FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント―   作:ほろにが

48 / 84
戦い② 炎は誰がために

 

 

激しい剣戟が、炎の光とともに夜気を裂く。

 

クライヴはその重圧に身を焼かれながらも、相手の気配の変化をはっきりと感じ取っていた。

 

(……変わった)

 

刃を受け止め、躱し、弾き返す。


先ほどまでの荒れ狂うような殺気が消えている。



 

代わりに──
研ぎ澄まされた刃が、静かに、しかし確実に迫ってくる。

 

(冷静さを取り戻したのか……いや──)

 

一撃ごとに無駄が削ぎ落とされている。

呼吸すらも計算に入れたような、過不足のない剣。

 

(これが……本来の姿か)

 

縦横無尽に襲いかかる“静”の殺意。


それは、召喚獣の力を宿す異能者でさえ、真正面から受ければ足を止めざるを得ないほどの、凍てつく剣意だった。

 



(さっきよりも、今のほうが遥かに──!)


 

鉄塊の巨剣が迫る。


長剣で受け止める── 骨の奥まで震えるような衝撃。


まるで大砲の直撃だ。

 

そして、その獲物を軽々と振るう膂力。

 



(……人とは思えない。一体この力は……)

 

人間とも、魔物とも──ドミナントとも異なる、得体の知れない“念”の強さ。


 

ただ重いだけではない。

ただ速いだけでもない。

斬撃そのものに、何かが“乗っている”。

 


──直後

その軌跡からクライヴは気づいた。


剣を振るうたびに、虚空に残る残光の存在に。


 

(この剣……ただの鉄塊じゃないな。何かを纏っている)

 

刃を受けた瞬間、腕を伝ってくるのは質量だけではなかった。


何かが、流れ込んでくる。

 

(……闘気? いや、違う)

 

澱んでいる。
重く、粘つくような“何か”。

 

それは熱ではなく、冷えでもない。


だが確かに、魂の奥を掻き毟る感触だけがある。

 

(これは──)

 

理解した瞬間、背筋が軋んだ。

 

 

──怨念だ。

 

 

幾多の人ならざる者を屠ってきた巨剣。

夥しい量の返り血と、邪念を浴び続けたが故に纏いつく墨色の妖気。

 

そのすべてが、刃に沈殿している。

黒く、濁りきったまま、なお生きているかのように。

 

終わりなき闇を携えた一撃必殺の太刀──それはまさに、

 

 

(……似ている。あの男に)

 


一点の曇りもない純粋な強さ。

一撃にこもる、凄絶な執念。

だが、この男から漂うそれはどこか違う。

 


《斬鉄剣》のような死の陰を引く気配ではない。


もっと原始的な、生々しく、重く、叩き潰すような物理の極致。

 

叩き斬ると決めたものを、必ず叩き斬る。

それだけで成立しているような、剥き出しの暴力。

 

刃を受けた瞬間に心魂まで響く感覚──それが、この男のすべてを物語っていた。

 

 

──闇をもって闇を断つ、か。

 

 

この地に足を踏み入れた時点で、

何かが歪んでいることは理解していた。

 

地の底から聞こえる怨嗟の声。

木々の間から浮かぶ破滅の影。

そして──どこまでも広がる空虚な大地。

 

逃げ場など、最初から存在しない。

 

ここがヴァリスゼアの最果てだろうと、そうでなかろうと──自分たちが辿り着く先はいつも同じだ。

 

だからだろうか。

 

この光景に見覚えはあっても、心は微塵も揺らがなかった。

 

《黒の一帯》──

 

大地そのものが呪詛に侵され、あらゆる存在を寄せ付けない領域。

風は腐臭を孕み、影さえも喰らい尽くす闇が、脈打つように満ちている。

だが、それはあの地にのみ現れる特異ではない。

姿を変え、在り方を変えながら、あらゆる世界に滲み出る“歪み”のひとつ。

 

どこにでもある、“世界の形”なのだ。

 

──だが。

この男だけは、違う。

 

(一体何が、お前をここまでさせた?)

 

世界か。

それとも──

 

(この男自身か)

 

この世の禍と悲劇を凝縮したかのような鉄塊が、黒く冷たい妖光を滲ませながら、ゆらりと持ち上がる。

 

──次の瞬間、

それは宙にあるクライヴめがけて振り上げられていた。

 

狙いは明確だった。

巨剣が体を掠める、寸前。

 

(──ここだ!)


 

ガラスが砕けるような衝撃音。

空中で振り払いを返し、巨躯が揺らぐ。


その後の一閃は確実に相手の左肩を捉えていた、しかし──

 

受け止められた。

それも剣ではなく、腕で。

 

耳に響いたのは、金属とも肉ともつかぬ硬質な音。

 


(……鋼鉄の腕!?)

