異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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41話 二組の使者と魔性の分析

 数日後。

 オロネスの領主の館に、二組の使者が同時に訪れていた。

 

 「西方諸国連盟より参りました。エルザと申します」

 

 一人は、耳の長いエルフの女性。知的だが、どこかこちらを品定めするような鋭い視線を持っている。

 

 「南の渓谷を治める魔王ディフ様の代理、ドガだ」

 

 もう一人は、筋肉質なドワーフの男性。無骨で、愛想笑い一つ浮かべない。

 西方諸国と、南の中規模勢力。

 本来なら別々に対応すべき相手が、まさかのダブルブッキングだ。

 おかげで、謁見の間にはなんとも言えない気まずい空気が流れている。

 

 (……タイミングが悪すぎるだろ)

 

 俺は内心頭を抱えつつ、表面上は威厳ある魔王の態度を崩さずに対応した。

 話を聞くと、それぞれの思惑が見えてきた。

 西の方は、勢力拡大に伴う緩衝地帯の確保が目的らしい。

 

 「我々西方諸国連盟……長いので連盟としますが、北に潜む先代魔王軍の残党との睨み合いに注力しております。また、東からは竜族の一部がわざわざ飛んできてちょっかいをかけてくるため、隣接するところとは安定を求めたいのです」

 

 なるほど。

 北と東に敵がいるから、位置的に真下にある俺たちとは仲良くしておきたい、あるいは盾にしたいということか。

 一方、南の方はシンプルだった。

 

 「我らの主は、近隣の魔王どもとの抗争で手一杯だ。無駄な戦線を増やしたくない。貴殿とは不可侵条約を結びたい」

 

 南は南で、中規模の魔王たちがひしめき合い、終わりのない小競り合いを続けている。

 海を挟んだ南の大陸……先代魔王が攻め込もうとしたところにもエルフやドワーフはいるらしいが、今は特に気にする必要はない。

 

 (……どっちに行っても修羅場だな)

 

 第三の道として、すべてを武力で併合するという覇道もあるにはある。

 だが、今の俺の戦力では現実味がない。

 副魔王であるイリスお姉さんを完全に従属させ、その力で無双すればワンチャンあるかもしれないが……。

 

 (……無理だな。あの人を従えるなんて、太陽を西から昇らせるより難しい)

 

 性的なものを含めて相手を屈服させないといけないが、到底勝ち目がないので即座に諦めた。

 無理に挑めば、返り討ちからの愛玩動物ルートへ一直線だ。

 結局、俺は現実的な判断を下した。

 

 「わかった。西の連盟とは交易を行い、互いに益をもたらそう。南の魔王であるディフ殿とは不可侵を結び、互いの領土を尊重する」

 「賢明なご判断に感謝します」

 「うむ。話が早くて助かる」

 

 こうして、周囲との外交方針が定まった。

 地図を見れば、俺の領土は大陸の端っこにある小さな赤いシミのようなものだ。だが、それでもギリギリ一つの勢力として認識され、外交のテーブルに乗ったのだ。

 これは大きな一歩だった。

 

  ◇◇◇

 

 使者たちが帰ったあと、謁見の間には俺とカーミラだけが残った。

 

 「ふぅ……疲れた。なんとかなったな」

 

 俺が肩の力を抜くと、カーミラが真剣な表情で近づいてきた。

 

 「お疲れ様でした、ミア様。……つきましては、一つお願いがあります」

 「ん? なんだ?」

 「膝の上に、座っていただけませんか?」

 「…………は?」

 

 思わず変な声が出た。

 あまりにも予想外過ぎることを言われたせいか、どこか間抜けな表情になっていたかもしれない。

 

 「な、何言ってんだお前」

 

 露骨に嫌そうな顔をする俺に対し、カーミラは至って真面目に、しかし少し頬を赤らめて説明した。

 

 「必要な措置なのです。……正直に申し上げますと、ここ数日、ミア様と一緒にいるだけで……その、ムラムラしてくるのです」

 「ぶっ!?」

 「イリス様の最高傑作であるその体に、わたくしの本能が惹かれているのでしょう。吸血衝動とも、性欲ともつかない渇きが抑えきれなくなってきています」

 

 カーミラは胸元を押さえ、苦しげに吐息を漏らした。

 いやらしい雰囲気をぷんぷんと漂わせている。

 

 「ですので、一度密着して、何がわたくしをそうさせるのか把握したいのです。原因がわかれば、対策も立てられます」

 「……本気かよ」

 「本気です。このままだと、いつか理性が飛んでミア様を襲ってしまうかもしれません」

 

 それは困る。非常に困る。

 俺は渋々、カーミラの指示に従うことにした。

 椅子を持ってきて座ったカーミラ。

 その膝の上に、俺はおずおずと腰を下ろした。

 

