ハンマー・プレデター   作:竜鬚虎

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第6話 殺戮

「・・・・・・遅いですね」

 

 集合場所に定められた、無人馬車が放置されている街道で、すでに多くの兵士達が集まり、次の命令を待っていた。ちなみに発見された遭難者は、現在カツゴロウ一名のみである。

 

 必死で逃げ帰ってきた兵士の1人から、この草原にあの怪人が出現していることは、既に一同に伝わっていた。

 通信でパーフェクションに設置されている対策本部にも、この事は伝えている。全員集合次第、直ちに本部に帰還するよう指示が出た。

 だが捜索に向かった兵士達の内、バード隊長の分隊だけが、いつまで経っても戻ってこないのだ。

 

「やっぱり何かあったのでは? グラボイズに襲われたか・・・・・・」

「いや、案外例の怪人に狩られたかも」

 

 ロンダが正解を言い当てるが、現段階その正否を確かめる手段はない。

 

 馬車の中ではカツゴロウと数人の兵士達が、荷物の菓子を大量につまみ食いしていた。マナーがなってない食べ方をしている者がおり、袋からこぼれたチョコ菓子が、辺りの地面に散らばっている。

 

 そんな中、通信機を手にとっていた兵士が声を上げる。

 

「向こうから連絡が来ましたよ。あと10分経っても戻ってこなかったら、隊長抜きでも帰還しろと」

「・・・・・・10分か」

 

 それまでの間、ずっとこの場所で、敵の襲撃を待ちかまえていないと行けないわけである。

 グラボイズ対策の、ロンダの爆弾人形はまだ余裕がある。またさすがに怪人でも、50人を超える武装した兵士達は、容易に襲えないだろうと高を括る。

 

 現在アールが、ずっと地面に手を伏せて、グラボイズ接近を確かめ続けている。今のところ、周囲にグラボイズの気配はなかった。だが・・・・・・

 

「おい何かいるぞ!」

 

 双眼鏡で周囲の様子を眺めていた兵士が声を上げる。

 彼の目線の先に、何か動く者が多数、こちらに近づいてくるのが見えた。最初は怪人か、もしくは遭難者かと彼は思った。

 

 だが相手がこちらに近づくにつれ、それがそのどちらでもないことに気付く。それは二本の細い足で、飢えながら集団で走ってくる、白い異形の生物だった。

 

「シュリーカーだ! こっちに来るぞ! 数はかなりだ! 10、いや数十匹はいる」

「何だって!? もう脱皮したっていうのか!? 早すぎるぞ!」

 

 兵士達が動揺する中、それはどんどん彼らとの距離を縮めてくる。肉眼でも確認できる距離に至るまでに、そう時間はかからなかった。

 

「まじかよ! 本当に来た!」

 

 100匹近いシュリーカー達が、狼のように群れをなして、もの凄い速度で走ってくる。標的はもちろんここにいる兵士達であろう。

 

「全員射撃体勢に入れ! 私の合図と共に一斉に撃つんだ」

 

 副隊長のケイトがそう叫ぶと、魔法を使える者、もしくは銃を装備している者達が、一列に並んで、攻撃態勢に入る。

 

 やがてシュリーカーの群れは、兵士達との距離300メートルにまで接近した。

 

「撃てえ!」

 

 号令と共に整列していた40人の兵士達が、一斉に各々の得意な遠距離攻撃を放つ。ある者は長銃から銃弾を放ち、ある者は魔道剣から火・氷・雷・風と様々な色の魔法攻撃を放った。

 

「「ピギィイイイイイイイイッ!」」

 

 草原にシュリーカーの悲鳴の多重奏が響き渡る。真正面から突っ込んでくる者達に、攻撃を当てることなど簡単だ。

 一斉攻撃はシュリーカーに次々と命中した。ある者は銃弾で身体を貫通され、ある者は火球で全身を焼かれ、ある者は風の刃に切り裂かれ、ある者は雷に撃たれて感電死した。

 群れの後ろ側にいたシュリーカーが、仲間の死骸を押しのけて前に出るが、彼もまた連続して放たれる魔法と銃弾の嵐に倒れていった。

 

 やがてそこには幾重にも積もった、シュリーカーの死骸の山が出来上がった。

 

 動いているシュリーカーが一匹もいなくなったことに気がつくと、兵士達は一様に安堵の息をもらした。

 早すぎるグラボイズの脱皮に、大量に襲いかかってくる飢えたシュリーカーの大群。対処はできたとはいえ、突然の出来事の連発に、兵士達の恐怖感を深いものだった。

 

