突然だが諸君は異性をどのように識別しているだろうか。友人、クラスメイト、中には恋人など、人によって様々だろう。
俺にとってその解答は二分化される。
そう、妹かそれ以外かだ。
らいはこそが至高であり、俺の人生そのもの――
それ以外は俺にとって路傍の石、いやカスそのものである。
故に周囲から変人扱いされていようと、全くもって気にならない。ああ、これっぽっちもだ!
まあこんな無駄なことに思考を割かれるよりとっとと飯食うか……。
そう考えながらいつもの席に着こうとした時、ガシャン!っと誰かのトレーとぶつかる。チラッと目をやると見慣れぬ制服を着た女子。転校生か?
まぁいいかとそのまま座ろうとすると、そいつが不満げに口を開く。
「私の方が――ッ!?」
「? なんだよ」
目を見開いて突然のフリーズ。かと思ったらみるみるうちに顔が赤くなっていく。熱でもあるんじゃないだろうな。
「あの!」
動き出したかと思えばズイっと前のめりで食い気味に話しかけてくる。気圧されながらも時間が惜しいので続きを待っていると、また恥ずかしげにモジモジとし始めた。トイレの我慢でもしているのだろうか?
そうこうしているとガヤガヤと外野が集まってくる。そりゃ食堂なんて人が多いとこなら目立つだろうな。
ついには告白か?なんて言い出すやつが出る始末。んなわけないだろ、初対面だぞ。
このままでは飯どころではなくなる。そう思い渋々移動しようとすると腕を掴まれる。ついに意を決したようだ。
「お願いします、私の――」
「え」
真剣な表情に思わずドキッと胸が鳴る。え、まさか本当に、こくは――
「――私の、子供になってくださいませんか?!」
「――は?」
瞬間、食堂の空気が俺の人権と共に死んだ。
――――――
「これからどうしよう……」
ヤベー女の爆弾発言のせいで昼飯どころではなくなったので何もかもを放り出して逃げてきてしまった。当然腹は減っているがそれどころではない。
今後の身の置き方に頭を痛ませていると、携帯に着信が――らいはっ!!
『もしもs「らいはありがとうやっぱりお前は俺の天使だ愛してる結婚しよう」うんいつも通り安定のキモさだねお兄ちゃん』
罵倒の声すら五臓六腑にしみわたるぜ。急速に失われたSAN値を回復させていると、話が本題に入ったようで仕事の話をし始める。家庭教師のバイトだそうだが、相場の5倍の値段だとか。それってヤバくない?
まあでもこれを乗り切ったらうちの借金も無くなりそうだし、らいはの為だったらなんでもやる覚悟なのでもとより辞めるという選択肢はないが。
で、肝心の生徒だが、うちに転校してくる中野とかいう女子だそうだ。
「転校生、まさかな」
昼間のあいつは転校生なんかじゃない。ただの頭のイカれた女だ。制服が違ったのはあれだ、コスプレしてただけだ。
――――――
「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」
知 っ て た !
しかもよりによって同じクラスかよ!!
ただでさえクラスの奴らにめちゃくちゃ見られてたのに、こいつまで来たらもはや授業どころではない。席が離れているのだけが救いか…
「あ、せんせー中野さん上杉くんと知り合いみたいなんで席代わります」
「おお、そうか」
「そうかじゃねぇよ止めろよ!!」
何気効かせてやったぜみたいな顔してサムズアップしてんだよぶっころすぞ!!クラス全体から祝福の拍手で隣同士にさせられた。なんだこれは。どうすれば良いのだ…
恐る恐る隣の席を見ると、相変わらず顔を赤らめながらモジモジしている。俺、コイツに勉強教えるってマジ?
