異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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65話 路地裏での吸血と堕ちゆく魔性の片鱗

 ズワルトの案内で城壁都市の門をくぐると、そこは活気に満ちた大通りだった。

 行き交うのは様々な種族の魔族や亜人たち。

 立ち並ぶ商店のほとんどは人の大きさに合わせて作られており、巨大な竜の姿では明らかに利用しにくい場所ばかりだ。

 

 (まあ、竜用の施設はどうしてもでかくなるし、それだけ維持費もかかるか)

 

 通りを見渡せば、巨大な竜から人の姿へと変化し、店へ入っていく者たちの姿がちらほら。

 だが、俺たちの案内役であるズワルトは、どれほど不便であろうと、頑なに巨大な黒竜の姿を保ったままだった。

 周囲の通行人が慌てて道を空けるため、かえって目立っている。

 

 「……なあ、ズワルト」

 

 俺は見上げながら尋ねた。

 

 「そんなに人になるのが嫌なのか? 前は、人の姿が矮小だとか言ってたけど」

 

 ズワルトは足を止めず、前を向いたまま低く唸るように答えた。

 

 「……人の姿で、知り合いと殺し合ったことがある。……本当に、あれは愚かだった」

 

 口にするのはそれだけ。

 詳しい事情は語られなかったが、その言葉には深い後悔と、二度と同じ過ちを繰り返さないという戒めが込められているように聞こえた。

 

 「我はこのまま大通りを巡回しつつ、別の用を済ませる。そなたらは自由に見物してこい。一時間後に広場で合流だ」

 

 そう言ってズワルトは別行動を取ったため、俺は護衛のカーミラと共に、大通りに面した一際大きな商会へと足を踏み入れた。

 

  ◇◇◇

 

 「へぇ、いろんなものが売ってるな」

 

 商会の内部は広く、東の竜の国ならではの珍しい鉱石や装飾品、見たこともない布地などが所狭しと並べられていた。

 俺はレジエやお姉さんへのお土産は何がいいかと棚を見て回っていく。

 

 「ミア様、あまり離れないでください。一応、ここは敵地も同然なのですから」

 「わかってるよ。でも、せっかく来たんだからさ」

 

 混み合う客の間を縫うように歩いていた時、ドンッ、とすれ違った客に肩をぶつけられ、俺は体勢を崩した。

 

 「おっと……」

 「危ない」

 

 カーミラが咄嗟に俺の腰を抱き止め、自分の体へと引き寄せた。

 

 「悪い、助かっ──」

 

 俺が顔を上げ、至近距離でカーミラと視線が絡んだ瞬間。

 

 「……っ!」

 

 カーミラの体が、ビクンと大きく跳ねた。

 俺のサキュバスとしてのフェロモン──お姉さんによって限界まで開発され、無自覚に垂れ流されている極上の猛毒を、至近距離で吸い込んでしまったのだ。

 

 「か、カーミラ? 大丈夫か?」

 

 俺は心配して彼女の顔を覗き込んだ。

 だが、上目遣いで心配そうに見つめるその仕草そのものが、カーミラの理性をゴリゴリと削る無自覚な誘惑になってしまっていた。

 

 「っ、はぁ……っ、くぅ……!」

 

 カーミラは顔を真っ赤にし、ギリッと奥歯を噛み締めて必死に何かを我慢している。

 俺の腰を抱く手に、震えるほどの力がこもっている。

 

 「ご、ご無事なら……結構です。少し、離れ……」

 

 慌てて距離を取ろうとするカーミラだが、その息遣いは荒く、足元がふらついている。気まずい空気が間に流れた。

 

 「ひとまず、店を出よう。外の空気を吸った方がいい」

 

 俺は彼女の手を引き、商会を逃げるように立ち去り、人通りの少ない薄暗い路地裏へと駆け込んだ。

 

 「ふぅ……ここで少し落ち着こう。ごめんな、魅了が強すぎたみたいで」

 

 路地裏の壁に寄りかかり、俺が申し訳なさそうに振り返った、その時だった。

 

 ドンッ!

 

 「え……っ?」

 

 背中を壁に強く押しつけられた。

 目の前には、赤い瞳を爛々と輝かせ、犬歯を剥き出しにしたカーミラがいた。

 理性の糸が完全に切れた顔だった。

 

 「カーミ、ラ……?」

 「申し訳……ありません、ミア様。ですが、もう、限界……ですっ」

 

 言うが早いか、カーミラの冷たい手が俺の服の隙間に滑り込み、胸を直接、強い力で揉みしだいた。

 

 「ひゃぅっ!?」

 

 さらに、彼女の柔らかくもひんやりとしている体が俺にぴったりと押しつけられ、逃げ場を塞がれる。

 

 「あ、んっ……やめ、ここ、外だぞ……っ!」

 

