FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
「もうすぐです!」
村人の叫びに導かれ、ガッツたちは荒れ道をひた走った。
だがその途中、シールケが突如として立ち止まり、顔色を失う。
「おい! どうした!?」
前を走るイシドロもすぐさま止まって声を発した。
「……気(オド)が……途切れました……!」
キャスカとファルネーゼのオドが、
まるで霧散するように感知できなくなったのだ。
なぜか念話も繋がらない。
今や頼れるのは、偶然か──あるいは運命か。
ただ、二人の無事を祈るほかになかった。
「どうして…… どうして途切れてしまったんでしょう……!」
「うだうだ言ってる暇ねーぞ! 急げ、ダッシュだ!」
戸惑いのなか、再び走り出す一行。
(ファルネーゼ様……どうか……)
セルピコもまた、懸命に彼女の安否を案じていた。
一見穏やかな表情を保ちながらも、頬を伝う冷汗がその内心を物語っている。
ガッツは歯を食いしばり、無言のまま先頭を駆け抜けていた。
守らねばならない者を、また見失った。
決して離してはならない存在を。
“もう二度と失わない”──あのゴドーの鉱洞で己に誓ったはずなのに。
──その頃、
パックは一行を離れ、妖精特有の速度で先行していた。
人の目では追えぬ疾さ。
彼自身が「本気を出せばマッハ級」と豪語するほどの飛翔。
村外れに差しかかる頃、彼はその「感応能力」をもって、
一足先に二人の無事を感じ取っていた。
「よし! キャスカとファルねーちゃんは無事みたいだぞ!
みんなに知らせな──」
言いかけた瞬間、羽音がピクッと震えた。
次の瞬間、空気が唸り、得体の知れぬ力が波のように押し寄せる。
パックの小さな身体を、直接“圧”が叩いた。
(…い……いまのは……!?)
凄烈な奔流が、彼の感応を貫く。
二つの波動──赤と青。
灼熱の焔が空を焦がし、運命そのものに抗わんとする意志が脈打つ。
そしてもうひとつは、凍てつく静謐。氷晶の刃と凍結の息吹が、
数多の光矢のように世界を覆い尽くしていく。
(なんだ? この感覚……こんなの、今まで感じたこともない……!)
息づくのも忘れるほどの暴浪。
近づくほどに、その圧は増していく。
キャスカとファルネーゼの無事を確かに感じながらも、
パックの背を冷たい汗が伝った。
(使徒……? いや違う。全然違う! もっと……もっとヤバい!)
気を取り直して地上を見下ろすと、仲間たちが緊迫した面持ちで駆けてくるのが見えた。
「おーい! パック!」
イシドロの声が響く。
その姿に、パックの胸を締め付けていた緊張が、わずかに緩む。
彼の瞳がほっと柔らぎ、羽ばたきは軽やかさを取り戻した。
しかし同時に──
背後でうねる“異質な力”の気配は、なおも衰えることなく迫り続けていた。
*
「ちょ、ちょっとタンマ!タンマ!」
パックが慌てて両手を振り、必死にガッツたちを制止する。
勢いよく止まった一行の視線が、一斉に目の前のエルフへと注がれた。
息を荒げながら、ガッツが鋭く問いかける。
「どうした? 早くしねえと二人が──」
「無事だよ」
短く、だが確信を持った声だった。
パックは、いつになく真剣な顔で言葉を続ける。
「キャスカとファルねーちゃんの気配は感じ取れてる。間違いない……でも……」
「でも?」
シールケがそっと問い返す。
イバレラは腕を組み、半目で妖精を見やった。
「アンタが真顔って、珍しいわね」
パックはぎゅっと眉を寄せ、声を震わせる。
「すっごい力を感じたんだ……! 言葉にしにくいけど、とにかく……」
「なんだよ! はっきり言えって!」
「……ダメだ。うまく説明できそうにない。でも……今は近づかない方が」
その声音に、誰もが息を呑んだ。
イシドロも、パックの羽ばたきが震えているのを見て言葉を飲み込む。
それはいつもの軽口ではない、“何か”を本能的に感じ取ったからだ。
「どういうこった」
ガッツの片目が鋭く細められる。
「……確かに、異様なオドの流れを感じます。こんなのは初めて……」
「お、おい……お前まで何なんだよ!」
イシドロは怯え混じりに叫んだ。
セルピコも眉をひそめ、シールケに視線を向ける。
「……シールケさん、いったい何を感じ取られたのです?」
一瞬、風が止む。
シールケは目を閉じ、慎重に言葉を紡いだ。
「……灼熱の咆哮と、凍てつく静寂。
正反対の力が、同じ場所で拮抗している……そんな感触です。
きっと、パックさんも同じものを──」
シールケは不安を漂わせながら羽ばたくパックを見上げて、目くばせした。
「そう! それそれ!」パックが食い気味に頷く。
「妖精の方が感度は高いでしょうから……私よりも、より純度の高い波動を受け取ったはずです」
重い沈黙が落ちる。
二人は無事──どうやらそれは確かなようだ。
だが、その先にある未知との遭遇を前に、誰も軽々しく言葉を継げなかった。
イシドロが半ば怯えながら声を上げる。
「ど、どうすんだよガッツの兄ちゃん……」
ガッツの首筋の烙印がわずかに疼く。
だが、痛みはない。
感じるのはただ妙な違和感と、ほのかな熱を帯びた感触のみ。
その変化に気づいたシールケが、はっと顔を上げる。
「……確かに途方もない“力”ですが……幽世の邪念は感じません」
「どっちなんだよ! 敵か味方か!」
イシドロの声が裏返る。
「私にもわかりません!」
シールケもまた、未知の圧に声を震わせた。
彼女の魔術師としての理知をもってしても捉える術がなく、
この状況には腐心を余儀なくされていた。
だが、その刹那──
「行くぞ」
沈黙を断ち切る迷い無き声。
「お、おいガッツ!」
「その力が何かは知らねえ。だが今は二人を連れ戻すのが先だ。あとのことは……
そのとき考えりゃいい」
パックの忠告を前にしても、巨躯の戦士の声音は揺るがない。
その黒く大きな背に、全員の視線が引き寄せられた。