FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
薄暗い地下に、幾重もの光の波紋が重なり合って広がっていく。
その光に紛れて、耳の奥をかすめるように──底知れぬ“声”が響いた。
「うっ!」
背筋を氷で撫でられるような感覚が全身を襲う。
─乱…シ秩序……復せん…─
(……なんだ!? この声は……)
頭の奥底に響き渡る言葉の羅列。
だが、奴の、《アルテマ》の声とは別物だ。
感覚的でないのに感覚に訴えてくる声だった。
それは呼び声か、あるいは呪詛か。
幾重もの共鳴が耳鳴りのように鳴り響き、視界は幻に覆われ、
時間の輪郭さえ霧散した。
─禍…ス者、再─
─使者…再ビ…彼の地へ…─
また声がした。今度の声は明瞭だった。
“使者”──確かにそう聞こえた。
(導いている……? 何かが、俺たちを……?)
意識に直接語りかけてくる何者かの声。
それに伴い、身体の奥底から熱い震えが全身を駆け巡る。
それは、内なる力、そして宿命づけられた己が使命(さだめ)への呼応に聞こえた。
だが、次の瞬間、光に満ちた空間が溶けるように崩れ、
真っ暗な闇が幾重にも重なって垂れ込んできた。
その裂け目に──次々と“姿”が浮かんでは消えていく。
涙に濡れ嗚咽する貴族の影。
亡者と化した群れ。
忌まわしき獣の呻き声。
そして、淡く光を宿した小さな精霊たち。
いまこの瞬間が最も暗い闇であることが分かった。
幾多の怨嗟の声が満ち溢れる奈落の底。
世界を覆いつくす、決して逃れられぬ絶望の淵。
それはまるで、光を遮られた今のヴァリスゼアのようだった。
多くのやせ細った手が救いを求めて天へと延びていく。
やがて──天空から闇を裂くように、光輝を纏う一羽の鷹が舞い降りた。
その姿を仰ぐように、人々の声が闇の底からこだまする。
『おお……』
『お導きを……』
『救いの手を……』
数多の弱き声が祈りとともに降り注ぎ、空間全体を揺らした。
「これは……一体……?」
夢とも幻ともつかぬ光景。
調和と混沌がせめぎ合う空虚な海の中で、
クライヴはかすかに記憶の中の“片鱗”を感じ取った。
(……この気配──オスカーか!?)
光と影の狭間で、彼の手が、声が──かすかに揺らめく。
「オスカーッ!」
今にも届きそうな思いで手を伸ばす。
だが、届かぬまま彼の手は、助けも呼ぶことなく、
亡者の群れへと沈み、微睡みの中に溶けていった。
そして、鷹の輪郭が強烈な光を放ち、無明の闇を切り裂く。
──眩暈を覚えるほどの神々しい降臨。
まるで神の啓示が現実となり、救いの象徴として突然ここに顕現したかのようだった。
その輝きが徐々に形を変え、三人の眼前に──未知の景色を描き出していく。
空気が変わる。
音も、匂いも、世界の法則すらも変わっていく。
共鳴する幻光が断続的に閃き、既知の風景を塗りつぶし、
第二の情景をその瞳に刻み込む。
閉じた瞼の裏。
ふわりと揺れる意識が、その情景を遠ざけようと抗うが、
瞳の奥で囁く声には抗えなかった。
『…ク…見テ』
──!
さっきのとはまた違う声が耳をかすめた。
(誰だ!?)
先ほどのような頭に響く深みのある声ではない。
曇りのない透明感のある声。
女…いや、幼子の声か。
『ヨク見テ』
「なに!?」
『目ヲ…背ケナイデ』
「誰だ?お前は」
『ヨク見テ……ヨク…目ヲ凝ラシテ』
『ソシテ………カレラヲ……………』
言葉はもう途切れていた。
開いた眼の先で無数の哲理がざわめく。
景色が揺れる。
声の収束とともに時間と空間の骨組みが立て直されていく。
やがて、声が途絶え、幻覚作用のような視界が徐々に色を持ち始めた。
*
やがて──視界の奥に、見知らぬ空が広がった。
深淵の底を思わせるほど澄み渡る蒼。
森の向こうから差し込む光は、不自然なほど鮮烈。
二人はいつしか、黒い森を背に断崖の縁に立っていた。
クライヴは膝をつき、地面に手を当てながら、ゆっくりと頭を上げる。
「……なにが、起こった……?」
見下ろせば、果てしなく続く緑の平原。
草花が風に揺れ、どこか悲しげな哀歌を奏でている。
フェニックスゲートの面影はどこにもなかった。
踏みしめる大地も、触れる風も──もはや自分たちの知るものではない。
振り返れば、エーテル溜まりも、そしてあの遊色石も消えている。
地上へ戻っただけかと疑ったが、周囲に文明の痕跡はない。
かつて召喚獣の激突で穿たれた大穴すら、跡形もなく消え失せていた。
いや、──最初から無かったというべきか。
ジルは頭を押さえ、朦朧とする意識を繋ぎ止めながら言葉を漏らす。
その声は精神的な動揺からか、僅かに枯れていた。
「どうなっているの……? フェニックスゲートが……」
「消えた……」
周囲の景色が、知らぬ色に染まっていく。
見覚えのあるものは──足元に落ちた一本の剣だけ。
オスカーの剣。
そして、覚束ない意識のなか、クライヴの脳裏をよぎったのは──
あの声、あの映像、“鷹”の姿。
(……あれは確かに、鷹だった。
人々が……あの鷹に救済を乞うていた……)
さらに”使者”という言葉。
あの光輝く石は、エーテルの充満と共に確かにその言葉を放っていた。
幻惑に呑まれる直前のその声と光景は、
まるで彼らが宿す大いなる魂へ直接語りかけるように、深く刻み込まれていた。