FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
風……わたしは風……
この地をめぐる、荒ぶる息吹。
遥けき彼方より渡り、空の囁きを伝えるもの──
風は天を駆け、草木の種を運び、災いを払う大いなる恵み。
ときに穏やかに、ときに猛り、世界の均衡を保つ守護者でもある。
この建物に祀られていた“風の精”を象徴する一枚の羽。
それは自然への畏敬と共存の祈りを込め、古よりこの地に留められてきたものだった。
唯一神の信仰を掲げる法王庁教圏にあっても、その古き信仰の残り火はまだ息づいている。
町人の一人がぽつりと呟く。
「……風が、止んだ……?」
──凪
次の瞬間、すべての気流がひとつの焦点へと吸い寄せられていく。
空へと舞い上がる一枚の羽。
暴風の脅威が意志を得たかのように、その羽を中心に渦を巻き始めた。
一回目とはまるで異なる。
イバレラは驚きの声を上げた。
「う、うそ……こんなに早く? さっきと全然ちがうじゃない……!」
シールケは杖を掲げ、「古の盟約」を紡ぎ始めた。
その瞳が見据えているのは、渦の中心──そこに浮かぶ、一筋の羽。
祈りと命が混じり合うような、神秘の旋律が辺りに響く。
『我は風の眷族──天を渡る流浪の精霊なり』
『古の盟約に従い、停滞せし穢れを払わん』
『我、空の巡礼者の字において、風の元素霊シルフェに命ず』
『この地に満ち満つる気息を、疾く、清く、天巡る潮流へと昇らしめん』
荒れ狂う暴風圏──
広場の中心で、竜巻が唸りを上げて立ち上がる。
突風が家屋を叩き、瓦礫を巻き上げる。
屋根板が剥がれ、樽が宙を舞い、木片が矢のように飛び交った。
人々は悲鳴を上げ、必死に建物へしがみつく。
「きゃああああ!」
イバレラが吹き飛ばされそうになる。
町人の一人が咄嗟に彼女を抱き寄せ、柱にしがみついた。
「シールケぇぇっ! ちょ、ちょっと強すぎぃっ!」
「し、しっかりつかまって!」
空気が唸り、風が哭く。
人々は軒や扉を掴み、ただその奔流に耐える。
だが、その中心で。
シールケだけは微動だにしない。
髪と衣を暴風に靡かせながら、
彼女はなおも杖を掲げ、元素霊たちへ命を下す。
『集え、我が眷族たちよ──』
『集え、旋れ、奔れ──風の刃となりて、主のもとへ!』
風の猛りは溶けぬ氷柱でさえも、その存在を揺るがした。
ジルは風圧に抗えず、片腕で顔を庇いながら氷結の力で立ち止まっていた。
「──くっ!」
地に凍り付かせた足もその勢いでジリジリと後退していく。
少しでも姿勢を崩せば、枯れ木のように空へ攫われかねない。
(これが……あの娘の……!?)
突風の中心、空に浮かぶ一人の少女。
暴風に呑まれ、その姿はもはや朧にしか見えない。
(この抗いようがない暴風は……これは……)
必死に体を支えながら、ジルの脳裏に一つの名が閃く。
召喚獣ガルーダ。
かのウォールード王国の密偵部隊長が、その異能を顕現させた姿。
直接の対峙こそなかったが、その噂だけは耳にしたことがある。
その力は裂風や大竜巻を自在に操り、兵も砦も等しく引き裂き、場合によっては戦場そのものをも変質させるという。
だが──
この風から感じる気配は、聞いたような「破壊」を体現するものとは、まるで異なっていた。
同じ召喚のようでありながら、そこには戦いの刃や殺戮の意思が微塵も感じられないのだ。
──守護の神風
そうとしか言いようがなかった。
氷を貫くほどのその猛威は、何かを屠るためではなく、守るべきもののために吹き荒れる、 大いなる自然の慈悲そのものだった。
やがて──
荒れ狂っていた暴風は少しずつその猛威を鎮め、唸りを上げていた風は渦を保ったまま、ゆるやかに空へ昇っていく。
それを目にした町人たちの声が弾ける。
「見て! さっきの竜巻が」
「なんと、空に集まっておる……!」
天へ伸びる巨大な風の柱。
その渦は次第に細く、鋭く収束し、まるで天空へ穿たれた一本の槍のような姿へ変わっていく。
その中心で、セルピコの剣が淡く光を帯び始めた。
舞い降りる無数の燐光──
小さな光の粒となったシルフェたちが、嬉しげに舞い踊りながら剣の周囲へ集っていく。
刃の輪郭が震え、研ぎ澄まされた
(……感謝します、シールケさん)
セルピコは静かに目を伏せる。
(そして──精霊さんたちも)
セルピコは一瞬でも彼らを疑った己を恥じた。
清らかな瑞風を受けたかのように、髪と外套が大きくはためき──
彼の心にも、再び風が宿る。
「シルフェよ……今一度、我に力を」
澄み切った共鳴音が鳴り響き、剣身を纏う風圧が一気に研ぎ澄まされた。
セルピコはその刃を高らかに構え、
真っ直ぐにジルへと叫ぶ。
「──いまです!」