次元の何処かにある、剣と魔法の力が世を支えているある世界にて。
とある国の王宮の一室。そこは王宮の部屋と呼ぶにはあまりに質素であった。家具は必要最低限しか置かれておらず、それらもあまり高価には見えない。
その部屋の簡素な造りのベッドに、この国の最高権力者たる少女がいた。彼女は側の台に置かれた通信機を手に取り、誰かと会話をしている。
「ええ、そうなんですか。それは面白そうですね」
何やら世間話を楽しそうにしている。電話の相手はいったい誰であろうか?
「大蛇? 大丈夫だったんですか!?」
『大丈夫だよ。別にそこの近くまで行った訳じゃないし、すぐに退治されたらしいし。ああでも、一度ぐらい見てみたかったかも』
「それはやめてください。あなただって不死身じゃないんですから」
2人の談笑はしばらく続き、ようやく終わりが見え始めた。
『じゃあ、あと10日ぐらいで帰れると思うから』
「ええ、お土産待ってますね。カツゴロウさん」
ある夜の大草原の中で。この日は月明かりも少なく、深い闇に包まれた夜だった。
その黒く染まった草原の上を、何かが走っている。それが何者かというとなんということはない、ただの鹿だった。
一頭の鹿の後ろに、数匹の野犬が追いかけている。どうやら狩りの真っ最中のようだ。
両者は懸命に走り、距離差は中々変わらない。
「キャイン!?」
突然野犬の悲鳴が聞こえた。その直後にもう一頭分の悲鳴も聞こえてくる。よく見ると暗がりの中走っていた野犬の影が、どこにいったのか跡形もなく消えていた。
「?」
自分を追う物の気配が消えたことに気付いた鹿は、一旦立ち止まって野犬のいた方向に顔を向ける。そこに野犬の姿も臭いも、完全に消失していた。
助かったと鹿が安堵した瞬間、自分の足に何かが絡みついてることに気がついた。
「!?」
途端に鹿の後ろ足が消えた。いや地面に吸い込まれて見えなくなってしまっている。
突然の事態に鹿は混乱し、前足をジタバタと動かす。だがそれは何の意味も持たず、今度は鹿の下半身が地中に吸い寄せられていく。
僅かしか光のない夜の闇の中で、鹿の影がどんどん地面の下に吸い込まれて消えていった。
後にその場で何も動く者はおらず、夜の世界は不気味な静寂に包まれた。