ハンマー・プレデター   作:竜鬚虎

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第4話 幽霊

 バードが飛行していた場所とは、別方角の平原の上空にて。

 ここにも遭難者を探して王国兵が騎乗したダックが3羽、空から周囲を散策していた。

 

「いませんね。ていうかいくら逃げたからといっても、街道からこんなに離れたところには普通来ないと思いませんか?」

「念には念だ。それにたった今、あちら側から妙な魔力を感じたからな」

「魔力? 誰かが魔法でも?」

「知らん。言ってみれば判る」

 

 兵士達は、その魔力の感じたという場所に向かって前進していく。

 やがてそこに捜し物の遭難者を発見した。草原の中にこちらを見上げて手を振っている何者かがいる。

 

「本当にいた! よし降りるぞ!」

 

 周囲にグラボイズの動きがないか、注意深く見渡しながら降下していく。

 

「なあ、あれなんだ?」

「なんだって決まってるだろ」

 

 接近していくと、次第にその手を振っている相手に、違和感を覚え始めた。

 遠方から見るとそれは小さな子供のようであるが、その姿が微妙に透けているように見えるのだ。

 

 地表に着地し、徒歩でその人物に近づいてくると、その違和感の正体がはっきりした。それと同時に兵士達は、その人物が何者かすぐに理解した。

 

「カツゴロウ様! ご無事でしたか!」

 

 兵士達が彼の名前を上げる。

 “カツゴロウ”と呼ばれたその人物は、見かけは10歳ぐらいの少年だった。黒髪黒眼で黄色系の肌色をしており、衣服は浴衣という異文化の装束を着ている。

 そしてその少年の身体は、衣類も含めて全て透けていた。その半透明の身体から、向こう側の風景がうっすらと見える。

 

『来てくれたんですね。助かりました!』

「はあ・・・・・・本当にいたんですね」

 

 救助を素直に喜ぶ透明少年を、兵士達は唖然とした顔で答える。少年の声は、電話越しに話しかけられるような残響混じりの妙な発音の声だった。

 

 このカツゴロウという少年は、物質化幽霊《マテリアルゴースト》と呼ばれる。霊魂の魔物である。

 かつてはある地方の山林に野生動物のように住んでいた。そして現在、この国の女王と懇意にしていることで、この国では有名な人物だ。

 

『今まで外国へ旅行に行ってたんですよ。そして今日帰る途中だったんですけど、何だか変なのに襲われちゃって、それで必死に逃げてたら、この野原の中で迷子になっちゃったんですよ。よく考えたら、僕は幽霊だから、食べられる心配なんて無かったんですけど』

 

 頭をかいて淡々と喋るカツゴロウ。だが兵士達が一番驚いたのは迷子のことではなかった。

 

「そう長々と説明しなくても判っております。だからこんな大がかりで捜索したんです」

『そうなんですか?』

 

 もう1人の兵士がふと口をはさむ。

 

「旅行って、幽霊でも普通に行けるものなんですか?」

 

 当然の疑問だ。マテリアルゴーストは普通の幽霊と違って、その姿が霊感の無い人間にもはっきりと見える。

 それはそこら辺に普通にいるような者でもないし、人間に害をなす者もいることから、一般的には人間に恐れられる存在だ。

 

『やっぱりやりづらかったですね。僕が歩いている所は、人はみんな逃げちゃいますし。討伐隊が来たときは本当に焦りました』

「どんだけの騒ぎを起こしてきたんですか、あなたは・・・・・・。ていうか宿とかどうしたんですか?」

『それならアンナさんの招待状があったから、何とかなりました。宿の方々はみんな怖がってて、ちょっと悪いことした気分でしたけど・・・・』

 

 女王公認の旅行だったのか・・・・・・。もはや兵士は、何と声をかければいいのか判らない。

 

「・・・・・・まあ、とりあえず無事で良かったです。他に遭難者はあなた以外にいましたか? ここに来る途中は一人も見かけませんでしたが」

『判りません。みんな散り散りに逃げた感じでしたから、ていう皆さんは怪物だけでなく、僕からも逃げていた感じでした』

 

