ち着いて落ち着いて、ビークールビークール。とりあえずもう一度見て、違ってる部分を指摘してみません?」

 

 2人は肩を怒らせながらも同意してくれました。

 そして改めて上映したのですが、映像が始まった途端にAが言うのです。

 

 「ほら!出てきたぞ!」

 

 例の子供が出てきたそうです。

 しかし、私には見えません。

 Bに尋ねてみたところ、「いるが?」の一言でした。

 

 というか、始まった直後はまだ世界観の説明のナレーション部分なので、キャラは出てこないはずなのです。

 

 こうなってくると、私がおかしいのでは?とすら思い始めてしまいます。

 ですが、どれだけ記憶を辿ってもこのアニメには子供は出てこないのです。

 

 それ以降は、子供がいること、それによる少しの会話の変化以外は全員食い違うことなく進みました。

 

 しかしクライマックスの少し前、Bがはしゃぎ始めました。

 

 「そろそろだ!そろそろ死ぬぞ!」

 

 ドン引きです。彼はこんな奴じゃない。

 

 Aの方を見てみると、彼は目を見開いていました。

 

 「ここで子供が死ぬんです?」

 「いいや、子供は死なない。それどころか誰も死ななくなっているんだよ」

 「バカ言うなよ!今から死ぬぞ、そら死ぬぞ!大爆笑の用意はいいか!?」

 

 誰も死なない。

 そんなわけがないのです、だって死んだ仲間から託された思いを胸に、主人公がもう一度立ち上がるのですから。

 

 それをAに問おうとした瞬間、Bが笑い始めました。

 

 「死んだ!死んだぞ!なんて間抜け!なんて哀れ!なんて馬鹿馬鹿しい死に方なんだ!」

 

 ギャハハと笑い始めました。

 誤用なのは百も承知ですが、爆笑でしたよ。本当に爆発したような笑い声でした。

 

 彼に引いていると、いつのまにかエンディングに入り、下手くそな歌が流れ始めます。

 

 ですが、2人は同時に、しかし別のことを話しました。

 「手招きなんかしないでくれ!俺はもう見たくない!」

 「続編が出るのか!楽しみだなぁ。またあんな死に方が見れるのかなぁ!」

 

 そんなはずがないのです。

 ないのです、ないはずなのです。

 

 その後は完全に上映は終わりました。

 Aはそそくさと帰り支度を始め、Bは大興奮で再上映の準備を進めていました。

 

 いつもなら、感想戦を始め批評を始めるのですが、もちろんそんな気分にはなれず。

 Bには謝りながらその日は解散になりました。

 

 その後、AもBも上映会には来なくなりました。

 といっても、2人とも死んだわけでも行方不明になったわけでもありません。

 

 しかしBは今もずっと続編とやらを探し続けているようでして。

 時たま見つかっていないか聞かれますよ。

 

 "呪いのビデオ"はどうなったかって?

 鋭いですね。お察しの通り、持っていますし持ってきていますよ。

 Aが忘れて行ったのか、置いて行ったのか定かでは無いですけどね。

 

 何が見えるか、見てみます?

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