異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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48話 わたしの女宣言と快楽に弱くなりつつある肉体

 昼頃、俺たちは南部の交通の要所と思われる大きな街に到着した。

 戦争から逃れてきた者や、情報を求める行商人たちで、街はごった返していた。

 異常な人口密度のおかげで、フードを被った怪しい二人組たる俺とレジエは、誰に咎められることなくあっさりと門を潜り抜けることができた。

 

 「すごい熱気だな……」

 

 大通りを歩きながら、俺は周囲の喧騒に耳を傾けた。

 道行く人々の口から漏れ聞こえてくるのは、やはり南部の新たな覇者、魔王ルーサーについての話題だった。

 酒場から出てきた酔っている傭兵たちが、噂話をしている。

 

 『ルーサーの奴、元々は争いを避けて引きこもってるような魔王だったのにな』

 『ああ。領土を広げない代わりに、内政に死ぬほど力を入れてたらしい。おかげで軍資金は腐るほどあるんだとよ。竜族を雇えたのも、その金のおかげだろ』

 『金を貯め込んで、準備が整ったところで一気に侵攻開始か。……恐ろしい野心家だぜ』

 

 なるほど。

 乱世な魔界において、あえて争いを避けて内政に努めていたのか。

 複数の勢力を同時に相手取れるだけの資金と備えをしてから、一気に牙を剥く。

 

 (……頭いいな、ルーサーって奴は)

 

 俺は素直に感心した。

 ゲームとかなら王道の戦法だが、現実でそれをやり通す忍耐力と実行力は相当なものだ。

 

 (これが俺と関わりのない遠い地域の話なら、純粋に褒め称えられたのにな……)

 

 火の粉が飛んでくるかもしれない立場としては、ただただ厄介な相手だ。

 

 「ミア、お腹空いてきた」

 

 服の袖を引っ張られ、俺は思考から引き戻された。

 

 「ああ、そうだな。何か買おう」

 

 俺たちは近くの屋台で、串焼きやパンを買い込んだ。

 路地裏の木箱に腰かけ、休憩がてら遅めの昼食をとる。

 

 「その手で食べさせて?」

 「はいはい、ほら、あーん」

 「ん、あむ……美味しい」

 

 レジエが俺の持っている串焼きを、当然のように直接口でかじりとる。

 周囲に人が多いので、竜族としての正体を隠すために密着したままの食事だ。

 他人から見ればイチャイチャしているようにしか見えないが、情報収集にはうってつけだった。

 行き交う人々の声が、嫌でも耳に入ってくる。

 

 『この街の東の街道をずっと進めば、ディフ様が籠城してる渓谷の要塞だ』

 『包囲はされてるらしいが、ルーサーの軍もそこまで余力はないみたいだな。他の地域の制圧がピタッと止まってる』

 『だろうな。いくら竜族がいようと、あの要塞を落とすのは骨が折れる。……ただ、ディフ様に援軍の見込みはねぇ。どうなることやら』

 『まあ、どっちが勝っても、ここまで戦火は広がらないだろ』

 

 情報は十分だ。

 ディフは首の皮一枚で繋がっているが、ジリ貧。ルーサー軍も要塞にかかりきりで、これ以上の進軍は今のところない。

 

 「よし。軽く物資を買い足したら、街を出てその渓谷に向かおう」

 

 俺が立ち上がり、レジエの手を引いて歩き出した、その時だった。

 

 「おっと!」

 

 人混みの中で、通行人の男と肩がぶつかってしまった。

 

 「あ、すまない。前を見てなくて……」

 

 慌てて謝るも、ガラの悪そうな男は舌打ちをして睨みつけてくる。

 しかし、俺のフードの隙間から覗く銀髪と、ローブの下で揺れる尻尾を見ると、下品な笑みを浮かべた。

 

 「なんだぁ? サキュバスの姉ちゃんじゃねぇか。こんな物騒な時期に、男も連れずにうろちょろしてると……喰われちまうぞ? 俺がたっぷりと可愛がってやろうか?」

 

 男が卑猥な言葉と共に、俺の肩に手を伸ばしてくる。

 

 (うわ、テンプレみたいな絡み方……)

 

 適当にあしらおうとした瞬間。

 横から伸びてきたレジエの手が、男の手首を掴んだ。

 

 「いっ……!?」

 

 ミシミシと骨が軋む音が鳴る。

 レジエは男の手を弾き飛ばすと、俺の腰をぐいっと引き寄せ、抱きかかえるようにして庇った。

 

 「……失せろ。これは、わたしの女だ」

 

 赤い瞳でギロリと睨みつける。

 竜族としての正体を隠しつつも、殺気をわずかに漏らしたその眼光に、男は「ひっ!」と情けない悲鳴を上げ、逃げるように人混みへと消えていった。

 

 「…………」

 

 男が逃げ去ったあとも、俺はレジエの腕の中にすっぽりと収まったままだった。

 ドクン、ドクンと、心臓が妙に早く脈打っている。

 至近距離にあるレジエの顔を見上げる形になった。

 

 (……こうして見ると、こいつ……)

 

 普段は犬の真似をしてふざけていたり、狂気じみた目で見つめてきたりするから忘れがちだが、レジエは野性味を残しつつも、息を呑むほど整った顔立ちをしている。

 スッと通った鼻筋、意志の強い赤い瞳。可愛いのに凛々しい、誰もが振り返るような美少女だ。

 そんな美少女に、俺はすっぽりと抱きすくめられている。

 

 (わたしの女……レジエの、女……)

 

 先ほどの言葉が頭の中でリフレインし、背筋にぞくぞくとした熱が走る。

 

 (おいおい、冗談だろ……)

 

 俺は内心で激しくツッコミを入れた。

 

 (俺の方が強いはずなのに。俺が主で、あいつは配下だろ?)

