異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。 作:パッタリ
「それじゃあ、私は一度オロネスに戻って、カーミラにこの鉱脈のことを伝えてくるわね。ついでに採掘に必要な機材と人員の手配もしてくるわ」
「ああ。頼んだ」
イリスお姉さんは俺の頬に軽くキスをすると、優雅に翼を広げて空へと舞い上がった。
瞬く間に小さくなっていく背中を見送り、俺は隣に立つレジエに向き直った。
「さて、お姉さんが戻るまで、もう少し奥を調べてみるか」
「一緒に行く」
俺たちは再び、幻想的な光に満ちた洞窟の奥へと足を踏み入れた。
◇◇◇
洞窟の内部は、進めば進むほど美しさを増していた。
壁一面に群生する水晶が、青、紫、ピンクと色を変えながら輝いている。
天井からは光る水滴が落ち、地面に小さな地底湖を作っていた。
「すげえな……。これぞファンタジーって感じだ」
俺は前世の記憶と比較し、内心でウキウキしていた。
地球の鍾乳洞も凄かったが、魔力が可視化されたこの光景は別格だ。
異世界の自然、侮りがたし。
俺が水晶に手を触れ、その冷たさとかすかな魔力の波動を楽しんでいると。
「綺麗?」
「ああ。こんな場所が荒野の地下にあったなんてな」
「……そう。ミアも、綺麗」
背後で、レジエが呟いた。
その声の調子が、さっきまでと少し違うことに俺は気づけなかった。
振り返ろうとした、その瞬間。
ドサッ!
「うわっ!?」
強烈な衝撃と共に、地面に押し倒されていた。
背中に感じるのは冷たい岩肌。
上には、覆いかぶさるようなレジエの姿。
彼女の細い腕が、俺の両手首をがっちりと地面に縫い止めている。
「な、なんだ!? 何の真似だ!」
レジエは何も答えない。
ただ、その赤い瞳を爛々と輝かせ、まるで獲物を品定めするように俺の顔を覗き込んでいる。
そして、顔を近づけ──首筋に噛みついた。
「いったぁっ!?」
「ん……ちゅ、れろ……」
痛みは一瞬。すぐに、舌で傷口を舐め回される濡れた感触に変わる。
甘噛みに、吸いつき。
それは捕食というより、所有権を主張する獣のマーキングに近かった。
「やめろっ! なんでこんなこと……!」
「……ずっと、機会を待ってた」
レジエが顔を上げ、熱っぽい瞳で俺を見る。
「あの黒い女……イリスがいない時間を。わたし、ミアの所有物らしい振る舞い、できてた?」
「……今までのあれは演技だったのか」
「演技じゃない。所有されるのは嫌いじゃない。でも、もっといろんな選択肢があってもいいはず」
彼女の手が、俺の服の中に侵入してくる。
敏感な脇腹を撫で、背中に回る。
「あの女はダメ。あれは化け物。……ミアを壊すまで愛し尽くす、底なしの沼」
「っ……お前が、化け物だと感じたお姉さんが、こんなことして黙ってると思うか!?」
「思わない。……だから、手の届かないところへ行けばいい」
レジエの顔が、にたりと歪んだ。
「ミアを掴んで、空へ。この大陸は広い。なんなら、海を越えて他の大陸という手もある。わたし、ミアが欲しくなった」
「ふざけ──あぅっ!?」
抗議の声を上げようとした俺の口から、情けない悲鳴が漏れた。
レジエの手が、俺の背中の翼の付け根と、尻尾の根元を同時に強く揉みしだいたからだ。
お姉さんに開発されることで生まれた急所。
「ここ、弱いんでしょ? ……あと、ここも」
もう片方の手が下腹部──子宮のあるあたりを、円を描くようにゆっくりと圧迫する。
「あ、が……っ、や、やめ……そこ、ぐりぐりするなぁ……!」
「いい声。……竜族は、お宝の弱点を見抜くのも得意」
脳髄に直接響くような快楽が、俺の抵抗力を奪っていく。
力が入らない。
手足が痺れ、視界が揺れる。
レジエはその隙を見逃さなかった。荷物から取り出したロープで、手際よく俺の手足を拘束する。
「これでよし。……行こう、ミア」
俺は米袋のように担ぎ上げられ、洞窟の外へと連れ出された。
◇◇◇
外はまばゆい太陽の下だった。
レジエは俺を地面に放り出すと、即座に変身した。
バキバキと音を立て、赤い鱗を持つ竜へと姿を変える。
ヴァルゴよりは一回り小さいが、それでも人を乗せて飛ぶには十分な巨体だ。
「グルルゥッ!」
レジエが俺の体を前足で優しく、しかし逃げられないように掴む。
採掘作業をしていたネズミの魔物たちが、異変に気づいて駆け寄ってきた。
「チュウッ!? チュチューッ!!」
彼らは必死にレジエの足に噛みつき、爪を立てる。
だが、頑丈過ぎる鱗には効果がない。
レジエは彼らを一瞥すらせず、大きな翼を羽ばたかせた。
バサァッ!!
