FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
白銀の
獲物から牙を離すと、ゆっくりと首をもたげた。
倒れ伏した黒影の傍で、威厳に満ちた吠声が天を衝く。
その低い唸りは大気を震わせ、凛とした佇まいは、
遠い神代の記憶が現れ出したかのようで、どこか神聖な冷気をまとっていた。
空気が張りつめ、世界の音が一瞬消える。
出来事の速さに、周囲の理解は追いつかなかった。
(なんだ、あのバカでっけぇ犬は……どっから出てきやがった?)
朦朧としていた意識が、イシドロの中で急に冴えわたる。
視界が鮮烈に開き、口を衝くのは驚愕だけだ。
間近にいるパックは、目の前の狼をただ見据える。
不意に脳裏をよぎる既視感──その気配は身体が覚えているものだった。
(この獣、間違いない。あの時に感じた力の一端だ……でもどうして──)
パックにとって、それは未知の存在でありながらも馴染み深い、奇妙な感覚だった。
人の姿ではなく、獣の形である存在に心を奪われたのは、この世界で初めてのことだった。
一方、
ガッツは両手で剣を握りしめたまま、声もなく静かに立ち尽くす。
「………」
状況が「ただの怪物同士の争い」なのか、それとも別の意志の介在なのか──判断がつかない。
胸の中で疑念と畏怖がせめぎ合う。
そのとき、
キャスカが赤子のようにひたひたと大狼に向かって歩み寄った。
「キャスカさん…?」
「お、おい、キャスカねーちゃん …」
地面に手をつき、ゆっくりと、だがためらいはない。
その小さな動きは、恐怖とは無縁だった。
澄んだ瞳で大狼を見据えるその様子は、四色に光る空と相まってどこか神々しさを帯びている。
「だー、だー」
麗らかな声で大狼を見つめるキャスカ。
そして、大狼も小さく唸りながらその眼差しを、静かに受け止めている。
まるで以前から互いの存在を知っているかのように。
「どーなってんだ?・・・・・・一体」
イシドロたちの声は浮くように遠く、二人だけの空間がそこに広がっているように見えた。
しかし──ガッツの黒い視界に映る景色は、誰のものとも違っていた。
キャスカの前で低く唸る狼の姿。
それは、あの夢魔に幾度も見せられた悪夢を連想させた。
胸の奥で蠢く黒い魔獣の影。
血の匂いに反応し、復讐だけを求めて暴れる炎。
それは狂戦士の甲冑に身を包む以前──黒き太陽の下で焼き付けられた彼の悪夢であり、
何度塗りつぶしても消えない、どす黒い衝動そのものだった。
失えば終わる。だから奪われてはならない。
それは──復讐のために必要なもの。
(キャスカ……)
──ドクン
再び内側から激情がせり上がってくる。
甲冑の浸食は止めたはずだった。
確かにこの手で、自分の意志で食い止めた──そう、思っていた。
しかし、それとは無関係に復讐と喪失の恐怖が、心の底で煮えたぎり、半身を黒一色に染めていく。
そして──
夢に聞いたあの声が、また精神の深奥へと食い込んできた。
さっきより鮮明に、生々しく。
『──この女は生贄。鷹を堕とすための贄だ……傷つけてやろう……引き裂いてやろう………そして失うんだ』
ガッツの身体が激しく震える。
呼吸は不規則になり、剣を握る感触すらぼやけていく。
その声は、自分の真の望みを映し出したかのような、ざらついた囁きとして迫る。
『そうすればお前はさらに強くなれる』
ガッツの内側で何かが蠢き、牙を剥き出しにした。
狂戦士の甲冑は、沈黙したままだ。
だが呪いは、まるで形を変えたかのように、身体の奥から憎悪を噴き上げさせる。
(……れろ)
ガッツは振り払うように剣柄へ指を食い込ませ──
獣じみた咆哮を夜気へ叩きつけた。
「離れろ!!」
黒い外套を勢いよく翻し、重心を前に乗せて一気に踏み込む。
──己の悪夢と、その奥に巣食う狂気を、この手で断ち切るために。