 

 魔王としての立場もあるし、正面から戦えばねじ伏せることだってできる。

 まあ、ヴァルゴの時のように大規模な戦いにはなるだろうが。

 男としての、そして主としてのプライドが、こんな状況はおかしいと警鐘を鳴らしている。

 だが、現実として、俺は自分より背の高い美少女に男前に庇われ、所有権を堂々と主張された。

 

 「次からは気をつけて。ミアは魅力的だから」

 「あ、ああ」

 

 その事実に対し、俺の体に刻み込まれた雌の部分は、喜びの声を上げていた。

 下腹部がきゅんと締めつけられ、足の奥が熱くなる。庇われたことへの安心感と、強い美少女に求められ、所有される悦びが、理性を塗りつぶそうとしてくる。

 

 (ち、違う。俺は男だ。心が男なのに、体が反応してどうするんだ。落ち着け、落ち着くんだ)

 

 俺は慌ててレジエの腕から抜け出し、火照る顔を隠すように俯いた。

 

 「ありがとな、レジエ。……でも、自分で対処できたからな」

 

 強がって見せるが、声が少し上ずってしまった。

 レジエは俺の赤くなった耳を見て、ふっと口角を上げて微笑む

 だが、その場では何も言わず、ただ俺の後ろをついてきた。

 

 ◇◇◇

 

 街を出て、東の街道をしばらく進み、周囲に人がいない時のこと。

 背後から、いきなりお尻の肉を両手でガッツリと揉みしだかれた。

 

 「ふぁっ!? れ、レジエ!?」

 「……ミアは、わたしの女」

 

 背後から力強く抱き寄せられる。

 耳元でささやかれる低く甘い声。

 

 「あ、んっ……やめ……っ」

 

 ただお尻を揉まれ、抱きしめられているだけなのに、体が勝手にビクビクと反応してしまう。

 先ほどの街での言葉を思い出してしまい、快感が倍増して脳髄を揺さぶる。

 

 「はぁ……っ、ぁ……」

 

 膝から力が抜けそうになった時、レジエはピタリと動きを止めた。

 彼女の視線が、俺の小指にはめられた指輪に向けられている。それは遠くの者と会話できる希少な魔道具。

 

 「……ちぇ」

 

 お姉さんの監視と忠告を思い出したのか、レジエは舌打ちをして俺から離れた。

 

 「助かった……」

 

 俺がへたり込んで荒い息を吐いていると、レジエが冷ややかな目で見下ろしてきた。

 

 「……ミア、どんどん弱くなってる」

 「は? いや、魔法の特訓もしてるし、魔力の回路も太くなって……強くなってるだろ」

 

 俺が反論すると、レジエはしゃがみ込み、俺の下腹部──サキュバスとしての急所が集中しているあたりを、服の上から手のひらでぐりぐりと押し揉んだ。

 

 「うぁっ!?」

 「魔力のことじゃない。……快楽に、弱くなってる」

 「あ、ぐ……っ、ばか、やめろ……っ!」

 

 指先一つで簡単に蕩けさせられてしまう自分の体が憎い。

 レジエの言う通りだった。精神の抵抗力とは裏腹に、肉体は確実にお姉さんの開発によって快楽に弱い存在へと作り替えられている。

 道中、俺は指輪に魔力を込め、お姉さんに状況報告をした。

 

 「ルーサーの軍勢ね。わかったわ、カーミラに情報を共有しておく」

 「頼む。……あとさ、お姉さん」

 

 俺は歩きながら、ぽつりと不安をこぼした。

 

 「なんだか最近、快楽に弱くなってるかもしれない」

 

 ちょっと触られたり、言葉をかけられたりするだけで、体が勝手に発情してしまう。

 すると、指輪の向こうで、お姉さんの息を呑む音が聞こえた。

 そして、とてつもなく甘く、危険な声が響く。

 

 「まったくもう……今すぐそこへ飛んで行って、あなたを連れ帰りたくなるわ」

 「え」

 「一日中ベッドに縛りつけて、頭の先から足の指まで、私の与える快楽で溺れさせて……二度と外に出られないくらい、どろどろの快楽漬けにしたくなるから……」

 

 背筋が凍った。開発が進んだ肉体でそんなことをされたら、男として終わる。

 いや、魔王ミアが終わる。

 

 「あまり、滅多なこと言わない方がいいわよ? 私の理性が飛ぶから♡」

 「……はい、すみませんでした」

 

 俺は即座に謝罪し、通話を切った。

 弱点を知られると、それを全力で突いてくるのがうちのお姉さんだ。

 俺は自身の貞操の危機を改めて肌で感じながら、東の渓谷へと歩みを進めた。

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