FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
「おらっ、いっちょあがりー!」
少年の威勢のいいかけ声が、町角の広い通りに鋭く響く。
少し離れた場所では、黒い鎧の巨漢が無言で巨剣を振るっている──血と鉄の臭いが立ち込める通りで。
人知れず賊の残党を片付けているのは、ガッツとイシドロだった。
地面にはすでに何体もの死体が転がり、
サラマンデルの短剣が少年の気合いと呼応するように赤々と燃え上がる。
地道な討伐で家屋への脅威は減りつつあるものの、
まだ獲物を求めてうろつく影がちらほら──。
二人は後始末と称する、苛烈な掃除を続けていた。
空からは戦いがまだ終わっていないといわんばかりに、
四色の光がなおも降り注いでいる。
しかし、光を浴びながらも斬りかかってくる賊の姿が、
その加護の“不完全さ”を如実に物語っていた。
「なあ、あの魔女っ子、これ完璧じゃねーぞ」
イシドロは悪態をつきながらも、火薬玉を投げて敵の間合いを裂き、
素早くカトラスを抜く。
刃が閃くたび、短い悲鳴とともに賊の影が倒れていった。
「しゃーないって。百パー幽体じゃないと完全消滅は難しいんだよ」
パックがイシドロの頭上をひらひら飛びながら、
まるで講釈師のようにうんちくを並べる。
「そーいや、前にそんなこと言ってたっけな」
確かに、先の海辺でシールケが言っていた通りだ。
幽世の魔獣のように完全な幽体ならともかく、物質という皮膚に覆われた存在は、
霊的な結界の効果を鈍らせる。
結界の加護は光となって降り注ぐが、その効き目は敵の“質”によってまちまちだった。
「シュッ──」
イシドロのすぐそばで、ガッツの巨剣が唸りを上げる。
弧を描いたその一撃が、残党たちを粗末な軽鎧ごとまとめて斬り裂いた。
鮮血の飛沫が夜気に混じり、鈍い鉄の匂いが立ちこめる。
「ふい~…さすが! やっぱアンタの剣見てると、怖いもんなんか吹っ飛ぶぜ!」
イシドロは息をつきながらも、心の底で憧れを噛み締めていた。
町の片隅で震えていた自分が、今はその背中を追って剣を振るっている──そう思うだけで胸が熱くなる。
ガッツは剣を振り抜いたまま、こびりついた血を払うと、一息ついて低く問いかけた。
「……お前、どこほっつき歩いてやがった」
実際、二人はつい先ほど合流したばかりだった。
「いやいや、歩くも何もブルってあの場から一ミリも──むぐっ!」
パックの口を、イシドロが両手で慌てて塞ぐ。
「そ、そのな! 見晴らしのいい屋根から戦況を眺めてたんだよ! どこを真っ先に解放すべきかってさ! そ、それで町の様子を見てたら……たまたまアンタを見かけたってわけ!」
あまりに取り繕った説明に、パックは呆れ顔をしていたが、
ガッツは軽く鼻を鳴らして一言だけ返す。
「……まあ、いいけどよ」
「は、はは……」
それがどこまで本当で、どこからが体のいい誤魔化しなのかはわからない。
だが、減らず口を叩いていられるってことは、こいつはこいつなりの修羅場をくぐり抜けてきたってことだ。
なにより、五体満足でこうして目の前に突っ立っている──それ自体が何よりの証拠だった。
俺は俺なりに、イシドロはイシドロなりに。
それぞれのやり方で生き残ってきた。ただそれだけの話だ。
そして、おそらくこれからも、それは変わらない。
鼻をこすりながらニヤついて見せる少年の姿は、そのしぶとさも相まって、どこか頼もしくさえ見えた。
「あ──そういや」
胸をなで下ろしたのも束の間、イシドロは思い出したように声を上ずらせる。
「それはそうとさ、さっき怪しいヤツに会ったんだぜ。細目で陰気な野郎で、やたら礼儀正しくて……しかもこの俺に説教かましやがってさ──」
「おい、あれ……キャスカとファルねーちゃんじゃないか?」
今度はパックが、イシドロの言葉を遮る番だった。
エルフが指差した方向、住宅に囲まれた広い通りの十字路に見覚えのある二人の影が見える。
イシドロの視線を追った瞬間、ガッツの目が鋭く見開かれる。
間違いない。キャスカだ。
無事を確認して胸をなで下ろす──が、同時に違和感がよぎる。
(……二人だけ、か)
ファルネーゼが傍らで彼女をかばうように立っている。
だが、セルピコとシールケの姿は見えない。
結界が張られた今、散開して動く方が効率的だと、そう判断していた。
幸い敵の勢いも、シールケの予感ほどではなかった。
すぐに合流できる──そう踏んで、ふたりの護衛は預けていたのだが……。
「おーい! ねーちゃんたち! こっちこっちー!」
イシドロが大げさに腕を振り回しながら叫ぶ。
その声に気づき、ファルネーゼはキャスカの手を強く握り締めたまま、息を荒げて駆け寄ってきた。
「ガッツさん!」
掠れた呼び声。
その顔には、露骨な焦りと恐怖が張り付いており、今にも崩れ落ちそうなほど必死に何かを訴えようとしていた。
「セルピコが……お師匠様が──!」
その叫びは、場の空気を一瞬で凍てつかせるには十分だった。