FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
ほどなくして一行は町の入り口にたどり着き、
石塁の奥へと進んでいった。
最初に目に飛び込んできたのは、
そしてその先に広がる、どこか伝統的な造りを思わせる町並みだった。
高い柵の向こうには赤い屋根の家屋が密集し、大小の尖塔が、空を突き刺すように連なっている。
道端は荒れた草地に覆われ、
門から居住区までの距離は、壁外の地と地続きになっていた。
──何かがこの町を侵食している。
そう告げるシールケの只ならぬ予感に導かれ、一行は警戒を強めながら門を超え、居住区の方へ直進していく。
そんななか、ファルネーゼが突如気づいたように声を上げた。
「……この辺りの風は、意外と暖かいのですね……?」
金色の髪が柔らかな風に揺れる。
彼女は片手でそれを抑えながら、肌を撫でるような暖流を感じ取っていた。
「ホントだ」
これにはパックも同感だった。
しかしその風は強く、春先の夕風を思わせるどこか異様な勢いがあった。
どこから吹き込むのか、二つの気流が交錯するような不協和音を伴って。
セルピコがファルネーゼの方へ振り向き、淡々と説明を加える。
「この辺りは地形の関係で南方からの風に恵まれているんだそうです。海からの暖かい風も影響しているのだとか」
この町は平野に位置するが、なだらかな丘に面しているためか、
古来より風に恵まれた土地なのだという。
港の補給拠点たる所以も、きっと、その穏やかな風土が理由のひとつだったのだろう。
「……なんだか、おとぎの国みたいね」
緑豊かな丘陵に抱かれるように佇む、由緒ある町。
ファルネーゼは靡く髪を押さえながら、ひと足早い春の気配に、束の間心を緩めていた。
──だが、
そのひとときの平穏は、次の一瞬で断ち切られる。
「! ……ちっ」
直後、ガッツの首の後ろに不穏な痛みが走った。
これまで幾度も感じてきた脈打つような疼き。
「……いやがるな」
「わかりますか?……近づくにつれて大きくなってきます」
「あの向こうか」
ガッツは柵の向こうを射抜くように見据える。
シールケの相槌も手伝って、一行の間に重苦しい雰囲気と緊張感が漂った。
「ううっ…」
「キャスカさん!」
見ればキャスカも胸の痛みに耐えている。
ファルネーゼが必死に彼女の震える肩を支えていた。
そして──
「これって……!」
居住区を覆う柵門までたどり着くと、そこには裂け目やひび割れ、壊された錠前の痕跡がはっきりと残されていた。掘り返されたような不自然な穴も複数。
一見すると、よくあるならず者の手口と見紛いそうだが──
「いかにもって感じですが、どこか罠のようにも見えますね・・・・・・分かりやすすぎるというか」
セルピコの反応に、すかさずシールケが応えた。
「気をつけてください・・・・・・なんだかいつもと邪悪さの性質が違います」
「性質が…違う?」
「うまく言えませんが……とにかく、何かとても嫌なものがあの奥にいる気がするんです」
幽世の暗く澱んだ気配とは違う。
町の内部から伝わってくるのは、明らかに得体の知れぬ“害意”だった。
まるで無慈悲な醜禍が内側からその美しい佇まいを浸食しているかのようだ。
柵の彼方を凝視するほど、影は濃さを増し、
無形の視線が肌を這う幻惑さえ、忍び寄っていた。
「中の人たちが心配です…どうやら今はどこかに身を潜めているようですが」
「やれやれ……憩いの場にはほど遠いってか。とんだ連中に目ェ付けられちまったらしいな」
シールケとガッツが柵門の前で立ち止まっていると、何やらイシドロが後ろから近づいてきた。
「なーにチンタラしてんだよ! 行くならさっさと行こうぜ。日が暮れちまわぁ」
周囲の緊張をものともしない豪胆さ。
いまや恐怖よりも空腹のほうが勝っているようだ。
「さっさと行こうって……、中にどんなものが潜んでいるかわからないんですよ? 一度、周囲から様子を──」
「んなことしてたら朝になっちまうぞ! 何か潜んでるっつっても、どーせまたチンケな餓鬼かなんかじゃねーのか?」
「だから、それをこれから確認するんです! 無闇に突っ込んでは危険です」
しかし、イシドロはシールケの警告も意に介さず、
「ったく、仕方ねぇなぁ……いーよ、お前らがビビってんなら、ここは俺様が代わりに先陣切って突っ込んでやっから! んでちゃっちゃと片づけて、さっさとメシだメシ!」
少年は我先にと柵門をこじ開け、パックを頭にのせて不穏な気配のもとへと走って行った。
「ちょ、ちょっと──」
開かれた柵の向こうを見れば、既に豆粒。
空腹の獣性と好奇心の妖精が同居する化身は、シールケの説得をもってしても止めることはできなかった。
「まったくもう……どうなっても知らないんだから!」
「怖いもの知らずというより、アホねあれは」
シールケとイバレラはため息交じりに少年の背中を見ながら呟く。
しかし背後から──
「俺たちも行くか」
ガッツが後に続くように門を超えた。
その大きい背中に携えた黒い外套がなびき、かすかに見える巨大な刀剣が夕日を返していた。