FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
ガッツ一行は山林を抜け、
旧街道をたどって、石壁に囲まれた町の手前まで来ていた。
この先で町の様子を探り、詳しい者から港までの道筋について情報を得る手筈となっている。
目指すは教圏諸国連合軍の鎮守府ヴリタニス。
そこへ向かうための足がかりを、この町で掴む。
「……あそこで間違いなさそうですね」
セルピコは村で受け取った地図を広げ、壁に囲まれた小さな町の位置を指した。
手を額にかざし、霞む視界の先にうっすらと浮かんだのは、赤く彩られた屋根の群れといくつかの尖塔、丸みを帯びた小さなアーチ型の橋。
そして、奥には威厳を感じさせる鐘塔が、高々とそびえ立っているのが見えた。
イシドロはやっと見えてきた町を前にして肩を落とし、
へたり込むような声で嘆く。
「はぁ~……腹減った。まずはメシだろ、メシ!」
馬車の出ていない村を発ち、ここまで歩きづめ。
イシドロだけでなく、キャスカも空腹を訴えるように、
困惑の表情でお腹を押さえている。
村を出るときに受け取った僅かな食料と果物は、ここまでの道程で全て尽き果ててしまっていた。
そんななかでも、パックは相変わらず上機嫌だ。
「港へ着けば”いざ大海原”! そしてついに、オイラの故郷エルフヘルムへ!」
「エルフヘルか~……もう美味いもんが食えりゃどこでもいい気がしてきた」
「だからぁ、エルフヘル“ム”だっつーの!」
現在のヴリタニスは、
クシャーン帝国との決戦に備えた大規模な布陣が敷かれている。
軍事・政治・宗教・交易が入り乱れる混沌の拠点。
その近郊には補給と物流を担う村や町が点在しており、目の前にあるこの町もそのひとつに違いなかった。
(……都市の営みってやつを目にするのも、久しぶりだな)
ガッツは遠く見える城壁の一角を眺める。
考えてみれば、一定の人の群れに紛れたのはあのイーノック村が最後だったかもしれない。
いまのような大所帯になって間もなかった頃の話だ。
「へえ、町ん中ぜんぶ塀で囲っちまってるじゃねぇか」
「城郭都市ですから」
ファルネーゼがイシドロへそっと説明し、続けてセルピコが補足する。
「じょーかく? なんだそりゃ」
「防衛のために城壁で囲った町のことです。この辺は戦の余波で傭兵崩れや野盗も多い。過去の戦火で築かれた防壁が、いまだに役に立っているわけですね」
法王庁直属の聖鉄鎖騎士団に籍を置いていたファルネーゼとセルピコは、
この地の事情に通じていた。教圏諸国に位置する町村の行政は、事実上、大審院の存在が後ろ盾となっていることが多いからだ。
「全面戦争が近ぇって時だ。男どもは兵士に駆り出されてるだろうしな。殻を剝がされた城下なんざ、襲ってくださいって看板掲げてるようなもんさ」
「へぇ……どこもかしこも守り手不足ってわけか」
城郭の造りについては、ガッツも傭兵時代から何度も目にしている。
ひとたび落ちれば脆いが、防衛に特化した構造は確かに利がある──そう感じていた。
だが、
先の村での出来事が示すように、いまは方々で幽界の魔物が音を立てて人里に迫ってきている。
ひとたび田舎の領民や行商人が都市部に多数出向くことにでもなれば、壁に囲まれた町中は蜂の巣をつついたようにひしめくに違いない。
そんな中、もし”変なもの”の軍勢にでも攻め込まれれば、たちまち魑魅魍魎が跋扈する地獄絵図と化す──。
(まあ、余計なおせっかいかもしれねぇが)
ガッツが短く息をついてそう思いかけたとき、後列で突然歩みを止める音が聞こえた。
見ると、シールケが道半ばで立ち止まり、杖を胸に寄せて町の方向を険しい顔で見つめている。
彼女がこのような動作をするときは、きまって不穏な予感を感じ取ったときだ。
そして、彼女の帽子に隠れていたイバレラも、すぐにその気配の変化に気づく。
「どしたの、シールケ?」
「……あの町、何かがおかしい」
浮かんでくるのは、町全体に重く沈殿した、淀んだ気配──。
人か、獣か。
あるいは、外法に染まった者たちの所業か。
怯えに身を縮める無数の人々の影が、シールケの心眼に過ぎった。
単なる襲撃や略奪とは違う。
町そのものを覆い隠すような、底知れぬ“悪意”の臭いがする。