 俺の抗議は、首筋に突き立てられた鋭い牙によって強制終了させられた。

 

 「あぁっ!?」

 

 吸血による小さな痛みの直後、それを何十倍も上回る強烈な快感が脳髄を突き抜けた。

 血液を通して魔力が混ざり合い、俺の体がビクビクと痙攣する。

 

 「んちゅ……ぁむ……すばらしい、ミア様の、血……甘くて、濃密で……」

 「はぁっ、あ、あぁぁっ……!」

 

 路地裏に、俺のいやらしい喘ぎ声と、カーミラが血をすする淫靡な水音が響く。

 

 「はっ……! いけません、わたくしとしたことが、主君に……っ」

 

 数口ほど血を吸ったところで、カーミラは正気に戻りかけ、顔を離そうとした。

 ここで突き飛ばせば、まだ戻れたはずだった。俺の心の中に残る男は、そう警告していた。

 

 (これ、止めないと……)

 

 しかし、お姉さんに開発され、サキュバスとして成長しつつある俺の肉体と魔性が、それを許さなかった。

 

 「もっと……」

 

 俺の腕が、勝手にカーミラの首に絡みついていく。

 熱っぽい溜息を吐き、とろんと濁った瞳で彼女を見つめ上げてしまう。

 

 「もっと、俺を……めちゃくちゃにして……?」

 

 ぽつりと漏れたその言葉は、俺の意思を超えた魔性の片鱗だった。

 カーミラの中で最後に残っていた何かが完全に切れる音がした。

 

 「あぁ……ミア様……っ!」

 

 カーミラは再び俺の首筋に食らいつき、今度はいやらしい意味で、貪るように俺の血と魔力を吸い上げ始めた。

 胸を揉みくちゃにされ、太ももをまさぐられ、お腹をお腹で押し潰され、吸血の快感で俺の思考は完全に白く染まっていく。

 

 「んぅっ……あ、カーミラ……」

 

 快感の波に溺れながら、俺は淫靡に甘えるような声を出した。

 おかしいとわかっているのに、止められない。

 

 「カーミラの血も……飲ませてよぉ……」

 

 ねだるような声に、カーミラは自らの鋭い爪で、自分の白い首筋に浅く傷をつけた。

 赤い血が出て、垂れる。

 俺はその匂いに誘われるまま、彼女の首筋に唇を寄せ、その傷口から流れる血を舐めとった。

 

 「ひっ……ぁあっ!?」

 

 吸血鬼の血が俺の体内に入った瞬間、カーミラは強烈な快感に襲われたように悲鳴を上げ、膝をガクガクと震わせて崩れ落ちそうになった。

 それを俺が抱きとめる。薄暗い路地裏で。

 お互いがお互いの血をすすり合い、快楽に身を震わせながら貪り合う。

 

 (気持ちいい……吸って、吸われて……)

 

 背徳的で、あまりにもインモラルな情事。

 俺とお姉さんの関係とはまた違う、主従の枠を超えた共依存の泥沼に、俺たちは完全に足を踏み入れていた。

 

  ◇◇◇

 

 「…………」

 「…………」

 

 数十分後。

 完全に正気に戻った俺たちは、路地裏の壁にもたれかかったまま、一歩も動けずにいた。

 お互いに快楽の余韻で腰が抜けて離れられないというのもあるが、それ以上に……。

 

 (ものすごく気まずい……)

 

 俺は赤面して俯き、カーミラも顔を両手で覆って、わたくしを殺してくださいとでも言いたげに震えている。

 とはいえ、ずっとそうしているわけにはいかない。

 どうにかお互いに服の乱れを直し、足の震えを隠しながら立ち上がった。

 

 「……と、とりあえず、お土産を買おうか」

 「……は、はい。そうですね」

 

 ぎこちない会話を交わし、俺たちは商会へと戻った。

 最終的に選んだお土産は、レジエ用には香辛料の効いた高級そうな干し肉。

 お姉さんへは、宝石箱みたいな箱に入った高級な焼き菓子。

 

 「……カーミラ、これ」

 

 そして俺は、商会の片隅で見つけた魅了耐性が上がるペンダント(魔道具ほどではないが希少な代物)を購入し、彼女に手渡した。

 お互いの身の安全と貞操を守るための、切実なプレゼントだ。

 

 「あ、ありがとうございます……」

 

 カーミラは、まだ少し膝をカクカクさせながらも、それを受け取って首から下げた。

 そのあと、広場に戻ってきたズワルトと合流する。

 ズワルトは俺たちを見るなり、鼻をひくつかせて眉をひそめたが、何も言わずに背中を向けた。

 

 (絶対に気づいてる……よな?)

 

 帰りも竜の圧倒的な飛行速度に身を任せ、俺たちは複雑な思いと背徳感を胸に抱いたまま、ルーサーの待つ領地へと送り届けられたのだった。

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