FF16×ベルセルク ―生贄の烙印とドミナント― 作:ほろにが
キャスカの壊れた心を戻すため、
妖精たちの王国──妖精郷(エルフヘルム)、別名スケリグ島を目指すガッツ一行。
その神秘の島へ渡るため、彼らは西の大海原を越える船を求めていた。
あの月夜の海辺の戦いから、数日。
一行はあえて海岸線を離れ、内陸へと進路を取る。
少し遠回りになるとはいえ、
この地域の街道は法王庁教圏による厳重な護衛が敷かれ、関所も設置されている。
脅威が完全に消えたわけではないが、広大な海には人知を超えた魔物が巣食い、
未知の災厄が待ち受けている可能性がある。
だからこそ、一行は慎重にこの道を選び、その決定に異を唱える者はいなかった。
なお、一夜限り姿を見せたあの黒髪の少年の行方はいまだ杳として知れない。
やがて一行は、旅の途上で小さな内陸の村へと辿り着く。
教圏の目を逃れ、クシャーンの影を避け、
幾度となく進路を変えながら、ようやく辿り着いた宿場。
しかし、
そんな束の間の安息も、無惨に打ち砕かれる。
村を取り囲むようにして地面が盛り上がり、土を引き裂いて現れたのは──
無数の脚。
異様に膨れ上がった腹部。
かつての形をどこかに留めながらも、それを嘲るかのように捻じ曲がった異形。
土蜘蛛──否。
魔へと堕ちた成れの果て、“アラクネ”。
ざり、ざり、と八本の脚が地を擦る音が、耳にまとわりつく。
その合間に混じるのは、肉を裂き、血を啜り、骨を噛み砕く湿った音。
キリキリと呻く異様な声が冷たく空気を震わせ、生理的な嫌悪感を呼び起こしていた。
「チッ、キリがねぇ! 次から次に地面から湧いてきやがる!」
「無茶すんなって。お前はお前のペースで……地道に行け、地道に」
「ちくしょう……またコイツに頼るしかねえのか!」
火薬玉を投げつけ蜘蛛の動きをけん制し、
少年イシドロは低く地を這うように身を滑り込ませる。
右手のカトラスが閃き、甲殻の隙間に突き立つ。
小柄な体格と経験不足を埋める唯一の武器──それが、身軽さと度胸だった。
「お、やるじゃん。一体撃破!」
一体倒せばさすがにお調子者の羽精パックも、活躍を認めざるを得ない。
「……蜘蛛は腹を狙うといいですよ、イシドロさん」
穏やかな声に重なるのは、風を裂く鋭い音。
セルピコの剣が描く一閃は、シルフェの加護を帯びて目に見えぬ刃を生み出す。
風の奔流が群れを切り裂き、数匹の蜘蛛を一息で斬り飛ばした。
そして──
「死にたくねぇ奴は、地に伏せてろ」
地に響く足音とともに、低く唸るような声が響く。
そこに立つのは黒鉄の禍々しい甲冑に身を包んだ巨躯。
片目を光らせ、両腕には常人の剣三振りを束ねたかのごとき鉄塊の両刃刀。
眼前に蠢くは数匹の土蜘蛛。
その中でもひときわ巨大な個体が牙を剥き、脚を高く掲げ威嚇していた。
だが、男は一歩も退かない。
彼の眼差しに映るのは、恐怖も憤怒もない純然たる殺意のみ。
男は手に持つ尋常ではない質量の巨剣を構えると、次の瞬間、
粘土球でも打つかのように軽々と蜘蛛の群れに向かって振りかぶった。
巨剣の横薙ぎ。
轟音が空気を裂き、地面を震わせる。
村一帯に鳴り響く重い鉄の衝撃音。
その一撃はまるで竜巻そのもの。
鈍い音とともに、甲殻の肉片と血飛沫が荒れ狂う暴風に散らされた。
返り血が風に舞う。
男は剣に付いた血を振り払い、短く吐き捨てた。
「ったく、蜘蛛は益虫じゃなかったのかよ」
狂戦士の甲冑に身を包み、漆黒の闇を背負った剣士ガッツは、
すでに次なる敵へとその牙を向けていた。