FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
巨剣が風を切り、紅蓮の刃が火花を散らす──。
鋭い金属音と風切りが重なり合い、雷鳴のような閃光が奔った。
粉塵が舞い、崩れた石壁が砕け、破片が宙を飛ぶ。
風そのものが衝撃波と化し、肌を裂くほどの痛みを伴って押し寄せてくる。
「──ッ、ここはやべぇ! 退がるぞ!」
イシドロの叫びが轟音の中でかき消されそうになる。
「ちくしょう、なんて闘いだよ!」
「急げ!ドロ」
息をつく間もなく、少年とエルフは駆け出した。
パックは風に煽られながらも、イシドロの肩にしがみつき、前方の並木通りを指差す。
「あっち! ファルねーちゃんたち、あっちに逃げてる!」
石畳を蹴る足音と、刃鳴りが交錯する。
世界の音がすべて消え去ったかのように、ただ鉄の悲鳴だけが響き渡る。
その背後で、パックは思わず振り返った。
粉塵の帳の向こう。
ガッツの前に立つ、紅炎を帯びたようなもう一人の剣士。
(……あれが)
──あの村で感じた、理解を拒むほどの“異質な力”。
この町の入口で、肌を焼いた“熱”。
そして今、それが確かに姿を持ち、現実に存在している。
「……あれが……あの時、感じた“力”の正体──」
だが、その力から感じ取れるオドは、あのとき垣間見た獄炎の化身とは全く異なもの。いや、むしろ明確なる意思を宿した炎といってよかった。
あれは、抑えきれない怒りと哀しみを胸に、なおも人々を守ろうとする、苦悶の神獣の叫びだったのだろうか。
──瞬間、風が唸りを上げた。
瓦礫を押し流すような衝撃が大地を走り、破片が視界を覆う。
「おい、パック! 早く来い!」
「……うん」
名残惜しげに、もう一度だけ振り返る。
それはもはや“戦い”の域ではなかった。
世界の理をも引き裂く、魂と魂の激突。
──存在そのものを懸けた、ふたりの“生きる証”だった。
*
粉塵が遠くへ流れ、街路樹が連なる通りの影へと身を潜める。
イシドロとパックは息を荒げながら壁際に滑り込み、目の前にいたファルネーゼとキャスカの姿を認めた。
「お、おい! 二人とも無事か!?」
「……ええ、なんとか……」
ファルネーゼはキャスカの手を握りしめ、震える指先でその掌を包み込んでいる。キャスカも飛ばされ、地面に身体を打ち付けたが、幸い軽傷だったようだ。
「……危ねぇところだった……! あとほんの少し遅れてたらヤバかったぜ!」
とっさの判断により、巻き込まれはなんとか避けられた。
──だが、
「ガッツ…!」
四人の視線はすぐに遠くへと引き寄せられた。
紅と黒───二筋の閃光が互いにぶつかり合い、石畳をえぐり、大気を斬り裂く。
“本物の剣士同士の戦い”
イシドロは生まれて初めて、それを目にしているのかもしれない。
距離を置いていても伝わる緊張と圧。
目では追えない斬撃。
それはもはや剣戟というより、存在そのものの衝突といってよかった。
「……す、すげえ光景だぜ……」
「あのガッツと互角に打ち合ってる…信じられない」
炎のような剣圧がガッツを押し返すたび、胸の奥がざわつく。
「あ、あいつ……いったいナニモンなんだ? っていうか……これ、決着つくのかよ……?」
誰も答えない。答えられない。
剣戟音だけが、絶え間なく響き続けている。
(まずいな……)
遠くの危機が再びパックの胸を締めつける。
(こうしている間にも、ピコりんとシールケたちが……!)
まだ二人の気配は感じられる。
だが、急がなければ間に合わないのは直感していた。
オレたちだけでも行くか──そう思い立ち、イシドロを見たが、
あっけに取られたような顔であんぐりと口を開けているだけ。
(ダメだ……連れてっても足手まといだ……)
諦念が滲み、パックは羽を下ろした。
──そのとき、不意に横で囁く声。
「……あの方……」
イシドロとパックが振り向く。
見ると、ファルネーゼがぼんやりと戦場の方向を見つめていた。
「ん………なんか言った?」
「ファルねーちゃん?」
その声は震えてはいたが、恐怖とは違う色を帯びていた。
そして、その瞳はまっすぐに見開かれ、確かな意思を宿している。
ファルネーゼの目に映っているのは、ただの戦いではなかった。
蘇るあの村での記憶──
闇に沈み、絶望の底で見た“照らす光”。
自らの心を焼くほどの烈火。
それは慈悲ではなく、清めるような怒りの炎だった。
「……あの方です」
ファルネーゼは小さく息を吸い、言葉を継ぐ。
「……あの村で……キャスカさんと私を救ってくださった……」
戦場の轟音の中にあっても確かに届く声。
遠くで燃え上がる紅蓮の残像が、彼女の頬を照らした。