FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
鋭く交錯する二つの刃。
ガッツは片足を引き、獣のような唸りと共に踏み込んだ。
「死ねっ──!」
刹那、
──ドクン
首の烙印が弾けるように疼いた。
「……がッ!?」
踏み込んだ足が宙で止まり、
直後、首の後ろから焼けつく熱が噴き上がる。
(なんだ……?)
首筋から全身へ。 灼けるような熱が一直線に走る。
火柱が──いや、炎そのものが体の内側を突き抜けていく。
容赦ない波動が、肉を、骨を、血を打ち抜く。
(……なんだ……これは…………炎!?)
だが、違う。
あの黒い闇の炎とは──まるで違う。
禍々しい呪いではない。これは、何かを浄化するような──
赤橙の、眩い光。
“烈日”だ。
夜闇を退ける、暁の閃光。
(……ッ!……剥がれる……!?)
胸の奥で、何かが暴れた。
魔獣が──あの黒い獣が、皮を剥がされるように吠えている。
長く、あまりにも長く覆っていた黒いぬめりが、その光に炙られ、削がれ、
削ぎ落とされていく。
(クソッ……何が起きてやがる……!)
次の瞬間、熱と痛みが頂点に達した。
狂気そのものを裏返すような激痛。
首の烙印を核に、全身を駆け巡る。
「う、お……おおおおォ……!」
意識が白く弾けかける。
だが、不思議なことに──
意識は落ちない。
むしろ、研ぎ澄まされていく。
余計な雑音が削ぎ落とされ、世界が異様なほど明瞭になる。
黒い渦が──消えていく。
あの忌々しい声が──遠ざかっていく。
──やがて
熱は、潮が引くように静まり、
痛みもまた、嘘のように遠のいていった。
ハァッハァッ…ハァッ……ハァッ
ハァ…ハァ…ハ……ァ………
…………
荒い息が少しずつ収まっていく。
そして、最後には冷たく、短い、小さな“一呼吸”に変わった。
気づけば──
先ほどまでの黒い衝動は、霧のように後退している。
代わりに、冷汗が背を伝い、 火傷の残響を鎮めるように肌を滑り落ちていた。
「………」
残ったのは──
皮膚の下から沁み上がってくる、生々しい“自分”の輪郭。
熱さも痛みも、いまはどこにもない。
戦いの果てに、思いがけず覗いた一片の青空のような、
冴えた爽快感が全身を包み込む。
──わかる。
──そして、感じる。
露わになった剥き出しの己の本性。
そして、それがもたらす、甘美で、危うい陶酔を。
*
直後、視界が澄み渡った。
黒が消え、色が戻る。
(ああ……)
身体が暖かい。
還ってくる。
熱い血潮が。
──再び我が肉体へと。
(俺は……)
ガッツは思わず片目を見開き、宙を仰いだ。
目に映るのは、四つのオーロラの如き神秘的な光。
聞こえるのは、どこか遠くで自分の名を呼ぶ悲痛な声。
手に感じるのは、信じられる確かな重み。
そして、
いま目の前にいるのは───
(──そうだ。俺は……)
いまハッキリとわかった。
なぜかわからないが、どういうわけか、
“奴”の気配が消えた。
脳裏にあった狂気の靄は何処へ。
己を飲み込もうとしていた魔獣は、静かにその牙を引いていた。
そしていま──
光が影を払いのける中、
目の前に立つ剣士の輪郭が、鮮明に浮かび上がる。
………………
………
──そうだったな
ガッツは一度、深く目を閉じた。
巨剣の切っ先を地に下ろす。
金属が石を削る音。
そして次の瞬間──目を開き、剣を勢いよく後ろに構え直す。
「……待たせたな」
声は驚くほど落ち着いていた。
「ちっとばかり……古傷が疼いちまったみてぇだ」
対する剣士は、ガッツの変貌ぶりを眼の色で察したのか、
剣の角度をわずかに変える。
「……なるほど、どうやら──」
そして手にしていた長剣を斜めに振り払い、力強く足を踏みしめた。
「ここからが本番というわけか!」
──始まる。
二人の目に迷いや躊躇はない。
幾度も死線を越え、戦場で己を研ぎ澄ませてきた者だけが放つ気配を、互いが感じていた。
「久しぶりに楽しい戦いだったぜ」
「ただ──時間がねぇんでな」
後ろに引かれた巨剣が僅かに動く。
「次で決めさせてもらう」
対する剣士は短く応じた。
「……いいだろう」
「やってみろ。できるものならな」
狂気を超え、真の自己が目を覚ます。
その先にあるのは、紛うことなき真剣勝負の剣戟。
剣は剣で、魂は魂で──
それぞれの誇りが、灼熱の閃光となってぶつかり合う。