FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
氷で覆われた冷たい石畳の上を、二人の戦士が滑るように疾走する。
風の剣舞と、氷結の降華──
常人の領域を越えた超常の力が交錯し、不気味に蠢く黒影を切り裂く。
前後から放たれる風刃の乱舞と、波紋のように広がる氷晶。
包囲し、反撃の間を与えぬまま、裂傷を刻み重ねていく。
後方で見守る町民も、これには固唾をのみ、惜しみない声援を送っていた。
「いけーそこだ」
「すごい、すごい…あの二人!」
「押してる。こりゃあ………いけるかもしれんぞ!」
震えていた子どもが、いつの間にか前へ身を乗り出している。
凍える指を握り締め、目を輝かせながら叫ぶ。
「がんばれー!!」
飛び交う老若男女の声に、イバレラも負けじと勝利を確信した声を上げる。
「なによ、相性抜群じゃないの! こりゃいけるわシールケ、あのフニャフニャもうおしまいよ!」
この敵は、揺らめきながら攻撃を逸らすことに長けていた。
だが急激な動きや死角への反撃は不得手。
そのわずかな癖を、二人は呼吸を合わせて見抜いていた。
力押しではなく、理知と瞬発。
見切りと感応が織りなす連携。
本来の力が戻れば──勝利の糸口は見える。
だが、まだ。
セルピコは大鷲の羽根でできたシルフェの剣を横一閃に振るう。
風がうねるが、両断には届かない。
(……やはり、まだ遠いですね)
ジルは冷気を走らせ、敵の動きを鈍らせる。
氷の刃を走らせ、後追いで斬りつけるも、致命傷には至らない。
(動いている限り、意味がない。削るだけじゃ足りない……)
「ならば──」
二人の結論は同じだった。
──動きを止め、一瞬の隙にすべてを断つ。
足で地を追うのではなく、一足飛びの決断。
それだけが、この不可解な存在を本来の在処へ還す術。
──だが、
セルピコは氷上を滑るように移動しながら、握る剣に未だ微かな震えを感じていた。
(一太刀の力を増幅しても、避けられるだけ……。相手の動きを制しても、今のままでは断ち切れない……)
焦燥が胸をかすめ、思考が闇に沈みかける。
(あと一歩、及ばず……ですか)
剣を下げ、動きを止めるセルピコ。
その横顔には、再び諦念の影が差しかけていた。
「ちょ、ちょっと! どうしたのよ? 動きなさいってば!」
イバレラが焦ったように叫び、 シールケもその様子に不安を覚える。
(セルピコさん……やはり…今のままでは……)
後方で見守っていた町人たちの表情にも、不安が広がっていく。
先ほどまで希望に染まりかけていた空気が、再び冷えきっていくのが分かった。
「そんな……」
「や、やっぱり駄目なのか……?」
誰かの漏らした声が、冷たい戦場に響く。
──やはり、この怪物には敵わないのか。
「……神よ」
祈りに縋る声が聞こえてくる。
再び、この場に静かな絶望が立ち上がろうとしていた。
セルピコは足を止めたまま、ただ一人、最前線に立つ氷の乙女へ視線を向ける。
「…………」
暗雲が立ちこめた場に突如現れた冷の輝き。
名も知らない彼女の鮮やかな剣技は、まるで舞いのようだった。
足跡のたびに氷の華が咲き、冷たく、鋭く、美しい。
(……初めて……見る)
瞬時に大気の水そのものを凍らせているのか。
あるいは、彼女自身が冷気の源なのか。
原理は分からない。
だが。
(……お見事です……)
思わず零れたのは、率直な感嘆だった。
だがその直後、胸の奥に沈むのは、自身への静かな失望。
(この状況で力を引き出せないとは……今この場は、貴女のお力だけが頼りかもしれません)
しかし──彼女の超常的な攻めも、完全には通っていない。
大気を貫くような氷の矢も、冰気をまとった剣の突きも、あの揺らぎを退けるまでには至っていなかった。
「………」
──そんななか、不可思議な光景がセルピコの瞳に映る。
ほんのわずかだが、敵の動きが完全に止まる瞬間がある。
彼女が滑走した直後── 黒影の動きが一瞬だけ封じられているのだ。
見れば、地を滑るように攻撃を回避しつつ、その隙に足元を冷気で凍てつかせているようである。
その瞬間だけは、あの不気味な揺らめきが止まり、まともな身動きも取れなくなっている。
──しかしそれでも。
せっかく動きを制しても、有効な決定打を放つことができない以上、今のままでは、間違いなくどこかで敵よりも先に力尽きる。
──どうする。
今の戦いのなかに、ほんの僅かでも勝利につながる鍵があるとすれば……
(一太刀でいい。せめて一太刀……本来のシルフェの加護を、“完全な形”で放つことができれば──!)
吹雪じみた冷気が辺りを覆う。
氷片が頬を打つ。
寒気は一帯へ広がり、富裕区を流れていた暖流とぶつかり合い、白霧となって街路を埋めていく。
先ほどまで漂っていた暖かな風は影を潜め、代わりに、その場を満たしていたのは──重く沈む冷気。
…………?
……重い……?
──青天の霹靂の如く。
その瞬間、セルピコの脳裏に閃光が走った。
彼女の、瞬時に周囲を凍てつかせる術理。
そして──己の内に残る、もう一つの可能性を。