FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
狩られた者たち
焦げついた石畳。
折り重なるように倒れ伏した賊の死体。
それらを踏み越えた先に──ひとつの隊列が静かに浮かび上がっていた。
十数名の町人を囲むように進む、四人の輪郭。
剣を片手に先頭を行くのはセルピコ。
その背後に、ファルネーゼとキャスカが町人と歩幅を合わせるように続き、
最後尾には、シールケがイバレラを肩に寄せながら
このなかに、今ガッツはいない。
だが、それには理由があった。
「すっかり目を離してしまいました。どこではぐれたんですかね?」
「わたしも……ついキャスカさんを見るので手一杯だったから……」
途中ではぐれたイシドロとパックを探すため、ガッツは現在、陣を離れている。
結界の維持に集中している今、シールケの念話とオド感知は消耗が大きい。
その結果、最も匂いに頼れるガッツが、不本意ながらも“捜索役”を引き受けることになった。
町人の案内の下、
目処が付き次第、この先の中心部で合流する手筈となっている。
「心配ですけど……今は先へ進みましょう。ここまでの道のりで、かなりの区画を制しましたし。きっとガッツさんが、無事に二人を見つけ出してくれます」
後方から、シールケがファルネーゼとセルピコに向けて静かに応えた。
唯一の懸念は、キャスカの無事の確保だ。
ガッツがいない今、彼女の安全は自分たちの腕に委ねられている。
もし不測の事態に遭遇すれば、戦力を総動員してでも守らなければならない。
もっとも、ガッツもそれを信頼したうえで、一行を速やかに離れていったのだが。
「よろしく頼む」──ただ、その一言を残して。
「……とりあえず、先を急ぎましょうか」
セルピコは剣を提げ、
わずかな物音にも即応できる姿勢を崩さぬまま、慎重に一行を導いていった。
──────
案内役の町人に導かれ、一行は最後の角を曲がる。
そして、幅広な石段を上りきった先に──ひときわ整った区画が姿を現した。
真っ先に目に飛び込んでくるのは、
整然と並ぶハーフティンバー様式の家々。
磨かれた木組み、白い漆喰の壁、細工の施された窓枠。
高く掲げられたランタンと、軒下に残る花の彩り。
どれも、先程まで歩んできた赤い屋根の居住区とは、明らかに趣を異にしていた。
「ここが……例の中心部の広場でしょうか?」
セルピコの低い問いに、町人の女が首を振った。
「いえ、ここは町の中でも裕福な人たちが暮らす区画です。こんな町でも、階級によって住める場所は決まっていて……まだ中に隠れている人がいるかもしれません」
一行は、恵まれた屋敷に囲まれた広場へと足を踏み入れる。
街路樹の緑と温かみのある建物様式──近くで見るほど、その穏やかな彩りのアクセントがより際立つ。下の居住区とは一線を画した壮麗な佇まいに、一同は目を引かれた。
だが──
その裏に潜む違和感は、即座にファルネーゼの口から零れ落ちる。
「……なんだか、やけに静かですね」
不気味なほど、何の気配も感じられない。
町並みの華やかさとは裏腹に、人の姿はひとつも見えない。
まるで、この一角だけが戦乱から切り離されたかのような、不自然な静けさ。
貴族たちはすでに逃げ去ったのだろうか。
あるいは、それすらも叶わなかったのか。
だが、なによりも不可解なのは──
セルピコが歩みを止める。
「実は、先程から……気になっていたのですが」
従者の含みのある言い方に、ファルネーゼが怪訝な顔を向ける。
「どうも妙です。町の中心に近づくにつれて、敵の数が“減っている”。
それも、自然にではなく……意図的に削がれているような気がするのです」
確かに、先へ進むにつれて賊たちの数は明らかに少なくなっていた。
おかげで先の区画も制圧は容易だったが、入口付近にいた大群を思えば、どうにも腑に落ちない。
「先生の結界の効力ではないのですか?」
「……もちろん、それもあるでしょうが──」
「いいえ」
師の突然の否定に、ファルネーゼは思わず振り返った。
その指先が、陰の差す路地を指している。
そこには数人の賊の死骸が、無造作に転がっていた。
胴、首、腕──いずれも一太刀で断ち切られたような鋭い傷跡。
(……!?)
ファルネーゼは思わず口元を押さえた。
それは結界の衝撃でも、魔法の焼痕でもない。
紛れもなく──“刃”による殺戮の痕跡。
さらにその傍らでは、
獰猛な野獣に噛み砕かれたような死体までもが散らばっていた。
まるで巨大な狼か、それに類する魔獣の仕業のような──
シールケは、冷静に言葉を紡ぐ。
「彼らは幽世の魔獣のように、霊体に寄った存在ではありません。 こうした肉体を持つ存在──“魔に憑かれた人間”は、感受性が鈍く、結界の影響を受けにくい。 つまり……この結界では、すべてを防ぎ切れないんです」
もちろん幽世の念が濃い個体は消滅するが、効果には個体差がある。
今回の敵の性質を考えれば、結界をすり抜ける者が相当数存在していても不思議ではなかった。
シールケの説明に、ファルネーゼの表情が不安で揺れた。
「……と、いうことは……結界が効かなかった者たちは……」
イバレラも肩をすくめる。
「仲間割れってわけでもなさそうよね。そんな形跡も見当たらなかったし……
なにより、不自然だわ。あんなにいた邪な気配が、こんなにスーッと消えるなんて」
ファルネーゼの胸にひとつの可能性が浮かび上がる。
自分たちでも、賊どもでもない、もうひとつの勢力。
圧倒的な力で敵を排除している者がいる。しかも、この短時間に相当の数を。
「で、でも……私たち以外に、誰がそんな──」
イバレラも首を振るばかりで答えを持たない。
「見る限り、軍兵…でもなさそうですね」
セルピコも敬遠せざるを得なかった。
軍が介入しているなら、もっと秩序だった動きが見えるはずだ。
ただ──
シールケにはひとつだけ思い当たる節があった。
(結界維持に集中していて、はっきりとは捉えられなかったけど……)
入り口付近で一瞬だけ感じた、異質な“波”。
炎のようでいて、ただの炎ではない──理を逸脱した力の爆ぜる気配。
「あの感触……まさかとは思いますが」
「先生、なにか心当たりでも?」
「唐突ですが、ファルネーゼさん。この者たちの倒され方……なにか、見覚えはありませんか?」
「倒され方……ですか?」
───もし、あの“力の根”そのものが、この町を訪れているのだとしたら。
その残り香を、いま確かに掬い取れるのは……彼女だけだ。
ファルネーゼが亡骸へ近づこうとした、
その瞬間──
「……うっ!」
キャスカが胸の烙印を押さえ、息を詰めた。
ファルネーゼが即座に足を止め、振り返る。
「キャスカさん!? ……どうし──」
「ファルネーゼ様!」
同時に、セルピコが風の揺らぎに反応する。
鋭い視線が、上方を射抜いた。
──!
高い位置に突き出したバルコニー。
その手すりの上に、黒い“何か”がひとつ、影のように張り付いていた。
輪郭は闇に溶けているのに、双眸だけが燐光を宿し、じっと一行を見下ろしている。
右へと視線をずらす。
別の屋敷のバルコニーにも、同じような黒い影が一体、柵から身を乗り出すように揺れていた。
左側でも、またひとつ。
「いつの間に……!」
気づけば──前方と左右。
三つの方向から、囲まれていた。