FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
やがて一行は村外れに辿り着き、小屋の周囲をくまなく探り歩いた。
だが、二人の姿はどこにも見えない。
川沿いに立つ風車が、嵐のような轟音を響かせながら回転し、焦燥だけが募っていく。
シールケの言っていた──灼熱の咆哮と、凍てつく静寂。
ガッツは胸の奥で、言い知れぬ危機感に苛まれながら思い出していた。
──髑髏の騎士が告げた、あの不吉な言葉を。
『このまま旅を続けるならば お前たちは近きうちに再度使徒どもと相まみえることになろう そしてその時 奴らを率いるはおそらく──』
ガッツの脳裏に浮かぶのは、高みを目指してどこまでも飛翔する“奴”の姿。
(……グリフィスの配下か? 森の館で見たあの化け物どもが……
もう一度現れたってのか!?)
シールケは“邪の気配ではない”と言った。
だが、この異常な力が呼び覚ますのは、理屈では抑えられぬ不安だった。
(……あれ? 二つの桁外れな気配が、消えた……? 今残ってるのは、
ファルねーちゃんとキャスカの気配だけだ)
パックは安堵の息をつき、胸を撫で下ろす。
だが、同時に釈然としない。
確かに邪念はなかった。だが、あれほどの力が一瞬で霧散するなど──。
「おっ……見っけた!」
イシドロが真っ先に駆け寄る。
川べりにうずくまっている二つの影──ファルネーゼとキャスカ。
安堵と焦燥が入り混じる中、一行は駆け寄った。
だが、次の瞬間、目に飛び込んできた光景に、誰もが言葉を失う。
二人の周囲に散らばっていたもの──十を超える大蜘蛛の死骸。
斬り裂かれ、焼き焦げ、無惨に転がるその屍から、まだ煙が立ちのぼっている。
「……なんだ、こりゃ……それに、このむせ返るような熱……」
焦げた臭気と肌を焼くような残熱に、ガッツは顔をしかめざるを得なかった。
「ま、まさか……ファルネーゼ様が……とうとう魔術を?」
「バカ言うなよ! んな芸当できるわけねえだろ! でも……
じゃあ誰がこんな真似を……」
セルピコもイシドロも、言いようのない違和感にとらわれる。
先程見せたパックやシールケの反応を思えば、ただの推測では片付けられない何かがここにある。
(ここで、一体何が起きた?)
ガッツは片目を大きく見開き、その有り様を見据えていた。
見ればわかる。
とんでもない力だ。
これほどの数の魔物が、いとも容易く断ち切られている。
だが、そんな力が暴れ回って──なぜキャスカとファルネーゼは、傷一つ負っていないのか。
そして、このいつもとは違う烙印の疼きは……。
そんな思考の中、パックとイバレラの高い声が離れた位置から響いてきた。
「おーい! こっちも見てみろ! もっとすげーのがある!」
「こりゃまた……カチカチね(氷漬けの残飯って感じ?)」
エルフたちが導いたその先。
そこに広がっていたのは──純白の大地。
散らばった大蜘蛛の肉片が、氷の檻に閉じ込められていた。
氷は深く青白い輝きを放ち、全てを静寂のまま凍り付けている。
紅蓮の灼熱。
冷厳なる凍結。
両極の力が、同じ場所に、同じ瞬間に刻まれていたのだ。
*
「ファルネーゼ様、キャスカさん……お二人とも、ご無事で……!」
「……セルピコ!」
二人の無事を確認した一瞬、安堵の空気が一行を包んだ。
怪我はなく、ただ疲労の色がほんのりと浮かんでいるだけだった。
だが、シールケだけは、立っているだけで体の芯を貫かれるような感覚に襲われていた。
それは「残滓を感じる」などという範疇ではない。
余波そのものの奔流──その中心に踏み込んだかのような圧迫。
(……これは……魔術? 精霊の力……?
いえ、どちらでもない……。けれど──)
暴走の痕でもない。
そこには、確かな“意志”が宿っていた。
純粋で、強く、迷いなく──それでいて胸の奥を締めつけてくるほどの何かが。
(この思い……なに……? 息が……苦しい……!)
「ちょ、ちょっと! シールケ、大丈夫!?」
イバレラが急いで支え、治癒の手を添える。
「……ここだ」
パックは静かに地面を見つめ、確信したように呟いた。
「え?」
「間違いない。さっきの波動……ここから放たれてたんだ」
キャスカは「あー」「うー」と幼子のように声を漏らし、
ファルネーゼの腕にしがみついている。
そしてその瞳はどこか虚ろなまま、辺りをきょろきょろと見回していた。
その様子に、イシドロはふと一つの記憶を思い出す。
聖地アルビオン。
彼女が見せた“黒い奇跡”。
「ま、まさか……キャスカねーちゃんが……?」
だがシールケがすぐに否定する。
「……いえ。これは、キャスカさんのものではありません」
「わ、わーってらぁ!……ちっとばかし…そう思っただけだって」
「……まぁまぁ」
全員が困惑する中でも──
もっとも深く衝撃を受けていたのは、実際にその“力”を目の当たりにしたファルネーゼだった。
「……おい、ファルネーゼ」
ガッツに呼ばれた瞬間、胸にあの光景が甦る。
圧倒的で、神秘的で、抗いようもない“絶対”の気配。
そしてその影は──なぜかあの“黒い剣士”の姿と重なって見えてしまう。
「ここで……何があった?」
「そ、それが……」
言おうとしても声が震え、うまく言葉にならない。
言葉にした瞬間、あの熱が胸に蘇るようで──
しかしそのとき、
「……立ち尽くしてても仕方ないでしょ? 二人が無事なら、一旦村に戻るべきじゃない?」
イバレラがシールケを気遣いながらも提案する。
確かに今ここで考え続けても、結論は出ない。
「……まったく、その通りです(ご無事で何よりです、ファルネーゼ様)」
「ちぇっ……気になるけどなぁ……」
それぞれの思いを胸に抱えながら、一行は村へ歩み出す。
──だが。
シールケだけは、その場を離れながらも心が離れなかった。
あれは魔術ではない。
妖術でもない。
もっと根源的で、世界そのものに流れている“原初の力”。
創生の時より大地に息づき、魂の奥深くにまで響くもの。
「……あんなものが……この世に存在していたなんて……」
彼女がこれまで積み上げてきた修練や知識をもってさえも、まるで届かない領域の力だった。