FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
「ちょっとぉ! なんなのよ、あの男! 助けてもらっておいて、あの言い草はないでしょ!」
イバレラの甲高い声が、張り詰めた空気をわずかにかき乱す。
町の老婆に支えられ、シールケはゆっくりと身を起こした。
視界の端で、イバレラが前のめりに手を振り上げ、なおもまくし立てている。
「あったまきた! シールケっ、こうなったらもうやっちゃいなさい! 必殺《シルフェ・ハリケーン》でズタズタのメッタメタに──!」
「……」
その軽口をよそに、
シールケは掌に収めたものへと視線を落とす。
そこには、目を覚ましたとき、柔らかく頬を撫でるように舞い落ちた白い羽根があった。
先ほど、力を貸してくれた風の精霊を象徴するものなのか。
あるいは、それによく似た別の羽根なのか。
確かめる術はない。
ただひとつ言えるのは──それが、この町を見守り続けてきた、土地に根差した守護の存在に連なるものだということ。
けれど。
そんな精霊の囁きに、いまや誰も耳を傾けてはいない。
ただひとり──自分を除いて。
(精霊の声……もう、聞こえない……)
シールケはそっと目を閉じ、耳を澄ませる。
だが、やはりその声は届かない。
(ううん、それだけじゃない。いまや風の囁きも、木々の声すらも──)
さっきまでは確かにそこにあったものが、いまは、どこにもない。
人々の恐れと疑念が満ちたこの空気──それこそが、あらゆる守護の声を遠くへ追いやってしまっているように思えた。
シールケは震える指をそっと開き、力を失った羽根をもう一度見つめる。
そのかすかな揺らぎは、まるで頼りなく、触れれば消えてしまいそうで──
ただ、胸の奥に空虚な感触だけを残した。
神意官の厳格な声が、なお広場に響いている。
その言葉を聞くたびに。
心の奥深くへ沈んでいた感情が、ゆっくりと浮かび上がってきた。
──法王庁。
──教義。
ガッツたちとの旅の中で次第に薄れていた憤りが、いま再び熱を帯びる。
“信仰”の名の下に行われてきた数々の不条理。
領土の拡張と権威の誇示のために、精霊信仰や古の自然観は“異端”として葬られた。
そして魔術師たちは“悪しき者”の象徴とされ、師匠までもが辺境へと追いやられた──。
(どうして……)
胸の奥で、言葉にならない問いが滲む。
(彼らが遠ざけ、忘れようとしているもの……それこそが、本来この世を救う鍵になるかもしれないのに……)
少女の中で広がる憤りとやるせなさが、次第に静かな怒りへと変わっていく。
掌の白羽が風に揺れ、小さく震えた。
それはまるで、声を失ったまま、長き封印のなかで泣き続ける精霊の嘆きのようでもあった。
「──とにかく、この場を収めるためにも、大審院のお歴々からご判断を仰がねばなるまい」
神意官の声が重く響く。
──最悪だ
セルピコは、その響きにいよいよ焦燥を覚えた。
神意官の段階なら、まだ現場判断の余地があるが、
大審院となれば話は別だった。
このままでは、女性二人の身が危うい。
どこかで、誰かが理を立てねばならない。
(……とはいえ、私の立場でファルネーゼ様やヴァンディミオンの名を使うのも……)
自分たちはいまや勝手に還俗した身なのだ。
身分を明かせば、この場は収まるかもしれないが、一歩誤れば、主人を聖都へ連れ戻す口実を与えかねない。
逡巡が胸に絡みつく。
セルピコが苦渋を滲ませる間にも、神意官はさらに言葉を重ねた。
「諸君も知っての通りだ」
その声は広場全体へ向けられていた。
「いま我らはクシャーン侵攻に備え、すべての信仰を一つに束ねねばならぬ時」
「これはただの戦ではない──神々の御名を冠する聖戦である」
「法王猊下の名誉にかけて、万に一つたりとも、“不浄の存在”を許すわけにはいかん」
その言葉に、傍らで聞いていたジルの瞳がかすかに揺れる。
──不浄の存在。
胸の奥が、鈍く痛む。
自分に向けられた蔑みの響きが、過去の記憶を呼び覚ます。
「……“不浄の存在”」
その声は低く、静かに落ちる。
「それは、この人──そしてあの娘のことを指しているのかしら?」
その一言で、場の気配が変わった。
夜風が、ふっと止んだように感じられる。
それまでわずかに残っていた温もりが、音もなく凍りつく。
シールケとセルピコも、周囲で目を背けていた町民も、思わず言葉を失う。
ジルの声に怒号はない。 高圧もない。
ただ──
その静けさの奥に、研ぎ澄まされた刃のような怒りがあった。