 この幽霊と同乗した乗客達は、どんな気分で馬車に乗っていたのだろうか?と兵士達は疑問に思った。

 

「・・・・・・判りました。カツゴロウ様には我々と一緒に、集合場所に来ていただきます。遭難者を発見したら、一旦そこに集める予定ですので」

『判った。でもちょっと待って』

「何でしょう?」

『今怪物がこっちに近づいてきてるから、そいつらをやっつけてからにする』

「はいっ!?」

 

 驚く兵士の側を通り過ぎ、カツゴロウは草原の一方向に歩いていく。道行く先には、グラボイズの通過による地形の隆起が、2箇所発生していた。

 兵士達が武器を構えながら、慌ててカツゴロウを止めに入る。

 

「危険です! カツゴロウ様は下がってください!」

『大丈夫だよ。僕は幽霊だから食べられても死なないし』

「そんなこと! ・・・・・・いや、確かにそうですな」

『まあ、見ててよ。最初は驚いて逃げちゃったけど、今なら2匹ぐらいならどうにかできるから』

 

 勝五郎は歩いてどんどんグラボイズに近づいてくる。地面の隆起は、カツゴロウのすぐ側まで迫っていた。

 

 するとカツゴロウの姿が透けた。元々透けていた身体だったが、それの透明度が更に上がり、注意深く見ないと消えてしまったのかと思える程の透明度になっている。

 

 地面が砕け、グラボイズの巨大な口がカツゴロウに襲いかかる。カツゴロウは逃げもせずに、そのままグラボイズに呑み込まれた・・・ように見えた。

 

 カツゴロウがグラボイズの口内に消えた直後に、グラボイズの様子が少しおかしくなった。グラボイズが苦しそうな呻き声を一つあげると、途端に静かになって地中に潜っていく。

 そして再び地中移動を開始した。兵士達の方にではない。後ろの方を走って近づいてくる、もう1匹のグラボイズの方向にである。

 

 グラボイズは全く躊躇せず、もの凄い勢いで後ろの仲間の方へと走っていく。やがて地中を突進する2匹のグラボイズが、正面衝突した。

 

ズドン!

 

大砲が放たれたような轟音が、地中から発せられた。激突した2匹のグラボイズは、お互い頭が潰れて即死していた。

 

 全ては地中で起きた出来事、地上にいる兵士達には何が起こったのか全く判らない。

 グラボイズが衝突死した地面から、カツゴロウが出てきた。地面を掘り起こしたわけではなく、一般的な幽霊と同じように土の壁をすり抜けてきたのだ。

 地表に完全に這い出たと同時に、身体の透明度は元に戻っている。そして意気揚々と兵士達の方へと歩いてくる。

 

「あの・・・・・・いったい何を?」

『怪物の一匹の身体に憑依して、もう一匹をやっつけたの』

 

 カツゴロウは答えに、兵士は唖然として「そうですか・・・・・・」と喋る。

 カツゴロウは普通の幽霊と違って、誰にも姿が見えるだけでなく、物質に触れることも出来る。

 それと同時に非実体化という技を使い、一時的に物質をすり抜けたり、他の生物の肉体に乗り移ることも出来るのだ。

 

 憑依はあまり長時間できず、色々と制約がある。だがかなり意思の弱い人間や、人間より遙かに知能の低い生物ならば、簡単に行うことが出来る。

 ちなみに非実体化は、壁抜けは出来るが、宙を浮くことは出来ない。

 カツゴロウは兵士達と共にダックに乗り込み、空へと舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 カツゴロウが保護された頃、別の場所で捜索を行っていた兵士達は、遭難者とはまた異なる異音を発見していた。

 まるで空襲でも行われているかのような爆音が、連続して発生して草原を揺らしているのだ。

 

「これは何だ? 戦争でも起きたか?」

「ロンダが起こした爆発じゃないのか?」

「しかしこの音の方角は・・・・・・集合地点とはまるで逆方向だぞ」

 

 爆音はひとたび止んだかと思うと、また連発する。気にかかった兵士達はその音の聞こえる方へとダックを進めた。

 

 

 

 そこにいたのは、グラボイズ狩りを行っていたあの怪人であった。あの青く光るハンマーを何度も振るい、地中にいるグラボイズ達を次々と爆砕していく。

 