 

防具の小手でないことはすぐに察した。

そして── その感触が語る、異様な耐久と殺傷力も。

 

(迂闊に踏み込むな、ということか)

 


だが相手は後退している。

好機──続けざま、基本の四連撃を素早く叩き込む。


三撃目までは受けられたが、渾身の最後の一閃で相手は大きく後退。

 

「──よし!」

 

だがその直後、構えを戻すよりも早く──

 

黒い剣士は一気に踏み込んできた。


まるで機を見据えていたかのように。

 

(何て奴だ……あんな超重兵器を抱えたまま!)

 

容赦のない打ち下ろしがくる。


見切りは容易だった──が。


刃はわずかに左へ流れたかと思うと、そのまま躊躇なく横薙ぎへと繋がってくる。

 

(なに……!?)

 

十分に退いたつもりでいたクライヴの右肩を、巨剣の先端はなお余裕をもって掠めていた。

 

クライヴは足運びを殺して全力で受け止める。



だが──

 

伝説の刀身が弾かれる。

重心が、崩れる。

 

(しまった……!)

 


男の片目が冷徹に光る。

獲物を逃さぬ猛獣の眼。


 

刹那──

巨剣が落雷のごとく振り下ろされた。

 


──速い!


 

回避が間に合わない。

咄嗟に剣の腹を突き出す。

轟音とともに大地が裂け、火の粉が弾けた。


クライヴは衝撃に押され、大きく後退する。

 


(くっ……まずいな!)


 

ラグナロクの刃をも軋ませる、渾身の一撃。

だが男は、まだ足りぬとでも言うように、あらゆる角度から黒鉄の塊を振り下ろしてくる。



 

一撃。



 

二撃。



 

三撃。



 

……

 



巨剣が縦に、横に、斜めに──
畳みかけるように振り下ろされ、

闇の残光がその軌跡を追う。

 



何撃、受け止めただろうか。


 

今はただ、この剣の頑強さに感謝するしかなかった。

 



(だが、どうする……このままでは……!)

 

揺れる炎の剣越しに、男と目が合う。


鋭い片目が、闇を裂く稲妻のように光っている。

 

だが、気のせいか。

 

男の剣筋からは、先程までの研ぎ澄まされた気が感じられなくなっていた。

猛攻と威力は微塵も変化していないのだが、その一撃一撃からはどこか迷いのようなものが滲んでいる。

 

炎に照らされた男の顔。

さっきとは目つきが違う。

 

(なんだ? ……俺に何を見ている?)

 

憎しみか、憧れか。

それとも──そのあわいにある、言葉にならない何かか。

 

次の瞬間、殺意に満ちた巨刃が、

一寸の狂いもなく首めがけて振り払われる。

 

(──くるか!)

 

視界を覆うほどの大振り。

乱撃の流れを断ち切る、唯一の隙。

 

抜けるなら今──。

 

だが、

 

刃が迫る、その刹那──

胸の奥で、何かが脈打った。

 

『乱…シ秩序……復せん』

『使者…再ビ…彼の地へ…』

 

あの幻惑の中の言葉が再び脳裏をよぎる。

 

意図したわけではない。

呼び起こそうとしたわけでもない。

 

"それ"は、気づく間もなく溢れ出していた。

 

──ッ

 

異質だった。

自分の意志から生まれた炎ではない。

もっと深い、根の部分から──何かが目を覚ましたような。

 

気づけば紅蓮の双翼が展き、内に宿る"力"が唸りを上げる。

 

「──ぬおぉ!」

 

轟音。

熱波。

炎の渦が黒き剣士を包み、粉塵と火の粉が舞い上がった。

 

 

──やがて、静寂。

 

炎の余熱だけが、空気の中に溶け残っていた。

 

「フウゥゥー……」

 

男は膝をついている。

 

粉塵と煙の向こう、巨剣を地に突き立て、その柄を握りしめたまま──それでも、倒れない。

 

クライヴは一歩も動かなかった。

 

(……今のは)

 

胸の奥にまだ、見知らぬ殺意の残滓が燻っている。

自分のものとは思えない、冷たく鋭い感触。

それが何なのか、今は分からなかった。

 

ただ──

視線が、膝をついた男の顔へと落ちた。

 

荒い息。

滴る汗。

傷だらけの躯。

それでも、前だけを見据える、その片眼。

 

この男のことは何も知らない。

だが、踠き、地の底を這いずり回るようなその目だけは、誰よりもよく知っていた。

 

(……お前は、何を背負っている)

 

答えを求めた問いではなかった。

ただ、その言葉だけが、

静かに胸の中で燃えていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。