FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
敵の変則的な動きに対処しながらも、セルピコは、再び先ほどの感覚を頼りに斬撃を放つ。
攻撃が来る──その一瞬の硬直を狙って。
(目が慣れてきた───今度こそ)
しかし、結果は同じだった。
狙いを定めても、刃は身を裂かず、敵はわずかによろめくだけ。
その直後には、容赦のない一撃が反射のように返ってくる。
(だめか……!)
敵の攻撃を紙一重でかわしながら、セルピコは確かな“異変”を感じ取っていた。
シルフェの風が、刃に乗っていない。
いや、乗ってはいる。
だが──軽い。
決定的に、軽すぎる。
いつもの冷静な表情に焦燥が滲み、額を伝う汗が視界を曇らせた。
(……シルフェの力が、削がれている……!?)
思考が乱れる。
普段なら即座に戦況を見極め、冷静な判断を下せるはずの頭が、熱を帯びて回らない。
力を封じられ、動きを読まれた時点で、勝ち目はない。
それはすなわち──敗北。
そして、死を意味する。
(……そして僕の死は、即シールケさんの死に繋がる……そんなことになれば──)
激しい呼吸が喉を焼く。
影の異形が、ゆらりと形を変えた。
歪な四肢が収束し、人の輪郭をなぞる。
頭部と思しき箇所から二つの光が、セルピコを射抜くように見下ろしている。
──お前はもう終わりだ。
そう言わんばかりの無言の圧力。
「……ッ」
セルピコは、静かに剣へと視線を落とした。
大鷲の羽を宿したその剣を見つめると、そこには微かに、光の粒のような精霊たちが集まってきている。
ヒラヒラと舞うように。
主人の力になろうと必死に……。
「………」
疲労とやるせなさが同時に胸に押し寄せる。
セルピコは悔悟を感じながらも、心の中で静かにシルフェに寄り添っていた。
(……あなたたちのせいではありません。力を引き出せないのは、私の未熟。見誤ったのも……すべて……)
ほんの一瞬、口元に微笑を浮かべる。
──だが、なぜだ。
この町は、風に恵まれている。
暖かな気温。
街路を抜けて吹き抜ける、絶え間ない風。
本来なら── シルフェの力を最も引き出せるはずの環境だ。
(使い方は、誤ってなかったはず。事実、つい先ほどまでは……)
頬を撫でる風──
(吹いている。速さはある。流れも……だが、どこか──)
そう、本音を言えばどこかで感じていた。
戦いの最中に吹くには、あまりにも心地よい風。
鋭いはずなのに、どこか柔らかく、薄刃のように軽い。
手応えがない。
まるで、水なき池を泳ぐような──
(これは……この風は……)
暖かい気温。吹き抜ける風。
……暖かい。
……風。
「──ッ!」
細められていた目が、見開かれる。
霧のようにぼやけていた疑問が、いま明確な形を取った。
ここは確かに風に恵まれた土地だ。
風速はある。
流れもある。
だが、それに対して──
「………透けている………」
思わず漏れた声は、低く、短い。
「……大気が……ここの大気そのものが」
シルフェの力が衰えているわけではない。
だが、この土地特有の"密度"の低さ故か、風に重みを与えきれない。
僅かではあるが、集まったはずの精霊の力は、放つより先に雲散してしまう。
(いや……仮にそうだとしても)
──それだけでは説明がつかない。
ならば、先ほどまでの斬撃は何だったのか。
確かにシルフェの加護は刃へ宿り、澄みを増していたはず。
セルピコは、改めて己の剣へと視線を落とした。
「……これは……!」
確かに、シルフェは集まりつつある。
だが、よく見るとその向きが揃っていない。
寄り添う光。
離れていく光。
その場に留まり、微動だにしない光。
「……同調が、乱れている……!?」
精霊との呼吸が噛み合っていない。
この環境下で無理に力を引き出し続けた結果、 今になって、その歪みが表に出始めている。
──それだけではない。
目の前の異形。
常軌を逸したその体質そのものが、精霊の干渉を無意識に“拒絶”している。
これは先刻から身に沁みている通りだ。
──どうりで、あの時……
刀身の羽を逆立てるほどの勢い。
追い風だと、そう思い込んでいた。
だがあれは、精霊たちが必死に寄り集まり、こちらへと送っていた明確な“知らせ”だったのだ。
──気づけなかった。
なぜ気づけなかったのか。
なぜ、これほどの乱れを感じ取れなかったのか。
唇を噛み、苦笑が漏れる。
「……全て……僕のせいだ…………」
風はある。だが、掴めない。
音もある。だが、届かない。
セルピコは剣を握る手に力を込める。
その刃が、大きく震えた。
──風の剣士にとって、最も残酷な静寂が訪れようとしていた。