 音に敏感なグラボイズ達は、その轟音に引き寄せられて、遠方からも次々とこの場所に集まってくる。怪人はそれらも含めて、次々と粉砕していった。

 

 敵が複数同時に襲いかかってきた場合は、その巨漢に似合わぬ強靱な走力とジャンプ力で、地中からの攻撃を難なく回避する。そして後ろ側に回り込んで、叩きつける。

 それが長時間繰り返されたせいで、この一帯の草原には数十にも及ぶクレーターが形作られていた。

 

 上空から草原を見ていた兵士達は、その大量のクレーターを見て、比喩ではなく本当に空襲が行われたのではないかと始めに思った。だが世界一大規模なモグラ叩きをしている怪人を見て、状況をすぐに理解した。

 

 怪人の全身には、噴き上げられたグラボイズの血肉と土が大量に付着しており、一見すると何者か判らない。

 だが双眼鏡でその姿を注視していた兵士達は、その体格・体型と肩の銃を見て、それが何者なのか判った。

「おい、あれって!?」

「ああ、間違いない。あの異界魔だ・・・・・・」

 

 その怪人の姿に彼らは覚えがあった。直接見たのは初めてだが、幾つかの資料・報告書で、彼らの存在は、軍内部ではそこそこ知られていた。

 

 4年前にこのエルダー王国は、北方のウェイランド王国に侵略を受けたことがある。その時に、謎の異界の魔物の戦士が、突然戦争に乱入した。

 彼は敵味方問わず大量虐殺を行い、更にはこの国の現女王を付け狙った。現在の見解では、女王ではなく、その護衛をしていた兵士が狙いだったというのが有力説だが。

 

 そして一年前には、西方の領海で暴れ回っていた海賊を討伐に向かった、海軍の軍艦が、これと同類と思われる怪人の襲撃を受けた。

 その海に住んでいた精霊の協力で、どうにか撃退できたが、艦の乗員のほとんどが殺されてしまった。

 

 その半ば伝説的な怪人が、今この場にいるのだ。怪人は上空にいる兵士達には、気付いていないようで、グラボイズ狩りに集中している。

 

「とんだ大物が出てきたな。よし、今の内に始末しよう」

「本気か!? 俺たちで倒せると思うのか!?」

「殺すのは俺たちじゃない。グラボイズどもだ」

 

 リーダー格の兵士が腰に差している剣を抜いた。ロングソード型の魔道剣だ。

 彼は自信の炎の魔力を、その剣の刃に送りつける。やがて剣身の全体が、真っ赤な炎に覆い尽くされた。

 

 怪人は、上空でそんなことが起こっていることに、未だに気付いていない。

 あの不思議な力を持ったハンマーには、エネルギー切れというものが無いのか、何十発と攻撃を放っても、その威力は全く衰えていない。

 だが怪人の方には限界があるようで、時間と共に疲労で息が荒れ、その動きが徐々に衰えを見せ始めた。

 

 だが敵も既に残り少ない。現在この一帯にいるグラボイズは残り2体。怪人から見て前方と左方から、こっちに近づいてきている。

 

 怪人は前方のグラボイズ向かって走り出した。

 ハンマーは既にチャージを終えており、あの恐ろしい青い光を放っている。大地には、無数に降り注いだグラボイズの残骸で覆われており、それを怪人の大きな足が、ビチャビチャと水たまりのような音を立てて、踏みつぶしていく。

 

 そして突進してくるグラボイズのいる地面目掛けて、今日58回目のハンマーの一撃を放った。

 

 大地が震え、そして砕け、再び粉々になったグラボイズの身体が、一帯に降り注ぐ。

 だがこの辺りはすでに大量のオレンジ色の血肉で染まっており、いまさら一匹分増えたところで、風景はさほど変わらない。

 

 残りは一匹。敵は既に、かなり近い距離にまで近づいてきている。怪人は再度エネルギーのチャージを行った。そして敵が間合いに入った瞬間、再度地面を叩こうとする。

 

 だがその時、予想だにしない乱入者が現れた。突然空から、赤く光る炎の弾が一発、流星のように地表に落下してきたのだ。

 

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