FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
“大地を蝕むは、疫病と災厄。
闇の淵を彷徨うは、飢えに呻く民の亡骸。
絶望は一つの暗き意志となり、やがて世界を覆わんとす。
されど、永き夜を裂く一筋の光──
朱に穢れし荒土へと舞い降りるは、一羽の白き鷹の輝”
──修道院の礼拝堂で聞かされた詩は、近頃この地で広まりつつあるものらしい。
ミッドランドという王国。
百年にも及ぶ戦争によって疲弊し、侵略、飢饉、病、天災……。
積み重なる苦難は民を闇に沈め、その影響は法王庁教圏の国々へも及んでいた。
いまや修道僧たちの口にも“啓示”として語られるほどに。
クライヴは眉をひそめる。
あの妙な遊色に触れ、この現へ呑まれかけた直前──確かに見た。
白き光に包まれた鷹の幻影を。
夢か。象徴か。
それとも、この世界を貫く“意志”そのものか。
驚くべきは、同じ光景を民衆が夢に見たと語っている点だった。
(光輝く一羽の鷹……。俺が見たあれも、偶然ではないということか)
院長は静かに笑みを浮かべ、窓から差し込む淡い光へ目を向けた。
「人々は望んでおるのです。闇を切り裂き、輝ける翼とともに舞い降りる救済者を。 そしてついに啓示は現実となりました。白き鷹は地上に舞い降り、各地を解き放ちつつある……」
「……解き放つ?」
ジルが小さく息を呑む。
院長の瞳には、微かな狂信の熱が宿っていた。
「ええ。まもなく暗黒の雲は裂け、人々が安寧を取り戻す光と温もりの時代が到来しましょう。我らはただ、その日を信じて待つのみです」
クライヴは黙して院長を見据える。
救いを願う心。“光の鷹”を崇め奉る信仰。
それは彼の知るマリアス教とマザークリスタルを思わせた。
だが──彼は知っている。
マザークリスタルの“救い”の正体は、神と謳われる存在が大地に根付く命を吸い上げる装置にすぎなかったことを。
(光の鷹とやらも、もしや………)
院長は声を和らげた。
「どの国の傭兵であれ、どうか弱き民を見捨てぬように」
「彼らは声を持たず、力もない。救いを希うばかりの者たちなのです」
言葉を聞き流すように、クライヴとジルは立ち上がった。
窓の外を見れば、すでに夕暮れが迫っている。
「そろそろ行きましょう」
ジルが促すと、院長は名残惜しげに頷いた。
「お気をつけなされ。この先は野盗や堕ちた傭兵が徒党を組んで荒らし回っております。……あなた方に神の庇護があらんことを」
「……感謝する」クライヴは低く答えた。
足を踏み出しながら、心の奥で呟く。
(救いの手か……もし本当に訪れるというのなら──
その代償は一体どれほどの犠牲を伴うのか)
“鷹”と呼ばれる存在。
それは人々が夢見た救済の虚像に過ぎないのか。
それとも、実在する英雄なのか。
問いの渦中で、彼の掌に知らず力が籠り始めていた。