FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント―   作:ほろにが

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第二章:邂逅
狩られた者たち


 

焦げついた石畳。

折り重なるように倒れ伏した賊の死体。

それらを踏み越えた先に──ひとつの隊列が静かに浮かび上がっていた。

 

十数名の町人を囲むように進む、四人の輪郭。

 

剣を片手に先頭を行くのはセルピコ。

その背後に、ファルネーゼとキャスカが町人と歩幅を合わせるように続き、

最後尾には、シールケがイバレラを肩に寄せながら殿(しんがり)を務めている。

 

このなかに、今ガッツはいない。

だが、それには理由があった。

 

「すっかり目を離してしまいました。どこではぐれたんですかね?」

「わたしも……ついキャスカさんを見るので手一杯だったから……」

 

途中ではぐれたイシドロとパックを探すため、ガッツは現在、陣を離れている。

結界の維持に集中している今、シールケの念話とオド感知は消耗が大きい。

その結果、最も匂いに頼れるガッツが、不本意ながらも“捜索役”を引き受けることになった。

 

町人の案内の下、

目処が付き次第、この先の中心部で合流する手筈となっている。

 

「心配ですけど……今は先へ進みましょう。ここまでの道のりで、かなりの区画を制しましたし。きっとガッツさんが、無事に二人を見つけ出してくれます」

 

後方から、シールケがファルネーゼとセルピコに向けて静かに応えた。

 

唯一の懸念は、キャスカの無事の確保だ。

ガッツがいない今、彼女の安全は自分たちの腕に委ねられている。

もし不測の事態に遭遇すれば、戦力を総動員してでも守らなければならない。

 

もっとも、ガッツもそれを信頼したうえで、一行を速やかに離れていったのだが。

「よろしく頼む」──ただ、その一言を残して。

 

「……とりあえず、先を急ぎましょうか」

 

セルピコは剣を提げ、

わずかな物音にも即応できる姿勢を崩さぬまま、慎重に一行を導いていった。

 

 

──────

 

 

案内役の町人に導かれ、一行は最後の角を曲がる。

そして、幅広な石段を上りきった先に──ひときわ整った区画が姿を現した。

 

真っ先に目に飛び込んでくるのは、

整然と並ぶハーフティンバー様式の家々。

磨かれた木組み、白い漆喰の壁、細工の施された窓枠。

高く掲げられたランタンと、軒下に残る花の彩り。

どれも、先程まで歩んできた赤い屋根の居住区とは、明らかに趣を異にしていた。

 

「ここが……例の中心部の広場でしょうか?」

 

セルピコの低い問いに、町人の女が首を振った。

 

「いえ、ここは町の中でも裕福な人たちが暮らす区画です。こんな町でも、階級によって住める場所は決まっていて……まだ中に隠れている人がいるかもしれません」

 

一行は、恵まれた屋敷に囲まれた広場へと足を踏み入れる。

街路樹の緑と温かみのある建物様式──近くで見るほど、その穏やかな彩りのアクセントがより際立つ。下の居住区とは一線を画した壮麗な佇まいに、一同は目を引かれた。

 

だが──

 

その裏に潜む違和感は、即座にファルネーゼの口から零れ落ちる。

 

「……なんだか、やけに静かですね」

 

不気味なほど、何の気配も感じられない。

町並みの華やかさとは裏腹に、人の姿はひとつも見えない。

まるで、この一角だけが戦乱から切り離されたかのような、不自然な静けさ。

 

貴族たちはすでに逃げ去ったのだろうか。

あるいは、それすらも叶わなかったのか。

 

 

だが、なによりも不可解なのは──

 

 

セルピコが歩みを止める。

 

「実は、先程から……気になっていたのですが」

 

従者の含みのある言い方に、ファルネーゼが怪訝な顔を向ける。

 

「どうも妙です。町の中心に近づくにつれて、敵の数が“減っている”。

 それも、自然にではなく……意図的に削がれているような気がするのです」

 

確かに、先へ進むにつれて賊たちの数は明らかに少なくなっていた。

おかげで先の区画も制圧は容易だったが、入口付近にいた大群を思えば、どうにも腑に落ちない。

 

「先生の結界の効力ではないのですか?」

「……もちろん、それもあるでしょうが──」

 

「いいえ」

 

師の突然の否定に、ファルネーゼは思わず振り返った。

その指先が、陰の差す路地を指している。

 

そこには数人の賊の死骸が、無造作に転がっていた。

胴、首、腕──いずれも一太刀で断ち切られたような鋭い傷跡。

 

(……!?)