突風が巻き起こり、俺の体は宙に浮いた。
遠ざかる地面。風で吹き飛び地面を転がるネズミたち。
(まずい……! 本当に連れて行かれる!)
俺は必死にもがくが、竜の握力と拘束具の前には無力だ。
このままどこか遠い大陸へ連れ去られ、竜の巣で一生お宝として愛でられる未来が脳裏をよぎる。
相手は美少女だし、それはそれで……いや、ダメだ!
レジエが高度を上げ、水平飛行に移ろうとしたその時。
ズドンッ!
どこからともなく飛来した赤黒い魔力の弾丸が、レジエの翼を正確に撃ち抜いた。
「ギャアアアッ!?」
レジエが悲鳴を上げ、バランスを崩す。
俺たちはきりもみ状態で落下した。
だが、地面に激突する寸前、ふわりと見えないクッションのような何かが働き、衝撃を殺した。
……これは、魔法以外にあり得ない。
ドサリ。
俺は砂の上に転がった。
すぐ横では、竜の姿でいるレジエが翼を押さえてのたうち回っている。
俺が空を見上げると、そこには太陽を背に浮かぶ、黒い影があった。
「……あらあら。ちょっと目を離した隙に、悪い虫がついたわね」
氷点下の声を発するお姉さんだ。
オロネスに行ったはずなのに、なぜもうここに?
「お、お姉さん……? どうして……」
「どうして居場所がわかったか、不思議?」
音もなく着地し、微笑んだ。
ただし目は笑っていない。
「ミアの体の中……子宮の奥あたりにね、特製の魔道具を埋め込んであるのよ。常にどこにいるのか教えてくれて、心拍数や魔力の乱れ、さらには快楽の量を私に伝える愛の結晶をね♡」
「……は?」
「あ、でも安心して? ミアの魂が入る前の、肉体を作った段階で埋め込んでおいたから。体の一部みたいなものよ」
俺は血の気が引くのを感じた。
ドン引きだ。
体にGPSとバイタルセンサーみたいな代物を埋め込まれていたなんて初耳だ。しかも、肉体を作った時からの初期仕様。
この人の愛は重いというレベルじゃない。
(……レジエに誘拐されてイチャイチャ捕食されるのと、このお姉さんに管理されるの、どっちがマシなんだ?)
究極の二択に、俺は半ば諦めの境地に達していた。
片方は、黒い髪と青い瞳の美女。もう片方は、赤い髪と瞳の美少女。
「グッ……オォォッ!」
レジエが痛みに耐え、再び飛び立とうとする。
勝ち目がないことを悟り、逃走を選んだのだ。
「逃がすわけないでしょう? 泥棒猫」
お姉さんが冷淡に指を振るう。
ドォン! ドォン! ドォン!
魔法による無慈悲な追撃が、レジエの翼、手足、そして尾を次々と撃ち抜く。
相手が死なない程度に体を破壊する圧倒的な暴力。
殺さないからこその恐ろしさ。
「ギャッ……あ、が……ッ」
レジエは竜の姿を維持できなくなり、人の姿に戻った。
ぼろぼろの衣服、血に濡れた肢体。
彼女は砂の上を這ってでも逃げようとするが、お姉さんは優雅に歩み寄り──足でレジエの頭を踏みつけた。
「あぐっ……!?」
「今までは大目に見ていたけれど……私の妹に手を出して、あまつさえ連れ去ろうとするなんて。さすがにお仕置きが必要ね」
お姉さんは、レジエの顔をぐりぐりと砂に押しつけながら、冷酷で、それでいて身の毛もよだつほど美しい笑みを浮かべた。
そこにいるのは、優しい姉ではない。
謀略と恐怖に満ちた、副魔王イリスの真の姿だった。
「あなたが欲しかったものは、決して手に入らない。……それを、たっぷりと見せつけてあげるわ」
お姉さんは大きい布を地面に投げたあと、指を鳴らす。
ズズズッ……と地面から土と布が隆起し、あっという間に密閉された簡易テントを作り上げた。
「さあ、怪我は治してあげるから入りなさい。……ミアもよ?」
「えっ、俺も……?」
「当然でしょう。お仕置きには、あなたの協力が必要なんだから」
有無を言わせぬ圧力。
俺は拘束されたままテントの中へと引きずり込まれた。
(……まさか、レジエの前で、俺がお姉さんに何かされるのか!?)
冷や汗が止まらない。
密室。支配者。そして敗北者。
荒野の真ん中で、地獄よりも恐ろしく、そして甘美な断罪の時間が始まろうとしていた。