FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント―   作:ほろにが

15 / 84
月下の余燼

 

夜更け。

月光は宿の窓を銀に縁取り、静寂の帳が村全体を覆う時分。

シールケは窓辺にひとり佇み、遠くを見つめていた。

 

村外れの風車小屋で感じた“異質な力の残滓”──それが未だに頭から離れない。

 

(あれは魔術ではなく“力”。しかも、“意志”のようなものが宿っていた。

純粋で、破壊的で……なのに、どこか神秘的で)

 

追おうとしても、今はもうオドの痕跡すら掴めない。

落胆と昂揚、そのどちらともつかぬ感情が胸の奥で渦を巻き、答えを見つけられずにいた。

 

……ハァ

 

深いため息が、月光に淡く溶けてゆく。

シールケの胸には、まだあの巨影の鼓動の余韻が微かに震えていた。

 

(お師匠様ならば、こんなとき、どのように心を澄ませただろう)

 

両手に持ったとんがり帽子、フローラ師の形見が、静かな夜風にゆったりと揺れていた。

 

(やっぱり気になるのね、シールケ……)

 

妖精イバレラが月明かりに照らされながら、ふわりと肩口に舞い降りる。

少女の横顔に落ちる影を、そっと覗き込むように。

 

───────

 

別の一室。

ガッツは淡々と包帯を巻き直していた。

 

壁に立てかけられた“ドラゴン殺し”と呼ばれる巨剣と“狂戦士の甲冑”──

ただそこに存在するだけで、部屋の空気を淀ませるほどの重苦しさを放っている。

 

幾千の怨嗟を呑んできた剣と甲冑は、なお血を滴らせているかのようだ。

 

その横では、イシドロ、パック、セルピコが集まり、村で起きた出来事について話し始めていた。

世界は混沌を増し、旅の困難も続いている。

未知の脅威かもしれぬものならば、共有するに越したことはない。

 

「まさか俺以外に“火の剣”を使うやつがいるとはな! ……ちぇっ、なんかモヤっとするぜ」

 

イシドロは半ば不貞腐れたようにベッドへ背を投げ出し、天井を見上げながら複雑な顔をする。

 

「ファルネーゼ様の話では、短剣ではなく長剣のようでしたが……」

 

「なんだか、おとぎ話みてぇな話だよな。

 しかも女とデカい犬も連れてたんだろ? ……組み合わせ濃すぎないか?」

 

「まあ、オレらの旅団も人のこと言えないけどねぇ」

 

軽口が続くなか、ガッツは包帯を巻く手を止めた。

ほんの刹那だが、三人の誰もその変化に気づかない。

 

(……使徒じゃないことは確かか。

 もしそうなら、キャスカを助けるはずがねぇしな)

 

自分と同じ“烙印”を負う者を、魔が見逃すことなどあり得ない。

フローラの護符で誘いは弱まっているとはいえ、怨嗟は常に自分とキャスカを追い続けているのだ。 “奴”にこれを刻まれたあの日以来ずっと……

 

「ま、気にはなるけどよ。キャスカねーちゃんのためにも先を急がなきゃな。海からちっと戻っちまったけど、例の港町までもう近いんだろ?」

 

「ええ。明日には丘を越え、補給所として使われている町へ入れるはずです。そこからヴリタニスまでの航路も確認できるでしょう」

 

「……俺たちは、そのつもりだが」

 

言葉を切ったガッツの顔を、二人は怪訝そうに見つめる。

 

「……あいつ(シールケ)が、少し気がかりだ」

 

 

──同じころ。

 

シールケはまだ窓辺に立ち、月を仰いでいた。

ガッツのために。キャスカのために。妖精郷を目指す使命は変わらない。

けれど、その一方で未知の“力”に心を奪われつつある自分がいる。

 

相反する思いは、闇の森で揺れる燐光のように彼女の魂を揺らし、

どこか遠い「狭間」へと導こうとしていた。

 

“大いなる謎を受け入れ、世界の内から万象を探求する”──

 

師フローラから幾度も聞かされた魔導の極意が、再び脳裏に鮮やかに甦る。

 

古来より、月は神秘を増幅する象徴にして、魔術を強める存在。

ならばそれは、術者の心そのものをも揺さぶるのかもしれない。

 

 

──綺麗な月。どうして月明かりは、

    こんなにも私の心をかき乱すのだろう。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。