FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
天啓の間の門の手前、静寂の中に横たわる一本の剣と、一つの腕輪。
その装備に、クライヴもジルも見覚えがあった。
周囲に濃いエーテルが幻想的に立ち込める中、二人はトルガルを先頭に、
急ぎ門の前まで駆け寄った。
クライヴが剣を拾い上げ、刃に指を滑らせる。
「これは……オスカーの剣……!?」
ジルもそっと腕輪を手に取り、震える声で呟いた。
「この腕輪も……!」
ここに至るまで抱いていた疑念が確信に変わった。
「オットーが言っていたことは、どうやら間違いなさそうだ」
「でも……どうして剣と腕輪だけ…彼はどこにいったの?」
答えの見えぬ疑問が二人を立たせ、言葉も途切れがちになる。
ここで何があった?──見たところ争った跡はない。
むしろ下手に動き回れば濃いエーテルによって、あっという間にアカシア化してしまう。
だがそんな様子も感じ取れなかった。
考えたくもないが──仮に彼がこの濃厚な生命の奔流に呑まれ、“人ならざるもの”へと変じたとしても、生前の気配くらいは察せる自信があった。
クライヴがオスカーの剣を手に取って低く呟く。
「きっと……オスカーは俺たちと同じように地下へ降り、このゲートまで辿り着いたんだ。そのときには、すでにこのエーテルの裂け目が生じていたんだろう」
「だからここまで来れたのね。でも……なぜ、どうしてオスカーがこんなところまで?」
“何かに取り憑かれたように”──
あの言葉がここに来てようやく現実味を帯びてきた。
オスカーはここに至るまでの間、はたして自己を保っていたのだろうか。
そもそも剣や腕輪の配置も妙だ。
落としたというより“置かれた”状態に近い。
一連の動きを想定すれば、ここで何らかの意志が働いたのは明確だろう。
やはりこの夥しい量のエーテルが関係しているのか。
いずれにせよ、選択肢はそれほど多くはない。
「おい、オスカーッ! いたら返事をしろ!」
だが、廃墟に声を張り上げても、石壁に反響する虚しい声が返ってくるばかり。
その呼び声に唯一応えたのは、揺らめく青霧の影だけだった。
「くそっ…来るのが遅かったのか」
「おそらくここで……彼の身に”何か”があったのね」
オスカーがここに来たのは二、三日前。
だとすると、彼はその間丸腰で何処を彷徨い続けていることになる。
もし無事にここから脱出できているとしても、いまの世は生半可な覚悟で優雅に国を渡れるほど、穏やかな時世ではないのだ。
胸のざわめきが治まらない。
だが、そんななか、トルガルがゲートへと素早く歩み寄っていた。
どうやら、その鋭い嗅覚でまた何かを感じ取ったようだ。
「どうした!? トルガル」
トルガルは短く吠え返す──クライヴもよく知る“見つけた”という合図だった。
クライヴは身を乗り出し、門の奥を凝視した。
すると、確かに門の向こう側に微かな気配が感じ取れる。
「この門の向こうにいるというのか?…いや、そんなはずは…」
この門を開ける資格を持つのは、フェニックスの力を有する者──
すなわち、ジョシュアか自分だけのはず。
ならば、オスカーが通れるはずがない。
──!?
そのとき、クライヴの視線が門の中心部にとまった。
光が、かすかに瞬いている。
「……これは?」
門の中央に、虹色の輝きを放つ小さな石が埋め込まれていた。
遊色効果──見る角度によって色を変える、まるで生き物のような石。
「こんなもの、前はなかったはずだが……」
初めて目にする。まるで伝説上の宝石を思わせるかのような輝き。
暗い地下で静かに瞬くそれは、クライヴの瞳には特異な光に映る。
ジルもその神秘的な輝きを見つめ、そっと手をかざして感触を確かめた。
「綺麗な石ね。まるで、ずっと以前からここにあったような…」
謎が謎を呼んだ。
エーテルの通り道、オスカーの失踪、そしてこの埋め込まれた不思議な石。
すべては偶然なのか、それとも一本の線で繋がっているのか。
二人が思案に沈んだその刹那──
石が、周りのエーテルを吸い、不気味な鼓動を始めた。
脈打つように淡い光が波紋を広げ、刻まれた紋様が生き物のように蠢く。
そして、虹色の光が溢れ出し、薄暗い地下全体を包み込んだ。
ジルは慌てて手を離す。
指先をかすめた光が、万華鏡のように瞳の奥に絶え間なく流れ込んできた。
「……なに、この光は……!?」
それは、回転しながら様々な色を投げていた。
大きいのは橙と黄に、小さいのは白と黒に、極小のは緑と赤に。
無数の彩が光の嵐を吸収しながら地下を照らしていく。
それは、この世界の光とは異なる性質のもの。
見た者の意識を深く、静かに誘い込む──“