FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
夜更け。
月光は宿の窓を銀に縁取り、静寂の帳が村全体を覆う時分。
シールケは窓辺にひとり佇み、遠くを見つめていた。
村外れの風車小屋で感じた“異質な力の残滓”──それが未だに頭から離れない。
(あれは魔術ではなく“力”。しかも、“意志”のようなものが宿っていた。
純粋で、破壊的で……なのに、どこか神秘的で)
追おうとしても、今はもうオドの痕跡すら掴めない。
落胆と昂揚、そのどちらともつかぬ感情が胸の奥で渦を巻き、答えを見つけられずにいた。
……ハァ
深いため息が、月光に淡く溶けてゆく。
シールケの胸には、まだあの巨影の鼓動の余韻が微かに震えていた。
(お師匠様ならば、こんなとき、どのように心を澄ませただろう)
両手に持ったとんがり帽子、フローラ師の形見が、静かな夜風にゆったりと揺れていた。
(やっぱり気になるのね、シールケ……)
妖精イバレラが月明かりに照らされながら、ふわりと肩口に舞い降りる。
少女の横顔に落ちる影を、そっと覗き込むように。
───────
別の一室。
ガッツは淡々と包帯を巻き直していた。
壁に立てかけられた“ドラゴン殺し”と呼ばれる巨剣と“狂戦士の甲冑”──
ただそこに存在するだけで、部屋の空気を淀ませるほどの重苦しさを放っている。
幾千の怨嗟を呑んできた剣と甲冑は、なお血を滴らせているかのようだ。
その横では、イシドロ、パック、セルピコが集まり、村で起きた出来事について話し始めていた。
世界は混沌を増し、旅の困難も続いている。
未知の脅威かもしれぬものならば、共有するに越したことはない。
「まさか俺以外に“火の剣”を使うやつがいるとはな! ……ちぇっ、なんかモヤっとするぜ」
イシドロは半ば不貞腐れたようにベッドへ背を投げ出し、天井を見上げながら複雑な顔をする。
「ファルネーゼ様の話では、短剣ではなく長剣のようでしたが……」
「なんだか、おとぎ話みてぇな話だよな。
しかも女とデカい犬も連れてたんだろ? ……組み合わせ濃すぎないか?」
「まあ、オレらの旅団も人のこと言えないけどねぇ」
軽口が続くなか、ガッツは包帯を巻く手を止めた。
ほんの刹那だが、三人の誰もその変化に気づかない。
(……使徒じゃないことは確かか。
もしそうなら、キャスカを助けるはずがねぇしな)
自分と同じ“烙印”を負う者を、魔が見逃すことなどあり得ない。
フローラの護符で誘いは弱まっているとはいえ、怨嗟は常に自分とキャスカを追い続けているのだ。 “奴”にこれを刻まれたあの日以来ずっと……
「ま、気にはなるけどよ。キャスカねーちゃんのためにも先を急がなきゃな。海からちっと戻っちまったけど、例の港町までもう近いんだろ?」
「ええ。明日には丘を越え、補給所として使われている町へ入れるはずです。そこからヴリタニスまでの航路も確認できるでしょう」
「……俺たちは、そのつもりだが」
言葉を切ったガッツの顔を、二人は怪訝そうに見つめる。
「……あいつ(シールケ)が、少し気がかりだ」
──同じころ。
シールケはまだ窓辺に立ち、月を仰いでいた。
ガッツのために。キャスカのために。妖精郷を目指す使命は変わらない。
けれど、その一方で未知の“力”に心を奪われつつある自分がいる。
相反する思いは、闇の森で揺れる燐光のように彼女の魂を揺らし、
どこか遠い「狭間」へと導こうとしていた。
“大いなる謎を受け入れ、世界の内から万象を探求する”──
師フローラから幾度も聞かされた魔導の極意が、再び脳裏に鮮やかに甦る。
古来より、月は神秘を増幅する象徴にして、魔術を強める存在。
ならばそれは、術者の心そのものをも揺さぶるのかもしれない。
──綺麗な月。どうして月明かりは、
こんなにも私の心をかき乱すのだろう。