――夢を見ていた。
雲一つない晴れやかな日。まるで2人の新たな門出を祝うようで、純白のドレスに身を包む彼女は本当に綺麗だ。
「お父さん、お兄ちゃん、私幸せになります!」
そう、涙で前が見えなくなるくらい。
――――――
「らいはぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
「朝からうるさい!!!」
起床と同時に分厚い辞書で思い切り殴られた。痛みはあるがそれよりも……
「夢でよかった……!」
「うわ、泣きながら喜んでる……」
そんな心温まるいつもの日常。ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに――
「そういえばお兄ちゃん、今日家庭教師の日じゃない?」
「キノセイジャナイカ?」
「仕事なんだからちゃんと行かないとダメだよ」
「イヤッイヤ イヤ!!!」
「ちいかわ化するほど!?」
「休日まであんな奴らに構ってられるか!!今日は家に篭って勉強」ピンポーン
滅多にならないインターホンが鳴る。なんだ、借金取りか?当然らいはには任せられないため俺が出る。
「はい、お金なら――」
「おはようございます上杉君。なかなか来ないから迎えに『バタン!!!』ちょっと上杉くん?!」
「ナゼウチヲシッテイル?」
「なんで片言……知っているのはほら、あれです。愛さえあれば!」
「誤魔化されると思うなよ」
まさかと思い鞄をひっくり返す。するとバサーっと砂の山ができるように出てくる何かの発信機のような機械達。
それらを躊躇いもなく踏み抜く。
「きっしょくわるいわぁぁぁ!!」
「ああっ、せっかくみんなで頑張って仕込んだのに!」
シクシクと啜り泣く声がするが断罪するかの如く鍵を掛けてやった。これでもう大丈夫、悪は去った。
「甘いわね、フー君」
「え」
ギギギ…と錆びついた機械のように首を向けると、安息地の筈の我が家に敵がいた。
「二乃、なんで」
「私だけじゃないわ」
クイッと顎で示された方を見る。
「へぇ〜、一花さんたち五つ子なんだ」
「そうだよー、まぁ実質7人兄妹みたいなもんだけど」
「??よくわかんないけどすごいね?」
「らいはちゃんみてみて!繰気弾」
「四葉、いくらなんでもこの部屋でそんなもの出すのは危ないと思う」
いつのまにか落城していた我が家。こんな、馬鹿なことが…
「無駄ですよ、上杉君」
崩れ落ちた俺の背後からいつのまにか入ってきた五月が抱き締めてくる。感触でエレクトしてないかって?らいは以外に反応するわけがないだろう。
「さ、帰りましょう我が家へ」
いってらっしゃいと見送られながら結局5人とともにバイト先へ行くことになった。ちなみに移動は四葉が瞬間移動でまとめて行ってくれました。
――――――
「さて、勉強を始めましょうか!」
「それよりあんた、さっき私のフー君に抱きついてなかった?」
「五月ばっかりズルい」
「お姉ちゃんもちょ〜っとこれは許せないかなー?」
「うっ……」
姉達に詰め寄られてタジタジになる五月。
「うぅ……帰して、戻して」
「げ、元気出してください上杉さん!私のおっぱいでよろしければ揉みますか?」
「こらそこどさくさに紛れて抜け駆けしない!」
ビシ!という効果音が聴こえそうな指差しで四葉に言うニ乃。
「てか前々から思ってたのよね!みんな私のフー君に近すぎ!」
「フータローはニ乃の物じゃない、私のご主人様」
「それもそれで違うような……」
苦笑いを浮かべる四葉。
「うぅ、せめて勉強して」
「弱ってるフータロー君も可愛いなぁ」
「食べちゃいたいです」
「ひえっ」
舌舐めずりが聴こえて我に帰る。たまらず俺は部屋にあったおそらく来客用のお菓子を片っ端から叩きつけると眼を輝かせて食べ始めた。これでしばらくコイツは沈静化出来るだろう。
「こうなったら仕方ないわ!誰が一番フー君への愛が深いか白黒つけようじゃない!!」
「要らんそんなもの気色わr「アンタの意見は聞いてない!!」ニ乃ラリアット!?」
一撃で沈められる。
「順番に愛の強さを証明できる物を見せる、異論はないわね?」
全員が頷く。愛される対象である筈の俺がこんな仕打ち受けてるのおかしいだろ。
「まずは私からやるわ」
ニ乃がそう言うと共にパンっと手を合わせる。するといつのまにか両端が指に引っ掛けられた布が姿を現す。手品か?すげぇ――って!!