 それゆえに仕方がなかったのだろう。全員が前方にいるシュリーカーの存在に気を取られて、後方から忍び寄ってくる、もう一つの敵の気配に、誰1人気付かなかったことは・・・・・・。

 

 兵士達が陣を組んでいる方角から逆向きの位置、馬車と馬車の間にそれはいた。

 

 それは形は見えるが姿は判らない、ガラスのような透明人間だった。

 その透明人間の頭部と思われる部分から、赤い照準光が放たれる。光はシュリーカーの群れに見入っている兵士達の1人の背中に当たった。

 

 狙いを定まった直後に、怪人から青い光弾が発射された。光弾は兵士の背中を貫通し、更にその前方にいた、二人目の兵士の身体を貫いた。

 

「あれ?」

 

 兵士は突然の焼けるような痛みと、自身の腹にぽっかりと空いた風穴を凝視しながら、何も判らぬまま倒れた。

 

「「誰だ!?」」

 

 兵士達が一斉に、光弾が発射された後方に振り返る。だがその前に敵は足を進め、彼らの陣地に踏み込んでいた。

 透明な腕を振るって、刃物と思われるもので、兵士の首を斬り落とす。突然の襲撃に浮き足立った兵士達は、反撃の隙すら与えられず次々と斬り捨てられていく。

 兵士達の悲鳴が幾重にも発せられ、鮮血が大地の植物を赤く濡らしていく。

 

「何をしている! 撃て撃て!」

 

 シュリーカーの相手をしていた兵士達が、次々と敵に向かって魔法や銃弾を放つ。

 だが水のように透明な敵の姿は、非常に視覚で捉えにくく、しかもかなり素早い速度で動いているため、攻撃は全くといっていいほど当たらない。それどころか味方の攻撃が当たって、倒れる者が多く現れた。

 

 敵は混乱する兵士達の間を縦横無尽に動き回り、無双状態で兵士達を殺していく。あっというまに、部隊の半数が敵の攻撃で命を落とした。

 

(駄目だ! こんなの勝てねえ!)

 

 兵士達が次々と戦闘を放棄し、休ませていたダックの方へと走っていく。我先にとダックに乗り込み、大急ぎで空へ逃げるため、手綱を強引に引っ張り上げる。

 

 飛び道具は当たらないと見て、数人の兵士達が剣を握って接近戦を挑んだ。敵は右手の透明状態の武器で、彼らの剣撃を払いのけ次々と斬り伏せる。

 彼らとの剣戦で一瞬動きが鈍った敵を、1人の兵士が長銃で狙い撃った。

 ズドンと一声の銃声が鳴る。弾丸は見事敵に命中した。だが響いた音は、肉が弾ける音ではなく、ガキン!という硬い金属音だった。

 

(何だ、今のは!? 鎧か!?)

 

 僅かに動揺するものの、狙撃兵はすぐに二発目を放とうと、再び銃で敵を狙う。だが彼の存在に気付いた敵が、彼に向けて照準光を放つ。光は彼の顔の額をロックオンしていた。

 

 狙撃兵が引き金を引くよりも早く、敵の肩から青い光弾が発射された。

 それは照射光の軌道通りに飛び標的に命中した。光弾をくらった狙撃兵の頭は、スイカのように赤い汁を吹き出して破裂する。

 

 次に敵は上空を見上げるような動作をする(透明なので正確な動きは判らない)。

 見上げる上空には飛び立ったばかりのダックが5羽、空へと舞い上がっていた。逃走中の兵士達が乗っているダック達だ。

 

 敵は彼らを見逃してはくれなかった。照準光が今度は上空に放たれる。

 一体どのようにして狙いを定めているのか、照準光の狙いは恐ろしいほど正確で、空中で動いているダックにかすかな間違いもなく的確に狙う。

 

 光弾が5発、上空へ発射された。それらは全てダック達に命中した。5羽のダック達が次々と、虫のように簡単に撃ち落とされていく。

 

 最後の1羽が墜落を始めた直後、敵に向かって何やら細くて長い物体が、不意を打つ形で襲いかかった。

 ガシャン!という金属同士がぶつかるような音が鳴る。それは長い一本の鎖だった。先端部分には拳大の鉄球が取り付けられており、そこが重心になっているようだ。

 

 鎖は慣性の法則を無視した不規則な動きで飛び、敵の左腕と思われる部位(透明なのでこれも推測だが)に巻きつき、引っ張り上げるように拘束した。

 