 

ファルネーゼは思わず口元を押さえた。

 

それは結界の衝撃でも、魔法の焼痕でもない。

紛れもなく──“刃”による殺戮の痕跡。

 

さらにその傍らでは、

獰猛な野獣に噛み砕かれたような死体までもが散らばっていた。

まるで巨大な狼か、それに類する魔獣の仕業のような──

 

シールケは、冷静に言葉を紡ぐ。

 

「彼らは幽世の魔獣のように、霊体に寄った存在ではありません。 こうした肉体を持つ存在──“魔に憑かれた人間”は、感受性が鈍く、結界の影響を受けにくい。 つまり……この結界では、すべてを防ぎ切れないんです」

 

もちろん幽世の念が濃い個体は消滅するが、効果には個体差がある。

今回の敵の性質を考えれば、結界をすり抜ける者が相当数存在していても不思議ではなかった。

 

シールケの説明に、ファルネーゼの表情が不安で揺れた。

 

「……と、いうことは……結界が効かなかった者たちは……」

 

イバレラも肩をすくめる。

 

「仲間割れってわけでもなさそうよね。そんな形跡も見当たらなかったし……

 なにより、不自然だわ。あんなにいた邪な気配が、こんなにスーッと消えるなんて」

 

ファルネーゼの胸にひとつの可能性が浮かび上がる。

 

自分たちでも、賊どもでもない、もうひとつの勢力。

圧倒的な力で敵を排除している者がいる。しかも、この短時間に相当の数を。

 

「で、でも……私たち以外に、誰がそんな──」

 

イバレラも首を振るばかりで答えを持たない。

 

「見る限り、軍兵…でもなさそうですね」

 

セルピコも敬遠せざるを得なかった。

軍が介入しているなら、もっと秩序だった動きが見えるはずだ。

 

ただ──

シールケにはひとつだけ思い当たる節があった。

 

(結界維持に集中していて、はっきりとは捉えられなかったけど……)

 

入り口付近で一瞬だけ感じた、異質な“波”。

炎のようでいて、ただの炎ではない──理を逸脱した力の爆ぜる気配。

 

「あの感触……まさかとは思いますが」

 

「先生、なにか心当たりでも?」

「唐突ですが、ファルネーゼさん。この者たちの倒され方……なにか、見覚えはありませんか?」

「倒され方……ですか?」

 

───もし、あの“力の根”そのものが、この町を訪れているのだとしたら。

その残り香を、いま確かに掬い取れるのは……彼女だけだ。

 

 

ファルネーゼが亡骸へ近づこうとした、

 

その瞬間──

 

 

「……うっ!」

 

キャスカが胸の烙印を押さえ、息を詰めた。

ファルネーゼが即座に足を止め、振り返る。

 

「キャスカさん!? ……どうし──」

「ファルネーゼ様!」

 

同時に、セルピコが風の揺らぎに反応する。

鋭い視線が、上方を射抜いた。

 

──!

 

高い位置に突き出したバルコニー。

その手すりの上に、黒い“何か”がひとつ、影のように張り付いていた。

輪郭は闇に溶けているのに、双眸だけが燐光を宿し、じっと一行を見下ろしている。

 

右へと視線をずらす。

別の屋敷のバルコニーにも、同じような黒い影が一体、柵から身を乗り出すように揺れていた。

 

左側でも、またひとつ。

 

「いつの間に……!」

 

気づけば──前方と左右。

三つの方向から、囲まれていた。

 

 

 

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