「俺のパンツじゃねぇか!!!!!」
「しかもただのパンツじゃないわ。今この時まで履いていたパンツよ!!」
「えっ、うわマジだいつの間にノーパンに!」
おぉ、クレイジィと他の姉妹から声が上がる。
「全く、情けないわね。こんなことでいちいち興奮するなんて姉妹として恥ずかしいわ」
「お前の方が人として恥ずかしいわ!!!」
二乃の頭に拳骨を落とす。
「〜〜〜ッ!!酷いわフー君!でも、これが貴方なりの愛なのね!」
「二乃、自分を夫からのDVに耐える健気な妻の構図に昇華してる……」
「あっ、フータロー、そこはダメ」
「上杉さん!三玖が今のを見て1人で達してます!」
「地獄かな?」
勉強しないならもう帰っていいよな?
「だーめ、次は私の番だから」
「ナチュラルに人の心読むのやめてくれない?」
俺が言ったことを笑顔でスルーするとおもむろに写真を取り出す一花。
「みてみて、フータロー君とのツーショット写真。これだけ一緒に撮ってたらお姉さんとお似合いだと思わない?」
「一見まともそうなこと言ってるけどこれ全部身に覚えないからな」
何が怖いってこれ合成とかじゃなく実際にその場で一緒に撮ったとしか思えないような物ってことだ。加工とかの跡がない。実際にいたってこと?俺一人の時に?怖っ。
あと写真を見た四葉が私だって風太郎君と5年前に……とか聞き逃してはいけないようなことを呟いていた気がするが気のせいだとしておこう。
「次は私」
「三玖、生きていたのか」
「勝手に殺さないでほしい」
心労が減るからそのまま横になっていて欲しかったんだが。
「フータロー、私の手を見て」
「? ああ」
「ここに私たちの赤ちゃんがいます」
「いないが」
「います」
「三玖、お前酸素欠乏症にかかって」
ついにここまで妄想癖が。
「私の眼をみて」
お前から覗き込んで来てるじゃねぇか。じっと見つめていると、深い青がグルグルとまわ、って――。
「あれ、赤ちゃん?」
「そう、フータローと私の愛の結晶」
俺いつの間に結婚してたっけ。なんか頭がぼーっとして――。
「ちょっと待ったぁ!!」
「チッ」
「三玖、あんた洗脳は反則!」
「上杉さんしっかり!!!」
「もうだいじょうぶぶぶぶ」
残像が見えるほどの往復ビンタに今度はお花畑が見えそうになる。
「今度は私ですね」
ししし、と笑う四葉。
「とは言っても、私は何もできないんですけどね」
「問題ない。変なことをしないだけで俺の中の好感度は最高潮だ」
らいはの次にな。それにコイツも姉妹同様ありえんくらい馬鹿だが、運動ができる。それは間違いなく長所だ。それはそれとして馬鹿だが。
「馬鹿って二度も言わないでくださいよー」
「お前もナチュラルに思考を読むな」
言葉とは裏腹になんか嬉しそうなのが腹立つ。
「あ、でも凝くらいなら出来ます」
「凝」
そういうと何やら眼にオーラみたいなのが見え始める。何あれ厨二病か?
「上杉さんの、風太郎君は、右曲がり」
「「「「四葉、詳しく」」」」
「透視かよ!!揃いも揃って変態姉妹が!!」
「私まだ何もやってませんけど?!」
「うるさいこの食欲と性欲に全振り女!!」
「あんまりです!!」
うわーんと泣き出す五月。コイツもしかして結構泣き虫か?
「で、アンタはなんかあるの?」
「え?私はそもそも――」
ベソをかきながら五月は言う。
「全校生徒公認の仲ですし」
初対面の時の事件によって、外堀はいつのまにかここまで埋まっていたらしい。ギャーギャー騒ぎ出した姉妹を見て、俺は一人ただ静かにこう思っていた。
勉強しろよ、と。