FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
「デカブツは勘弁だが──こいつなら何とかなるか」
イシドロは目の前の黒い影のような敵を値踏みするように見た。
皮膚の内側で虫のように蠢く黒いオド。
二つの白い光点──あれが目だろう。
ただそこに立っているだけで、空気が黒く沈むような威圧感がある。
だが、もう一体の巨躯と比べれば小柄だ。
身丈も自分とさほど変わらない。
なにより、胴が妙に長く、足は短い。バランスの悪い体つき。
「チビのくせに胴長……こりゃ好都合だな」
唇の端に笑みを浮かべながら、心の中で勝利の筋書きを描く。
(槍はリーチ勝負。初手を躱して懐に潜りこめば──こっちのもんだ)
右手のカトラスを軽く回し、
次に左手のサラマンデルの短剣を握り直す。
(んでもって、すれ違いざまに脇下を切りつけて、振り向きざまにコイツを
叩き込む………完璧だ!)
頭の中では、すでに勝利のポーズまで決まっていた。
だが仲間たちの視線は、どこか不安げだ。
パックが小さく眉をひそめる。
「……大丈夫か?あいつ」
ファルネーゼは祈るように両手を胸に置き、
キャスカだけが無邪気に「おーおー」と応援の声を上げていた。
そんな中、小柄な黒影が音もなく槍を構える。
だが、イシドロはその歩みの異様さに気づく。
(なんだぁ……? 変な歩き方しやがって)
相手は確かにこちらへ向かって武器を構えている。
だが視線は──背後のキャスカを射抜いていた。
狙いは自分ではない。
そう悟った瞬間、作戦図が吹き飛ぶ。
「ど──」
怒声と同時に地を蹴る。
「どこ見てやがらあッ!」
冷静さを欠いた突進。
本来ならば避けるべき愚行──だが、少年の心はすでに熱く燃えていた。
「ああっ!」
「バカ!むやみに突っ込むな!」
ファルネーゼもパックも声を上げる。
だが、少年の”思考”はむしろ澄んでいた。
敵から視線を外さない。
小柄な体と瞬発力を極限まで引き出す。
(サボってた分、身体が軽ぇ──今ならいける!)
ついさっきまで町の片隅で怯えていた面影は、
今や見る影もなく、イシドロの身体は戦場で冴えわたる。
しかし黒い小兵は、一切構えを崩さない。
その白い瞳がわずかに揺れた瞬間──
槍が風を裂いた。
(速──っ!)
イシドロは反射的に身を低くし、間一髪で突きをかわす。
足元を土煙が走り抜けた。
(よし、もらった!)
そのまま懐へ滑り込み、カトラスを閃かせる。
すれ違いざまの横薙ぎは確かに右脇を捉えた──はずだった。
だが次の瞬間、手ごたえが“抜けた”。
(……空振り?)
影の胴体が、まるで液体のように歪む。
斬撃を避けるために、姿勢はそのままに胴そのものを“ずらした”のだ。
(な──!?)
思考が一瞬、大きく遅れた。
背後から、黒い閃光が唸る。
二叉槍のもう一方の穂先。
その刃が、正確にイシドロの背へ向かっていた。
だがイシドロも反応は早い。
逆手の炎の短剣を、振り向きざまに叩き込む。
金属が激しく噛み合う。
火花と炎が爆ぜ、黒い異形が甲高い悲鳴を上げた。
パックが思わず叫ぶ。
「おおー!うまい (さすが我が門下生)」
炎が槍の穂先を舐め上げる。
火の元素霊サラマンデルは、まさに主の思惑通りに穂先を覆い、一気に柄全体を燃え上らせた。
(チッ、一瞬ヒヤっとしたぜ……けど、武器を壊しゃもうこっちのもんだ! この
まま消し炭になりやが──)
──その直後だった。
黒影の右腕が薄黒い液体に変じ、丸く膨らんだ。
その異様なる変貌にイシドロの表情が一瞬固まる。
「……は?」
槍から離れた黒い球体が弾け、イシドロの顔面に勢いよく叩きつけられる。
凄まじい衝撃が頭を揺さぶり、視界が白く弾けた。
「ぐっ──ああぁっ!」
身体が宙を舞い、石畳を転がり続ける。
十歩以上も弾かれ、ようやく止まる。
だが、武器は飛び、片腕だけで身体を支えるのがやっとだ。
(くそっ……なんだ今の……)
意識が遠のく中、耳に仲間たちの声が届く。
「ドロ!」
「こっちに来る!キャスカさん、下がって!」
「あー……」
朦朧とする視界の先、
黒い影が静かに立ち上がり、白い瞳でキャスカを射抜くように見つめていた。