FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント―   作:ほろにが

40 / 84
勇気と無謀の境界

 

「デカブツは勘弁だが──こいつなら何とかなるか」

 

イシドロは目の前の黒い影のような敵を値踏みするように見た。

 

皮膚の内側で虫のように蠢く黒いオド。

二つの白い光点──あれが目だろう。

ただそこに立っているだけで、空気が黒く沈むような威圧感がある。

 

だが、もう一体の巨躯と比べれば小柄だ。

身丈も自分とさほど変わらない。

なにより、胴が妙に長く、足は短い。バランスの悪い体つき。

 

「チビのくせに胴長……こりゃ好都合だな」

 

唇の端に笑みを浮かべながら、心の中で勝利の筋書きを描く。

 

(槍はリーチ勝負。初手を躱して懐に潜りこめば──こっちのもんだ)

 

右手のカトラスを軽く回し、

次に左手のサラマンデルの短剣を握り直す。

 

(んでもって、すれ違いざまに脇下を切りつけて、振り向きざまにコイツを

 叩き込む………完璧だ!)

 

頭の中では、すでに勝利のポーズまで決まっていた。

だが仲間たちの視線は、どこか不安げだ。

 

パックが小さく眉をひそめる。

「……大丈夫か?あいつ」

 

ファルネーゼは祈るように両手を胸に置き、

キャスカだけが無邪気に「おーおー」と応援の声を上げていた。

 

そんな中、小柄な黒影が音もなく槍を構える。

だが、イシドロはその歩みの異様さに気づく。

 

(なんだぁ……? 変な歩き方しやがって)

 

相手は確かにこちらへ向かって武器を構えている。

だが視線は──背後のキャスカを射抜いていた。

 

狙いは自分ではない。

そう悟った瞬間、作戦図が吹き飛ぶ。

 

「ど──」

 

怒声と同時に地を蹴る。

 

「どこ見てやがらあッ!」

 

冷静さを欠いた突進。

本来ならば避けるべき愚行──だが、少年の心はすでに熱く燃えていた。

 

「ああっ!」

「バカ!むやみに突っ込むな!」

 

ファルネーゼもパックも声を上げる。

 

だが、少年の”思考”はむしろ澄んでいた。

 

敵から視線を外さない。

小柄な体と瞬発力を極限まで引き出す。

 

(サボってた分、身体が軽ぇ──今ならいける!)

 

ついさっきまで町の片隅で怯えていた面影は、

今や見る影もなく、イシドロの身体は戦場で冴えわたる。

 

しかし黒い小兵は、一切構えを崩さない。

その白い瞳がわずかに揺れた瞬間──

槍が風を裂いた。

 

(速──っ!)

 

イシドロは反射的に身を低くし、間一髪で突きをかわす。

足元を土煙が走り抜けた。

 

(よし、もらった!)

 

そのまま懐へ滑り込み、カトラスを閃かせる。

すれ違いざまの横薙ぎは確かに右脇を捉えた──はずだった。

 

だが次の瞬間、手ごたえが“抜けた”。

 

(……空振り?)

 

影の胴体が、まるで液体のように歪む。

斬撃を避けるために、姿勢はそのままに胴そのものを“ずらした”のだ。

 

(な──!?)

 

思考が一瞬、大きく遅れた。

 

背後から、黒い閃光が唸る。

二叉槍のもう一方の穂先。

 

その刃が、正確にイシドロの背へ向かっていた。

 

だがイシドロも反応は早い。

逆手の炎の短剣を、振り向きざまに叩き込む。

 

金属が激しく噛み合う。

火花と炎が爆ぜ、黒い異形が甲高い悲鳴を上げた。

 

パックが思わず叫ぶ。

「おおー!うまい (さすが我が門下生)」

 

炎が槍の穂先を舐め上げる。

火の元素霊サラマンデルは、まさに主の思惑通りに穂先を覆い、一気に柄全体を燃え上らせた。

 

 

(チッ、一瞬ヒヤっとしたぜ……けど、武器を壊しゃもうこっちのもんだ! この

 まま消し炭になりやが──)

 

 

──その直後だった。

 

黒影の右腕が薄黒い液体に変じ、丸く膨らんだ。

その異様なる変貌にイシドロの表情が一瞬固まる。

 

「……は?」

 

槍から離れた黒い球体が弾け、イシドロの顔面に勢いよく叩きつけられる。

凄まじい衝撃が頭を揺さぶり、視界が白く弾けた。

 

「ぐっ──ああぁっ!」

 

身体が宙を舞い、石畳を転がり続ける。

十歩以上も弾かれ、ようやく止まる。

 

だが、武器は飛び、片腕だけで身体を支えるのがやっとだ。

 

(くそっ……なんだ今の……)

 

意識が遠のく中、耳に仲間たちの声が届く。

 

「ドロ!」

「こっちに来る!キャスカさん、下がって!」

「あー……」

 

朦朧とする視界の先、

黒い影が静かに立ち上がり、白い瞳でキャスカを射抜くように見つめていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。