どうしよう、始める前から辞めたくなってきた。
既にメンタルがボロボロになり絶望していると、丸めた紙が投げられてくる。皺を伸ばしてみると一言だけ書かれていた。
――放課後、屋上で待っています
投げてきた転校生はしばし目があった後、ふいと顔を逸らした。正直コイツと2人きりになるかもしれないのは怖いが、今後のことを考えるとそうも言ってられないよな。
授業が終わると同時に早々に移動する。食堂での出来事は既に校内中に広まっているらしく、コソコソ隠れながら動く羽目になった。とりあえず開口一番問い詰めよう、そうしよう。
「早いですね」
ギィ、と扉の開く音と共に件の女が現れる。
「誤解なんです!」
どういうつもりだ、と問い詰めようとしたところにいきなり頭を下げられ、面食らう。戸惑っているとポツリポツリと話し始めた。彼女曰く5年前に母親が亡くなってしまい、姉妹の母親になると誓ったのだとか。
これ、初対面の俺が聞いていいのだろうか?
「で、誤解って?」
「あなたを見た瞬間、ビビッときたというか、その、なんだが私が産んで育てた気がしたんです」
「誤解ってなんだっけ」
情報更新なし。やっぱヤベー女だ。
「本当にごめんなさい」
またもや頭を下げられる。コイツのせいで俺の学校生活が破綻仕掛けているのは間違いないのだが、泣かれると辛いものがある。こういう時男は弱いよな。
やれやれと言った感じでため息をつき、そっと俯いたままの頭に手を乗せる。ビクッと身体を震わせたが、お構いなしに撫で始めた。
「俺もさ、小さい頃に母親亡くしてるんだ。小さい妹もいてさ、だからちょっとわかるところもある」
そのまま話をした。家庭教師をやることになったこと、姉妹の話など。
「まあ、なんだ。こうなったのも何かの縁だし、お前が母親なら」
「?」
「俺が、父親代わりになろう」
だから勉強頑張ろうぜ、みんな笑顔で卒業できるようにな。そこまで言うと彼女は、涙を流しながらではあったが、ようやく笑みを浮かべてくれた。
「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね」
あー、そういえばまだだったか。会ってからの密度が濃すぎて忘れていた。
「上杉、上杉風太郎だ」
「上杉、君」
西日が眩しくて目を細める。話し込んでいたらもう夕焼け空だ。
「五月って呼んでください」
中野じゃこれから面倒ですから。彼女は言う。
まあ今後を考えたらそうなるわな。
「これからよろしくお願いします。頼りにしてますよ?上杉先生」
「――!」
夕日をバックに微笑む五月。そんな彼女に何故か5年前の女の子の面影を感じながら、見蕩れてしまっていた――。
――――――
いや、冷静に考えたらヤバい奴なのは変わってなくね?
安請け合いしてしまって良かったのだろうか……。今更ながら後悔が襲うが、約束してしまったものは仕方がない。そもそもらいはの為ならなんでもすると誓ったのだ、こんなことで挫けてどうする。
「そういや、あいつ姉妹がいるって言ってたよな」
報酬5倍ってことはつまり5人いる…?絶望感しかないが逆を考えれば5人揃っていれば五月のストッパーになるのでは?そう考えれば希望が見えてきた。
そんなことを思いながら指定された住所に向かうとでっかいマンションが見えてくる。アイツ本当に金持ちなんだな。なんかムカついてきた。
さて、入口についたはいいものの入り方が分からない。
どうしたものか。
「あれ?キミ」
「ッいつ――」
いや、違う五月じゃない。髪の長さ違うしピアスしてるし。それにしてもよく似ている。
「あー、五月ちゃんが言ってた」
「「家庭教師【仮】の上杉です」」
「タメ口でいーよ、同い年でしょ?」
ケラケラと笑う。なんだ、めちゃくちゃ気さくで話しやすい奴じゃないか。これなら何とかなりそうだ。
「長女の一花だよ。これからよろし――」
俺の目を見てピシッと急に固まる一花。顔もなんだがだんだん赤くなってきてる。あれ、なんかデジャブ感が。
「その、もし良かったらなんだけどさ」
冷や汗がダラダラと流れてくる。頼む、思い違いであってくれ!
「私の弟になってくれない、かな?」
「実家に帰らせていただきます!!!」
顔があれだけ似ているということは嗜好も似ている可能性がある。そんなことを実感しながら俺には母も姉も要らないと強く決意し妹への操を立てるだった。
1話なので原作沿いの固めの文章になってしまいました。