 「それじゃあ、座るぞ……」

 「はい……失礼します」

 

 背後から、カーミラの細い腕が回される。

 ぎゅっ、と抱きしめられる。

 

 (……あ)

 

 お姉さんの、あの溶けるような熱さと柔らかさとは違う。

 ひんやりとした体温。引き締まった筋肉の感触。

 だが、首筋に感じるカーミラの吐息は熱く、早鐘のような鼓動が背中越しに伝わってくる。

 

 「んっ……」

 

 耳元で吐息がかかり、俺の口から意図せず甘い声が漏れた。

 その瞬間、カーミラの腕に力がこもる。

 

 「っ……く、ぅ……!」

 

 彼女は歯を食いしばり、何かを耐える気配がした。

 捕食者が獲物に噛みつきたい衝動を、必死に理性で抑え込んでいるような、ギリギリの緊張感。

 

 (や、やってしまったか……!?)

 

 俺は冷や汗をかいた。

 今ここでガブリといかれたら、俺の貞操も命も危ない。

 数分後。

 永遠にも感じる沈黙のあと、カーミラは荒い息を吐きながら俺を押しのけた。

 

 「はぁ、はぁ……っ! も、もう十分です……!」

 

 彼女は顔を真っ赤にして、肩で息をしている。

 どうやら耐えきったらしい。普通にすごい。

 

 「……で、どうだったんだよ」

 

 俺が怯えながら聞くと、カーミラは乱れた服を整えつつ、分析結果を口にした。

 

 「……わかりました。ミア様のその性質は……一定以上の魔力を持つ女性を惹きつけることに特化しているようです」

 「……は?」

 

 なんというかもう、これ以上聞きたくない。

 しかし、聞かないでいることもできない。

 

 「魔力波長が、強い力を持つ女性の本能に直接訴えかけてくるのです。『犯したい』『守りたい』『自分のものにしたい』という独占欲と支配欲を、強制的に引きずり出すような……そんな魔性のフェロモンです」

 「なんだよそれ……!」

 「ちなみに、男性には特化していないようですね。先ほどのドワーフの使者には、何の影響もありませんでしたから」

 

 エルフの女使者は、少し頬を染めていた気がするが……つまりそこそこの実力者ってことか。

 俺は心の中で、天に向かって叫んだ。

 

 (ふざけんなお姉さん! 捕食者系な女限定の魅了とか、何の嫌がらせだよ!?)

 

 普通のモテ能力ならともかく、俺を食い物にするような強者にしか効かないなんて、リスクしかないじゃないか。

 

 「……ミア様」

 

 カーミラは少し距離を取り、つらそうに告げた。

 

 「一つ、忠告しておきます。……その力を使えば、鍛えていけば、この魔界にいる女性はあなた様の虜にできるでしょう。戦わずして、力ある者たちを配下に加え、早急に勢力を拡大することも可能です」

 「…………」

 「ですが、代償は……どろどろに愛されることです。わたくしやイリス様のような、重い情念を持った者たちに囲まれる覚悟があるのなら、ですが」

 

 俺は即答した。

 

 「絶対やらない」

 

 心が死ぬ。確実に死ぬ。

 それにそんなことをすれば、誰が一番ミア様を愛しているかで争いが始まり、内側から崩壊して同士討ちを始める未来しか見えない。

 

 「賢明です。……わたくしも、これ以上近づくのは危険と判断しました。執務中は一定の距離を保たせていただきます」

 

 カーミラはそう言って、逃げるように部屋を出て行った。

 

  ◇◇◇

 

 その夜。

 俺は寝室で一人、鏡の前に立っていた。

 そこに映るのは、月光に照らされた銀髪の美少女だ。

 琥珀色の瞳は宝石のように輝いている。

 

 「……なんか、変わったか?」

 

 転生した直後よりも、明らかに色香が増している気がする。

 少女から、少しだけ大人の女性へと近づいたような、妖艶な雰囲気。

 無自覚のうちに、魔王としての、あるいはサキュバスとしての格が上がっているのだろうか。

 

 「体の成長を止められてるってのに」

 

 俺はなんとなく、鏡の中の自分に向かって小首をかしげてみた。

 流し目を送り、唇に指を添える。

 

 「…………」

 

 その仕草があまりにも自然で、俺は自分で自分に見惚れてしまった。

 そして次の瞬間、猛烈な羞恥心が襲ってきた。

 

 「な、何やってんだ、くそっ……」

 

 俺は慌てて頭を振り、ベッドにダイブした。

 毛布を頭から被り、芋虫のように丸まる。

 

 (……寝よう。もう何も考えずに寝よう)

 

 体だけでなく、心まで少しずつ侵食されているような恐怖を感じつつ、俺は重いまぶたを閉じた。

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