FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
一体いつからだろう……こんなにも誰かを、
心の底から守りたいと思うようになったのは。
ファルネーゼは石畳を打つ靴音だけを響かせ、ただ前へと駆けていた。
走りながら、意識は深い水底へ沈むように、自分自身の核心へと降りていく。
思い浮かぶのは、トロールの巣窟──
じめついた闇、蠢く幾多の邪の気配、背後で震えていたキャスカの温もり。
あのときの自分は、ただ必死だった。
守りたいという思いだけが、胸を突き動かしていた。
自分よりか弱く、そして無垢な存在を。
(あの時から、あの瞬間から……私の中の“何か”が変わり始めた)
聖都を離れ、聖鉄鎖騎士団を捨て、
外の世界で何もできずに膝を抱えていた自分。
そんな自分に、もしほんの少しでも誰かを守れる力があるのなら──
(もう失いたくない。守りたい。大切な存在を……)
息が荒く、胸が焼けるように痛い。
それでも脚は止まらなかった。
ただ、町の大通りを、小路を、水路沿いを、無我夢中で走り抜ける。
探していたはずのガッツの姿は、もうどこにもなかった。
気づけば、見えぬ何かを追い続けている自分がいた。
まるで──無力な自分が、まだ見ぬ“理想の自分”を追いかけるかのように。
(力が……私に、もう少し力があれば……!)
その時、背後から人影が迫る気配を感じた。
振り返ると、薄いローブをまとい、浅黒い肌をした見慣れた女性が必死で自分を追いかけてきている。
「キャスカさん!」
思わず立ち止まり、駆け寄って肩を掴む。
「どうしてついてきたの!?」
キャスカは首を傾げ、「おー」と言いながらわずかに表情を変えるだけ。
しかし、そんな様子も意に介さず、ファルネーゼは再び声を張り上げた。
「まだ敵が潜んでいるかもしれないのよ、危ないわ! はやくお師匠様のところへ戻って!」
「あーぃ」
「お願いだから……!」
「うぅーん」
必死の訴えも届かず。
何を伝えても返るのは、母音だけの言葉。
普段ならその無垢さに微笑むこともできたが、今は違った。
「──もうっ!」
声が震えた。
言葉にできない怒りと苛立ち。
どうしようもない焦燥の声。
思わず手を上げそうになる。
それでもキャスカは、澄んだ瞳でファルネーゼをじっと見つめていた。
その視線に、胸の奥の何かが崩れ落ちる。
気づけばキャスカの肩に触れた両手は完全に力が抜けていた。
次の瞬間──
大粒の涙が、頬を伝った。
キャスカが驚いたように目を見開く。
「……!」
稲妻のように甦る、心の奥底に眠った騎士時代のほんのわずかな記憶。
大切な存在が悲しむ顔。胸の奥で疼く痛み。
ファルネーゼの潤んだ瞳を静かに見つめるその目は、先ほどまでの純粋無垢なものとは違い、
明確な”色”を帯びていた。
突然、ファルネーゼの頭にキャスカの手がやさしく触れた。
そしてゆっくりと優しく包み込むように、上から下へと撫でていく。
無邪気に泣きわめく子どもをあやすかのような、慈悲に満ち溢れた、どこか母のような暖かさ。
彼女の本来の魂が、静かに、そして確かに悲しみに寄り添ってくれていた。
ファルネーゼは、その場でキャスカを抱きしめた。
震える手で、力いっぱい、必死に。
──私は……どうすればいいの……?
無力なまま、ガッツを見つけ出せないまま──
自分にできる唯一のことは、ただ、この腕の中にいる小さな存在を包み込むことだけだった。