FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
ッカーン、ッカーン
暗く煤けた空間に火の明かりが揺れ、金属の打音・熱気・焦げ臭さが漂う。
鉄や素材を高温で溶かす大型の溶鉱炉、武器を叩くための鉄製金床、壁や床に並ぶ火かき棒・鉗子・
クライヴは、隠れ家の東方──鍛冶師ブラックソーンの工房に顔を出していた。
出立に備え、入手していた素材を基に、彼に武器の剣を改良してもらうためだ。
「よし!できたぜ。コイツなら敵無しだ」
「悪いなブラックソーン、いつも助かるよ」
今使用している伝説の長剣《ラグナロク》は、ここで拵えてもらったものだ。
頑丈で質のいい皮、鋭利な刃、骸炭で熱した強固な鉄など、さまざまな稀品を揃えてようやく形になる剣だが、何より完成に至るには、きめ細かな彫金や細工が欠かせない。
名匠と謳われた二人の鍛冶師が力を合わせたからこそ生まれた、まさに「至高の一振り」と謳われる一品だ。
「なぁに、素材さえ揃や後は打つだけだ。大事に使えよ…自分で集めてきた素材を無駄にしないためにもな」
「ああ」
やはり、その腕前は見事としか言いようがない。
柄を握った瞬間、以前よりもいっそう確かな重みと手応えが掌に伝わってくる。
「………」
手は尽くしていたようだが、何かが心残りなのか。
ブラックソーンは剣をクライヴに渡した後も、しばらくの間その刀身を見据えていた。
「どうした? まだ何か気になる点でも?」
「いや……」
ブラックソーンは険しく目を細めていた。
気のせいだろうか、その瞳の奥にはほんの僅かな動揺が垣間見える。
「俺がまだドラヴォズにいたころ、ゾルターンの奴と一緒に打とうとしていた一振りのことをふと思い出してな」
先の襲撃事件でドラヴォズの村を訪れたときに、ふと耳にした話。
まだブラックソーンが村にいた当時は、腕利きの鍛冶屋達がその敏腕を鳴らしながら、高質で格式の高い装具を多く生み出していたそうだ。
そういえば、その頃の彼の逸話については詳しく知らない。
せめてこの隠れ家の長として、その功績のひとつくらいは耳に残しておきたい。
「それは興味深いな……よかったら聞かせてくれないか?」
クライヴが他愛もない昔話に乗ってきたことが少しばかり意外だったのか、
ブラックソーンの顔には、先ほどの険しさはもうなく、軽い笑みが浮かんでいた。
「なに、ただの剣だ。そのラグナロクのような大それたモンじゃねえ。優美も雅もへったくれもねえ、どでかい鉄の塊さ。それもとびきりのな」
「鉄の塊?」
鉄塊の剣───クライヴは落胆どころか、むしろ興味を覚えた。
決して面白半分や酔狂で考えたものでもないのだろう。
何より、その特徴は純粋な破壊に特化し、粗暴そのものを形にしたような響きを持つ。
ブラックソーンはクライヴの疑問に軽く頷いて、続けた。
「長さも、厚さも、重量も、全てが桁違いだ。そこらの騎士剣を三、四本束ねたようなもの…とでも言えば分かりやすいかもな。その造りの通り、常人にはとても扱えねえような代物さ」
「なんでまた、そんなものを造ろうとしたんだ?」
「勝手知ったるだろうが、戦ってのは決闘や果し合いとは違う。いつだってまとまった数が一斉に飛び込んでくるもんだ。そんなとき、敵の密集陣をたったひと振りで薙ぎ払えるなら、どんなものが最適かって話になってな」
信仰や領土の拡大、資源獲得のために、兵が陣を敷き、旗が並び、号令とともに軍勢同士がぶつかる──ヴァリスゼアではそんな戦が繰り返されてきた。
いや、むしろその歴史がいまのこの二つの大陸を形作っているといってもいい。
「……で、たどり着いた先がそのバカでかい剣というわけだ。使いようによっては、ドラゴンをも一撃で屠れるような…な」
クライヴは黙して聞いていた。
戦が絶えない世界なら、武器職人である鍛冶師が、軍需としてそれに対抗できる「陣形突破型の破壊剣」を考案するのは自然な流れだろう。
もっともドラゴンを屠るというのは、いささか誇張を帯びている気がしなくもないが。
「……で、実際に使われたときの手ごたえはどうだったんだ?」
「手ごたえ? ……ハハッ、お笑い草だ」
あの頑固で職人気質の強いブラックソーンが目を細めて素直に笑った。
何かおかしなことでも言ったか──クライヴは訝し気にその様子を見た。
「さっきも言ったが、あんなもの誰も使えやしねえよ。あまりに実用性が無いってんで、めでたくお蔵入りだ。設備は十分だったが、ゾルターンも俺も、流石にそれを打つまでには至らなかった」
絶対的な破壊力と尋常ならざる質量を有する剣。
──もし完成していたら
──もし持ち上げられて実際に振るわれていたら
それはもう、一振りで轟音の旋風と肉塊の竜巻が巻き起こることは想像に難くない。
もし戦場で使われれば、初撃が成功しただけで、敵の士気は削れ、本隊の突撃前に陣形が大きく乱されるだろう。
威力だけでなく、見た目の迫力も常軌を逸するものだ。
「剣だって所詮は一つの道具に過ぎねえ。道具の本質ってやつを疎かにすりゃ、
行きつく先はひとつだ」
ブラックソーンはいつになく饒舌だった。
いまでこそ本人は謙遜しているが、きっと、その工程には若き日の迸るような情熱が注ぎ込まれていたのだろう。
その異常な特性故に、決して世に出ることのなかった、飾気のない鉄塊の巨剣───ぜひ一度拝んでみたいものだが、もはやそれは叶わぬ夢か。
クライヴは、満足したといわんばかりに一息つき、言葉を返した。
「面白い話だった。 また何かあればぜひ聞かせてくれ」
「ま、若気の至りってことで聞き流しておいてくれ。それじゃ、気を付けて行ってこいよ」
クライヴは工房を後にし、ジルのいる大広間へと向かっていく。
改良されたが故か、それとも───あの昔話を聞いたせいだろうか。
背のホルダーに収納したラグナロクが、いつもより、牙を研ぐ獣のように重みを増しているように感じた。