FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
薄暗い空模様の下───
クライヴは行方知らずとなったオスカーを見つけ出すため、
ジルとトルガルを伴い、今では属領となったロザリア北部に存在するフェニックスゲート跡地へと急いでいた。
ジルはクライヴからオスカー失踪の報せを聞くや否や、
抑えきれない焦りをあらわにし、むしろ率先して捜索へ身を投じていた。
それも当然かもしれない。
彼が隠れ家に無事身を寄せられたのも、ジルの柔らかな説得と温かな推薦があったからこそ。
彼女は、オスカーという真っ直ぐな心と揺るがぬ信念を認める数少ない理解者の一人だった。
そしてそれはまた、いまは亡きマードック将軍夫妻への、彼女なりの応えでもあったのだろう。
「ジル、すまなかったな。こんな大事のときに」
「いいのよ。それにしても驚いたわ。まさかあのオスカーが……何事もないといいけれど」
二人の会話の横では、賢狼トルガルがゆったりと歩調を合わせて歩いている。
不測の事態とはいえ、故郷の大地を悠々と進むその足取りは、家族揃っての帰郷を思わせる、ささやかな喜びを感じているかのようだ。
「どうやら俺たちが思う以上の行動派だったようだ。しかし、こんな一刻を争うというときに勝手なことを……!」
「クライヴ、あまりそんな風に言わないであげて。彼にも、私たちが知らないところで、何か思いつめた事情があったのかもしれない」
──なるほど。そうともとれる。
だが、いま心にあるのは奴が勝手に隠れ家を抜け出したことによる怒りではない。
「……」
「クライヴ……分かっているわ。貴方が他の誰よりもオスカーの身を案じていることを」
ロザリアの風に吹かれて揺れるジルの白銀の髪。
その凛とした姿には、彼女の慈しみと静かな決意が映し出されていた。
*
枯れた木々と荒れ果てた黒き大地を踏み越えて、
三人はようやくフェニックスゲート跡地に辿り着く。
城門を超えた先にあるその砦跡は、あの頃と変わらず、
時だけが静かに流れていた。
腐蝕した記憶の闇が、草地を踏みしめるたびに甦ってくる。
十八年前のあの日、“運命”は容赦なく三人の絆を引き裂き、血と炎で世界を塗り潰した。
その果てに、未熟な召喚獣同士が主の意思を超えて衝突し、すべてを灰色に変えた。
残されたのは瓦礫と屍、そして断ち切られた未来だけ──。
「また、ここに来ることになるなんて……。因縁というのかしら」
「ああ。あのときのこと、よく覚えているよ。すべてはここから始まったような気さえする」
己の未熟ゆえに崩壊させたはずの廃墟は、なおも深淵の真理を囁いていた。
ここはイフリートの力を手中に収めた場所。そして、真の運命が定められた原点でもある。
(もう二度と来ることはないと、そう思っていたんだが)
様々な思いが胸中で交錯するなか、三人は朽ちた城塞の廃墟を抜けていった。
だが、その道程で突如、視界が滲み、空気が一変したように重くなる。
砦の入口へと近づくごとに、異様な気配が肌を刺すように濃くなっていった。
──眼下には、石垣の隙間を埋め尽くすように青白い霧がどこまでも漂っている。
「ついにここも……か」
「もしやと思っていたけれど…一段とエーテルが濃いわね。でも、本当にオスカーはここにきたのかしら……」
この薄暗く不吉な空模様が広がって以来、各地で大地からエーテルが吸い上げられるように濃縮し、その結果、人や魔物が《アカシア化》する現象が蔓延している。
耐性のない普通の人間は、わずかな時間でさえ生命を脅かされる。
もしオスカーが本当にここに足を踏み入れていたのなら、数分と持たず危険な状態に陥るはずだ。
「オスカー……まさか飲み込まれていないだろうな」
クライヴが低く呟くと、ジルは決意を込めた声で応じた。
「ゲートの方まで行ってみましょう!」
たどり着いた先には、地下の古代遺跡に通じる暗い階段が、あの頃と同じように口を開けていた。
やはりというべきか、その下には、地上の何倍も濃厚なエーテルが漂っているのが感じられる。
常識で考えれば、こんなところに普通の人間が降りていくはずがない。
だが──
「……これは……」
地上に伸びた階段から地下通路にかけて、
エーテルが溜まった場所に裂け目が生じ、人が通れるほどの通路が生まれていた。
開いた先には、左右のエーテルが楔のように揺らめき、まるで誰かを招くかのようにその道を映し出している。
三人は慎重にその”通路”を通りながら、地下への階段を下っていく。
見ると、その先は、フェニックスの力を宿す者だけが入れるという《天啓の間》への門へと繋がっていた。
「……なんだこれは… エーテルが道を作っているのか?」
「まるで……私たちを通してくれているみたい」
こんな現象は始めてみる。
ドミナントである自分たちの存在が関係しているのか、
それとも何か外部からの影響なのか、その理由は定かではなかった。
だがどこか、目の前の現象が、自分の内に潜む“力”と呼応しているような、
奇妙な錯覚を覚えていた。
その時、トルガルが突如唸り声をあげ、牙を剥いた。
すぐ近くに漂う異様な気配を嗅ぎつけたらしい。
「クライヴ、あれを見て」
ジルはエーテルに囲まれた地下通路の先を指さした。
彼らの視線の先──ゲート前に、騎士見習いのものと思われる剣と、
見覚えのある腕輪が横たわっていた。
ジルの息が止まる。
灰の霧が、二つの遺品を包み込むように揺れた。