 鎖の先には、ケイトが鎖を両手で掴み、綱引きをしているかのように、それを引っ張っている。

 この鎖は“魔道縛鎖”と呼ばれる魔法の鎖で、持ち主の魔力と意思に呼応して、蛇のように自在に動く、捕縛用の武器である。しかも今ケイトが使っている品は、捕縛以外の別の機能も付いていた。

 

「捕まえたぞ! 黒こげになれ!」

 

 ケイトは力強く握った拳から、鎖に向けて、自身の雷の魔力を流し込んだ。

 金属製の鎖はそのエネルギーを伝導し、電気柵の線のように、高速で敵のいる向こう側の鎖へと流れていった。

 敵の腕に巻き付いた鎖から、敵の身体へ大量の電力が流し込まれる。

 

 バチバチバチバチッ!

 

敵の身体が、そう鳴りながら、全身からいくつもの電光を放出する。

 

 その影響からか、敵の透明化能力が解除された。水中から身を上げてきたかのように、透き通った身体が実体を帯び、敵の正体が暴き出される。

 現れたその姿は、言わずもがな、グラボイズ狩りを盛んに行い、バード隊長を殺害したあの怪人である。

 

「はぁああああああああああっ!」

 

 ケイトは一切気を緩めず、怪人に向けて雷魔法の電流を流し続ける。

 鎖全体から、雷雲のように大量の電気があふれ、目が痛くなるような白い光を放ち続ける。怪人の身体にもその電光が、波のように判りやすい動きで流動し、身体から漏れ出てくる。

 

 これだけの電気を肉体に受ければ、常人ならば感電では済まされない。何処の誰だか判らないぐらい無惨な、真っ黒な炭と化しているだろう。

 

 だが怪人はそうならなかった。10秒以上に渡って、強烈な雷魔法を受け続けているにも関わらず、ダメージを受けている様子は全く見られない。大量の電光がほとばしっているが、その身にはどこにも火傷一つついていないのだ。

 

 怪人は全力を出し続けるケイトの姿を、まるで呆れているように傍観し続けているのだ。

 

(何故だ!? 何故倒れない!?)

 

 全く効いた様子がない敵の姿に、ケイトは焦り出す。

 残念ながらケイトの能力では、この怪人とは相性が悪すぎた。この怪人は落雷の直撃を受けても何ともないぐらいの、恐ろしく帯電力の高い肉体を持っているのだ。この程度の電撃を与えても、怪人に与えられる痛手など、たかが知れている。

 

 全力を出し尽くしたケイトは、息を切らしながらその場で片膝を付いた。怪人の左腕に巻き付いた鎖も、それに応じて拘束力が弱まる。

 

 怪人は右腕のかぎ爪を、手元の鎖に向けて鎌のように振った。業物の鎖は、絹糸のように簡単に切断されてしまう。

 怪人の銃が、再び青い火を吹いた。ケイトは為す術もなく、胸に丸い風穴を開けられ倒れた。

 

 怪人は狩り終わっていない獲物がいないか、周囲を見渡した。

 周囲には立っている兵士の姿は一つも見えない。全員倒してしまったのか、それとも皆逃げてしまったのかは、調べてみないと判らない。

 

 だが兵士はおらずとも、怪人以外の“動く者”はまだそこに存在しており、それはいつのまにやら、怪人の目と鼻の先にまで近づいていた。

 足下から聞こえる小さな足音に気がついたのか、怪人は地面に顔を向けた。

 

「?」

 

 そこにはピョコピョコと可愛い動作で歩く、一個のぬいぐるみがあった。

 それはデフォルトされた、子供向けのカルガモのぬいぐるみだった。大きさは本物のカルガモより、一回り小さいぐらい。そして背中には“危険 爆発物”という文字が書かれた一本の金属の筒が、粗末なガムテープで巻かれて取り付けられている。

 

 怪人は、それが何なのか判らず凝視している時、ぬいぐるみが背負った金属の筒から、カチッ!という音声が鳴った。その瞬間そこは光に包まれた。

 

 ボウンッ!

