FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
クライヴは床扉を開け、地上へと通じる煤けた階梯の前で立ち止まっていた。
光が差し込む、その一歩手前。
まだ暗がりが半身を覆うなか、深く息を吸い込み、胸の内へ沈んでいく。
「あんたならこんな時どうする? ……シド」
微かに差し込む外光を浴びながら、今は亡き友の言葉をふと思い起こす。
『身分も関係なく、誰もが人として死ねる世界を創りたい』
その言葉は今、自分たちが掲げている理念の礎となった標語だ。
“人が人として生きられる世界をつくる”という使命は、
まさにあの言葉に始まったのだ。
だが、
その理念を、単なる理想ではなく、戦い続ける覚悟へと変えた、
もうひとつの矜持があったことを、クライヴはいま静かに思い出す。
『誰かに強いられることなく、自分の意志で未来を選び取れ』
五年前のあの日──それは決意の日だった。
クリスタルの呪縛から人々を解き放つことを共に誓ったあのとき、
先の理念とともに、胸の奥底に深く刻んだ格言。
それこそが、
あの理念を、その実現のための戦いを、今日まで支えてきた。
……だが、今──その格言が問いかけてくる。
「おまえの“意志”とは、いまどこにあるのか」と。
クライヴは目を閉じる。
オスカーを追うこと、それが果たすべき責務であることはわかっている。
けれど、いま脳裏に浮かぶのは暗い地下に身を潜める町人たちの顔だった。
女子供、老人、怪我を負った男たち──
普通に生きることも、人として死ぬことも許されぬ者たちの、悲痛な目。
そして、いまもなお、その安寧は蹂躙され、慈悲なき殺戮が繰り返されている。
ならば、
“シド”として、
いま自分の意志で選び取るべき未来は──
「まだここを出るのは早い……か」
クライヴは腕をほどき、迷いを断ち切るように、視線を前へ向けた。
「いまは使命を果たす。この町を解放する」
「──それが、二代目としての俺の意志だ」
冷え切っていた胸の奥で、熱が強まっていくのを感じる。
喪失と徒労で半ば弱まりかけていた心が、再び燃え盛る業火を宿す。
「オスカー、すまない──だが、この戦いがすべて終わった後、必ずお前への足がかりを見つけて見せる。それまでの辛抱だ」
クライヴは階梯を上がり、外への扉を開けた。
暗がりに隠れていた体が、徐々に外の明かりに照らされていく。
天に瞬く四色の光が、新たな決意に満ちた身体を迎え入れていた。
「まずは、ジルと合流することが先決だな」
クライヴは向かうべき東の方角を見据えた。
あれから怒声は聞こえなくなったが、
きっと東の区画は彼女が解放してくれたのだろう。
敵の数が減ってきている今が好機。
再びトルガルを含めた三人で共闘すれば、完全な制圧とまではいかずとも、
この町に降りかかる悲劇は確実に減らせるはずだ。
「待たせたな、トルガル」
クライヴは、入口の外で見張りをしていたはずの相棒の名を呼ぶ。
視線の先には、いつものように勇ましく身をもたげる姿がそこにある筈だった。
しかし──
そこにトルガルの姿はなかった。
「……トルガル!?」
辺りを見回し、再びその名を叫ぶ。
だが、いつものように勇ましい吠声は返ってこない。
「トルガル、何処へ行った!?」
遠くの方まで視線を向けるが、やはりその姿はどこにも見当たらない。
白銀の毛並みを揺らす風も、足音も、いまやどこにも感じられなかった。
「まさか……お前まで」
無断で主人の側を離れる──そのようなことはこれまで一度もなかった。
あの地下にいる間、ほんの少しの間だ。
その間に一体何が……
──瞬間、
内に宿す“力”が疼いた。
「……っ!? なんだ……?」
突如身体が応える。
理由もなく力が高ぶる。
何かに呼ばれている気がする。
確かに、そう感じる。
だが、何かはわからない。
ただ、抑えていたはずの召喚獣の脈動が、静かに、ゆっくりと、
理性を蝕んでいくのを感じる。
それは、声のない響きであり、形を成さない共振だった。
血肉を求める亡魂の群れを、絶え間なく引き付ける呪われし運命への呼応。
「これは、この感覚は……!」
あのときと同じだ。
この地に辿り着く前、遊色の光の中で謎の声が響いてきたときに感じた力の高まり。
『使者…再ビ…彼の地へ…』
(……使者……?)
『ソシテ………カレラヲ……………』
(……彼ら……?)
謎の声が告げた言葉の意味は、いまだ掴めない。
だが──その答えが、この先にある気がする。
新たな決意を固めた炎の剣士のなかで、今、因果の輪が静かに回り始めていた。
「トルガル!?」
──聞こえる。
微かだが、確かに。
トルガルの吠声が。
向かっている。
“導き”の先へ──。
*
翔る、駆ける。
白銀が──光り輝く夜の帷を駆け抜ける。
四つの光、降り注ぎ五感を磨ぐ。
足音、影を裂き、爪が地を抉る。
主の温もり、まだ胸に残る。
だがいま、振り返らぬ。
耳の奥で、揺れる。
彼方より
いま誰かを蝕む、黒き呪詛。
魂を
されど、その奥に微かな灯。
絶望に揺れる、細き光。
闇に抗う、ひとすじの意志。
心引かれ、知らず足が前に出る。
風切り、運命の線が爪先を引く。
いつも守ってきた。牙で、心で。
けれど今日は──ただ呼ばれている。
光り輝く夜の帷を駆け抜ける。
毛並み逆立て夜露を散らす。
息熱く、心の臓が地を打つ。
路地縫い、広場駆け、賊の屍を跳ぶ。
呼び声が強まる。
禍が近づく。
脚はさらに速まる。
いまはただ、従おう。
どこまでも、地の果てまでも。
光り輝く夜の帷を駆け抜ける。
烙印を刻まれし者へ──
血に刻まれた痛みへ──
狼は天に向かい、高らかに吠ゆ。
望みのままに。
想いのままに。
夜を裂き、運命を越え──
ただ、前へ。