FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
ジルは、氷の輝きに覆われた石畳の上を敵へ向かって真っすぐ滑走していく。
その流麗な動きは、たとえ一直線であっても──まさに「冷ややかな舞踏」と呼ぶにふさわしかった。
氷の舞の優雅さが、青白き静寂の魂が、黒く陰鬱な影で塗りつぶされた場を、静かに白銀へと染め替えていく。
(これで──仕留める。必ず!)
ジルにはわかっていた。
この後、圧縮された凄まじい一撃がくる。
一瞬の拘束では足りない。
わずか数秒でもいい──完全に縫い止める必要がある。
機は一度きり。
この連携で、確実にこの怪異を断つ。
何より、その刃には、今この場にいる全員の想いが託されているのだから。
──ならば、選ぶべきは一つ。
通常の凍結術を越えた、氷の結び。
如何なる相手であっても決して逃れることはできない、絶対の拘束術。
ただ、その発動には一定の条件があった──
白銀と黒影が、互いを喰らうように迫る。
漆黒の巨大な禍爪が襲ってくる。
これまで多くのものを、一撃で両断してきた無慈悲な凶爪。
だが、その黒い先端が頭部に触れるや否や──ジルは瞬時に身体を反転させる。
(今──!)
紙一重での回避。
その呼吸法と動作に合わせて、内に宿していた大いなる力が解放された。
“氷の刻”が止まる──
空気が一瞬にして凍りつき、薄青い光の波が地面から放射状に広がる。
周囲は、時間さえ凍るような静寂の中に包まれ、白き深淵が影の一帯を覆った。
肌を刺すような寒気──
それでも、この場にいる誰もがその光景に強く心を打たれていた。
視界いっぱいに広がる、
その幻想的な“冬景色”に。
「……すごい」
「こりゃあ……見事な」
「綺麗……」
零れた声は、いずれも等しく微かだった。
この静けさを壊すことを、誰もが無意識に恐れていたのかもしれない。
──ああ、そうか
イバレラは、震える膝のまま理解する。
シールケが魂で感じ取っていたもの。
そして先ほど自分に触れた、あの冷たくて、どこか温かいものの正体。
それは、ただの力ではない。
願いであり、祈りであり、確かな意思を宿したもの。
だからこそ、こんなにも痛切で。
だからこそ、こんなにも尊い。
その光は、まるで凍てつく夜に灯されたかがり火のように、そこにいる者たちの心まで照らしていた。
「──さあ、次はあなたよ!」
「風の剣士さん!」
氷の銅鑼が高らかに鳴り響く。
空間が震える。
いまや、
急速な大気の冷えにより、影の揺らめきは時空に縫い止められ、空気中の密度は一変。
そして──
先ほどまで荒れ狂っていた暴風は、余すことなく大鷲の剣に集積し、これまで以上の猛威を帯びて、石柱すら断ち切らんばかりの渦を巻き起こす。
条件は、すべて整った。
シルフェの力を最大限に引き出せるのは、今この瞬間しかない────
身も凍るような寒さと冬景色。
それはいつも、抗いようもなく
我が身をあの日の原風景へと誘う。
──神の都。
降りしきる雪に閉ざされた、あの白き世界。
どこまでも、どこまでも続く──
敬虔さと虚飾に塗り固められた、あの真っ白な牢獄のなかで
囚われていたのは二つの小さき魂。
黄金の檻に何の枷があるとも知らず
いつのころからか
自覚なき歪みをそれぞれの胸に宿したまま──互いを支えるようにもたれ合っていた。
消えかけた感情を
辛うじて繋ぎ止めていた、か細い誇りを
絶え間なく降り注ぐあの雪から守るかのように。
互いに言葉にすることはなかったけれど──
あまりにも容赦なく──あまりにも静かに──心の奥底まで白く塗り潰さんとするあの雪を
二人は、その歪な温もりを分かち合うことで
懸命に溶かそうとしていたのかもしれない。
もし──救いの手があったのなら
あのとき、暗闇の中で怯え続けていたファルネーゼ様を
屈折したまま、ただ寒さのなかに沈んでいくしかなかった私を
いったい、誰が解き放ってくれたのだろう。
もし、私たち二人の心にまとわりついた氷を断ち切る刃が在ったというなら。
そして、それすら溶かし尽くす炎が、どこかに存在するというなら。
それはいったい──
どんな刃で。
どんな炎なのだろう。
────吹き荒ぶ風と重圧が拮抗する、その刹那。
最大まで引き出されたシルフェの切っ先が、一筋の光線を描いた。
凍結能力によって氷の結晶と化していた黒影へ、真空の断頭刃が放たれる。
目の前の冷たい氷塊が──
かつて聖都で、
二人の心を覆い尽くしていた真っ白な冷気が──
今、音を立てて砕け散った。