 

 凄まじい爆音をあげて、ぬいぐるみが爆発したのだ。対グラボイズ用の爆弾が、地表で起爆し、怪人を爆発に巻き込んだ。

 怪人は爆発の衝撃に吹き飛ばされ、その巨体が紙人形のように数メートル空を舞う。そして空中で一回転して、爆破地点から数メートル離れた地表に墜落した。

 

「やったかな?」

 

 無人の筈の馬車の一台から、二人の兵士が顔を出した。ロンダとアールである。

 二人は怪人の襲撃があった時、即座に混乱する兵士達の間をかいくぐり、この馬車の中に隠れたのだ。

 

 そしてロンダが自身の人形魔法の力で、爆弾付きのぬいぐるみを一個操作し、こっそりと怪人のいる場所へと接近させていたのだ。

 試みは見事に成功した。爆弾は起爆時間ギリギリのタイミングで、怪人の足下に到着した。そしてグラボイズを粉々にできるあの大爆発を、怪人に直接喰らわせたのだった。

 

 怪人は地面にうつぶせに倒れて、しばらく昏倒していたもの、それほど深傷は負っていないようだった。両手で胴体を持ち上げて、ゆっくりと起きあがる。

 

 起きあがると同時に、馬車の方角にいるロンダ達の存在に気がついた。

 

「おい! 顔見られたぞ!」

「やば! どうしよ?」

 

 慌てて顔を引っ込めるがもう遅い。怪人は今の爆発が、二人の仕業と読んだようで、今度は馬車に向かって発砲した。

 

「ぎぇえええええっ!」

 

 光弾は馬車の壁をぶち破り、ロンダの目線すれすれを通って、裏側の窓を砕いて外に飛び出す。二人は壊れた裏側の窓から、外へと飛び出した。

 

 二発目が放たれて、今度は馬車の車輪が砕かれて、馬車全体が傾いた。

 二人はその馬車から離れ、すぐ後ろのもう一つの馬車へと駆け込んだ。そして怪人の視覚の方角から隠れるように、馬車の壁に回り込む。

 

 標的の姿が隠れてしまうと、怪人はかぎ爪を振り上げて、二人が潜んでいる馬車目掛けて一直線に走り出した。

 

「おい向かってきてるぞ! 早く爆弾を!」

「判ってる!」

 

 ロンダは急いで二つ目のぬいぐるみ爆弾を動かそうとするが、焦っているせいか、起爆装置のダイヤルを上手く回せない。それ以前にどのぐらいの時間に調節すれば、爆破を怪人にぶつけられるのかが判らない。

 あたふたしている間に、怪人はどんどん二人に接近してくる。

 

『待て!』

 

 突然両者との間に割り込む者が現れた。それは先程の怪人とは別タイプの透明度を持った少年、カツゴロウだった。

 

 彼はシュリーカー襲来の際に、兵士達に別の馬車の中に避難させられていた。だがこの惨状に見てられず、とうとう自ら出てきたのだ。

 カツゴロウは倒れた兵士の剣を拾い上げ、突撃してくる怪人の真ん前で、仁王立ちで迎え撃つ。

 

(直接戦っても勝算はない。剣を向けると見せかけて、こいつの身体に乗り移ってみよう。こいつに憑依が効くかは判らないけど・・・・・・それしかない)

 

 カツゴロウは適当な構えで剣を持ち、どんどん接近してくる怪人を迎え撃つ。そして僅か数メートルの距離まで迫ったとき、カツゴロウは瞬時に非実体化を発動した。

 

 物質能力を失った手から、剣がカラリと地面に落ちる。そして怪人がこちらに刃を振った瞬間に、その胴体に飛び込もうと動き出す。だが・・・・・・

 

(あれ!?)

 

 怪人はカツゴロウに襲いかかって・・・・・・は来なかった。怪人はカツゴロウの存在を完全に無視して、彼の脇を通り過ぎ、まっすぐ馬車の方へと走っていく。

 自分のことなど、まるで眼中にないといった相手の対応に、カツゴロウは激怒した。

 

『僕を無視するな!』

 

 非実体化を止めたカツゴロウが、落とした剣を拾い上げ、自分に背を向ける怪人を追いかけていく。

 幽霊でありながらカツゴロウの身体能力はかなりのもので、小柄で素早い動きで、瞬く間に怪人に追いついた。そして挑発用のつもりだった剣で、怪人の身体を力一杯刺突した。

 

「グオッ!?」

 

 怪人が短い悲鳴を上げる。カツゴロウの剣は、怪人の背中に見事に突き刺さった。怪人の背中から、緑色の異色の血が流れる。

 

 突然の背中からの痛みに、怪人はバランスを崩して倒れそうになるものの、なんとか持ち直した。そして急いで振り返り、カツゴロウと対面する。

 

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