FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
その風に乗るように──男が現れた。
白を基調とした上衣に、茶の脚衣。
黄色いすね当てがわずかに光を返し、肩まで伸びた淡茶色の髪が風に揺れる。
瞼を閉じたままの横顔は眠るように穏やかで、どこか聖職者のようでもあった。
少年とエルフの視線は、その突如として現れた異質な男に釘付けとなった。
佇まいも衣装も、この町の住民とは明らかに異なる。
「……」
パックはその男から微かな「ずれ」を感じ取っていた。
人のように見えるが人ではない。いや、現世の者ですらないのかもしれない。
だが一方で妖精とも闇の魔獣とも違う匂い。
既知のどの"種"にも当てはまらない存在に、思わず顔をしかめた。
しかも、この男からは感情も意思もまるで伝わってこない。
感応をいつも以上に研ぎ澄ませても、何ひとつ触れさせてくれない。
まるで"余白"のように空虚であった。
男は二人の前で立ち止まり、イシドロの胸の内を覗き込むように静かに口を開いた。
「……こわいのですか?」
余計な力が一切入っていない透き通った声。
「な、なんだよあんた! いきなり出てきて……」
イシドロは思わず一歩下がる。
男の立ち姿には、場違いなほどの静けさと気品があった。
それは血の匂いに汚されぬ者の空気──剣を持たぬ戦士のような存在。
「それでいいのです」
再び発せられたその声は、変わらず春の風のように柔らかく澄んでいた。
「恐れを抱くことを恥じてはなりません。炎のような勇気も、深淵のような恐怖も──その両方を味わえるのは、強き者の特権なのですから」
言葉を残し、男は歩き出す。
そして四色の光に包まれるように、その姿はゆっくりと溶けて消えた。
「ちょ、ちょっと待て! 何カッコつけて消えてんだよ!」
イシドロが叫んだ時には、既にその姿は消えていた。
「……って、もういねぇし!」
「……お前、またちょっとビビってたろ?」
「う、うるせぇ!」
そう言い返しながらも、イシドロは男が消えた方角をじっと見つめていた。
そこには、不思議なほど澄んだ空気が漂っていた。
突如現れ、己の内なる感情を見透かした謎めいた人物。
複雑な思いに胸をかき乱されながらも、イシドロはふとパックの方へと顔を向けた。
「おい、パック。お前が言ってたすさまじい気配ってアイツのことか?」
「いや、違う。ちがう…けど」
「けど?」
何者なのか──確かに自分の知る範囲の存在ではない。
だが、胸の奥に残るのはほのかな温もり。
パックはその不可思議な気配の正体を追おうとしたが、そのオドは淡い残光だけを背後に残し、知らぬ間に、そっと何処へとかき消えていった。
男が去り際に残していった、ひとつの光景がぼんやりと浮かぶ。
それは白い塔のような建物──石造りで、どこか神聖な雰囲気を纏っている。
そしてその周りを取り囲む、雑多な避難キャンプの群れ。
粗末な天幕が並び、人々が夕陽に祈りを捧げている。
「……何だろう、この景色」
パックは男が消えていった方角を見つめながら、その残り香のような記憶を静かに頭の中で反芻していた。
「あの人と……何か、関係があるのかな」